67話 跳躍
岩から逃げ切るためひた走る。
『な、何やってるんですのお馬鹿!』
『どうせ私は脳筋体育会系ですよ!』
『あっ、開き直りましたわこのお馬鹿!』
そして、走りはするのだが。
走ったところでそう簡単に状況を打開できるわけでもなく。
岩はSHの二倍以上の大きさがあって、潰されたときのことをできれば想像したくない領域だ。
『いやいやいやいやっ、潰れる、潰れるって! 俺のはそんなに速くないの!!』
『わ、私の方も逃げ切れるかどうかわかりませんわッ!』
『情けないですね! 鍛え方が足りませんよ!!』
「……この状況を作り出した君が言うな」
『う……』
「それとSHの速度と鍛え方は直接関係しないだろう」
「あ、そこは突っ込み入れるんですか」
しかし、走ったところで逃げ切れるようなことはないだろう。
簡単に逃げ切れるような罠を張る意味はない。ならばこの先は袋小路か、あるいは逃げ切ったと思ったら別の罠が張ってあるか。
『潰れる潰れるっ、やばいって!』
つまり、このままでいるのは得策ではないということだ。
コテツは飛翔させている機体の速度を調整し、アルベールのシャルフスマラクトとミカエラの機体を掴んで浮かせる。
「投げ飛ばすぞ、口を閉じていろ」
そして、加速度同時に二機を前方へと放り投げる。
アルベールは何とか着地し、ミカエラの機体は尻餅をついた。
『きゃんっ!』
「クラリッサ、離れていろ」
『はいっ!』
そして、クラリッサのシュティールフランメが少しだけ速度を上げる。
それを確認してコテツは、背後へと振り向いた。
「あざみ、ブローバックインパクト」
「準備できてますよ!」
手の中に現れる巨大な槌。
コテツは上手く速度を合わせながら背後へ飛翔しつつ、その岩へと打撃を放った。
鋼鉄の塊と、岩の塊が接触し、そこから更に特別製の杭が放たれる――。
『……ふう、助かった……』
砕け散った岩を見て、そう零したのはアルベールだ。
コテツは、ブローバックインパクトを異空間に戻しながら、通信を送る。
「ここで一旦休憩を取る。各員、機体を降りて小休止だ」
ここからもまた強行軍であることを考えればこれがいい機会だとコテツは判断した。
『りょーかい、流石に俺も肝が冷えたよ。丁度そこに良さげな部屋があるし』
部屋の中に入り、コテツはディステルガイストに膝を付かせると、ハッチを開放した。
たとえそれが地下深くの室内であろうと、コクピットの中とは空気が変わる。
コテツはシートから立ち上がると機体の装甲を伝って地面へと降り立った。
「やー、ダンナ、どうだい、初めての迷宮探索は」
そして、先に下りていたアルベールがコテツへと声を掛ける。
「想定より神経を使うな。それに、この環境、兵士が恐慌状態になりやすいと見える」
「大勢で来るとなりやすいかなぁ、ソレ」
閉塞した環境で何が起こるかわからないという恐怖が兵士を恐慌状態に陥らせ、それが他へと伝播した場合目も当てられない。
一人が暴走するだけで全滅というのはあまり珍しいことではないのだ。
それを考えると、いきなりエリナを連れてこなかったのは正解と言えるだろう。
と、そこでもう一人、機体から降り立ったクラリッサがコテツ達の下へとやってくる。
「おっと、嬢ちゃんも来たか」
「あー……」
そんな彼女は彼女にしては珍しく、言い難そうにしながら口を開いた。
「すみません、迷惑を掛けました」
謝罪の言葉に、コテツは気にした様子もなく返す。
「問題ない。俺も機体も損傷はない」
「まあ、私もご主人様がいいなら別になにも言うことないです」
そんな二人に同意するようにアルベールも頷いた。
「俺も、まあ、生きてるし。それでいいよ。まあ、誰だってミスるしな」
「……感謝します」
そうして、いい感じに纏まりかけた空気に水を差すようにミカエラが現れる。
「なんですの、私には謝罪はないのですか?」
嫌味っぽく言ってくる彼女へと、クラリッサが声を荒げた。
「なっ、私はあなたにも謝るつもりでは――」
否、荒げかけた。
それが途中で止まってしまったのは。
歩いてきていたミカエラがガチリ、と音を立てて何かを踏んだからだ。
「あ」
間抜けな声は、一体誰が漏らしたものだっただろうか。
(……一体これは、どんな魔術だ)
唐突に、床が透けた。
「やっぱり、あなたには謝らないことにしますっ!!」
「私も、それでおあいこと言うことにしてくださると助かりますわ!!」
つまるところ、落とし穴だ。
これも魔術という奴か。部屋の中心から四方15メートルほどの床が、少しずつ透けていく。
ミカエラとクラリッサは効果範囲外に逃げようとするも、中心部にいる故に逃げ切れない。
「む……」
その罠が完全に起動する寸前、コテツは一番近くに居たあざみとアルベールだけをどうにか突き飛ばす、いや、半分投げ飛ばすような形で効果範囲外に逃す。
「あいたっ、ご主人様!」
「ちょ、ダンナ!?」
ただし、コテツ自身は効果範囲外に逃れることはできない。
二人の驚いた顔を置き去りに。
「アル、あざみ。そちらは任せる」
それだけ残してコテツは闇へと呑まれることとなった。
「おいおい……、参っちゃうねこりゃ」
半数の人間がいなくなった広間で、アルベールは立ち尽くしながら呟いた。
「……本当に。確か、ミカエラさんが踏んだのはこの辺りですよね?」
「ああ。ダメか?」
あざみが四つんばいになって床を確かめながら、頷く。
どんなに押しても、罠の起動が起こることはない。
合流や、救助をさせないつもりのようだ。
「そういう罠なんでしょう。床透けさせて落とす魔術。起きた後は外からの干渉を防ぐ、と言ったところですか」
「んで、残ったのは俺と君と、ディステルガイスト、シュティールフランメ、俺のシャルフくらいか。おっと、ミカエラ嬢ちゃんのは一緒に落っこちちまったみたいだな」
周囲の鉄の巨人を一瞥すると、一機足りないことにアルベールは気付いた。
だからと言ってどうすることもできないが。
「どうします?」
そのため、その問いにすぐに答える事はできなかった。
「機体に乗って落ちて合流がベストかな」
「問題は侵入経路が現時点ではないってことですかね」
「だねぇ」
「とりあえず、トラップが魔術系みたいなんで解析してみますよ」
「頼むわ。……しかし、あれだな」
「なんです?」
「一番現状考えなければいけないアレ、どう思う?」
「アレですか?」
「――罠に掛かって、ダンナ達が生きてる保障」
その言葉を、あざみは笑い飛ばしてみせる。
そして、あっけらかんと言うのだ。
「ご主人様は殺したって死にませんよ。それにくっついていったなら、彼女らもね」
「同感」
こうなっては、休憩などしている場合ではない。
アルベールは有事に備えてコクピット内で待機することにした。
「今日は厄日ですわぁあああ!!」
高い声が耳に障る。
落下の浮遊感を感じながら、コテツはいつものように声を上げた。
「クラリッサ、ミカエラ。手を伸ばせ」
彼女らは、藁にも縋りたいと言ったところか。
クラリッサは無言で、ミカエラもまた、涙目ながらも手を伸ばしてくる。
コテツは、二人の手を取り、引き寄せる。
「しっかり掴まっていろ。手を離したらもうどうにもできん」
「離す気はないですが、どうする気で?」
クラリッサの問いに、ほとんど答えず、コテツは行動を以って応えることにした。
「こうする」
抜いたのは腰のロングソード。
落下時に他の二人と、そして壁が近かったのは不幸中の幸いだった。
コテツは、迷わずに、そのロングソードを壁へと突き立てる。
手に鈍い衝撃。
だが、刺さった。
まるで、壁を両断せんとするかのように裂け目を作り、火花を散らしながら三人は落ちていく。
だが、まだ速い。
だから、もう一手。
更に壁へと、コテツは足を付けて速度を殺す。
甲高い耳障りな音と、火花。
靴底が焦げるような摩擦音。
「だ、大丈夫なんですの! 大丈夫ですの!?」
「わからん」
そもそも、この穴の深さがわからない。
「わからないって……。もう、嫌ですわぁあああ!」
「……耳元で叫ばないでくれ」
ミカエラの叫びに耳を傾けつつコテツは全力で柄を握り締めた。
後は折れないことを祈るのみだ。
そうしてやがて。
「コテツ! 地面です!!」
響いた声に眼下を見下ろせば、なるほど、床が見える。
実に硬そうな床が。
「ぬ……」
衝撃。
ギリギリで剣を離してコテツは背中で不時着を行なうこととなった。
足で着地するよりかは衝撃は分散したが、それとて焼け石に水である。
「だ、大丈夫ですの!?」
顔を覗きこまれて、コテツは真顔で言葉を返した。
「少し背骨が軋んだ」
「それって……、大丈夫ですの?」
「問題ない」
それより、とコテツは微動だにしないままミカエラとクラリッサに告げる。
「退いてくれないか」
「あっ、も、申し訳ありませんわ!」
二人の女性の下に敷かれているのだが、流石に重苦しい。物理的な意味でだ。
慌てて動いたミカエラと、普通に立ち上がったクラリッサに合わせて、コテツも身を起こす。
「すいません、コテツ。また迷惑を掛けました」
「いや、いい。現在も特に問題はないようだ」
確かに背骨が軋んだが、それだけだ。
衝撃はかなりのものだったが、言ってしまえば痛いだけだ。その痛みもじきに引くだろう。
骨は折れてはいないのだから、活動に支障は無い。
これから二度も三度も同じ目に遭えば保証はないが。
(エースでなかったら、死んでいたかもしれんが)
そんなことを考えながらコテツは上を見上げた。
暗くて、天井が確認できないほどの高さである。上からの救助は簡単には期待できないだろう。
そうしてから、次に辺りを見渡す。
それなりの広い部屋に、外に出れる通路への入り口が一つ。
ただそれだけの部屋だ。
そんな部屋で、コテツは自分の壁に突き立っていたロングソードを引き抜いた。今のところ、壊れる様子はない。今回は丈夫で助かったと言うところか。
(ふむ……、ミカエラの機体も落ちてきているが、どれだけ動くかはわからんな)
そして、一瞥した先には、薄桃色の機体。だが、落下の衝撃で不具合が出ている可能性がある。
過度の信頼は禁物だ。
「さて、ではどうするか」
そう、呟いた瞬間のことだった。
「ちょっと、あなた、あ、あれ、あれ!」
「コテツ、猶予はあまりないようですよ」
「……そのようだな」
たった一つしかない通路の入り口の向こうから、中型から大型に至るまでの魔物の群れが押し寄せてきているのが見えた。
中型、つまり人の二倍を悠に超えるサイズなのだ。そして大型に至っては、SHと同サイズ。
「なるほど、二段構えの罠だったか」
中型の一体や二体程度であればこの面子ならばどうにでもなるだろうが、相手は群れ。
正に濁流と呼ぶに相応しい。このままでは簡単に飲み込まれてしまうだろう。
「どうしますの!?」
一刻の猶予もない。
周囲を一瞥したコテツの判断は迅速だった。
「君の機体に乗り込むぞ」
今にも押し寄せんとする魔物に先んじて、コテツはミカエラの機体へと走り出した。
他の二人もそれを追って走り出す。
「それしかないのはわかりますわ! でも、私はアレを撃退できる気はしませんわよ!?」
横に倒れた機体のコクピットに潜り込みながら、コテツはミカエラの言葉に答える。
「問題ない、動かすのは君ではない」
「え?」
二人が乗り込んだのを確認し、ハッチを閉じて機体を起動。
「どうにかしてみようじゃないか」
機体を立ち上がらせ、各部を確認。
なんとか、機体は動く。
「コテツ、勝算はあるのですか?」
クラリッサに問われて尚、コテツは表情を変えることはなかった。
確かに、現状この機体に一切の武器はない。落下時に引っ掛けたか、ロングソードは無いし、ナイフの類も落下と同時にひしゃげたようだ。そして、落下の衝撃でいかほどの損傷を受けたかの機体で戦うようなことは得策ではない。
だが、コテツはフットペダルを迷い泣く押し込んだ。
「このくらいなら――」
機体が群れへと向けて走り出す。
それはただの助走と言うべきもので。
「――いつものことだッ」
本命は、跳躍。
敵の眼前で、その機体は飛び上がった。
最初から相手をする気などない。できるわけもない。
ならば賭けるべきは逃げる方だ。
「ちょ、ちょっと! 私の機体では群れの向こうまでは行けませんわよ!! それに、角度が微妙にズレてて、距離が稼げていませんわ!」
飛び上がった先の群れの果ては遠い。
到底この機体の跳躍力では届かない距離だ。
だが、今ミカエラに言われたことなどわかっているのだ。
「織り込み済みだ」
幸いだったのは、この機体の操縦レスポンスが思ったより軽快だったことだろう。
これがアインス並だったら、また難しいことになっていただろうが、これならば十二分。
斜めに飛び込んだため角度がずれているというのも想定通り。
そう、絶対に真っ直ぐ飛び上がっても群れは越えられないのだから。
――だから、壁を走って距離を稼ぐのだ。
横からの衝撃。
壁に足が着いた。否、壁に着地したのだ。
間髪入れない。その壁を走り出す。
必要なのは絶妙な角度とギリギリの速度。
だが、前進する機体に向かって跳躍した魔物が、眼前へと迫る。
「きゃあああああっ!」
それを身を捻り、何とか腕で受け流して――。
「舌を噛むぞっ」
そして、壁を蹴ってもう一度跳躍。
だが、それでも群れの向こうまでは届かない。
だから、一際大きな魔物の頭を踏み台にして。
「もう一度だっ!」
最後の、跳躍。
それが、魔物の群れを背後へと振り切って。
その機体は両手と胴を使って地滑りしながら新たな部屋の地面へと降り立った。
機体内を激しい衝撃が揺さぶって、やがて止まる。
「い、生きてますの……?」
「そのようだ」
何とか、敵の群れの向こう側に行くことができて、ミカエラにも希望が見えてきたようだ。
「なら、このまま進めば振り切れますわね……」
だが、その希望的観測をコテツは簡単に否定した。
「いや、この機体は置いていく」
「何故ですの!?」
「ガタの来た状態で無理をさせすぎた」
そう言ってコテツは、モニタに示された情報を指差して見せた。
「後ろに少々、忘れ物をしてしまったようだ」
「あ……」
その情報は、この機体の両足の付け根から下がごっそりと消え去っていることを指し示しているのだ。
一本は壁の踏み切りの時に。もう一本は最後の跳躍に。
両方とも、脱落してしまった。
こうなっては移動速度も何もあったものではない。
コテツは機体を反転させて仰向けにし、部屋の入り口にくっつける形にすると、ハッチを開いた。
焼け石に水とは言えど、少しは相手が歩き難くなるかもしれないという心積もりだ。
そして、コクピットから這い出ようとしたときには、ミカエラもまた、覚悟を決めたようだった。
「少しお待ちなさい」
「なんだ。時間はないぞ」
「すぐ済みます。この機体には自爆装置が積んでありますの。タイマーをセットしますわ。運がよければ死体がバリケード代わりになるかもしれません」
「わかった、頼む。クラリッサ、先に下りるぞ」
「はい!」
上向きになったハッチから這い出し、コテツは下へと手を伸ばす。
「助かりますっ」
手を掴んだクラリッサを引き上げると、そのまま抱えてコテツは装甲を伝って地面へと降りる。
そして少し待つと、設定を終えたのだろう。ミカエラがハッチ付近の装甲に立つ。
「終わりましたわっ!」
「了解。時間が惜しい、受け止めるから飛び降りろ」
「お願いしますわっ」
迷わず飛び降りた彼女を、コテツは両手で受け止める。
既に、敵の群れは迫ってきていた。
下ろす時間も惜しく、コテツはそのまま走り出す。
「クラリッサ、行くぞ」
「わかりました、急ぎましょう……!」
来た道を除けば道は一つしかない。
その通路へと一息に駆け抜け、更に奥へと進んでいく。
罠の心配はしなかった。それだけの余裕がないわけでもあるが、ちょっとした根拠もある。
このフロアが、魔物ありきで構成されているのであれば下手をすれば罠を魔物が起動してしまう。
それを防いだ上で稼動するのが、SHの熱源を探知する罠だが、今は生身だ。
そして、生身の人間など、あの魔物の群れで簡単に死んでしまうはずなのだ。
だから、この通路を生身の人間が通るなどという想定はされていないはず。
その予想が当たったのか、それとも運が良かっただけか。
無事に通路の突き当たりまで行き着いた一同は、下へと降りる階段を発見する。
「行くしかないようですね」
「ああ、そうだな」
クラリッサの言葉に頷いてコテツは下へと進み、ここでやっとミカエラを地に下ろす。
「……寿命が縮みっぱなしですわ」
「死なないように注意してくれ」
そして、階段を下りる途中で、地響きがコテツ達の耳に届く。
「ああ……、私のシードブロッサムが……」
それが、コテツ達の命を救った機体が最後の役目を果たした音であろうことは想像に難くない。
ミカエラは残念そうだがあの機体、どうやらシードブロッサムと言う名前だったらしいあれは、ああなってしまっては回収も困難だったであろうし、どうしようもないことだろう。
「……今日は本当に厄日ですわ」
コテツもそうだろうとは思うが諦めてもらう他ない。
何も言わず、十二分に役に立ってくれたシードブロッサムに感謝しつつ、コテツは先に進む。
「さて、どうにかアルと合流したいが……」
「どうしたものですかね」
本来であれば、罠で落下した地点を動くべきではなかったのだ。
待ちに徹して救助を待つべきだった。しかし、そうも行かなかった以上留まるという選択肢は無意味となる。
「上に行ける階段を探すぞ。運が良ければそこで合流できる」
「そうですね、そうしましょう」
「とにかく、生きていればあざみが見つけてくれるだろう。焦るより安全を重視する」
しかし、とコテツはちらりと横を見た。
隣を早足で歩くミカエラの方をだ。
彼女の肩は通常より落ちており、足取りにも力はない。憔悴しているのが簡単に見て取れた。
無理もないだろう。クラリッサやコテツはぴんぴんとしているが、彼らのようなタフさを他人に求める方がおかしい。
と、それを見かねて声を掛けたのは、コテツではなく、クラリッサの方だった。
「流石、育ちの悪い冒険者はだらしがないですね。跪いて休憩を乞うても構わないのですよ?」
まるで小馬鹿にするような憎たらしい発言だったが。
「う、うるさいですわ! このぐらい、なんともありませんの!! 馬鹿にしないでくださいますか!?」
なるほど、的を射た発言だったらしい。
確かに、こういう励まし方ならば彼女が適任だろう、とコテツは感心を覚えながらそれを見守る。
「よろしい、ならばしゃんとしていなさい。今しばし歩けば休憩に適した場所も見えてくるでしょう」
「……余計なお世話ですわっ」
ぷいとそっぽを向いたミカエラの足取りは少し軽いものに変わる。
そして、コテツはミカエラから視線を戻したクラリッサへ身体を寄せると、彼女だけに聞こえるように呟いた。
「すまない、助かった」
その返答はいつも通りのつんけんとしたものである。
「別に、これくらいは当然です」
ただし、その頬が少し照れて赤いことに、コテツは気が付かなかった。
とりあえず07は残り三本か四本と言ったところです。




