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異世界エース  作者: 兄二
Interrupt,息継ぎ
47/195

42話 粘性のある洗礼

 廊下を急ぐ。

 靴音を鳴らし、まっすぐに格納庫へ。


「エトランジェ殿、先日はどうも」


 王城の廊下を歩くそんなコテツに、話しかけてくる人影があった。


「先日はあれほどの戦いを拝見することができて、実に光栄でした」

「……ああ」


 先日の御前試合を仕組んだ貴族。

 それをコテツは冷ややかな視線で貫いた。


「そ、それでなのですが」


 一瞬それにたじろいだものの、貴族は何とか続ける。


「その、先日の試合の相手、ゴルトラウシュに乗っていた操縦士が、貴方にお会いしたいと言ってまして」


 とは言うが、どう考えた所で、そこからコテツに足がかりをなどと考えているのだろう。


「悪いが興味がない」


 それが透けて見えて、コテツはにべもなくそれを断った。


「そ、そうは言わずに、少しだけでいいので!」


 それでも尚、コテツの前に立ち縋るような貴族に、コテツは声を放つ。


「邪魔だ」


 低く冷たい鋼のような声は聞くものに威圧感を与えるのに十分であった。

 そして、エトランジェの行動は何人たりとも邪魔してはならない。

 必要のない権力だとは思っていたが、こういう場合は便利でもある。

 先日から、あまり関わらぬようにとアマルベルガに言い含められている。その通りに、コテツは対応した。


「は、はい……! 失礼いたしました!」


 そうして、去っていく貴族には目もくれずコテツは道を歩く。

 そのまま、廊下を歩き続け、格納庫へ。


「おお、コテツさん、なんか用かい!」

「アインスは動かせるか」


 活気を超えて熱気溢れる中、一人の整備員が声を掛けてきて、コテツは対照的に涼しい顔で答えた。

 整備員は、感心したような、呆れたような視線をコテツへと向ける。


「また訓練ですかい。やりますね、あんたも。ところで、エリナちゃんがホワイトクレイターに乗って出てったが……」

「ああ。彼女と訓練の予定だ」

「へいへい、頑張ってくだせぇっと。それと、あんまアインスに無茶させんでくださいよ! 昨日突貫で手足変えたばっかりなんすからね!」

「善処しよう」


 コテツは呟いて、アインスのコクピットへと登った。

 先日の戦闘で、腕足の磨耗から、四肢を交換するに至ったアインス、その四肢は新品同然で傷一つ見当たらない。

 各部をチェックし、異常のないことを確認して、コテツはそのアインスを動かした。

 片膝立ちだったアインスが、立ち上がる。

 そして、格納庫の外へと歩き出した。


「……新しい手足は問題なし、か」


 使ったのは先日の戦いのみではない。シュティールフランメの大剣と打ち合いもした。長く訓練にも使っている。交換になるのも納得と言える。

 むしろ、練習機相手に、無茶をさせた部分は多少なりともある。その上で、手足を交換して、違和感なくつなげて見せた整備班の仕事は中々だろう。

 そうして、しばらく調子を確かめながらアインスを歩かせていると、遠くに、白い機体が見えた。


『あ、お師匠さま!』


 確認するように、走ったり飛んだりを繰り返していたその機体は、コテツの存在を確認するなり動きを止めた。

 エリナの、ホワイトクレイターである。


「随分と、慣れては来たようだな」

『はいです。もとより、ホワイトクレイターはピーキーな性能ではないですし』


 確かに、ホワイトクレイターは高機動接近戦を想定してはいるが、その他のバランスが良くないというわけでもない。

 速くはあるが重くも軽くもない機体は扱いやすいし、接近戦用以外にも、火器を積んでいる。

 肩に積まれたグレネードランチャーや、腰のライフル、腰部アーマーに収納されたハンドガンなどは、魔術偏重の騎士や貴族達の機体の中では珍しいものだ。

 その白い機体は過度の装甲もなく、そのスマートさには、実用一辺倒の言葉が似合う。


「それでなのですが……」

「なんだ?」

「そろそろ、戦闘機動を教えてもらえないですか……?」


 恐る恐ると言った視線で聞いてくるエリナに、コテツは呟きを返した。


「ふむ、難しいな」


 戦闘機動、いわゆるマニューバだが、これは人型機動兵器における技と言ってしまってもいいかもしれない。

 ターンや急降下に急上昇、ロールなどの機動、あるいはそれらの組み合わせによって多岐に派生する。

 そして、戦闘機と違い、人型機動兵器においては足捌きもまた、重要なファクターだ。


「それは、私がまだ未熟だから、ということなのですか?」

「いや、そのようなことを言うつもりはないが」


 コテツは思案の後、考えながら口にする。


「例えば俺の、俺達の使う一般的機動の中に一度の機動で十六回推力偏向を行い、敵の正面を外れて斜めに放物線を描くように至近距離まで接近するマニューバがある。それには弱点があり、機動終了後に攻撃を回避されると多大な隙が生まれるのだが……」


 昔、コテツは優秀と言われた生徒達を教導する役目に就いたことがある。エースが教導することで狙ってエースを作り出すことができないかという実験だった。

 たとえエース機に乗れずとも、その規格外の操縦能力だけ普通の人間にフィードバックできないかと。あわよくばエース機にも乗せようと。

 結果はと言えば、だ。


「それに対する対処法はない」

「……えっと、どういうことです? 話が、よくわからないですが……」

「ではどうするのかとエースに問えば、エースはこう答える。"エースなら、外さない"」

「えっと。それって、万に一つ外した場合は……?」

「相手のほうが一枚上手、潔く諦めて死ね。あるいは、そんな間抜けはエースではない」

「……」


 まあ、結果は失敗だったと言えるだろう。


「お師匠さまは、それを当てられるのですか?」

「当たる」

「それは、コツとか、そういうのがあって……」

「まあ、当たる状況で放てば当たる」

「……」


 エース同士では共通認識である"当たる状況"。それは、風向きであったり、相手の呼吸であったり、自機の状態であったり、機動の微調整であったり。それらを総合して彼らは当たる状況となんとなく呼んでいる。

 ただし、その項目がどれくらいあるのか、エースたちは正確には把握していない。故に説明不能。

 そして、読みや勘もその中に入っているが故に、教育も不能。

 一瞬にして、コクピットが気まずくなった。


「分からないですーっ!」


 そして、唐突に耐え切れなくなったかのごとく、エリナが叫ぶ。


「……まあ、そうだろう」


 なにせ、自分でも分かっていない部分はある。むしろ、一つ一つ理解しながら動かしていては確実に機動に間に合わない。

 風向きを見て、風速を考えて、相手の状況を見て、よし、行ける、などと考えていては遅すぎる。ぱっと見て、行けると思ったら行くのだ。


「じゃ、じゃあ、どうやったらお師匠さまみたいになれるかとか……」

「全力のディステルガイストに乗り続ければ、あるいは……」

「それ、死ぬです」

「……では、聞いた話だが、人生人型機動兵器に良好な状態で乗っていられる年数を三十年とした場合、週に258時間の戦闘訓練を施せばエース機による矯正なしでエースに追いつける、ないしはメニュー次第でそれ以上のものになれるとの科学的データがあるらしい」

「258時間ですか? それだと、結構いけそうですけど、一日どれくらいすればいいんですか?」

「概ね三十七時間だ」

「一日過ぎてるじゃないですかっ!!」

「そうだな」

「っていうかそれ三十年でエースになれるって言わないです!!」

「まあ、実際は四十年以上掛かることになるが、三十年以上は身体に衰えが見られるため、ピークを過ぎ去る前に……」

「できませんからっ!」

「……まあ、そうだな。前の世界で可能かどうかとうに吟味されて現状で不可と判断された以上今から俺達がやったとてどうしようもあるまいが」

「できれば、現実的な案でお願いするです……」

「一歩踏み外してしまえば後は簡単なんだがな」

「どうやって踏み外すですか……」

「ディステルガイストに乗って耐えるしかないな」

「これ、堂々巡りになるですね」

「……まあ、そうだな。だが、一応君にも可能そうな機動がないか考えておこう」

「あ、はい。お願いするです。でも、それとは別になのですが……、その、外さないという戦闘機動を見せてもらいたいです。できれば、こちらに乗って、間近で見せてくれると……」

「それは構わないが。アインスでやると再び全部品交換になりかねんからな」

「は、はい!」

「そちらに乗る、ハッチを開けてくれ」

「はいです」


 目の前の機体に近づくと同時に、白い胸部装甲が開き、向こう側にエリナが見える。

 コテツもまた、コクピットを開くと、ホワイトクレイターへと飛び移った。


「あわわ、いま、ちょっと退けるです」


 エリナが、それを確認するなりシートから立ち上がり、代わりにコテツがシートに座る。


「……動作に問題は無いな」


 コンソールをいじって呟きながらシートベルトを締め、ハッチを閉じると、コテツは徐に機体を操作した。


「行くぞ、しっかりと掴まっていろ。舌を噛むなよ」

「はいです!」


 白い機体の足が、地面を離れ、同時に前へと滑るように移動したと思ったその瞬間、小刻みに、激しくブーストを行いつつ複雑な機動を行い前進し、剣を大きく横に薙ぎ払いながら、地を滑りながら着地する――。


「これが敵機の射撃を回避しながら斬撃を行う操縦だが」


 そして、地に足を着かせて静止したところで、振り向いたコテツが見たのは。


「その……、お師匠さま……。お師匠さまって、よく人とずれてるって言われないですか……?」


 青い顔をしたエリナだった。

 それは、そう、新兵なら当然の洗礼でもある。

 それを人型機動兵器乗りならば必ず一度は体験して、コクピットを掃除するものだ。


「……その意見は的を射ている」

「……気持ち悪い」


 だが、その洗礼は、コテツの襟首に向かって放たれた。















 再び、城の廊下をコテツはコテツは歩いていた。

 それはあまりにいつも通りな、少し高い背と黒い髪に、精悍と呼んでも良いが、どうも印象の薄い顔つき。

 なのだが、今に限っては、上半身に何も纏っていなかった。

 腕には、いつも来ている軍服とシャツが。

 エリナの仕業である。

 まあ、ともあれ、それをリーゼロッテに渡してこねばなるまいと、コテツは自分の部屋に向かっているのであった。

 基本的にリーゼロッテはコテツに関わる雑事をこなしていて、特に仕事のないときは何かあってもすぐ対応できるようコテツの部屋に控えている。

 元々仕事がないときはコテツに付いて動くこともあるのだが、今日は部屋の掃除か洗濯か、それともまた他の何かか、ともかく、コテツは一人で歩いている。


「……視線が痛いな」


 呟くと、廊下にいた通行人が一斉に目を逸らした。

 SH乗りでもある門番に、詳しくは伏せて、洗礼だ、と言えばなんとなく事情を察してなるほどと苦笑をもって返してくれたのだが。

 今いるのは侍女や文官。しかも彼らにとって身近なSH乗りと言えば華々しくも絢爛にして流麗な騎士様だ。

 訓練を終えたそれが半裸である理由など、脳裏に過ぎることすらないのだろう。

 視線には慣れたとは言え、流石に愉快というわけもなく。

 侍女の中には顔を逸らしながらもちらちらとこちらを窺う者もいて、なんともいえない気分になる。


「見てしまう向こうの落ち度より、視線を集めるこちらの落ち度か」


 こちらに来て以来、視線に晒され続けるコテツであるが、その度に質が変わったと思わざるを得ないのがどうにも不思議である。

 初期は侮りが多く、少し前まではその中に尊敬が混じり、そして、最近は――、いや、先の御前試合を終えてからは警戒が入り混じるようになった。

 確かに、これ見よがしに得体の知れない勝ち方だったことや、貴族の一人が手を出そうとしてきたことなどは、警戒に値するかもしれないが。

 まあ、今現在はどうにもいたたまれないような視線で一杯だが。


(……面倒だ)


 召喚当初よりの無気力状態よりも少々回復してきたコテツではあるのだが、しかし召喚以前から社交的だったわけではない。

 戦友や同僚とはあれこれあったものの、不特定多数に対してはやはり面倒だ、というのが彼の本心だ。

 ひたすらに、無言で任務をこなすほうが、彼の性には合っている。

 逆に、政争に関しては全く向いていないと言っていい。政治は元の世界の一般常識しか知らないし、何か利害のある話にはエースというもの自体が向いていない。

 生来のポーカーフェイスはあるが、エースの交渉は言うことが苛烈すぎてまともな交渉にならないだろう。

 例えば、ロシアンルーレットで決着をつけようと言い出すエースにいいだろうと応えるのは、やはりエースくらいだ。


(やはりアマルベルガとしても俺としても俺は城にいないほうが望ましいか……)


 コテツが心中で呟いた言葉は、家を建てようという理由の中の語らなかったことの一つである。

 アマルベルガとしては城の中でコテツが勝手に話しかけられて敵を作るのも味方を作るのもあまりよろしくはないだろう。

 できれば、アマルベルガはアマルベルガを通してコテツに関してフォローしたいはずだ。

 そして、コテツとしても貴族の相手は苦手だし、面倒だ。例えば贈り物は受け取っては面倒だし、断っては角が立つ。そのように、神経を使う。


(まあ、取り急ぎどうなるわけでもないか)


 思いながら、コテツは自室のドアを開いた。

 当然、いつものような部屋がそこにはあった。

 それなりに、いい部屋ではある。

 調度も上品に纏められたこの部屋に、特に文句はない。

 ただ、練兵場に近い位のメリットと、貴族達との政争に巻き込まれるデメリットを考えるとデメリットのほうが勝るというだけだ。

 と、そこで、ふと、コテツはリーゼロッテの姿が見えないことに気が付いた。


「他の仕事か?」


 例えばごみ捨てや洗濯、消耗品の買出し、あるいは補充など外に出なければできない仕事も多い。

 もう既に、掃除は終わっているようで、ならば、掃除を終えて洗濯でもしにいったのかと、コテツが考えかけた瞬間、彼はベッドの上に何かいることに気が付いた。


「……ふむ」


 何、とは論ずるまでもない。その狐耳と尻尾とメイド服。ここまで見てそうだと気付かぬ者はいないだろう。

 リーゼロッテが、丸まるようにして眠っている。すうすうと、安らかな寝息を立てて、陽だまりの中。

 その安らかながらも愛らしい寝顔を見て起こすことは憚られた。


(疲れが溜まっていたのだろう。まだ、帰ってきたばかりだからな)


 むしろ、連れまわしたと言っていいのは自分である。如何に元野生児と言えども、旅をし、その中で戦闘もあり、また、随分と心配させてしまったとなれば、疲れも溜まるだろう。それから更に帰ってきてから休み無しで働いているのだ。


「まあ、いいか」


 リーゼロッテを起こさぬように小さく呟き、コテツは彼女に布団をかけてやると再び扉を開けて外に出た。

 そして、丁度良く通りかかっていた侍女の一人に、コテツは声を掛けた。


「すまないが、少しいいか」

「え、ははははい! なんでしょう!!」


 エトランジェに半裸で話しかけられるということに慣れていないのか……、慣れている訳もなく、彼女は動揺を全く隠し切れずに返事を返す。


「これを頼めないだろうか。訓練中の事故で汚してしまってな」

「え……、これ、誰かに掛けられたのでしょうか……?」


 汚れた背中から襟に掛けてを見て、侍女が呟き、コテツは詳しくは伏せつつ口を開いた。


「そんなところだ。頼めるか?」

「あ、あの……、お付の者に何か不満でも……?」

「いや。君が丁度通りかかった、それだけだ」

「は、はい、分かりました、ではすぐに!!」


 去って行った侍女を見つめながら、コテツは少しの思案をする。

 果たして、リーゼロッテを寝かせたままでよかったか悪かったか。

 あまりよくはないだろう。善意で寝かせておいても、溜まった仕事ややり過ごした仕事が圧し掛かってくるかもしれない。

 そう考えれば、コテツは優しい主人とはいえないだろう。模範的行動は、優しく起こしてやることだ。

 そうしてから後に上手く調整して休みを取らせてやるのが素晴らしい上司だろう。そういう真似ができないから、彼はとりあえず寝かせておくことにした。


(……まあ、問題があれば俺の我侭ということにしておけばいい。実際、そうでもある)


 エトランジェの我侭という言葉は実に便利だ。大概のことは通るらしい。どこまでかは試していないので分からないが、リーゼロッテが寝ているくらいで国益を損ねるならば今すぐそんな国から逃げるべきだろう。

 まあ、ともかく、それでこの件は解決だ、とコテツはそのままふらりと歩いて中庭に出た。

 コテツが召喚当初から、何だかんだと来ている中庭だ。忙しくなってきて、回数は減っても尚、コテツはここに来る。


「あれ? ご主人様? って何で半裸!?」

「……そういえば、失策だったな」


 音を立てぬようにと思ってそのまま部屋を出たのだが、服を持ってくればよかったと後悔するがもう遅い。


「いえ、別に、まあラッキー……、もとい眼福……、もといやったぜ! こいつは僥倖だ!! ですからいいんですけど……」

「意味があまり変わっていないぞ」

「とにかくいいんですよ。でも、どうしたんです?」

「新兵によくあることだ」

「あー、なるほど……、ってもしかしてエリナと一緒に乗ったんですか!? 機体に!?」

「そうだが」

「ずーるーいーでーすー!」

「君はいつも一緒に乗っているだろう」

「あー、そうでした」


 言葉を交わしながら、コテツは中庭に立つ巨人を見上げた。

 ディステルガイスト。モノクロームのコテツの相棒だ。

 これまでは随分と世話になったし、これからも長いつきあいになりそうである。

 寡黙な相棒は、ただ、何も言わずにコテツ達を見下ろしていた。

 彼は、いつの日もここにいる。風雨に晒されようが、日差しに当てられようが、自らに積まれた自己修復機能のおかげでそ知らぬ顔だ。


「ねぇ、ところでなのですけど、ご主人様?」

「なんだ?」

「ディステルガイストはどうですか?」

「どう、とは」


 質問の意味を掴めずにコテツが聞き返すと、あざみは緊張の面持ちで返す。


「その……、実はお姉さまの、シュタルクシルトの方が優秀だとか、そういうのは……」


 その言葉で、如何に鈍いコテツでも、彼女が不安なのだと気付いた。

 確かに、シュタルクシルトの方がディステルガイストより優れている、なんて言ったら彼女にとっては死活問題だろう。

 彼女のアイデンティティの崩壊でもある。

 そんなシュタルクシルトとディステルガイストのその優劣。それを、コテツはこう断じた。


「全状況適応型と、拠点防衛特化型。アレと君は別物だ」

「私のほうがいい、とは言ってくれないんですね。まあ、ご主人様らしいですけどね」


 そう言って、呆れたようにあざみは笑った。確かに、ここで嘘を吐けばもっと丸く収まるのかもしれないが、人型機動兵器に関しては彼はシビアだ。


「それよりも、よく、腕の文字が書き換えられたり、君が恣意的に変えたこともあったようだが、何か意味があるのか?」


 だが、まあこれ以上は藪を突いても蛇しか出るまいと、露骨にコテツは話題を変えた。

 それに対して、深く追求することもなく、あざみは口を開く。


「んー、ステータス変化で切り替えされますけど、そちらは威嚇と、あと整備員などへの警告ですかね」


 つまるところ、勝手に書き換えられるのは例えば今から発進することなどを周囲に表明し、退避を勧めるということだ。

「こ洒落た台詞は私が勝手に光魔術で変えてますけど」

「そうか」

「まあ、機体の方のは初代のこだわりですよ」

「……こだわりか。この軍服もか?」


 初代のこだわり。

 そこから連想して、コテツは自分の着ている軍服のズボンを指差した。

 コテツの軍服、いや、この国の軍服は全体的にドイツのものと空気が似通っているから、だ。


「あー、それは勝手に国で真似しただけですよ。初代の着てた奴を自然と。ご主人様の着てるのは初代のと全く同じデザインですが」


 どうやら、代々エトランジェが着ている制服がこれらしい。

 意外にも伝統があるもののようだ。

 だが、そんなことはあざみにとってはどうでもよかったらしい。

 確かにコテツにとっても少し気になっただけでどうというわけでもないのだが。


「まあ、そんなのはどうでもいいとして。どうしたんです? ご主人様。ここに休みに来たんですか?」

「いや、君がいるかと思ってな」


 これまでの話は、ただの世間話と言ってもいい。

 一応ちゃんとした用が、あるといえばあるのだ。


「……まじすか。これはフラグ」

「次の仕事が決まった」

「……仕事のお話ですか。そういうのばっかりだとモテませんよご主人様」

「そうか」

「あ、ちょ、ちょ、少しくらい困ってくださいよ」


 俺に何を期待しているのだ、とコテツは誰にもわからないくらいに眉を顰め、先のアマルベルガとの会話を思い出したのだった。


「次の仕事は――」















 アマルベルガとの会話は、先日、御前試合に勝ったあと行われた。


「お疲れ様、ありがとう」

「いや、たいしたことではない」


 いつもの執務室。相も変わらずそこには書類が積みあがっており、しかし、アマルベルガは前よりも少し生き生きしているように見える。

 その金の髪はいつになく艶やかだ。


「しかし、そうね。やっぱり、早く貴方にまともな機体を宛がわないといけないわね」

「必要以上に負担をかけてまで欲しいとは思わんが」

「でも、あって損はないでしょう? アルトを使わせてもらえない状況がないなんて誰が断言できるの?」


 エーポスの不在、あるいは誰かの恣意的な分断があればアルトは動かせないし、そうなるかは分からないが、エーポスは生き物だ、不調だってないとは言い切れない。

 更に言ってしまえば国際的な事情を鑑みるとアルトを使うわけには行かないなどという状況もありえるだろう。国と国の問題は想定よりもずっと複雑なものになりがちである。

 現にこうして、アインスで戦わざるを得ない状況があったのだ。これ一回で済めば良いが、この先は誰にも分からない。


「それに、試したいこともあるのよね。コテツ、ちょっといい?」


 いいながら、アマルベルガは椅子から立ち上がると徐に部屋の外へと歩き出す。

 現時点で否やはない。コテツもそれに続いた。


「試したいこと?」

「まあ、見てもらった方が早いわ。あなたの了解が要るから、見た上で聞かせて」

「ああ」


 そうして、歩いていくのはコテツがあまり来た事のない場所だ。

 外ではなく、奥へ。ただ奥へ奥へと二人は進んでいき。

 廊下の奥の部屋、その階段から地下に降りて、大きな扉の前に立つ。


「ここは」

「第三宝物庫よ。といっても第三はこないだまで空っぽだったのだけどね。第一がメインで、第二はガラクタ置き場、で、ここ第三は念のための空きスペースって所なんだけど……」


 アマルベルガが扉の前で手をかざすと同時、扉の前に魔法陣が描き出された。

 魔術が使用されたのだろう、その大きな扉が、ひとりでに開いていく。


「……これは」


 その先にあったのはコテツにとって予想外のものだった。


「A-58 シバラク……」


 右腕一本しか、四肢の残っていない機械の巨人。

 それが仰向けになるように、石造りの宝物庫にポツリと置いてある。

 右腕一本しかない鋼の塊。

 だが、それは元は機械の巨人であったと分かるのは当然のことであった。

 コテツが、見間違えようはずもない。

 共にあり、共に戦場を駆け抜けた愛機の姿を。


「あなたが召喚当時に乗っていたものよ」

「……これごと来ていたのか」

「あなたはその時気絶していて、そのまま救助されたから知らないのも仕方ないわ」

「爆発の衝撃で更に損傷し、大分ガタが来ているようだが……」


 白い、必要以上なまでに白い純白に赤のラインが引かれた機体はあちこちが煤けていた。

 保護色などと言った戦場の基本を完全に無視したカラーリング、故にシバラク。


「この機体を、修理して使ってもいいかしら」

「……ふむ」

「もちろん、完全なブラックボックスでいじりようもないかもしれないし、多分もとのスペックには戻らないし、満足とはいかないと思う。でも、上手く行けばまだましな程度にはなるんじゃないかしら?」

「それは別に構わないが」

「死蔵しておいても仕方ないしね。まあ……、勝手にいじるのもアレだしと思ってここに置いておいて、すっかり忘れてたんだけど。とりあえずこれは開発部に回すわ」

「ああ」


 話はまとまった、とばかりにアマルベルガは手をぽんと叩く。


「じゃあ、これはこれでいいわね。……後は、仕事の話があるんだけど」


 つい最近帰ってきたばかりだというのに、とは思うものの、特にコテツは文句はつけなかった。


「あなた、国外に興味はない?」


 続いて出たその言葉に、興味が沸いたからだ。


「国外か? 確かに見てみたいとは思うが」

「そ、なら丁度いいと思うわ」

「詳しく聞かせてもらおう」

「まあ、そうね、まず、地理は分かる? うちは東方が海に面していて、西南にジルエットがあるのは分かるわね? それで、後、西と北西に一つずつ国があるわ。それで、そのうちの一つ、アンソレイエは友好国なんだけど、そこで式典があるわ」

「それに出席しろと?」

「そうよ。向こうからもエトランジェを送れって言ってきてるし、丁度いいと思うんだけど」


 初代は今のこの世界を支えるSHを作り出し、歴代もまた、世界に様々な影響を残している。

 有名人であり、代々のことを言えば、偉人の集団でもある。

 つまり、エトランジェを呼ぶことは箔が付くということだ。


「断る理由はないな」


 コテツとしては国外に興味はあるし、仕事と言うなら否やもない。


「いつだ?」

「一月後よ。どうするの? ディステルガイストで行くなら急げば三日掛からないかもしれないけど」

「いや、だが、希望するならエリナも連れて行って構わないか?」

「いいわよ。それと、こちらからはシャルロッテも出るわ。まあ、私が動けないから、名代みたいなものね。エトランジェ送り込んではいお終い、って言うのは世間体に問題があるわ」

「なら、固まって行ったほうがいいか。シャルロッテは馬車で行くのか?」

「いえ、結晶持たせて現地補給ね。だからSHで歩くことになるわ。それだとトラブルさえなければ一週間位あれば着くはずよ。あなたはディステルガイストで行ってね」

「示威か」

「まあ、そこまで考えてはいないけど、アインスで行くのは格好が付かないでしょう?」

「それもそうか」

「それと、余裕があればソフィアも連れてってあげて。どうせだから、エーポスも二人送っておいた方が外交的には有利に動くわ」


 確かに、行く面子が豪華であることに越したことはないだろう。

 国外に向けて、余裕を見せ付けておくことは悪いことではない。実情がどうであれ、だ。

 あまりにみすぼらしいゲストでは、疲弊弱体を疑われてしまう。


「ところで、何の式典だ?」

「お姫様の十五の誕生日よ」

「ふむ、了解した。できるだけ早くに現地入りして待機していたほうがいいな」


 ギリギリをみて出発し、遅れました、では正に後の祭りとなってしまう。

 準備が出来次第行こうとコテツは考えるが、しかしそれはアマルベルガに止められてしまった。


「その前に、あなたはアカデミーに行ってくるべきだわ」

「……む?」

「忙しくてうやむやになっていた内在魔力測定と、ついでにディステルガイストの整備もしてもらいなさい」

「なるほど、そういえばそうだったな」


 外部の魔力素を取り込んで魔術を扱う適性は無いと発覚したコテツだが、自己の体内にある魔力素に関しては未測定だ。

 それを測るには、特殊な機材のあるアカデミーまで出向かねばならない。


「まあ、それこそディステルガイストで飛べばすぐよ」

「了解した」

「準備させておくから明後日くらいには向こうから返事が来るでしょう。そしたら行って」

「ああ」


 と、いうのが先日行われた会話の全て。

 つまり、これからの予定は。










 ことのあらましを語り終えて、コテツはあざみに向かって言葉にした。


「つまり、明日、アカデミーに行った後、その次の日は国外へ向けて出発する――」











A-58 シバラク


コテツが元の世界で最後に乗っていたDF(ディストラクションフレーム)

高機動接近戦特化がコンセプト。エース機らしく、常識外れの出力と機動性を発揮する。

カラーリングは白に赤のライン。


武装には長大な大太刀と、二本の大太刀が存在していたが、ウェイトや長時間の戦闘による切れ味の低下などの観点から物語冒頭では既に捨てている。

基本武装はその三本の太刀だけだが、最終決戦時には追加武装でミサイルポッド、ライフル、シールドなどが装備されていた。

最後に使用したレーザーブレードは軽量ながら高出力の品であり、こちらは機体自体のサブウェポンとして格納されており、最後の切り札でもある。


まあ、コテツが冒頭で乗ってた機体です。

由来とかは言わずもがな。



さて、というわけで、そろそろ06に向けて、と言ったところでしょうか。


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