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異世界エース  作者: 兄二
06,人の価値
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46話 区別



 パレードは如何にも大掛かり、と言ったところだろうか。

 物流や移動の不便さのせいで、一週間前くらいに準備し催して終わりというわけにも行かず、一月掛かりで行なう実に巨大な祭りとなってしまっている。

 まだ半月はあると言うのに、既に王都は活気に溢れている。


「うーん……、凄い人ですねぇ」


 あざみがそんな街並みを見て呟いた。


「酔いそうなのです……」


 対照的に、エリナはこういう場に慣れておらず、リーゼロッテはと言えば先ほどからことあるごとに、びくりと震えている。


「大丈夫か」

「だ、だいじょうぶです……、田舎者ですから、びっくりして」


 リーゼロッテに至ってはおっかなびっくりで言っている間にも肩を跳ねさせ、完全に腰が引けていた。

 彼女ら以外は堂々たるもので、何を気にすることもなく、そんな風に、雑踏の中を一同は歩いている。

 まずすべきは、王への謁見だ。現地入りした旨を伝え、挨拶しておかねばならない。

 そのために、一同は城を目指していた。

 そんな中、道中で唐突に罵声と打撃音が響く。


「喧嘩ですかね、ご主人様っ。これは事件の予感です!」


 いち早く反応したのはあざみ。

 彼女は今にも駆け出さんとコテツを見る。

 コテツの視線の先には、殴りあう二人の男の姿。


「そうだな」


 しかしコテツは気にした様子もなく。


「いや、そうだなって……、こう、男前に止めに行ってなんかのフラグとかは」

「挨拶をする前に面倒ごとに巻き込まれると後の禍根となりかねんからな」


 相手の言質を取っていないならば下手な行動は慎むべきだ、善意にすらつけこむのが外交である、とコテツは捉えている。

 つまり、下手に目立つと難癖つけられるということで。


「あ、はい、それもそうですね」


 さっぱりと、あざみは納得した。


「じゃ、さっさと行きましょうか」

「いや、待て! 正気に戻れお前達!! 流石に私は立場上見逃せんぞ!」


 あっさり無視する方向で納得した二人に、しかしシャルロッテが異を唱えた。


「あー、確かにそれもそうかもしれませんね。騎士団長が民草を見捨てたとか言われたら厄介ですし。しかし、それもおもしろい」

「おもしろくない。私は騎士団長の地位を失いたくはないぞ」

「そんなちょっとした事で落ちる評判ってどれだけ徳を積んでないんですか」

「小さな事の積み重ねだろう。それは!」

「ふむ、しかしそういうことなら仕方ないな」

「あ、ご主人様、やるんですか?」


 そうこう言っているうちに掴み合いから、一度距離を置いた男二人に、コテツは徐に近づいていく。


「あの喧嘩を止めればいいんだな?」


 そして、男の背後にぬっと現れると――。


「おい、お前何を……」


 向かい合っていた男は無視し、唐突に眼前の男の首に腕を回した。


「えっ……、ぐぇ、あ……?」


 間もなく、泡を吹いて男が締め落とされ、泡交じりの息を吐きながら地面へ落ちる。


「この男の戦闘続行は不可能になった。お前に戦闘継続の意思はあるか?」


 そして、相手の男に問う。


「え? あ、いや、うん、そこまでは……。っていうか、え? なにこの人……」


 状況も読めないまま、相手の男は戦闘の意思を否定し、コテツはシャルロッテの方へと振り向いた。


「終わったぞ」

「え? いや、ああ……、まあ、な。ああ」


 歩き始めるコテツに、シャルロッテはしきりに首を捻りながら続いたのだった。


「……私の思ってた仲裁と違う」
















「皆、よく来てくれた」


 そう、尊大な態度で言い放ったのは、この国の王だった。

 玉座に座り、王冠を頭に載せ。

 白髪頭と、蓄えられた長い髭は正に王、と言うべきか。

 そんな王を見て、コテツは自分が王というものに初めて出会ったことに気がついた。


「はっ、この度はお招き頂き、感謝します」


 場には、今礼を返したシャルロッテの他、コテツとエリナ、そしてあざみとソフィアが膝を付いている。

 リーゼロッテは、亜人と言う事で中に入れることはできず、控え室で待つことになった。



「いやしかし、此度は中々の人員だな。ソムニウムも健在のようだ」

「は、そちらも壮健のご様子でっ」

「しかし、先ほどからエトランジェ殿が微動だにしておらんが、大丈夫か?」

「ああ、いえ、それは、彼はこの世界の礼儀に付いて疎く……」

「ふ、構わぬよ。外から来たエトランジェ殿に礼儀を求めるような無粋はしとうない。よろしく頼むぞ」


 視線を向けられて、コテツはそこで初めて口を開く。

 立場柄、相手が王であっても必要以上に低く見られる訳にも、かといって尊大に見られる訳にも行かず、コテツは短い答えを返した。


「了解」

「噂はかねがね。此度のエトランジェは腕白なようでなにより。我もまた、貴殿に頼ることもあるだろう」

「は」

「さて、それでだが、貴殿らに何か要望はあるだろうか。我が招いたのだが、貴殿らに不便をかけることを我は望んでいない」


 その問いに、シャルロッテはお前が何か言えと言わんばかりにコテツを見てくる。

 コテツは、少しの間を置いて口を開いた。


「滞在中、実際に式典が始まるまで外ではただの冒険者として振舞ってもいいだろうか」

「ふむ、そんなことか、構わぬ。だが、滞在はこの城にしてもらえると助かる。滞在中に客人に何かあっては行かぬでな」

「厚意に感謝を」


 そう言ってコテツは頭を下げた。

 これで、滞在中は自由でいいということにになる。


「では、時間を取らせたな。部屋を案内させる。行くといい」

「はっ」


 シャルロッテが返事を返し、立ち上がる。

 他の面子もそれに続いて立ち上がった。

 そうして、そこにこの城のメイドが現れると、彼らを伴って、歩き出す。


「案内致します。どうぞこちらへ」


 その際に、コテツが男だから気を使ったのか、それとも部屋の余りの問題か、コテツだけ少し部屋の位置が違うらしく、他と分かれてメイドと二人で歩くこととなる。

 そうやって二人で歩く中、コテツはふと疑問を浮かべた。

 そしてその疑問を、問題ないだろうとそのまま口に出す。


「リーゼロッテは……、いや、連れのメイドだが、彼女の部屋は?」


 その問いに返されたのは、意外な、いや、ある意味懸念通りな言葉だった。


「亜人種に部屋が必要なのですか?」


 その顔には悪意が感じられないからこそ性質が悪い。

 本当に疑問に思っているかのように不思議そうに、メイドはコテツを見ている。


「……すまないが、リーゼロッテを呼んでくれるか」

「はい、分かりました。部屋でお待ちしますか?」

「いや、ここで待つ」

「分かりました、ではすぐに」


 メイドが近くにいた使用人に話しかけると、その使用人がリーゼロッテを呼びに歩き出す。

 それから程なくして、リーゼロッテが歩いてきた。


「コテツさん、なにか御用ですか?」

「いや……、とりあえず部屋に行くぞ」

「ではこちらに」


 メイドが再び歩き出し、コテツ達は部屋へと案内された。


「ふむ、流石にそれなりの部屋だな」


 客を迎えるであろうその宿泊施設はどこを見ても豪奢であると、コテツは心中に感想を浮かべた。

 随所に散りばめられた金の輝きが嫌味にならない程度に目に入ってくる。

 やはり、人に見られる場所には力を入れざるを得ないのだろう。張子の虎であっても面子がなくては外交どころではない。

 だから、見えないところは手抜きでも、見られる場所には見栄を張る。


(政治とやらはやはり面倒だな……)


 戦時中は楽だった。否、ただの駒でいるのは非常に楽なことだった。

 だが、自由意志が認められ、自分の裁量で動けというのは、付属した責任に比例して難しい。


「さて、リーゼロッテ」


 それはさておき、とリーゼロッテへと向き直ったコテツ。

 対するリーゼロッテは、緊張と不安の混じった声を上げる。


「は、はいっ。私、何かしてしまいましたか……!?」

「いや、違う。すまないが、君にはここで寝泊りしてもらおうと思っている」

「え?」


 彼女の部屋は存在しない。ならばどこに。きっと彼女はそういった状況に慣れていることだろう。

 だが、少しの不安もあった。


「それと、君はできるだけ俺の傍を離れるな。一人で外出もどうかしてくれるな」


 ここに来て、コテツは亜人差別の実態と言うものを重く受け止めることになってしまった。

 ソムニウムでは、特に王城では精々が無視される程度。アマルベルガの威光が効いていた。

 それに、先代のエトランジェが亜人との融和を唱えていたと言われるだけあって、差別の具合は他の国より少し手緩い。

 だが、こちらではこうだ。たとえ付き人であっても部屋は用意しないのが当然だと考えている。

 それを、正に当然だと考えているのだ。これまで、彼らの対応に全く不備はなかった。

 だと言うのに、下手をすれば怒らせかねない真似であるのに部屋を用意しなかったのは、彼らにとってそれが少しの悪でもなく、引け目を感じることでもなく、当然のことだからだ。


「命令だ」


 そんな環境である。コテツの考えすぎかも知れないが、一人で街に出ては、何があるか分からない。

 むしろ、そこら辺を歩いている亜人など捕まえて奴隷にして当然という風潮でもおかしくはない。

 それを思うと彼女からあまり目を離したいとは思わなかった。


「は、はい……、命令なら従います、けど」


 話に決着が付いた。

 素直に頷いてくれたリーゼロッテを、コテツはまじまじと見る。


(……リーゼロッテを溺愛していると言ってもいいアマルベルガは何故こんなところにリーゼロッテを連れてこさせたんだ?)


 その疑問は口にしない。


(言うほど危険ではないのか、それとも……、俺の隣にしか居場所がないとでもいうのか)


 コテツは、言ってしまえば特異点だ。

 庇護できるだけの権力を持ちながらも、この世界の差別や偏見から切り離された存在。

 そう他に見つかるものではない。故に。


(厄介なものでも背負い込まされたか?)

「どうかしましたか? コテツさん」


 だが、そう言って首を傾げる彼女を切り捨てる気にもなれない。


「いや」


 そもそも、捨てられるほど沢山のものを持っているわけでもない。


「なんでもない」

「そうですか……?」

「それより、少し出る。付いてきてもらえるか?」

「あ、はいっ」


 部屋の確認も終われば、ここでやることはなかった。

 コテツは部屋を出て歩き出す。


「えと、どちらへ?」

「ギルドだ」


 短く答えて、コテツはリーゼロッテを伴い外を目指した。

 その途中で、廊下の向こう側からやってきた人物が、迷わずにコテツへと接近してくる。

 誰だ、と考えるより先に、その人物、謎の少女はコテツへと声を掛けた。


「あなたがコテツモチヅキ?」

「そうだが」


 言うと、その少女はその顔を綻ばせ、両手を合わせる。


「ああ、やっぱり! あなたがそうなのね」

「君は?」


 艶のある栗毛の長い髪を大きな三つ編みにして背後へと垂らし、その身を淡い黄色のドレスで包んだ可憐な少女は到底庶民とは思えない。


「私はモニカ・アリアドナ・ブルーナ・アンソレイエ。父の名前はコルネリウス・コルト・ブルーナ・アンソレイエと言います」


 コルネリウス。それは、先ほど話していた王の名だ。

 つまるところ、この少女は。


「姫」

「はい、そうです。よろしくお願いしますね、エトランジェ様」

「こちらはコテツ・モチヅキだ。よろしく頼む」


 今現在、この姫に用はない。


「ではこれで。また後ほど、お話聞かせてくださいね」

「問題ない、では」


 そして、モニカにも用はないらしく、二人はそのまますれ違う。


「綺麗な人でしたね」

「そうか? いや、そうだな……」

「国一番の至宝って言われてるらしいですよ」

「ふむ、そうか」


 それだけ返して、コテツは外へと歩き出したのだった。





細部まで詰め終わったんで、筆に勢いが乗ってきました。


キリの問題でいまいち今回も話が進んでいないのが申し訳ないですが。

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