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異世界エース  作者: 兄二
Interrupt,With me
64/195

58話 違和

 コテツ達が帰ってくる、少し前の話。

 練兵場で、赤い機体が膝を付いていた。


『君はここから何かできるかい?』

「……うるさい、ですね」


 耳障りな気障ったらしい声に、シュティールフランメの中、クラリッサは吐き捨てた。

 確かに、相手の男の言う通りもう何もできそうにない。

 片腕では、自慢の大剣も上手く振れはしないだろう。

 片足では、売りの機動力も役に立たない。

 魔術は元々使わないルールだ。

 悠々と、見下ろしてくる黄の機体。

 勝敗は決していた。

 だが、認めたくない。負けたくない、負けられない。


『これで君は、僕のものだ』


 何故ならこれは、自身の身を賭けた決闘なのだから。


『嬉しいだろう』

「っ……」


 勝たなくてはならない。

 なのに、機体は動こうとはしてくれなかった――。




















「おかーえりっ、ダンナ、久しぶりだねぇ」

「アルか。確かに久しぶりだな」


 温かい日差しの届く練兵場で、アルベールがコテツへと一方的に肩を組んできていた。


「うーん、変わらないねぇ、ダンナ」


 その彼は、コテツの言葉を聴き、そしてその顔をまじまじと見つめてそう言葉にする。


「何が変わると言うんだ」

「いやぁ、だってほら、旅行と言えば開放感。旅行先ではダンナも大胆になったり、と思ってたんだけど」

「旅行ではない」


 生真面目な返答を返すコテツにアルベールは呆れた顔をして溜息を吐いた。


「だもんな……、はぁ。いや、ある種安心するぜダンナ。よし、ナンパ行こう」

「何故そうなる」

「しばらく行ってねーしさ、ダンナもそろそろ女の子にもっと興味を持つべき時期なんだよ」

「俺のことはともかく、しばらく行っていないのか? アレだけ頻繁に向かっていたのに」


 コテツの脳裏に浮かぶのは、休みの度に女の尻を追いかけて回るアルベールの姿だ。

 だが、心外だとばかりに彼は肩を竦めて見せた。


「ダンナが留守だからちゃんとお留守番してたんだよ。団長もいねーし、クラリッサの嬢ちゃんだけだとアレだし?」


 彼の言わんとすることはコテツにも分かった。

 確かにクラリッサだけだとなんとなく不安だ。確かに強いのだが、罠があっても突撃して窮地に陥りそうなイメージがある。

 よって彼女にはブレーキかハンドルが必要だ。冷静に引き止めることができるシャルロッテと、上手いこと受け流して操作できるアルベール。

 二人ともいない状況でアクセルが掛かるとたちどころに暴走してしまう。


「イノシシってわけじゃねーけど、挑発にゃ弱いからなー。俺も長く席開けとくわけには行かんと思ってね。一応男手だし? いやまあ団長副団長のどっちとやりあっても負けるから格好はつかねーけどさ」


 暴走して勝てる相手ならいい、というかそういう相手には事欠かないだろうが、罠を張ってこられると途端に状況が変わってしまう。

 前回の件で少し用心深くなったとは言え、性格は簡単には変わらないということだ。


「苦労を掛けた様だな」

「そいつは言わない約束だぜダンナ、っつーことでナンパ行こうや」


 だから、何故そうなる、とコテツが止めるまでもなく。

 邪魔は別のところから入ってきた。


「すみません、アルベールさん、お仕事です」

「うぉ? このタイミングで?」


 兵士の一人が背後から彼に声を掛けたのだ。


「盗賊の討伐の任務が出てます」

「冒険者が受けてくれねえのか?」

「それが、どうも……、アマルベルガ様が、古巣に変なのが住み着いてると言えば理由が分かると……」

「マジか」


 横で聞いていたコテツにも心当たりがある。

 要するに古巣とはアルベールが盗賊時代拠点にしていた山のことだろう。

 アマルベルガはギルドに回すよりも地の利を持つアルベールに直接話を回した方が円滑に終わると踏んだか。


「なるほどそりゃ、俺に回ってくらぁな。ん、おっけ、つーことで行ってくるわダンナ」


 組んでいた肩を離してアルベールが機体へ向かっていく。

 そんな彼をコテツは呼び止めた。


「待て、俺も行こう」

「ダンナも? いや、いいよ休んでてもさ。俺にだけ来たって事は一人でどうにかなるんだろうしよ」

「逆に運動不足気味だ、とあざみも嘆いているところでな。そろそろ機体を動かしたい。ディステルガイストで抱えて飛行し続ければすぐに着くだろう」


 ここしばらく、帰ってきてから四日ほど、コテツは今ひとつ機体を動かしていないような違和感を覚えていた。

 エリナを休ませていて、稽古を付けていないからという理由が思い浮かぶが、しかし、前までは他にももっと機体を動かしていたような気がするのである。

 だが、帰ってきて間もなく、違和感の正体には思い当たらない。


「いいのかね? そりゃ俺は助かるけどさ」

「構わない」


 コテツの言葉に、アルベールはそれ以上断るようなことはせず、笑顔でその厚意を受け取った。


「じゃあ、頼むぜダンナ、サンキュな。機体で待ってるから準備ができたら言ってくれよな」

「ああ」


 機体に乗り込んでいくアルベールを見送って、コテツはぼんやりと違和感の正体を考える。

 しかし、その答えに行き着く前に、丁度良く現れた人物が一人。


「ご主人様ー、寝てる間に置いてくなんて酷いですよう」


 短いように見えて、一房だけ尻尾のように長い黒髪に、金の瞳。

 あざみだ。そんな彼女にコテツは短く答える。


「もう昼だ」

「うーうー。で、訓練ですか?」


 あざみがふくれっ面から突如元に戻って聞いてくるが、コテツは首を横に振る事で答えにした。


「いや、盗賊を相手することになった」


 その言葉に、あざみが喜色を顔に浮かべる。

 この仕事は、運動不足を嘆くあざみにとっては渡りに船。


「体が動かせそうですねっ」

「そうだな」


 練兵場に、突如としてディステルガイストが現れる。


「じゃあ、早速行きましょうか」

「ああ」


 そのコクピットへと乗り込み、コテツはアルベールへと通信を行なった。


「準備が完了した。このまま現地へ向かうぞ」

『了ー解。とっとと終わらせて帰りたいねぇ』


























「おーおー……、まったく簡単に出てきてくれちゃって」


 まるで昔の自分達を見ているようだ、とコクピットの中のアルベールは心中で呟いた。


(いや……、さすがにまだ俺達の方がマシ……、だったよな?)


 山の麓に出てきた盗賊達をモノクロの機体が睥睨している。

 アルベールはそこから少し離れて、スコープ越しにそれを見守っていた。


「いい的だぜ、あんたらさ……」


 盗賊達は山中に居を構えているにもかかわらず、ディステルガイストが山の前に立っていたら簡単に麓へと降りてきて、何事かをコテツへ喚いている。

 周囲は開けていて遮蔽物はない。

 シャルフ・スマラクトが伏せて構えるスナイパーライフルを遮る物は存在していないのだ。

 そんな平地で、敵が動き始めた。

 コテツのディステルガイストへと一歩ずつ彼らは距離を詰めていく。

 そして。

 コテツの声が届いた。


『撃て』

了解(ラジャー)……!」


 一寸の迷いもない。

 引き金を引き、鉄の塊を飛ばす。

 飛翔する弾丸は決して狙いを過たず。


『ヒット確認。一機機能停止』


 結果は、どんな時でも冷静なその声が伝えてくれる。

 その弾丸は、首を深い角度で穿ち、頭を吹き飛ばした。

 崩れ落ちる敵の機体。


「よっしゃ、次っ!」


 しかし、一機ごときで喜んでばかりもいられない。

 そこからスコープが動き、クロスヘアの十字の交差するその点と敵が重なる。

 (あた)ると思ったならば、迷う必要はない。

 いや、迷うほどにターゲットは動き、機は逸していく。

 焦るではなく、ただ当たる瞬間に迷いなく。

 引き金を引く。


「さすが安物は違うぜ。一発だ」


 先ほどと同じ様な場所に当たり、敵はその場に崩れ落ちた。

 相手の機体はストラッド。

 濃緑色の、細身で簡素なデザインの機体。

 特徴はその動きの軽快さと汎用性。とにかく軽く、様々な作業にも、戦闘にも従事できる。拡張性も幅広い。

 それでいてコストが低い、冒険者から民間人、傭兵に至るまで好んで使う、用途の幅広い傑作機。

 弱点と言えば、安くて軽快な代わりに装甲は薄いこと。遠距離からの攻撃、あるいは小口径でも十分な攻撃力になる。

 だが、そんな機体と言えどSHを一発の銃弾で戦闘不能にするには苦労する。

 頭が粉々になろうが、手足が千切れようが、幾つ攻撃を貰おうとも、必要な部品さえ生きていれば機体は動く。

 たとえジェネレータを破壊されようと、コンデンサの蓄えているエネルギーが尽きるまでは動きは止まらない。

 そんな中で確実に機体の動きを止めるとしたら、一番確実なのはパイロットを殺すことだろう。

 SHは勝手には動かない。一番手っ取り早い方法だろう。

 しかし、それがいつもベターな方法なのかと言われれば話は別だ。


「……遅ぇ。ダンナとの訓練のせいで、目だけは無駄に良くなってんだよ」


 どんな機体も、コクピットだけは様々な工夫を加えて守られている。たとえ薄い装甲のストラッドであれど、例外ではない。

 ストラッドの場合は、胸の中心に箱状の装甲と、その内側に更にもう一枚、半球状の装甲が取り付けられている。

 一枚目で勢いを殺し、二枚目で弾丸を滑らせる設計だ。それでも鉄壁と言うわけではないが、当たっても逸れる可能性が少し上がる。


「それに、できればお話聞かせてもらいたいしなっ!」


 更には、警戒すべき怪しい組織が存在する今、怪しい者は片っ端から捕らえて取調べを行なうべきだ。

 たとえただの山賊にしか見えずとも、一応のこと、だ。

 ならば、狙うべきは一点に絞られる。

 制御系が集中している部分。それは機体によって千差万別、機密中の機密。

 だが、ストラッドは民間に広く知れ渡っている。

 故にアルベールもまた、その機体の内容を把握していた。

 ストラッドの制御系が集結するのは丁度人体で言う脊髄の辺り。そこを穿てば、機体は止まる。

 ならば、狙うは斜め上から。


「もう一発……!」


 装甲の薄い首関節部を深く穿つように、背へと突き抜けるように。


『ヒット確認、三機目、機能停止確認』


 三機を瞬く間に倒され、敵が浮き足立つ。

 彼らは、混迷する状況の中、とにかく目の前の敵を倒すことを選んだ。

 これまで、ただ立っているだけのディステルガイスト。

 二機が同時に肉薄し、ディステルガイストへとナイフを振るった。


「残念だが、そいつは囮でも木偶人形でも何でもないぜ」


 だが、そのアルベールの言葉に応えるように、ディステルガイストが動く。


「正真正銘本命だよ」


 相手は既にナイフを振るっていた。

 傍から見れば、当たったと思っただろう。少なくとも、相手がナイフを振るってからディステルガイストは動いたように見えるのだ。

 だと言うのに、するり、とその像が掻き消えた。

 絶対に当たると思っても、絶対に当たったはずでも。

 それでも掠めもしていない。

 まるで発生するように、敵をすり抜けて背後に現れ。

 いつの間に抜いたのか、刀を持っている。

 それを確認した時には、すり抜けられた敵は細切れにされていた。


『二機撃破しました、ご主人様』


 その様に、敵は接近戦は無謀と考えたか銃撃を行なってくる。

 五機で取り囲んで間断なく弾丸を放つ。

 だが、その程度で墜ちるほど、現実は甘くはなかった。

 無数の迫る銃弾。

 それらが、ディステルガイストに辿り着く前に力を失い地面へと落ちていく。

 ばらばらと、つい先ほどまで音速で飛んでいた鉄塊は、何の意味も成さずに落ちていく。

 弾丸に対してディステルガイストが取った行動は只管にシンプル。

 一体何をしたのかと言えば。


「……どう考えても、おかしいよなぁ」


 全てその刀で、弾いただけだ。


『命中精度は五割程度だ。大した数ではない』

「そういう問題じゃねぇって」


 敵の戦慄が目に浮かぶようだった。

 あまりの脅威を前に、固まってしまっている。


「あー、こりゃ良くねえな」


 そう呟いた瞬間には、囲んでいた内の四機がディステルガイストの放った銃弾に倒れている。

 容赦なく関節を穿っていく射撃に、装甲の薄いストラッドは耐えられることはなく、地へと沈む。

 そして、最後に残る一機が、限界を悟って走り出していた。

 間違った判断ではないだろう。これ以上やっても勝ち目は万に一つとてありはしないのだ。


「賢明だな。でも、逃がさねえよ?」


 走って逃げる敵機。

 覗き込むのはスコープ。

 水平に動く十字と敵機。

 その二つは少しずつ、少しずつ距離を近づけ。

 やがてその距離は零になり重なる。


「――じゃあな」


 飛翔する弾丸が、再び緑の機体を貫いた。






















「いやー、久々に動き回りましたね」

「久々とは言えど、精々が数日だがな」

「気分って奴ですよ、それは」


 ハッチを開けて、コテツとあざみは機体を降りて格納庫の地に足を着ける。

 あの後、あれで盗賊団は壊滅し、捕縛は付近の駐在兵士と共に行い、彼らに預けてきた。

 今頃は後続が到着し、捕虜が引き渡されていることだろう。


「ダンナー、お疲れさん。助かったぜ」

「ああ」


 アルベールもまた機体を降りてきて、コテツの元へと歩み寄ってくる。


「いやはや、帰ってきたばかりだってのに、本当にご苦労さんだぜ」

「一日も休めば十分だ。休みが多くても逆に暇を持て余す」

「だから、女でも作って遊べばいいってのに。って、あ、そうだ」


 ふと、思い出したようにアルベールは手を叩く。

 そして、コテツにこう聞いた。


「クラリッサの嬢ちゃんには会ったかい?」

「ん? 何故だ?」

「いや、帰ってくる三日くらい前にやたらそわそわしてんの見たからな」


 問われて考えるが、しかしやはり、コテツにクラリッサと会った記憶はない。


「会っていないはずだが」


 そう答えると、アルベールは不思議そうに首を捻った。


「っかしーな、ありゃダンナに会いたいって顔だったんだけどな」


 と、その言葉でふと、コテツは違和感の正体に思い当たった。

 確かに、コテツは機体を動かしていなかったのだ。

 旅に出る前よりもずっとである。

 初めての国外から帰ってきたばかりで失念していた。

 そう。

 コテツは帰ってから一度もクラリッサと訓練を行なっていない。

 あれほど執拗に訓練と称して挑んできたクラリッサに、一度も会っていないのだ。


「ふむ……、そうか」


 その事に気が付いてなんというべきか、腑に落ちたとでも言えばいいのか。

 違和感が綺麗に消えて、胸のつかえが取れた感覚。

 こうして正体が知れたなら、会いに行けばいい。

 コテツはそれを選択した。




遅くなって申し訳ありません。


書いてる途中、インフルエンザで失速してからというもの、スランプなどという高尚な物でもありませんが筆が進まない状況でした。

とりあえず今回の話はクオリティにこだわらずとりあえず片付けて次の話に行きたいと思います。


明日か明後日中に後編を更新しますので、感想返信はその時まとめてさせていただきます。

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