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異世界エース  作者: 兄二
Interrupt,With me
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60話 please teach me



 長い間の習慣に従って、体は定時に目を覚ます。

 そうして、コテツの目は開いたの、だが。


「おはようございます」


 何ゆえか、眼前に見知った女の顔があり、コテツは声を上げることとなった。


「君は」


 薄紅の長い髪と、どこか人形臭い美しい顔。耳から後頭部にかけてはヘッドセットのような機械。

 服装は白いノースリーブと独立した袖に、髪の色と同じスカート。


「ノエル・プリマーティです。ノエルとお呼びください」


 クリーククライトのエーポスだ。

 そんな彼女の言葉は、コテツの放った言葉とは少々意味がずれたものだった。

 君は何、ではなく、君は何故ここに、という問いだったのだが、しかし、急いで問いただすようなことでもないとコテツは判断した。


「いいのか?」


 その問いは、彼女の呼び名に関することだ。

 前期型のエーポスはファーストネームを親しい者にしか呼ばせない。

 だからこそのコテツの疑問なのだが。


「構いません」


 今回の問いは、正しく伝わったようだった。

 そして、そこまで言われれば名前で呼ぶことに否はない。


「わかった。ではノエル、少し後ろに下がってもらえるか」

「はい」


 仰向けの状態で眼前にある顔、ということは身を起こせば衝突するということだ。

 ノエルが倒していた上半身を上げたことを確認し、コテツは身を起こしベッドから降りる。


「着替えるが、問題ないか」

「問題ありません」


 リーゼロッテなら気を遣うか照れるかして外で待っているところを、ノエルは身じろぎもせずに言い切った。

 コテツにも、追い出すほどの着替えに対する羞恥心はなく、黙って着替えを終える。

 そして、彼は汲んであった水で顔を洗うと、ノエルへと向き直った。


「それで、何故ここにいたんだ?」


 コテツは、そもそもの疑問をやっと放つことができた。

 寝起きにノエルがいるなどというのは、当然、そうあることではない。

 前回の一件が初対面で、今日が二回目だ。

 となれば、寝起きを待つなどという状況は、余程の理由がなければ起こるまい。

 だが。

 その問いの答えは。


「今日はここに、恋をしにきました――」


 到底コテツに理解できそうもなかった。


















 どうにも、簡単な話ではないらしく、コテツは部屋の椅子にノエルを座らせることにした。

 コテツは、テーブルを挟んで対面にある椅子に座って、もう一度問う。


「……どういうことだ?」


 すると、不思議そうにノエルは首を傾げる。


「どういうこと、ですか。先ほど言ったこと以外に特に何も持っていないのですが」

「ふむ……」


 コテツはいつものポーカーフェイスではあるが、些か困り気味であった。

 まったくもって意味が分からない。


「俺には君が恋をしにきたと言ったように聞こえたが」

「はい。それ以上の下心も、他意も持ち合わせていません」


 確認に頷かれ、いよいよもってコテツは困り果てた。

 本気でどうしていいかわからない。


「……何故、と聞いてもいいだろうか」


 そもそも恋とはしに来るようなものだったかどうか。

 コテツにある数少ない一般知識を持ち出してもよく分からないことが多すぎた。

 しかしまた今ひとつ無遠慮に踏み込んでいい問題なのかも分からない。

 故に慎重な問いとなったが、彼女自身には微塵の動揺もなかった。


「前主様の遺言です」

「遺言?」

「常々、あの方は言っていました。『恋の一つでもしてみろ』と」

「……ふむ」

「客観的に見ると私は、融通が利かず表情も固く常識に疎く、情緒面に欠けるそうです」


 その言葉を否定する材料はコテツにはない。

 そもそも寝ている相手の顔を覗きこみ続ける時点で些かずれていると言っていいだろう。


「『生きている間はお前を縛り付けることになっちまうが、どうせ俺のほうが先に逝く。そしたら、恋でもしてみろ。俺に教えられなかったことも、教えられるだろうよ』」


 涼やかな綺麗な声に似合わぬ荒々しい、回想の言葉。


「恋をすることが私に欠けたものを補う方法らしいのです」


 どうせ先に逝くと言ったパイロットが、どうせ先に逝く相手と恋愛をしてみろ、と言ったその心をコテツには察することができない。

 もしかすると、何か深い思いがあったのかもしれない。

 の、だが。


「何故、俺なんだ」

「私の知る結婚適齢期の男性はあなたしかいません」

「そんなことは……、いや」


 そんなことはないだろうと言いかけてコテツはやめた。

 彼女は撃墜されて修復に要した年月を考えれば、その当時丁度良かった相手も別の相手を見つけるか、老いたか、あるいは、死んだか。

 まるで当時の戦争にただ一人取り残されているかのように一人ポツリと、彼女がそこにいるように見えた。


「……寂しいのか?」


 どこか寂しげなその姿に、コテツは問う。

 しかし、彼女は頷きも首を横に振りもしなかった。


「わかりません」

「そうか」

「それを理解するために、どうか、ご協力を」


 内容が内容だけに頷き難く、断り難い。


「いや、だが。俺がここで頷いたところで、君は恋ができるのか?」


 どうにもこうにも、彼女の言う恋がずれている気がしてならない。

 問題点は、その違和感をコテツが説明できないことだろうか。


「恋とは恋焦がれることであり、求めることだと聞き及んでいます。つまり、恋愛の相手を求めることで恋愛が可能となります」

「恋とは一人の個人を求めることであり、大勢の中から求める物ではないと思うが」

「そうなのですか? 現状のケースで言えばあなた個人を求めるということですか?」

「そうなる、はずだが」


 コテツも絶対の自信があるわけではない。


「しかし、あなたを手中に収めようとするのは恋愛に関わらず得策とは思えません。国家反逆者になる可能性があります」

「物理的に求めるというのもおかしい話だろう」

「では、あなたから何を求めればいいのでしょう」


 コテツはその答えを持ち合わせていなかった。

 あるわけがない、というか、半ば初対面である。

 なのに色恋沙汰に移行するほうがおかしいのだ。


「……とりあえず君は、色々間違っている」

「何がでしょう」

「具体的にと言われると困るが」


 ノエルは、じっとコテツを見つめている。


「回答の入力を」


 コテツは目を瞑った。

 その回答の入力とやらは実に難易度が高い。


「私に恋を教えてください」


 若干、眉間に皺を寄せつつ考え込むコテツ。

 そして。

















「……それで、俺に振る訳?」


 コテツの部屋には、アルベールの姿が増えていた。


「ああ。得意だろう」

「いや、得意だろうって言われてもさ、言われてもさ!」


 変わらず、ノエルはそこに居る。


「いきなりこの子に恋を教えろってきつくない?」

「アル」


 不満そうなアルベールに、コテツは真剣な視線を向ける。


「君は俺の部下だ」

「お、おう」


 気圧されたアルベールへと、コテツは言い切った。


「どうにかしてくれ」

「ダンナもいい感じに砕けてきたね……」


 アルベールは半眼になり、肩を竦めて見せる。


「よーし、お兄さん頑張っちゃうぞー」


 そうして、アルベールは椅子に座ったノエルと対面するようにして対話を試みることにしたようだ。


「とりあえず、恋がしたいんだろ?」

「はい」

「好きな男とかは?」

「前主様は好きでした」

「……うーん、その好きは恋愛的な好きじゃなさそうだなぁ」


 何を見て判断したのか、アルベールはそう談じた。


「恋愛的好きとは」

「もっとこう、あるじゃん? 異性として求める男的なアレがよ」

「あるのですか」

「……ダンナぁ、難しいわこの子」

「頼む」

「うわぁ……」


 アルベールが嫌そうな顔をし、それでも問答を続ける。


「つか、恋がしたくてダンナを尋ねてきたそうだけど、ダンナじゃないとダメ? 他の男は?」

「それは――」


 そうして問答を続けるアルベールを、コテツは横で見守っていた。


(アルに頼んで正解だったようだな)


 心中で彼はアルベールに丸投げする気満々であった。

 しかし、そんな時、乱暴なノックの音が室内に響き渡る。


「誰だ?」

「警邏隊のザック・モルダーと申します!」

「とりあえず入ってくれて構わない」

「失礼します! エトランジェ殿っ」


 入ってきたのは、実直そうな年若い兵士だった。


「それで、何の用だ?」

「はっ、それがこれより魔物の定期討伐に出向くところだったのですが想定よりかなり数が多く、恥ずかしながら助力を乞いに来た次第です!」

「了解した。準備しておく」

「よろしいのですか!」

「断る理由もない」

「ありがとうございます! では格納庫でまた!」


 敬礼して立ち去る兵士に合わせるようにコテツは立ち上がり、そんな彼へとアルベールが驚いた様子もなく問う。


「いつもの?」

「そのようだ」


 こうしたことは最近あまり珍しくなくなっていた。

 毎日のように、というわけでもないが、最近では週に一回来るか来ないか位の頻度でこうしたことになる。

 内容は多岐に渡り、訓練指導から、こうした魔物討伐の助力まで。


「じゃあ俺も行くわ」


 むしろ、平時のエトランジェの業務とも言えるだろう。

 依頼も訓練も無ければあまりに暇すぎるのだ、エトランジェという役職は。


「そこのお嬢ちゃんもついてこいよ。せっかくだし」


またお待たせしてしまい本当に申し訳ありません。

明日明後日中にもう一本更新します。


あと五、六本のストックは出来上がったので、今しばらくは安定した更新でお届けできると思います。



正直なところ、ネットで作者がリアル事情を話すのは見苦しいと思うのですが、創作の状況に影響しだしてしまったので、お話しておきます。

まあ、有体に言ってしまえば就職という奴です。

学生生活最後の年度ということで色々戸惑うこともありというのが現状です。


まあ、更新停止のつもりはありませんので続きますが、今年度中は安定した執筆速度が保てないので、今回のように期間を空けて、ストックを作り集中更新という形になるかもしれません。


それと、今から次の話の微調整に入るので、感想の返信は後日させていただきたいと思います。


以上二点、できれば、ご了承いただけると嬉しいです。



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