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異世界エース  作者: 兄二
05,Battle Continue?
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32話 白昼夢


 早朝。

 必要がなくても、習慣がが刻み込まれた体は勝手に目を覚ます。

 コテツは、ベッドの上から身を起こした。


「……朝か」


 当然のように、その部屋には朝日が差し込んでいる。

 そんな中、豪奢な部屋の調度が目に入って、コテツは現状を再確認した。

 ここはイクールの屋敷の一室である。

 と、そこでふと、視界に壁に立てかけられた剣が収まった。

 "この世界においては"何の変哲もないただのロングソード。

 コテツにとって、まるでこの世界を象徴するかのような存在。


(似合わない物を握っているな……)


 ベッドから立ち上がり、軍服に着替えながらも、視線はその剣から外さない。


(こういうのは、エミールの方が似合いそうなものだが)


 心中でそう呟いて、剣の手前にとある男の姿を思い描く。

 元の世界の知人。同じエース。敵の男。エミール・ディー。

 口調も外見も、貴公子と呼ぶに相応しい、剣に誇りを持った金髪の男だった。

 この世界に来るのなら、彼のほうがよっぽど似合っているだろう。

 コテツはそう、考える。


(果たして、今の俺を奴が見たら、なんと言うか……)


 燃え立つようなあの頃の炎は今胸にはなく、ただ、生きる目的を求めて彷徨っている。

 情けない話だとは自分でも、わかっているのだ。


『随分と腑抜けたね。望月虎鉄』


 なんとなく、思い描いたエミールの虚像が、喋った気がした。


(なるほど、奴の言いそうなことだ)

『情けないと思うなら、立ち戻ればいいんじゃないかい? 戦場の最前線に居たあの頃に。雑魚を食い荒らし、エースと鎬を削りあった頃に』


 その虚像は、嫌に魅力的な提案をしてきた。なるほど確かに、それは手っ取り早い。

 こんなところで彷徨っているよりもずっと簡単に答えが出るだろう。


『まだ、燻ってるんだろう?』


 戦場は、戦うことそのものが、生きる事だったから。戦い続けることが生きる目的で、手段で、理由、その全て。

 だが、それはできない提案だ。


(俺の戦争はもう終わった。後はもう残った余生で静かに朽ちていくしかない)


 何かの理由で、目的で誤魔化して、時間を稼いで鈍らになって死ぬ。

 それが理想だ。今のように残った火種も消していって、燻る思いも打ち消して。

 この世界の戦いは、コテツの戦争ではないのだから。


『これしか、知らないくせに?』


 そう言ってエミールの虚像は剣を指差す。


(他の何かを、……知らねばなるまい)


 戦う以外のことを。

 と、そこでふっとエミールの虚像は姿を消した。


『これしか知らないくせに』


 そんな言葉を言い残して。

 まるで、白昼夢だ。


(生霊でも飛ばして来たか……? いや、エミールならやりかねん。洒落にならんな。ただの気の迷いだ)


 誰よりもコテツと戦うことにこだわった男。コテツがこちらの世界に来た後、死んだなどという心配は微塵も浮かばなかった。

 そういう男なのだ。

 だだ、いつものようにコテツは軍服に着替え、身だしなみを整えて、部屋の外へと向かったのだった。














 王宮。アマルベルガは、その長い金髪を靡かせて、凛とした表情で歩いていた。

 その廊下の奥、アマルベルガの見ている向こう側から、一人の男が歩いてくる。


「これは、王女様。今日もお美しい」

「あら、ありがとう。フリード卿」


 初老の男に、にこやかに対応しつつも、アマルベルガは会いたくない人間に会ってしまった、と歯噛みした。

 フリード・エンリッヒ。この国の侯爵だ。

 王都の北に広大な領地を持つ領主。年老いた外見とは裏腹に高い背をまっすぐに伸ばし、年季の篭った白い髪を後ろへと撫で付けたその姿は、正に老獪の雰囲気。

 ……アマルベルガに、エトランジェ不要論を突きつけた男。


「私の上申は、見ていただけましたかな?」


 いけしゃあしゃあと、フリードは笑顔で言ってのけた。

 アマルベルガもまた、笑顔で対応しなければならない。


「ええ。見せてもらったわ」

「それで、いかがですかな?」

「あなたの空挺国防理論は素晴らしいものだと思うわ」


 アマルベルガはまず、核心から外れた場所から切り崩しに掛かることに決めた。

 エトランジェ不要論よりも先に、それに付属していたエトランジェ廃止後の国防策から話に触れていく。


「ただ、それを実行するには時間が足りないのではなくて?」


 空挺国防理論。つまるところ、空挺に飛行型SHを搭載し、可動的に国を守るという話の、青写真。

 確かに、これが成立すれば、全体的に鈍いこの世界の戦闘においては画期的だろう。

 なんせ、その成果を見せたのは、先の敵国、ジルエットの空中戦艦なのだから。

 空中型には空中型でなくては、一兵卒には対抗が難しい。それが突如喉元に食らいついてくるのだから、恐ろしい。

 そして、空挺でなくては行けないような高高度に届くような対空兵器は今の時代、ほとんどないのだ。

 なにせ、SHの武装は騎士と言えば剣が主流。あの状況でジルエットの空中戦艦がどうにかできるような対空兵器があれば、とっくに使っていただろう。

 その空中戦艦を打ち破ったのが、今正に不要論を突きつけられているエトランジェだというのが皮肉だが。


「それに、地上の守りについても、どうするのかしら?」


 アマルベルガはあえて、エトランジェについて直接言及するのは避ける。

 少なくとも、コテツは必要だ。今現状、コテツだけは。

 祖父が傾けた国を、父がどうにか建て直し、アマルベルガが安定させる。

 先代のエトランジェが父と共に戦い平和を勝ち得たように。

 アマルベルガはコテツと共に、この国に安定をもたらさねばならない。


「それらに関しても、考えておりますよ。それらを一挙に解決する術があるのです」


 空挺の製造の期間と費用、そして必要なだけの地上の守り。

 それを解決できる、と言ってフリードは笑った。


「そう、それは是非教えてもらいたいわね」

「はっはっは、そうですな。ただ、いま少し情報を吟味してから、と言ったところでしょうか。王女様に嘘をお教えするわけには行きますまい」


 具体的なことは何も言わなかった、がしかし、アマルベルガにそれ以上追撃することもできなかった。


(上手くかわされたわね……)


 そして。


「それで、エトランジェ不要論に付いては、目を通していただけましたかな?」


 容赦なくこの男は本題へと切り込んだ。


「……ええ。でも、今の段階でコテツは手放せないわ」

「そうですか……、そうでしょうとも」


 張り付いたような、何も読ませない笑み。

 気に食わないが、どうすることもできない。


「さて、それではこれで、失礼させていただきます。その件について、続報がありましたら、お伝えしましょう」


 そう言って、少し挨拶をしただけのような気軽さでフリードは去っていく。

 そんな背を見送って、アマルベルガはただ、呟いた。


「頭が痛いわ……」


 その背は、悠然と歩く王女の姿ではなく、まるで少女のような小ささだった。














 ディステルガイストの姿は些か目立つ。

 この世界の機体群の中にあって異彩を放っているのは確かだった。


「そんな特別な機体が……、穴掘りですか」

「穴掘りじゃない」

「……じゃあ、なんですかご主人様」

「岩を砕く作業だ」

「そのまんまじゃないですか」


 そんなディステルガイストは、全長の半分ほどもある岩の前に立っていた。


「誇りあるアルトのすることじゃないですよう……」


 依頼。それは眼前の岩を破壊すること。

 付近で崖崩れが起こり、その際にこの岩が街道を塞ぎ、それを移動することに成功はしたものの始末に困る、というのが大体の過程。

 安物の作業用SHでは破壊するだけの馬力が得られなかったらしい。


「世の為人のためのお仕事ですね、お師匠さまっ」


 そんな訳で、岩を砕き割ろうというディステルガイストだが、内部には、あざみとコテツのほかに、エリナの姿もあった。

 見学の申し出をコテツが断らなかった結果、いつの間にやら同コクピット内で作業を見守ることとなったのである。

 そして、こういった状況において、エリナはコテツを師と呼ぶことにしたようだ。

 その件についても、コテツがそう認めたわけではないが、断ることもなかった。


「とりあえず、何か使えそうな武装はあるか?」


 岩を見つめながら、コテツはあざみに問う。

 銃撃は銃弾が残って面倒だし、刀は砕くと言うより切るだ。求められているのは砕くほうなので、使えないというか、効率が悪い。。

 それで、なにかあればいいと思ってはいた。思っただけだ。ないならないで拳か蹴りかで砕くしかない、のだが。


「……ありますよ。ええ、ありますよおあつらえ向きなのが」


 ディステルガイストの手元に粒子が集まり、紫電を伴い徐々にそれが姿を現していく。

 それは。

 ――ツルハシ。


「……初代はこの機体で炭鉱夫でもするつもりだったのか」

「あるんですよ。なぜかね! どうしてでしょうね!! 泣きたいです!!」


 いつもより一段テンションの低いコテツと、今にも号泣しそうなあざみ。

 そんな中、エリナだけが感心したようにそのツルハシを眺めていた。


「へぇ……、これがアルトなのですか。便利です……」


 別に嫌味でもなく、というか、ツルハシに向けられたというよりかは、武器の転送に向けられた言葉。


「いや、しかし待て。先ほど転送して呼び出された気がするんだが」

「ええ、呼び出しましたけど?」

「ならば、腰部バインダーの意義はあるのか?」


 ふと、コテツの胸に疑問が浮かぶ。

 こうして、便利に武装を呼び出すシステムがあるのに、腰部二つのバインダーに武装を格納する意味はあるのか、と。


「うーん、めんどくさいので大分省きますけど、私がまあ、乱暴に言えば四次元から武器を取り出すじゃないですか」

「ああ」

「腰部バインダーは3.5次元なんですよ、つまり。使用頻度の高い武器や、次使いそうな武器を待機状態という扱いですぐ出せるように格納しとくんです。直で出すとちょっとラグがありますからね」


 それとサイズ制限があって、大きいものは入りません、と補足してあざみの話は終わった。

 と、すれば間抜けにも世界最高峰のSHでツルハシを振り回すだけだ。

 ディステルガイストがまっすぐにツルハシを構え、そして、振り下ろす。


「あっさりと入ったな」

「そりゃあ、性能は最高峰ですからね! コンセプトはあらゆる状況に対応! 不意の穴掘りにも!!」


 自棄と呼ぶに相応しいぶっきらぼうさであざみは言い、コテツは黙ってツルハシを振り下ろした。

 そして、何度も突き刺すうちに、やがてヒビが生まれ、そして割れる。

 二つに割られた岩を、更に細かく砕き、人の手でも運べるようにしていく。

 数分後、巨岩の姿はそこにはなく、小さな岩がそこかしこに散乱していた。


「こんなものでいいか」


 既に、下では運び出しが始まっている。SHの足元だと言うのに、お構いなしだ。

 現場慣れした人間はいつもこうだ、とコテツは元の世界との共通点を見つけ何とはなしに嘆息した。

 そして、機体を数歩ずらすと片膝立ちの体勢にし、コクピットを開く。

 コテツとあざみが装甲を伝って駆け下りる中、慣れていないエリナは機体に標準装備されたワイヤーロープを使って地面へと降りる。

 結果としては、地面についたコテツとあざみに、エリナが追いついた形となる。


「ご苦労さん、ありがとう」

「いや、仕事だ。問題ない」

「おう、そんじゃ、金はギルドに振り込んであるからな」


 そして、依頼主である、中年の麦藁帽子の男の言葉を受け、コテツ達は歩き出した。

 SHに乗って帰れば早いのは確かなのだが、どうにもコテツはそうしようという気にはなれないでいる。

 小回りは利かせにくいし、腰部バインダーを家屋に引っ掛けかねない。無論、そうならない程度の腕も道の広さもあるのだが、しかしそうやって操縦するのは面倒というものだ。

 飛んでいけばいいとも思うだろうが、しかし、普通、燃費の悪さからSHは飛行型でも飛ぶというのは奥の手だ。

 ディステルガイストのように目立つ機体が街の上を飛行していてはちょっとした騒ぎになりかねない。


「しかし、お師匠さま、意外です」

「む」

「お師匠さまほどの腕なら討伐依頼に出向くかと思ったです」


 そんな言葉に、コテツは少しの思案の後、答えた。


「戦わずに済むならそれに越したことはない。例え死亡率が1%であろうとも、百回戦闘すれば一度は死ぬことになる」

『ウソ吐きめ』


 朝見たエミールの幻影が、そう笑った気がした。













「岩を砕くだけでこの金額か……」


 コテツはギルドを出て、今回手に入った報酬を見つめた。

 銀貨一枚に、銅貨十枚。銀貨が一枚もあれば一週間くらいは暮らしていける。


「冒険者がSHを欲しがる訳だな」


 呟きながら、コテツは手の中の銅貨をポケットの中に入れた。

 その隣に、二人の少女の姿はない。

 一人で散策したい、とコテツは二人を先に帰らせたのだ。

 あざみはなんだかんだと渋りそうに思えたのだが、意外にもあっさりと空気を読んでエリナの家へと帰っていった。

 コテツは、目的もなく歩き続ける。

 ただ、ひたすらに長閑な町並みがそこにはあるだけだ。


(……ここ数年、こうしてぼんやりと街を眺めたことはなかったな)


 正に平和である、と言えた。


(それとも、俺が消えた後の世界もこんな風に変わって行くのか)


 きっと、コテツにそれを見ることは叶わないだろう。文献だろうが伝聞だろうが、エトランジェが元の世界に戻れたと言う話は聞かない。

 しかし、今朝見た幻覚のせいだろうか、この長閑さにコテツは、一抹の疎外感を感じてしまう。

 場違いな気がしてならないのだ。それは、住んでいた世界が違うからか、それとも戦争という、住む世界が違うからか。

 コテツは考える。放っておけば感覚は鈍っていくだろう、と。錆付いて風化してしまえば、この疎外感も消えることだろうと。


「……こんにちは、無表情な人」


 と、そんな時だった。

 コテツに、話しかける人間が一人。


「なにか、用があるのか」


 それは、コテツに負けず劣らず無表情な女だった。

 肩まで届かないくらいのウェーブのかかった髪。そして、コテツを見る感情の篭らない瞳は、まるで眠そうにも、半眼で睨みつけているようにも見える。

 身長はコテツの胸元ほど。服装はドレス、とは言えど、パーティに出るような豪奢なものではなく、申し訳程度に胸元にフリルをあしらっただけの、町娘、と言った風情のドレスだ。

 そんな彼女が、ただ、コテツを見上げていた。


「思ったより」


 果たして、何の意図を持って話しかけてきたのか、未だコテツは量りかねている。

 ただ、道行く人に挨拶しただけと言うのならば、コテツと言うチョイスはあまりに妙だ。

 こんな辛気臭い顔の男に向かって挨拶するくらいなら、もっと別に相手がいると言うものである。


「冴えない」


 そして、その言葉に更にコテツは押し黙った。

 いきなり、駄目出しを行われている。と言うことはコテツにも分かったのだが、それが本当によく分からない。


(俺のコミュニケーション能力が足りないだけか……っ?)


 もしかすると、これが普通で、自分が読み取れていないだけかもしれない、とコテツはその女の顔を覗き見るが、やはりコテツには何の表情も読み取れず。


「不思議」

「君の方が不思議だ」


 思わず、正直に呟いていた。

 すると、その女は不思議そうに首を傾げていた。


「……そう?」

「ああ。それで、何か用か」


 妙なものに絡まれたものだ、とコテツは心中で溜息を吐く。

 自分のコミュニケーション能力では些か手に余る、と判断し、できるだけ早く話を片付けたかったのだが。

 彼女は、つい、と道の向こうを指差した。


「向こうまで、ご一緒」

「……すまない、言っている意味が分からない」

「すこしだけ、話がしたい」


 どうやら、帰り道に同行して話をしたい、らしい、というところまではコテツにも理解できた。

 何故、という疑問に答えは出ないが。


「コテツ・モチヅキ」


 何故、名前を知っている、という言葉はコテツの喉を突いて出ることはなかった。おかしくはないはずだ。

 コテツはエトランジェ。王都にいればその名を知り、顔を見る機会もあったかもしれない。多少の違和感はあれど納得できる。


「君の名前は?」

「必要?」

「どちらでも」


 謎の女というものに、然程興味もなく、若干投げやりに、コテツは言った。

 ただ、名を問うくらいは礼儀だろう、と。

 それをどう取ったか、彼女はぽつりと口にする。


「エスクード。親しい人はソフィアと呼ぶ」

「そうか。ではエスクード。君はなにか俺に言いたいことや聞きたいことでも?」


 ソフィア、と呼ぶ気には到底なれそうもなく、コテツはエスクード、と厳ついイメージのある名を呼んだ。

 どう考えてもコテツと彼女は親しい間柄ではない。


「コテツ。コテツ・モチヅキ。あなたに興味がある」

「そうか。好きにしてくれ」


 エトランジェである以上は好奇の視線やそういったものは否応なしに向けられるだろう。コテツはそう断じ、歩き出した。

 エスクード。彼女もまた、コテツと同じように歩き出した。


「あなたからは覇気が感じられない」

「そうか」


 あんまりな言われようだったが、別段コテツは気にしなかった。むしろ、ここまでくるといっそ清々しい。


「目が死んでる」

「……そうか」


 それほどまでに分かりやすいだろうか、とコテツは屋敷に戻ったら鏡を拝むことを決心した。


「興味深い」

「そうか……?」


 屋敷までの道は然程遠くもない。

 本当に、ちょっとそこまで、の距離であるからして、すぐにコテツは屋敷に着いた。

 別に、建設的な会話もなにもあったものではなかったが。

 そして、コテツが屋敷の門へと足を踏み入れたとき。


「私はその目を知っているから」


 コテツの背中に、彼女は言葉を投げかけた。


「祖父王の目。国を潰しかけた愚王の目」


 コテツは思わず振り向いた、が。

 振り向いた先に既にエスクードの姿はなかった。














 その晩。コテツの元に再び、アマルベルガからの通信が入る。


『コテツ……、あ』


 彼女にしては珍しく、唐突に表情が変わる。

 理由は簡単。通信にでたコテツが半裸だったからだ。彼はいま、その上半身を晒している。


「すまない、少し待ってくれ」


 風呂上りだったコテツは、言いながらかかっていたシャツに袖を通した。

 流石に王女と話すのに寝巻きというのは些か格好がつかないと判断してだ。


「見苦しいものを見せた」

『いえ……、まあ、なんというか。やっぱり、傷だらけなのね』


 戸惑ったような声。嫌悪でも恐怖でもなく、ただの困惑。

 いつも揺らがない彼女にしては珍しい、と思いつつもコテツは答えた。


「機体が大破すればこれくらいの傷はすぐできる」


 機体が大破して早々生きていられるものではないが、もしそうなれば無数の破片が突き刺さり、部品がわざわざ身体を貫いてくれる。

 そして、コテツはこの生涯一度も撃墜されたことがないわけではなかった。それだけの話。


「それで、何か問題でもあったのか?」


 その問いのあと、珍しい、とコテツは三度目の感想を抱いた。

 その返答は彼女にしては珍しく歯切れが悪いものだったから。


「あ……。そう、ね、元気だった?」

「至って健康体だが」


 よくわからないままそのままの返答を返すと、今度はアマルベルガは呆れたように溜息を吐いた。


「質問を変えるわ。そちらは、楽しい?」

「……楽しい、とは?」

「弟子もできたみたいだし、イクールと言えば、活気があるそうよ? あなたの劣化した頬の筋肉も少しは動いたんじゃなくて?」


 皮肉気に問うてくるアマルベルガ。


「それなりだ」


 コテツは無難な答えを選んだ。


「そう……」

「本当に、どうかしたのか?」


 いい加減、真意が読めずに問い詰めてみるも、アマルベルガは首を横に振るだけだ。


「なんでもないわ。それだけよ、じゃあね」


 そう言って、通信は途切れる。

 コテツは、ただ、無表情に首を捻る。

 ことここに至って、妙なことが多い。

 彼女の祖父に付いても聞いてみたかったのだが、聞きそびれてしまった。

 結局彼は、後でもいいか、とベッドに腰掛けたのだった。

少し遅くなってしまいました。

今回は書き溜めてから全体の流れ見直しつつなのでまた遅くなるかもしれません。


しかし、ぽんぽんと場面転換してぶつ切りになってしまったのと、新キャラ出しすぎるとやばいんじゃないですか? ってのが今回の反省点ですね。

書くほどに未熟を実感します。精進しなければ。

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