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異世界エース  作者: 兄二
05,Battle Continue?
42/195

37話 Continuation Coin

 コテツが、アマルベルガの元に現れる少し前。

 アマルベルガからの通信が途切れ、シャルロッテは不安と共に、ぎろりと正門付近を睨み付けた。


「あれが……」


 目に入ったのは黒塗りの巨大な機体だ。

 高さは、通常のSHより1.5倍くらいだが、妙なほどの重装甲。

 横幅は、二倍以上。

 あれがフリードの乗る機体だろう、とシャルロッテは判断した。


「各員! あれを狙え!! 中身を殺さないように捕縛しろ!! そうすれば魔物を止める方法がわかるかもしれん!!」


 途切れた通信、一刻の猶予も無いと、シャルロッテは考えていたのだ。

 城で、何かがあった。突如として途絶えた通信は、アマルベルガの身になにかがあったのだと。

 だが、今から救援に行っても間に合わない、ならば、何らかの方法で魔物を操るフリード、その乗機のコクピットに刃を突きつけて止めさせるしかない。


「アルベールは正門から南門へ移動してくれ! クラリッサは数機城へ回して私の援護を! 北門は構うな、あれを押さえれば全て終わる!!」


 終わるはず、それが推測であることは、誰にも告げない。

 今この場で最も上の立場にあるのがシャルロッテだ。その彼女が自信なさげでは、誰も戦えない。


(大丈夫……、まだアマルベルガ様が死んだとは決まっていない……! あれさえ倒せば!)


 故にこそ、不安に騒ぐ己にさえ嘘を吐いて、シャルロッテは機体を走らせた。


『了解! すぐ行きます』

『へいへい、南門に付くぜ』


 そうして、十人の手勢を連れて、彼女は一直線に黒い機体へと向かっていく。

 周囲も迅速にアマルベルガに続き、敵の下へと到達した。


「かかれ!」


 シャルロッテ達は全員で取り囲み、切りかかる。

 次の瞬間だった。眩い光が、モニタを焼いた。

 一瞬モニタが白く染まり、次第に色を取り戻す。


「しまった! 避けろ!!」


 だが、その光が光学兵器だと知れたときには、既に遅い。


『ホーミングレーザー、四十二門。この機体は私のジョーカーですからな。そう簡単にはやられはせんよ』

『うぁ、うわあああ!』

『機体損傷、動きません!!』

『団長、ジェネレータをやられました! 機体停止!!』


 一瞬にして薙ぎ払われた十一機。

 正に、死屍累々。


「こんな切り札までっ、備えていたのか……!」


 その中に、シャルロッテの機体は、黒塗りの機体の足元に倒れていた。

 機体を貫いたレーザーは、足をもぎ取り、結果、彼女は地に伏す結果となってしまっていた。


「……不覚っ」


 悔しげに呟いたところで、機体が直るわけもなく。

 無情に、黒の機体が一歩前に出た。

 シャルロッテは、ただ、その機体を睨み付ける。

 憎い相手だ。

 絶対に、倒さねばならない。

 完全に、してやられた形となる。

 既に、シャルロッテ自身に勝ち目はないことだろう。


「だが……」


 もう、一歩前へ。

 今一歩。

 主君のために。主のために。


「最後の一撃くらいはッ!!」


 瞬間、倒れていた機体がばね仕掛けのように立ち上がった。

 そして、剣を振りかぶると、思い切りよく、彼女はそれを振り下ろした。

 何かをする暇すら与えない。

 不意打ち、奇襲、そして、至近距離。

 避けさせない、当たる。

 ――当たった。

 が、しかし。

 その攻撃は、不可視の壁に、阻まれていた。


「障、壁……」


 想定外の反動を受けて、バランスを失った機体が再び背後へと倒れていく。


『自動七重結界。もう一つの切り札、というやつですな。何も通しませぬよ』


 結界の強度は、剣を振るったシャルロッテが一番分かっている。

 小揺るぎも、びくともしなかった。

 本来、攻撃を受けた結界は色が現れるはずなのだ。薄緑や薄紅、もしくは無色から色が付き、攻撃の威力が高いほど色が濃くなっていき、割れる。攻撃の拒絶に起因するものなのだが、この障壁は無色透明。つまり、この障壁にとっては、シャルロッテの一撃は、拒絶するまでもないということ。


「なんという強度か……!」


 呟き、機体が轟音を立てて再び地に伏したその瞬間、SHの走る音が地響きとしてシャルロッテに届く。。


『フリード卿! お覚悟を!!』


 クラリッサの部隊が追いついたのだ。


「気を付けろ! こいつはホーミングレーザーと高強度の障壁を備えている!」

『了解です!』


 そうして、部隊の一機が高速で駆け、すれ違うように黒い機体に切りかかる。


『……え?』


 だが、次の瞬間にはその一機は胴と下半身を分断され、地に伏すこととなった。

 今度は何をしたのか。

 否、特別なことは何もしていない。ただ、敵は剣を抜き、振るっただけだ。


『どれ、障壁もレーザーもなしでお相手しましょう』


 誰も、馬鹿にして、などとは思わなかった。


『使わないでくれるなら、付け込みなさい! いいですね!!』


 応、と低い声が響き、四方から剣を振るい、機体が突っ込んでいく。


『十二分な練度ながら、この程度では負けはせぬよ』


 フリードの機体は遠方に魔術の火球を放ち牽制しながら、先んじて背後を振り向くと、一閃。

 右手の剣で一息に背後と左方にいた機体を切り裂く。

 そして、更にもう一方から迫る機体の突きを絶妙な体制のずれだけで回避し、突き返す。

 それを抜くと同時に、今一度振り返り、前方から迫っていた敵を横薙ぎに。

 仕掛けた人員は、全滅。

 残るのは、クラリッサ、一人。

 そのクラリッサは、唐突に叫んだ。


『行けッ!』


 瞬間、遠巻きから見ていたクラリッサの大剣から雷が放たれる。

 解き放たれた雷は、轟音を立てながら、その巨体をも飲み込んだ。

 クラリッサの、渾身の魔術。彼女に放てる最大のものだろう。先の四人の犠牲による時間稼ぎで生まれた、魔術。

 それは、正に必殺の一撃となるはずだったが。


『……あ、あ』


 ずん、と大きく音が響いた。

 ――無傷。

 それどころか、雷に向かってその機体は歩んで行き――、その瞳を輝かせながら、クラリッサの眼前へと現れた。


「クラリッサ! 逃げろ!!」


 叫んだ瞬間、剣閃が煌く。

 全力で背後に飛び退るように回避行動を取ったクラリッサだが、足を取られた。


『きゃあああ!』


 両足をもぎ取られ、そのまま地に伏す。


『おいおい、マジかよ!! 全滅!?』


 驚きに満ちたアルベールの声が聞こえる。

 シャルロッテは悔しさに歯噛みした。

 相手の機体が凄いだけではない。

 その操縦技術もまた、圧倒的。

 何故なら、誰もまだ、フリードの手によって死んでいないから。

 殺さぬように手加減できるほど、余裕があると言うことだ。


『ま、そろそろ決着も着いている頃でしょう』

「……何?」

『城の背後から、飛行型の魔物を配置しました』

「……な」


 シャルロッテは絶句した。

 やはり、突如通信が途切れたのはそういうことか、と。


『ちっくしょ、お前ら全員でアレやりに行くぞ! 勝てるかわからんが大博打にでも勝たんと状況はひっくり返らねぇらしい!!』

『おっと。これ以上は面倒なので』


 アルベールたちが動き始めた瞬間、フリードの周囲に魔物が集まり始める。

 正に、壁。

 こうなっては、近づけない。

 少しずつ魔物を排除して地道にいくしかないが、そんな余裕はどこにもない。


『おいおい……、万策尽きるかよ……。お前ら、覚悟決めろ。なんとか、隊長陣だけでも助けに行くぞ』

『応!』

『俺らは死ぬかもしんねぇが……、後のこと考えると偉い奴残ってるほうが、まだマシだろ』


 アルベールの声と、部下達の威勢のいい返事が聞こえる。

 それを聞いていることしかできないのが、どうにも悔しかった。


『ふむ……、中々どうして。素晴らしい精兵達だ。ここまでしてまだやる気とは』


 そんなアルベール達に向かってフリードは感嘆の声を上げた。


『しかし。どうにも、できるだけ犠牲は少なくしたい。君達騎士団も、解体し、適材適所で働いてもらいたい』

『そっちから仕掛けといて、随分勝手なこというじゃねーの』

『仕方ありますまい。これは最終テスト。想定より少々は梃子摺りましたが、そこまでです。予定通りテストは終わり、後は事態を収拾するのみ』


 たしかに、まあどう転んでもこうなっただろうとはシャルロッテも思う。


『後は、人との連携を踏まえて組み込まねばなりません。それに際し、有能な人材は幾らでも欲しい』

『ケッ、魔物だけで回してろよ!』

『そうできるほど私は魔物を信用しきれておりませんのでな。この戦いで実践に耐えうるとは分かりましたが』


 フリードの言うことを実現するには、王女を殺さないわけにはいかない。

 たとえ王女を引き摺り下ろしても、旧態依然の状況を好む輩はこぞって彼女を担ぎ上げるだろう。

 もう、王家の血を絶やすしかない。

 そういう、苛烈なやり方をせざるを得ない改革なのだ。

 そうなれば、王女騎士団は絶対に戦う。たとえアマルベルガ本人が戦うなと言おうとも、彼女を守るために。

 結局、結果は一つなのだ。

 王女を守るための王女騎士団ならば、王女がいる限り、全滅するまで戦い続ける。


『隊長格を殺せば、折れてくれるかね』


 フリードは冷たく言い放った。

 その言葉に、嘘はないだろう。

 その程度の覚悟は、向こうにも、こちらにも、ある。

 魔物が、ゆっくりと歩みを進めて、シャルロッテの元にやってきていた。


『くっそ! 撃て!! 届かねぇ奴は急いで向かえ!!』


 アルベールが、次々と弾丸を放っていく。


『ほう、いい精度だ』


 正確に脆い場所を狙って放たれる弾丸は、魔物たちを地に倒していく。

 が。

 なにしろ、数が多すぎた。

 如何に速く、正確であろうと、限界はすぐに訪れる。

 すぐ近くに、足音が聞こえた。

 ブランサンジュとはまた違う、黒い、巨大な猿。

 その手には、ブロードソードが握られていた。


「……そんな芸当も可能、か」


 逆に、感心してしまった。

 死を前に、喚く気も失せてしまっていた。


『……それでは』


 フリードの声が聞こえ、猿がブロードソードを振り上げる。

 がん、と耳障りな音が大きく響く。

 続けて、何度も何度も。果たして、この機体の装甲は後どれくらい持つだろうか。

 警報が消えない。幾度も幾度も、硬質な音が響き渡る。


「……もう駄目か」


 フリードに一矢報いようとした挙動のおかげで、残った関節部にも異常が見られた。

 諦め気味に、シャルロッテは目を閉じる。

 すると、クラリッサの喚くような、シャルロッテを呼ぶ声が聞こえて来た。

 きっと先ほどからずっと呼んでいたのだろう。それに今まで気が付けなかったのは、余裕のなさのせい。


「言うほど、私も冷静ではなかったようだな……」


 そして、呟いて肩の力を抜いた。

 その時だった。

 モニタ越しでも分かる、目蓋越しでも分かる、光の奔流が、彼女の視界を貫いた――。


「……なんだ、これは」


 光の奔流。それはまるで、先ほど、フリードが放ったホーミングレーザーのよう。

 否、それよりも多く、力強く。

 次々と、魔物たちを打ち払って行く。


『シャルロッテ、聞こえる?』

「アマルベルガ様!? 無事だったのですか!!」


 そんな中、不意に王女の声が聞こえてきた。

 突然の通信の回復に、シャルロッテが驚きの声を上げると、それが幻聴ではないことを示すかのように、再び声が聞こえてくる。


『……来ちゃったからね。助っ人が』


 モニタに映る顔は、いつもと違って、表情があった。

 少しだけ困ったように、それでも嬉しそうに、複雑そうに、笑っている。


「助っ人……?」


 見れば、レーダーに一機、反応が増えていた。

 味方の反応。これは。


「――ディステルガイスト!!」

『少し遅れたようだな』


 響いた声は聞き知る声。状況に似合わぬような、落ち着いた声だった。


「……遅いぞ。コテツ」


 空に浮かぶ白黒の機体。ディステルガイスト。

 それは、空から地へと舞い降りると、すぐさま黒い機体へと向かっていく。


『馬鹿な……! いくら絶対数が少ないとはいえ、百ではきかない飛行型の魔物を配備していたはず……! どうやってここに!!』


 驚いたフリードの声を聞いて、シャルロッテは人知れず笑った。

 いい気味だ。コテツ、見せつけてやってくれ、と。


『エースにも、流儀と言うものがある。誰が言い出したのかも知らん不文律だが、その一つだ』


 対するコテツは、冷たい言葉で返した。

 まるで、当然のように、妙なことなど、何もないかのように。


『目障りならば、薙ぎ払え――。それができない者を、俺達はエースと呼ばない』


 刀と剣が噛み合う。

 一歩、黒の機体の足が後ろへと下がった。


『ぬう……!!』


 そうして、コテツとフリードの戦闘が行われる中、アルベールのシャルフ・スマラクトがシャルロッテの元にやってくる。


『クラリッサの嬢ちゃんと、団長、回収してくぜ』


 残った腕に、肩を貸すようにして、アルベールはシャルロッテの機体を持ち上げた。

 横を見れば、似たような感じで、クラリッサも救出されている。

 そして、そのまま後退する。


「……だが、コテツの援護をせねば」

『無駄無駄。どうせ俺らが行ったってしゃあねぇよ』


 シャルロッテの言葉に、有無を言わさずアルベールは後退を続ける。


『それによ。今頃思い知らされてるだろうさ』


 そして、ある程度後退したとき、彼はコテツ達の方、背後へと振り向いて、喉を振るわせた。


『これが噂に聞こえた凄い奴(エース)だってよ――!』









また微妙なところで切れましたが、明日も更新するので許して下さい。

次回で戦闘終結、コテツの見せ場始まります。

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