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異世界エース  作者: 兄二
06,人の価値
54/195

48話 ActiveHoming



 抜剣は間に合わない。反りのない長剣は抜き打ちに向いていない。

 そこまで考えれば後は迷っている暇はなかった。

 すぐさまコテツは迫ってきていた女を蹴り飛ばし、抜剣。

 仰け反った女を袈裟斬りにして、踏み込んでもう一度蹴り飛ばす。


「な、なにが……!?」

「下がっていろ、まだ来るぞ」


 こういった戦闘では最後の抵抗が馬鹿にならない。瀕死で放った攻撃一つで護衛対象は死ぬのだから侮れない。

 故に止めを刺しておきたいのだが、そんな余裕はないらしく。

 殺気立った息遣い、足音、衣擦れ。その他色々な要素が絡み合って、それは殺気としてコテツに伝わる。

 それはこれで終わりではないことを指し示していた。

 すぐさま、三人の黒装束の男達が飛び込んでくる。


「あまり状況は良くないな……。こうもあっさり警備を抜けられるとなると、どのくらいの規模か……」

「だ、誰か!! 誰かいませんか!!」


 まず最初に飛び込んできた相手を、柄頭で殴り倒す。

 敵が三人いるのに、刺したり斬ったりではその後に時間が掛かりすぎる。

 インパクトが一瞬で過ぎ去る打撃が妥当とコテツは判断し、その後に迫る男を裏拳気味に殴り飛ばす。

 地面に倒れた男と、横に殴られ、大きく体勢を崩した男。

 ここでやっと、余裕ができる。それを感じたコテツはすぐさま剣を振りぬいた。

 振りぬかれた剣は、最後の男の胴を真一文字に刻む。


「浅いか?」


 一刀両断とは行かなかったが、しかし、十分でもあった。

 その出血ならすぐには動けまい。一応止めを刺したいところであったが、拳で殴った男の方が優先だ。

 柄でまともに眉間を殴ったほうはぴくりとも動かないが、拳で殴っただけのほうは気絶とは程遠い。

 それが体勢を直そうとしたところで剣を突き立てる。

 絶命しただろう。確認している暇はないが。

 それよりも肝心なのはやはり相手の傷が浅かったことだろう。

 最初のメイド服の女が既に身を起こして姫へと駆け寄っていた。

 速い。


「こちらに来いっ!」

「や、止めてください!!」


 それを見たコテツは相手に突き刺した剣を引き抜くことを諦め柄から手を離すと、その女へと向かおうと向きを変えるが。


「……む」


 足を掴まれている。

 先ほど斬った男も、やはり浅かったのだ。

 朦朧としたような目の焦点も合っていないようなそんな表情で、弱々しくもコテツの足首を掴んできたのだ。


「邪魔だ」


 すぐに頭を蹴り飛ばして駆け寄ろうとするが、そのタイムラグが致命に至る。

 間に合うか、間に合わないか。

 殺す気なら、有効範囲内まであと一秒もないだろう。

 モニカは明らかに素人。抵抗もできまい。

 暗殺者がモニカに辿り着くまでの一秒。それまでにコテツは暗殺者に追いついて止めることができるのか。

 足が強く床を蹴る。

 大きく、手を伸ばす。届くか、届かないか。

 その刹那を切り裂いたのは、もう一つの、はためくエプロンドレスだった。


「大丈夫ですか!?」


 文字通り飛び込んできていたリーゼロッテが、その跳躍のまま、女暗殺者にとび蹴りを放ち、それを吹き飛ばした――。

 女暗殺者は壁へと当たり、くず折れたきり、動かなくなる。

 コテツの足を掴んだ男も、限界を迎えたか、気絶したようだ。

 間一髪、と言ったところで、どうにかなったようだった。


「助かった。ありがたい」


 中での物音を聞いて駆けつけてくれたのであろう。

 よくできた従者だ、とコテツは感心しながら剣を引き抜いた。


「いえ、私はコテツさんのメイドですから」

「……さ、流石に優秀ですね。先ほどは生きた心地がしませんでした」


 胸を押さえてモニカが言ったとき、そこにコテツと共に扉を守っていた兵士が駆け込んでくる。


「どうしたんですか? エトランジェ殿の従者殿が突如走り出したんですが……。……こ、これは!?」


 兵士は息を切らして現れるなり、部屋の惨状に驚愕をあらわにした。


「暗殺だ。人を呼んでくれ」

「りょ、了解!!」

「あ、私が行った方が……」


 確かにリーゼロッテの方が足は速いだろう。

 だが、コテツはそれを手で制した。


「リーゼロッテ、君は周囲の警戒を。何か気配がしたらすぐに言ってくれ」

「は、はい!」


 指示に従い、走り去る兵士。

 コテツは注意深く扉を閉めて、部屋の中心へと戻る。


「だ、大丈夫なのですか? 私達が向こうへ行ったほうが……」


 死屍累々、といわんばかりの惨状が恐怖心を煽るのだろう。

 モニカは逃げることを提案するが、しかしコテツは首を横に振った。


「そう思わせて、敵が待ち伏せしている可能性がある。奇襲されるより襲撃を迎え撃つ方がいい」


 なにせ、こうもあっさりと警備をすり抜けて現れた相手だ。

 確かに、式典の影響で警備が手薄になっていたのだろうが、これほどの相手ならば、後一手策を弄していてもおかしくはない。

 何せ、逃げている最中はどこから来るか分からないのだ。

 背後を取られるか、前から来るか、あるいは上からかもしれない。前に向かって走っている状況であれば、特に上や後ろの対応が難しくなってくる。

 対して、この室内であれば、扉か窓かの二択である。

 しかも、扉を開けるという余分な手間が必要である分初動はこちらに分がある。

 ならば扉を開けようが破ろうが、扉に構うその隙に剣を突き立てればいいのだ。複数いる場合であれ、扉からは同時に三人も四人も入ってこれない。

 窓から来るというのは、難しいと言えるだろう。それに、やはり窓を抜けるに際し、一つ余計な手間が加わってしまう。

 それに、こちらには耳と鼻が利くリーゼロッテがいる。

 部屋に潜んでいても臭いでわかるし、近づけば足音に反応できる。


「部屋には何もいないか」

「……はい。足音は、大勢が近づいてくる以外は。これは救援だと思います」

「では、モニカ姫。そこに倒れている人間に見覚えはあるか? 少し酷かもしれんが」

「……え、い、いいえ。……見覚えはありません。うちの兵士やメイドではない……、と」

「なるほど。では外部の人間か」


 救援が来るまで何分も待たなければいけないわけではない。

 ならば、それだけ耐えられれば勝ったことになるのだ。


「ご無事ですか!!」


 そして、程なくして部屋へと大勢の兵士がなだれ込む。


「今のところは問題ない。ところで、救援の中に見覚えのない顔はないか?」


 兵士の中に暗殺者が紛れ込んでいないか聞くが、そこで全員が顔を見合わせて、首を横に振る。


「わかった。問題ない。護衛を頼む」


 本物の兵士の中に裏切り者が紛れ込んでいてはコテツには見分けのつけようもなく、ここは信じる他にない。


「了解しました。さあ姫、もう大丈夫です。こちらへ」


 部屋の外へと向かい、モニカを囲んで歩き出す集団の後に続き、コテツとリーゼロッテも外へ。


「周囲の警戒を怠らないでくれ」

「はい、任せてください」


 内部に裏切り者がいた場合はどうすることもできないので、それは諦め、コテツはリーゼロッテに注意を促し、自身も周囲を警戒する。

 周囲は大量の兵士に囲まれていて、さすがにその人の壁を真正面から突破することはできないだろう。

 近づくのであれば軽業師のように背後から現れて兵士の頭上を跳ねて接近するか、あるいは上手くするりとすり抜けて接近するか。

 どちらにせよ、困難だ。

 ならば、警戒すべきは上か。

 そう考えてコテツが上を見上げたのと、リーゼロッテが声を上げたのは同時だった。


「待ってください! 頭上を守ってください!! 上です!!」


 天井と壁に張り付くその姿はコテツの故郷で言う忍者か。

 黒装束が頭上から降ってくる。

 迅速に兵士がモニカを引き倒して覆いかぶさるようにその身体を守った。

 上を向いていたコテツは、リーゼロッテの声によって警戒を確信に変え、思考を加速させる。

 斬りに行く暇はなく、混戦は避けたい。

 故にコテツは腕を引き絞り。

 無言にしてその剣を投擲した。

 警戒して、既に抜刀済みだった剣を投げるのに、少しの猶予も必要ない。

 ただ投げて、突き刺すのみ。

 コテツの全力を以って投げられた剣は、身を捩ってかわそうとした相手の脇腹を抉って飛翔し地に落ちる。

 体勢を崩した暗殺者は、目標を大きく外れて地面に墜落し。


「取り押さえろ!」


 兵士の誰かが叫び、数人がかりで押さえ込む。


「とりあえずは安全地帯に抜けるぞ。どこだ?」

「謁見の間に。急ぎましょう」


 続く襲撃はない。これが最後だったのか、それとも、この廊下から続くいくつかの部屋に潜んではいても、人垣を抜けられないと判断したか。

 その後はどうにか襲撃に遭うこともなく、謁見の間に辿り着いたのだった。














「此度は迷惑を掛けた、エトランジェよ」

「いや、問題ない。むしろ居合わせて幸いだった」

「そう言ってもらえると、心が軽くなる」


 今も尚、謁見の間でモニカは厳重な警護の中にあるものの、一応の危機は去ったとみなされ、コテツと王、コルネリウスは言葉を交わしていた。


「しかし、何故このような……」

「それなのだが、実は式典を周知させたとき、このような書状が届いておってな」


 その言葉に応じるように、側仕えの兵士が、一枚の羊皮紙を持って現れる。

 コテツはそれを取り、紙面を眺めた。


「あなたの一番大切なものを奪い取る……」


 脅迫状だ。紙面から視線を離して玉座を見るコテツに、王は頷きを返した。


「そう、我が国の至宝を狙っている、ということだろう。長らく何もなかった故悪戯かと思っていたが」


 ここに来て、初の襲撃ということか。


「しかし、聞いた話では、朝から廊下に続く扉を守っていたのはそこの兵士だと聞くが……、手引きしたのはお主か」

「わ、私ではありません! 王よ!! 私は何も……!!」


 コルネリウスに懐疑の視線を向けられ、兵士は狼狽しつつも返事を返した。

 コテツもそれはどうかと考え、助け舟を出す。


「もしも手引きしたのなら。俺であればすぐに逃げ出す」


 コテツの言葉に、あっさりとコルネリウスは納得した。

 道理が通じる人間のようである。


「……確かに。失礼した、エトランジェよ、許せ」

「問題ない。それよりも、あの廊下に連なる部屋を探るべきだ。逆に、朝から守っていた彼が誰も通していないのなら、部屋の窓から侵入した可能性がある」

「なるほど、慧眼恐れ入る。確認を急がせよ。あそこに入ることができるのは女中のみ。とすればその中の人間が怪しいか」


 兵が確認へと走り、しばらくの間部屋に静寂が戻る。

 それを見計らったかのようにコルネリウスは口を開いた。


「我もまた貴殿に頼ることもあろうと、つい先日言ったと思う。どうやら、早くもその時が来てしまったようだ」


 もしかすると、この状況は担がれてしまったかもしれないと、コテツは否な予感を心に留めた。


「こういった状況の心得もあると見える。すまぬが、この件に尽力してもらえぬだろうか」


 そして案の定引きずり出された。

 式典の準備でどこかしこも手が足りない状況。必要な護衛を、他国から捻出する。

 脅迫文が届いたからこそ、エトランジェを呼んだのかもしれない。


「引き受けた、善処しよう」


 エトランジェには断り難い理由がある。

 例えば、他国の事情に深く踏み込む訳には、などと言おうにも、国からエトランジェには自由な裁量が認められている。

 そして、エトランジェとは対外に見せて活用する見せ札なのだ。つまり、ある程度評判を気にしなければならない。

 理由なしに断るのはいい影響にはなりえないのだ。


「おお、ありがたい。では頼むぞ、エトランジェよ」

「了解」


 仕方がない。そして例え巻き込まれたところで大きな損があるわけでもない。

 否応なく式典までの暇が潰れるだけだ。

 コテツが頷きを返したとき、先ほど確認に向かった兵士が戻ってきた。


「報告します! 恐れながら、我らが王の寝室の窓が開いていたことが確認されました」

「ふむ……、我が部屋を侵入経路に選ぶとは不届き者よな。しかし、我が部屋にいる間当然賊は入っていない」

「はい、それに、わざわざ犯行を遅らせる意味もないでしょうから、進入したのはつい先ほどかと」


 確かにそうだ。長い時間潜むだけ無駄に危険が増す。そもそも、コテツという他の人間がいる状況にも関わらず犯行に及んだのは、入ってすぐさま確認せずに事に及んだという証ではあるまいか。


「と、すれば……」


 国王の言葉に呼応するように、そこにいたモニカが声を上げた。


「私がお茶を頼んだメイドは……!」

「すぐに探します。警備担当兵、人の出入りは?」

「特になし。つまるところ、あの中に居たのは、一人だけかと」

「あの時間の担当を探します、兵を数人連れて行きますので」


 兵士に言われ、国王は深く頷いた。


「いいだろう。すぐに探し出せ」

「はっ!」


 兵士達が駆け出す。

 それを見送って、コテツもまた、動き出した。


「こちらはこちらでやらせてもらおう」

「よろしく頼む、エトランジェよ。自由な活動による成果を期待している」


 そして、国王に背を向け、コテツは外へ。

 外で待っていたリーゼロッテの隣には、不安げなエリナの姿があった。


「話は聞いたです。暗殺騒ぎですか」

「ああ」

「中ではどのようになったですか?」

「協力を頼まれ、受けることにした。侵入経路は王の寝室の窓が有力。手引きしたのは直前に飲み物を運ぶために注文を受けた女中だと考えられている」

「……お師匠さまの所見は?」


 今、エリナがコテツのことを師と呼んだ。ということは、ただのエリナが事態を静観するのではなく、エトランジェの弟子が首を突っ込むということだ。

 暗殺騒ぎに関わらせるのはどうか。

 コテツは一瞬考えて、関わらせることに決めた。

 エリナならば、そう、一人で突っ走りかねない。であれば、近くに置いて目の届く範囲にいてくれた方がまだいい。


「血生臭くなるぞ」

「覚悟の上です」

「君が手を汚さなくてはならない事態があるかもしれん」

「私だけが綺麗なままは嫌です」

「まだ焦る必要はない、無理もするな。その上で好きにしろ」

「はいです!」


 やる気に満ち溢れすぎていて扱いに困る少女が頷く。


「ふむ、では、今のところだが、所見以前に情報が足りん。これで暗殺が終わるのか、後続が来るのか。相手は誰か。規模はどれほどか。そもそもの目的。全て不明だ。とにかく、今はその怪しい女中を探すしかない」


 まあ、結局はエトランジェだからどうこうという前に、地道な努力となるわけだ。

 だが、コテツを引き込んだことによって、通常は関わってこないはずのシャルロッテ達まで協力することになる。


(上手いこと引きずり込まれたものだ。しかし、既に逃走しているとすれば……)


 考えながら、コテツは外に出た。


「しかし、既に外に出て着替えているとすればその女中を見分けるのは難しいな」


 そうして、門まで辿り着き、門番へと声を掛ける。


「聞きたいのだが、この数時間の間にここを出た女中はいるか?」

「おお、これはエトランジェ殿。いませんよ、ねずみ一匹と通しちゃいません」

「ここ以外に城から出る術は?」

「通常ならないですぜ」

「非常時なら?」

「王家の隠し通路ってもんがありますね。でも王族しか知りませんや」

「逆に現場の人間しか知らないような逃げ道は?」

「あー、城の裏手の城壁に亀裂があったんですが、こないだ補修されちまいました」

「なるほど、ありがとう」


 礼を残して、コテツは身を翻した。

 今度は、城の後ろへと歩き出す。

 周囲を取り囲む城壁はかなり高く、岸壁を登るような訓練を受けていれば登れると思うが、ただの女中が脱出できるとは思えない。


「ところでリーゼロッテ、君はその女中とすれ違っているのか?」

「はい。紅茶をお出ししますと伝えて、そのまま」

「その前後に、何か物音は?」

「いえ、特に大きなものは……」

「妙だな」


 窓を開ける音の一つや二つ、聞こえてもおかしくはない。

 そうして、首を傾げた瞬間、リーゼロッテが表情を変えた。


「コテツさん……!」


 驚いたような、それでいて怯えるような表情。


「血の臭いがします……!!」

「え?」


 呆けたようなエリナの声に続いて、いつものコテツの声が響く。


「どこだ」

「こっちです!」


 走り出したリーゼロッテを追うと、城の裏、その茂みに、人が倒れていた。


「……これは」


 エリナが、背後で生唾を飲み込んだ音が聞こえる。


「エリナ。見るも見ないも自由だが、とりあえず兵士を呼んできてくれ。その後は好きにしろ」

「あ……」

「エリナ」

「は、はいです!」


 血まみれの死体。

 うつ伏せで倒れているのは、間違いなく女中であると判断できた。


「背後から刺されたようだな。争った後もない」

「……そうですね」

「君も無理をする必要はないぞ」

「大丈夫です。これでも、元野生児ですから。慣れてます」


 そう言って安心させるように、リーゼロッテは苦笑した。


「そうか」

「それより、この方は、お茶を頼まれた方なのでしょうか?」

「ふむ、そうだな」


 コテツは、うつ伏せになっている死体の肩を掴み、仰向けになるように転がした。

 コテツの世界では専門家が到着するのを待つのがセオリーだが、しかし、この世界でそこまで細かな捜査はできないだろう。


「一応見覚えがあるな」

「はい、私もそう思います」

「確定か」


 果たして、逃げ出そうとしたところを口封じのために殺されたのか。

 やはりこの女中が手引きしたのか、と心中で確定するその寸前。


「……あれ?」

「どうした?」

「いえ、なんだか……、血の臭いに混じって紅茶の匂いが……」

「そうか?」


 コテツの鼻では血生臭さしか感じられない。

 故に、鼻ではなく目で死体を注視するが、そこで違和感を覚える。


「服に染みがあるな。紅茶の染みと見ていいだろう」


 白いエプロンに、茶褐色の染み。

 それガ匂いの発生源だろう。つまり、紅茶をエプロンに派手に溢したということだ。

 だが、そうすると妙だ。


「つまり、殺される直前まで紅茶を運ぼうとしていたのか?」

「あ……、確かに、変です」


 逃走中に他に紅茶を運んでいた女中とぶつかったのか、紅茶を運んでいた最中に背後から刺され、紅茶を溢したのか。

 それは分からないが、他の女中に聞けばその辺りははっきりするだろう。


「しかし、この広範囲に渡る染みは」

「紅茶を溢した地面に転んだらこうなりますね」

「よく分かるな」

「……む、昔やっちゃいましたから」

「すまない」


 しかし、やはり、直前まで紅茶を運ぼうとしていたというのが有力か。

 背後から刺され、紅茶を落とし、その上に倒れた可能性が高い。

 そして、直前まで紅茶を運んでいたとすれば、暗殺とは無関係な可能性も出てくる。


「とすると、彼女は手引きしていないのか?」


 何故逃げなかったのか。何か考えがあったのか、あるいは。

 窓や女中をフェイクに、本当の侵入経路を捜査されたくなかったのか。

 女中が手引きしたということフェイクに、本当の経路を隠したかった可能性。


「これで終わってはくれなさそうだな」


 もしもフェイクなら、その侵入経路にはまだ価値があると相手は思っている。

 つまり、そこからまた入りたいから気付かれたくないということだ。


「……骨が折れそうだな」



なんか推理ものの出来損ないみたいになってますが、そんな予定はないのでご安心を。

そして、ロングソードさんがろくな活躍をしていないのは秘密です。

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