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異世界エース  作者: 兄二
05,Battle Continue?
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38話 ヒューマノイドディザスター

『何故、来たのですか貴方は』


 あざみの主には、欠けたものが多すぎる。


『何故、貴方は戦うのですかな……?』


 果たして、その言葉に主は答えられるかどうか。

 答えられるかどうかは、不安である。

 だが、しかしだ。

 この男は、ことここに至っては。

 戦うと決めたなら。


「戦うことに理由がいるのか?」


 一度も迷ったことはない。

 あざみの主には、欠けたものが多すぎる。

 故にこそこの男は、操縦桿を握って初めて、完成する。


(的外れに過ぎますねぇ。ご主人様が今更それで止まるものですか)


 逆なのだ。コテツに戦う理由を求めてはいけない。

 戦うのが普通、デフォルトの設定であり、今までは戦わない理由があっただけ。

 だが、今となってはそれももうない。

 コテツを止めるならば、戦わない理由で止めるしかない。


(くふ……、いいですよ、ご主人様。所詮私も、戦うために造られた存在です)


 あざみが口端を歪める中、一太刀。たった一太刀で、コテツはフリードの剣を弾き飛ばす。


『くぅっ!』


 苦悶の声。そこに向かって返す刀でもう一太刀。


『戦うと言うのなら、貴方はこちらに着くべきでしょう!?』


 黒い巨体が、その身に似合わぬ軽快さで後ろへと下がり、体勢を立て直す。


『万の民をより多く生かせるのは私だ。今後数百年を見れば、私の方が安定に導く自信がある。魔物だけでこれだけのことができる……、この上更に人を上手く使ったならば。強く、安定した国を作る事ができる!』


 本当に、自信を持った威厳のある声。


「そうか。そうかもしれん、そうなのだろう。だが」


 あざみもそう思う。嘘はないだろう、と。

 それを実行できるだけの能力はあるのだろうと。


「そんなことは、どうでもいい」


 だが、それをコテツはあっさりと切り捨てた。


『では、見捨てると。国を、民を』

「国のことなど知ったことか。国も身分も人も派閥も未来も関係ない。許されるはずだ、俺だけは」


 異世界人だから。

 機体に乗れば、コテツと繋がるあざみだからこそ分かる。コテツは気がついている。


「俺だけは許されるはずだ。いや、せめて俺くらいは、だ」


 いや、エリナを見て気がついたというべきか。異世界人だから、という言葉のもう一つのニュアンス。


「せめて俺くらいは、万の人間より一人の女を優先しても、いいだろう――?」


 家族もなく、祖国もなく、今まで戦って来た仲間もいない代わりに。

 誰よりも孤独である代わりに、コテツ・モチヅキは誰よりも自由である。

 迅速な踏み込みが、そこから振るわれる斬撃が敵機の腕を跳ね飛ばす。


『ぐうう! そこな王女に、それほどまでの価値があると? 貴方はそういうのですかな、エトランジェ!』

「それこそ知ったことか。俺は、アマルベルガ・ソムニウムを嫌いではない。そして、お前のことは知らない。十分だろう、理由としては」

『それで貴方は万の軍を敵に回せると? どんな国からも守って見せると?』

「それが俺の戦争ならば仕方あるまい」

『……正気じゃない』

「それがエースだ」


 更なる踏み込み。

 そして、斬撃。

 しかして、その刃は不可視の壁に阻まれる。

 その透明な壁は、即座に薄く赤く染まり、斬撃を受けきった。


「……む」

『私は負けるわけには行かない。ここまで来たからには――!!』


 俄かに、敵機の背後が輝いた。

 それが魔法陣の出現だと見て取った瞬間、コテツは即座に地面を離れる。

 四十二門、ホーミングレーザー。

 四十二門とは実際に砲口があるわけではなく、機体装甲内に刻まれた陣の数となる。

 それだけの記述を装甲に施すなどというのは、正気の沙汰とは思えない。

 魔術師、技師、そしてフリードの、執念。

 それはまるで流星群か。

 しかも、機体を追うレーザーに紛れて、機体を追わない通常のレーザーも交ぜてくるために、手が掛かる。

 ホーミングレーザーは自分のいる場所に向かってやってくる。つまり、避け続ければ、動き続ければ当たらない。

 ただし、それに通常のレーザーを交ぜると途端に回避難度は跳ね上がる。回避行動中に、自らレーザーに当たりに行く可能性があるからだ。

 だが、そんな光の雨を、まるで空を泳ぐかのように、コテツは避けていく。


「あざみ」


 その中で、短く呼ぶ声。あざみはすぐに反応した。


「はいはいなんでしょう!」

「アレを君の魔術で抜くことはできないか?」


 コテツが言うアレ。つまり敵機の障壁、バリアだ。確かに、あのバリアは頑丈だ。

 計算された多重構造によって、まず最初の一枚目すらかなりの強化を受けている。


「うーん、私の魔術でってのは無理じゃないですかねぇ。そもそも、あの障壁、メインは魔力耐性ですし。フルチャージなら抜けそうですけど、待ち時間的に効率は悪いかと」

「そうか。では少々骨が折れそうだな」


 コテツは言う。

 その、あざみの無理という発言に、怒りも失望もなく、ただ受け止めて、興味無さげに操縦桿を握りなおす。

 その仕草に、あざみは一抹の寂しさを覚えた。

 これならば、理不尽でも叱ってくれたほうがいい。舌打ちの一つもないと、まるで自分やディステルガイストに興味が無いみたいで、悲しくなる。


「あざみ」


 微妙に沈んだ状態で呼ばれて、しかし返事はした。

 この程度で職務放棄などは考えられない。

 むしろ、この人付き合いに向かない男の相棒を名乗るのなら、これくらいは笑って受け流すしかない。


「なんでしょう」

「俺にとってコクピットはまるで牢屋だ。ここでなければ何もできない。しばらくは抜け出せそうもない」

「そーですか……」


 しかしやはり、ディステルガイストの中を牢屋に例えられて、あまりいい気はしない。

 先ほどから、なにかあざみのテンションは下がっていくのだが。


「この狭いコクピットが俺の世界だ」


 機体を通して読み取れるコテツの思考が、何故だか温かくて。


「そんな中、君が居てくれて、良かったと思っている」

「え」

「コクピットの中、背後に人がいるというのも……、悪くはない」


 振り向きもせずに、コテツは言う。

 一人で戦争をしてきた男が、背後にあざみがいることを認めてくれた。

 コクピットの中でしか世界を変えられない男が、一緒に世界を変えることを、選んでくれた。


「えっと、これあれですか。私これ、えんだぁあああああ、って叫ぶ所ですか? 叫んでいいですか?」

「……程ほどに頼む」


 下がり気味だった気分など、一体どこにあったというのか。

 今となっては嬉しくて仕方がない。にやけた顔が、直らない。

 相棒として、認められている。それが嬉しくて、あざみは口の端を歪めながら、喋り始めた。


「さてさてご主人様。アレは私の魔術じゃ抜けませんが」

「ああ」


 コテツは、まるで何でもないことのように光の群れを避けながら、言葉を交わす。


「アレを抜ける装備ならあるんですよ、これが」


 そんな主が誇らしくて、そんな主に向かって、見て欲しいと、褒めて欲しいと。

 そう考える。

 驚いて欲しい、こんなこともできるのかと。まるで、子供のように、自分の半身を褒めてもらいたくて。


「私の数ある武装の中でも"とっておき(銘在り)"を見せてあげますよっ」


 銘在り。大量にあるディステルガイストの武装の中でも、わざわざ名前を付けられた、特別な存在。

 絶大な威力を誇る、その中の一つ。

 ディステルガイストの手元に光の粒子が集まっていく。


「召喚に数秒要ります。耐えてください」

「問題ない」


 あざみは防御を考えない。全て避けてくれると、信じた。だから召喚の速度を速めることに集中する。

 次第に光は集まり、形を見せていく。

 長い柄と、巨大な塊。おぼろげに、それは姿を現して。


『く……、避けてくる! だが、少しずつ、追い詰めて――!!』


 そこで、フリードの必死な声が聞こえてきた。

 確かに、上手くレーザーを放ち、少しずつ、ディステルガイストは地面へと追い詰められている。

 それは遂に地面に接触するかというところまで来て――。


『仕留める!』

「甘い」


 それでもコテツは全て避けた。

 この状況で、コテツは前に進み出て、すり抜けるように全てを回避し、地に足をつけた。

 滑り込むように着地したディステルガイストの脚部が地面を削り、そこに悠然と立つ。

 フリードの方は、レーザー使用後のチャージが始まったのだろう。光の雨が一時的に止む。

 激しい戦いの、光の雨の中の刹那の静寂。


「……ブローバックインパクト、ジャンクオーバー。召喚完了」




挿絵(By みてみん)



 そんな状況で、それは姿を現した。


「これは……、ハンマーか」


 それは、全長が機体よりも大きい、巨大な槌。

 打撃部分は、まるで銃を模したかのようなデザイン。

 腕には、あざみがどうこうするまでもなく機体のステータス変化により、『BROWBACK IMPACT!』の文字が躍る――!


「丁度良く、魔物の生き残りが来ましたよ! やっちゃってください!!」

「了解……!」


 飛び掛ってくる、巨大な狼。

 コテツは、迷うことなく、そのハンマーを叩き付けた。


「インパクト!」


 瞬間。

 重い衝撃が機体を揺らすと同時に、文字通り、狼は弾け飛んだ。

 文字通り、原型を留めず、一瞬の延命も許されず。ただ、無常に無抵抗に、弾け飛ぶ。

 銃のようだった打撃部位は、まさしく銃のように、そのスライドを後に動かして、薬莢を排出する。

 巨大な薬莢が地へと落ちて音を立てる中、スライドした銃身から排熱の蒸気が吹き荒れた。


「……なるほど」


 打撃の瞬間。それは殴っただけではない。特殊な杭を、ゼロ距離で打ち込んだ。

 それは、巨大な魔物を、一撃で肉塊に変える威力。


「突破能力は随一ですよ!」

「いい武器だ」


 ブローバックインパクトを、手の中で回転させ、ディステルガイストがそれを構える。


『別の武装、ですかな』


 そして、対面する向こうでは、チャージを終えたらしいフリードは再び機体の背後に魔方陣を浮かび上がらせた。


『しかし、近接武装。レーザーの前に避けることしかできない状態で当てられますかな……!』


 再び放たれるレーザー群。

 ディステルガイストの足が、また地を離れる。


『持っている魔結晶も、残った内在魔力も全て注ぎ込みましょう!! これで尚、近寄ることが、避けることができると言うか!!』


 先ほどよりも、光の奔流は更に激しく。


『砲口が焼け付くまで! 私の生が絶えるぎりぎりまで!! 私は、このイミテートでアルトを、エトランジェを超えてみせる!!』


 その激情に呼応するかのように、イミテート、そう呼ばれた機体から発せられる光は激しさを増していく。

 だが。

 しかし、彼は、一つ勘違いをしている。


「――造作もない」


 冷たく、声が響く。

 コテツは、近づけなかったのではなく、効果的な武装がないために、近づかなかっただけ。

 今正に、フリードはその勘違いに気がついたことだろう。

 そして。

 気付いたときにはもう遅い。


「武装のブローバック機構をロック! 人為的に暴発状態(スタンピード)を作り出します!!」


 既に眼前。目と鼻の先。

 まるで、正に魔法のように。まるで、眼前に突如出現したかのように。当然のように、ディステルガイストはそこにいる。


「つまり」

「思いっきりやっちまってくださいってことです!!」

「なるほど、簡潔だ」


 ディステルガイストが、その手の槌を振り下ろす。

 重苦しい衝撃と同時に、一瞬で赤く染まった障壁が砕け散る。

 銃のスライドは、ブローバックを行わず。

 もう一撃。

 砕け散る障壁。

 更に。

 もう一度。

 殴る。殴る、殴る――!!


『ぐうぉおおおおおおおおっ!!』


 次々と、突破される障壁。

 ブローバックと共に行われる排熱も行われず、ブローバックインパクトの銃身は赤く染まっていく。

 ブローバックインパクトは、その特徴であるブローバックを行わないことで、一時的に内部の熱を高め、意図的な暴発を起こしノーウェイトで連射が可能になる。

 故の、怒涛の連撃。

 対するフリードは、ただ殴られたままではいられない、このままでは全ての障壁が破られる、と残った腕で剣を振るう。

 コテツへと迫り来る一撃。

 だが、彼はそれをブローバックインパクトの柄尻に付いた、銃剣状のナイフで弾く。

 そして、最後の一枚へ。


「まだだ! もう一撃!!」

『ぬおおおぁあああ!!』


 最終障壁、突破。

 砕けた障壁が、赤い粒子となって周囲を包む。

 そんな中、ディステルガイストはその目を煌々と光らせる。

 そして、ディステルガイストは、赤熱化したブローバックインパクトを天高く振り上げた。

 青い空に、赤い銃身。

 空気を焼くような、赤い銃身からは、白い煙が噴出し――。


「……行くぞ」


 その声と共に、ブローバックインパクトは振り下ろされる。

 その巨体で空気を裂くほどに、それは加速して行き。

 一瞬は、ずっと長く引き伸ばされ。

 それが黒い装甲に当たった瞬間、一瞬だけ、時が止まる。

 全ての音が消えて、あらゆる色も消えて、ただ、衝撃だけがそこにある。


 重装甲、何するものぞ――。


 まるで、飴細工。

 その一撃は、何の抵抗も許すことなく、イミテートの左半身を削ぎ落とし、その巨体を地へと叩き伏せた。

 スライドが、大きく後ろに下がり、更に折れ曲がるようにして、ばらばらと、空薬莢が全て同時に排出。

 同時に、後部から溜まった熱が蒸気として勢い良く噴出した。

 そして、通常状態に戻ったブローバックインパクトをコテツはフリードへと突きつけた。


『ぐ……、うう……、ああ』

「魔物の進軍を、止めてもらおうか」

『私の……、負けですかな』

「これで負けていないと言い張るも自由だ」

『……いえ、負けでしょう。ああ、流石に、アルトは強い……。これでは、国を守りきれそうにないようだ』


 衝撃にやられたか、弱ったような声を、フリードは上げる。

 果たして、魔物とイミテートで、国外のアルトに対抗しうるのか、それは否だと突きつけられた。

 たとえ国外においてアルトを使いこなせるものなど片手の指の数ほどもいないとしても。

 それは、フリードの負けだった。


『この後私は処罰されるでしょう』


 ただの、疲れた老人の声。

 全てを篭めて、負けた男の声が響く。


「だろうな」

『その後の国を……、頼めますかな』

「国など知らん」

『では……、王女を』

「それが俺の戦争ならば」

『頼みます』

「善処しよう」

『ありがたい……。では、止めましょうか……』


 そう言って、モニタの向こうにいるフリードは機体のコンソールをいじりだす。

 コテツは、それを見て、抵抗の意思無しと判断し、ブローバックインパクトを下ろす。

 周囲からも、ほっとしたような空気が伝わってきた。

 絶望的だった戦いが終わる、そんな空気。

 そんな中、数秒の時間を置き、フリードは唐突に表情を変えた。


『……操作、受付不能? ハッキング……!?』


 その顔は、焦り。

 不穏な空気に、コテツが眉を顰めたのが、背後のあざみでさえ分かった。


「一体何が」

『システムがハッキングを受けて制御不能……、配置された魔物が大挙して押し寄せてくる……!? 一体誰が!!』

「アマルベルガ、そちらではなにか観測したか?」

『レーダーに感あり……、これは少し不味いんじゃないかしら。数えるのも億劫だわ。システムを信用するなら、数、二千百十四』

「そうか、では行くぞ」


 言い切ったコテツが、なんだか微笑ましくて、あざみは苦笑してしまう。


「迷いませんねぇ」

「迷う理由がない」

「そうですか。でも、多分、街に被害は出てしまいますよ。幾ら私でも二千はちょっと、倒すだけならどうにでもなるんですけど」

「どうしようもあるまい。他に方法を俺は知らない」


 言われて、あざみは更に苦笑を深めた。


「そうですね。じゃあ、いきましょうか」


 戦うまでは悩むくせに、戦い始めたら迷わない人だ、とあざみは笑いながら戦闘の準備を始めた。

 あざみは、ディステルガイストを、自分を使われることに無上の喜びを覚える。

 コテツは、機体を使いこなし、限界まで性能を引き出して戦うことに無上の喜びを覚える。

 相性は、抜群だ。

 と、そんな時だった。


『待つことをお勧めする』


 瞬間、響いた声。

 聞き覚えのある声だった。

 そして、嫌な予感。

 これはまるで、お邪魔虫――。


『コテツ、聞こえる? あなたに自信があるなら、私に乗って。それが、被害無しで終える唯一の方法』


 あざみは、コテツと同時に思わず口を開いていた。


「エスクード……!?」

「お姉さま!?」


 そして、コテツがあざみの姉の名を知っていることにも驚く。

 と、そこで、モニタに通信の相手の顔が映し出された。

 肩まで届かないくらいのウェーブのかかった髪。そして、る感情の篭らない瞳は、まるで眠そうにも、半眼で睨みつけているようにも見える。

 エスクード。愛称、ソフィア。

 エスクードの名は、エーポスとしての名称だ。愛称は、見た目の可憐さとその名の厳つさ故に贈られたもの。

 そう、彼女はあざみの姉。

 アルト・シュタルクシルトのエーポス。


「えっと、知り合いだったんですか? お姉さまと」

「街で少しな。君こそ、あれは君の姉だったのか」

「まあ、お気づきの通りかと」


 唐突に、ディステルガイストの前に、白い巨体が現れる。

 空中に生成されるように現れたそれは、地面へと降り立った。


『乗って』


 その、姉の言葉にコテツは一瞬の間を置いて、頷いた。


「分かった、乗ろう」

「う、浮気ですか!」

「……状況を考えてくれ」

「もう、仕方ありませんね。お姉さまー。私のご主人様を貸してあげますから、完璧に、どうにかしてくださいね」

『それは、彼次第』

「ああ、それなら大丈夫ですよ」


 心配は、全くない。

 それは、絶対に杞憂というものだと、あざみは信じている。


「いってらっしゃいご主人様。勝利報告、待ってますよ」

「そうしていてくれ」


 機体同士を近づけて、コクピットを開く。

 飛び移ろうとするコテツに、あざみは笑顔でひらひらと手を振った。














「ようこそ。私の中へ」

「邪魔をする」


 コクピットの中は、ディステルガイストと全く変わりはしない。

 招かれたコテツは、手馴れた様子でシートへと座った。


「機体の名前は?」

「シュタルクシルト」


 シュタルクシルト。その機体は、白く、大きい。

 白と黄色を主体としたカラーリングに、真紅のマント。

 力強い外見は、門の外で押し寄せる大群を睨み付けていた。


「チャージ開始……」


 エスクードが呟く。

 機体の周囲が揺らめくようにして、風を纏った。

 少しずつ、モニタの示すパラメータが上昇していく。

 大群もまた、少しずつ迫って来ていた。


「俺のことが好きな妹とは、あざみのことだったのか」

「そう」


 敵の到達を待ち構え、エスクードとコテツは言葉を交わした。


「今まで一度も決まったことのなかったあの子のパートナー。気になっているのは、私だけではないはず」

「そうか」


 興味なさげにエスクードの前に座る男は頷いた。

 千を超える大軍を前に、気負うでもなく。


「……チャージ完了。敵の判定はあなたに任せる」


 そう、エスクードは呟いた。

 今から行うのは、範囲殲滅の魔術。

 都合の良いことにそれは、敵味方を識別した上で発動することができる。

 のだが、それはパイロットの思考で判定が下される。つまり、失敗すれば街のどこかも破壊しかねないということだが。


「了解。いつでもいいぞ」

「では、行く」


 すると、シュタルクシルトの周囲に球状の壁が現れる。

 色は、薄緑。半透明のそれは、今にも弾け飛びそうな紫電を纏っていた。

 空間を揺るがしそうなほどの、力のうねり。

 周囲からかき集めた、力の奔流。


「フルチャージ、バースト……!」


 エスクードに合わせ、歌うように、機械音声が叫ぶ。


『FullCharge Burst!!』


 瞬間、纏っていた障壁が、膨張を開始した。

 機体を守るはずの壁が、圧倒的暴力と化す。

 広がっていく障壁は、暴風を伴いながら、魔物たちを巻き上げていく――!


「シュタルクシルト。万能なあの子と違って、用途は、拠点防衛」


 それは、圧倒的な暴力の盾。王都を包み込むほどに、それは膨張し。

 その壁は、いとも簡単に、敵達を打ち払って見せた。

 高貴に、強く、泰然とシュタルクシルトは草原に立つ。


「残りは、残党」


 無感動に、当然のようにエスクードは呟き、コテツもまた、同じように口を開く。


「武装は?」

「そんなものはない。障壁、つまりバリア一筋」

「どうするべきだ?」

「イメージして」


 エスクードは言う。


「イメージのままに、私はバリアを形作る」

「了解した」


 コテツは、あっさりと言ってくれた。

 マントを翻しながら、ブーストを吹かし、シュタルクシルトが加速していく。

 そして、接敵。


「できるの?」


 そのあまりにあっさりとした様に、エスクードは少しだけ心配してしまった。

 エスクードは、彼を信頼しきれるほどの付き合いはない。

 だが、どうすることもできず、ただ、見守る。

 瞬間、機体を通してイメージが伝わり、


「つまりこういうことだろう?」


 敵の眼前で、コテツは腕を振るった。

 するりと、巨猿の胴体と下半身が、ずれる――。


「……うん」


 驚きと共に、エスクードはそれを見ていた。

 振るったのは、障壁。長い板状にされた剣のような薄緑のバリア。


「ならば、このまま行く」


 更に振るわれる障壁。

 それは魔物を切り裂き、更に、突如として、周囲の魔物の元に、円錐状になった障壁が次々と突き刺さっていく。


(これは……、いい、すごい。あざみが惚れこむのも、分かる)


 その真紅のマントを翻し、手の薄緑の刃を振るいながら、敵の攻撃を避けつつ、突如出現する円錐状の障壁が敵を貫いていく。


「……素敵」


 思わず呟いていた。

 シュタルクシルトというアルトの操縦難易度を跳ね上げるのが、今正に暴力として振るわれている障壁。

 戦いながら、自ら敵を切り裂きながら、次々とバリアを敵に突き刺さるように出現させることなど並ではできない。

 人には、思考の限界というものがある。並みの一般兵を乗せて、エスクードが強引に機体の性能を引き出したら、廃人を作り出してしまう。

 そうでなければ、バリアを纏って体当たりするくらいが関の山。

 エスクードを、シュタルクシルトを使いこなすのに必要なのは、限界の戦闘の最中で尚、今日の夕飯について想い馳せられるような異常な精神構造が理想。


「アマルベルガ、後何体いる?」

『……え。っと、初撃で壊滅、現在の反応、十二匹』

「では、これで終わりだな」

「後ろ」


 エスクードは、背後からの反応をコテツに伝える。


「問題ない」


 次の瞬間には、出現する障壁が飛び掛っていた熊を貫いていた。

 エスクードは理解する。この男は、なるほど、理想的だ。


「もう終わった」


 何でもないことのように取り囲む全てに突き刺さる薄緑の板。

 それは深緑に染まり、弾けて消える。

 周囲を舞う緑の粒子だけが、周囲を漂うように、動いていた――。


『……お疲れ様。なんだか、もう気絶していいかしらね。色々とありすぎて、なんだか、もう』

「せめて、人が来てからにしてくれ」

『とりあえず、帰ってきて。待ってるわ』

「ああ、すぐ行く」


 残ったのは静寂。

 ひたすらに静かになった戦場を背に、コテツは機体を歩かせ始めた。


「あざみ」

『はい?』

「勝ったぞ」

『はい!』







というわけで戦闘終結です。エピローグ書いて今章は終わり。

シュタルクシルトさんは顔見せ程度。まだディステルさんのキャラが立ってないのでしばらくそんな活躍はありません。

以下おまけの設定画とか。


シュタルクシルト

挿絵(By みてみん)

バリア祭り。バリアしか積んでない。バリアで戦う。

拠点防衛向け。

時間がなかったので色塗りが元々上手くないくせに更に酷いことに。

申し訳ないです。


ブローバックインパクト

挿絵(By みてみん)

杭打ち機気味なハンマー。

対魔力コーティングとかそんな感じの杭を打ち出す機構を備える。

ブローバック機構で薬莢排出と排熱を行う。

しかし、ブローバックをロックすることで、あえて排熱を行わず、暴発状態を作り出し、高速連射を可能とすることができる。

ディステルガイストの武装の中でも珍しい名前持ち。



設定画ないけど、イミテート。


フリードさんちで造った凄まじいSH。

コンセプトはアルトを超えることだが、皮肉いことに名前の通り、ディステルガイストとシュタルクシルトの模倣。

合わせたら強いんじゃね? という思考だが、一点特化に敵うとは限らなかった。

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