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異世界エース  作者: 兄二
04,アウト オア インサイド
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30話 宵闇透明

 夜は、静けさを取り戻している。

 地面に降り立ったコテツを真っ先に出迎えたのは、他でもないエリナだった。


「おかえりなさい、コテツっ……」


 そう言って彼女は、笑顔で迎えてくれた。

 対するコテツはやはり無表情のまま、ただ一点を指差した。


「話して来るといい」


 彼女の父の方向へと。


「はいですっ」


 彼女は頷き、そして踵を返し、駆け出す寸前、彼女は一度だけ振り返った。


「コテツ……、ありがとうです」


 それだけ言って、彼女は走り出す。


(エリナはもう、大丈夫だろう)


 コテツはその背中を見送って、静かになった戦場へと目を向けた。

 そこに遅れて、あざみが装甲を伝って降りてくる。


「いやー、それにしても。派手にやりましたね、ご主人様」


 彼女は、鋼鉄が重なり合うようにして転がる戦場に、そのような感想を漏らした。


「しかし……、これを修理するのはどれくらい掛かるんだろうな」


 コテツは、自分でしでかした結果へと、一つの疑問を浮かべた。

 無論、それが誰の責任となるかは定かではないのだが、直接壊したのはコテツだ。

 元々、弁償費が掛かることを考えずに乱入をしたわけではない。

 結局の所、向かってきたのはそちらだと屁理屈で言い逃れすることも不可ではないし、言い逃れできないならできないで、金を稼ぐこと、それもまた当面の目的に丁度いいと考えていた。弁償が目的では些か格好は付かないが。

 しかし、最悪の場合、エリナが言うならば彼女を抱えてどこかへ逃亡することもありえたのだ。そう考えると今となっては弁償費など些細な問題だ。


「んー……、そんなに掛からないんじゃないですかね。ここの機体のほとんどは私でも治せますよ?」


 ただ、あざみの声はあまりに緊張感も深刻さも孕んでいなかった。

 あっけらかんとざっとあたりを見渡してあざみはその台詞を吐いたのだ。


「全体的に綺麗にスパっと切れてるのがいいといいますか。爆発したとかひしゃげたとかはどうにもならないですが、綺麗に断面晒してるなら、機工系魔術の初歩で繋げれますよ。ベテランの冒険者パーティなら一人くらいは機工士位連れてるでしょうし。すぐ修理に取り掛かるんじゃないですか?」


 確かに、流石に人が死ぬと禍根が残ると思い、刀で四肢を狙って仕留めた相手が多い。

 一部銃撃で腕や足をもいだ相手もいるにはいるが。


「まあ、流石にジェネレータをやってしまったらダメですけどね。あれは専門家の芸術品といっても過言ではありませんから」

「ジェネレータは貴重なのか?」


 ジェネレータの概要はコテツもある程度知っている。

 空気中の魔力素を取り込んでエネルギーに変えるのが、SHの基本的なジェネレータだ。

 たとえガス欠に追い込まれても、二日三日放置しておけば、エネルギーが十分なほどには溜まっている。


「ええ。ジェネレータの変換効率に関してはどうしても造った機工士の腕がダイレクトに反映されるんですよ」


 そういうことであれば、ディステルガイストのジェネレータを造ったのは余程腕のいい機工士なのであろう。

 いくら空を飛び回ってもエネルギー切れの兆候を見せることもないそのジェネレータもまた、アルトとノイの違いであると言える。


「なので、ジェネレータだけはどうしても職人芸っていうか、芸術クラスですから。どんなに質が悪くてもハンドメイドですよ」


 ちなみに、急いで補給を行うときは、魔力素を封入した石のようなものを使うらしい。いまだにコテツは使ったことがないが、一応持たされてはいる。オレンジ色に仄かに輝いて見える拳一つ分もない程度の石だ。

 むしろ、これ一つで一機分補給可能だというのだから、コテツとしては恐れ入った。


「便利だな、この世界の機動兵器は」


 これまでの話を聞いて、思わずコテツはそう漏らしていた。

 起動に補給のいらない仕様や、するにしても必要なのが石ころ一つだけという補給の仕方。それに、魔術のサポートによる修理の簡便さ。

 コテツの常識から見れば、かなり便利だ。むしろ、ほとんど機械設備のないこの世界で人型機動兵器を運用するならメンテナンスが楽なのは必要不可欠なのかもしれないが。


「んー、便利ですよー。すっごい。でも、だからこそ買うまでが高いんです。買っちゃえばガソリン代が要りませんし。剣メインで生きてけば弾代かかりませんし。まあ、手入れはしなきゃいけないんで多少の維持費は掛かりますけど」


 確かにそうだろうとコテツは思う。コテツの常識から見れば、魔術で動く機体など、物理法則の埒外で動くなにかだ。


「まあ、ともあれ、話はずれましたが、多分修理費の心配はありませんよ」

「そうか」

「ていうか、ベテラン冒険者と兵士がですね、たった一機に仕掛けて返り討ちになって機体壊れてって、修理費要求どころか、渡そうとしたって受け取りませんよ」


 それがプライドってやつです、とあざみは笑った。

 コテツは頷く以外になかった。むしろ案件が一つ減り、気が楽になったとも言えるわけで。


「お疲れ様でした、コテツさん、おかえりなさい」


 と、そこにリーゼロッテが歩いてくる。


「ああ」

「話、上手く纏まるといいですね」

「そうだな」


 後は、エリナとリヒャルト次第だ、とコテツはエリナの去っていった方を見つめた。

 そして、そのまま数十分の時間が経ち。


「コテツ」


 エリナがコテツの元に戻ってきた。


(どうやら話もついたようだな)


 彼女の顔は、月並みに表現するならば正に憑き物が落ちたような顔で。

 すっきりとした、清々しい表情で。

 彼女は言った。


「私は、エリナは。あなたについて行ってもよいですか?」


 そして。


「――あなたを、師匠と呼んでもよいですか?」


 ただし、その言葉にコテツは固まった。


「……なにがどうなってこうなりました?」


 彼の疑問は代わりにあざみが口に。

 その疑問に、エリナは淀みなく答える。


「私はまずは、自分を磨かないといけないと思うのです。だから、色んなものが見られる王都で修行したいです」


 狼にすら、苦戦してしまったですし、とエリナは笑った。


「そしてコテツ、あなたに色んなことを教えてもらいたいのです」


 そう言って、コテツの瞳を見つめるエリナへと、彼は口を開く。


「俺から教えられるようなことはほとんどないぞ」


 謙遜ではなく、冷静に見た上での本音だ。

 生身での戦闘は勘と動体視力と反射頼り。そして、SHの操縦についてはエースの操縦概念など他人に理解できるわけもない。

 故の言葉だったが、それでもエリナはその目を逸らしはしなかった。


「それでも、いいです。私は、今コテツに教えて欲しいと思っている。これが、自由なんだと思うです。ダメだったら、また、そのとき考えるです。これが――、私の我侭です」


 その瞳はどこまでもまっすぐで。


「嫌なら嫌と、言って欲しいですが、コテツ?」


 少しコテツは考えを改めた。


(少しくらいは、教えられることもある、か? それに、重要なのは王都にはアルやシャルロッテ、クラリッサがいることだ)


 むしろ、講師役なら彼らが適任といえるだろう。シャルロッテやクラリッサは頼んでもやってくれるかどうかは未知数だが、アルベールはコテツの直属だ。いくらでもどうにかなるだろう。

 確かに、王都はエリナの成長にとって、いい環境だろう、と。


(屋敷だと、どうしても甘えが出てしまうことだろうしな)


 そう考えて、コテツは彼女へと答えを出したのだった。


「暇なのでな。付き合おう」















『仕事はどうなったのかしら? コテツ』

「問題ない。多少の事件はあったが恙無く依頼は完了した」


 そうして、夜も完全に更けた頃。

 コテツはリヒャルトの屋敷の一室で遠くのアマルベルガと会話していた。


『そう、それは良かったわ』


 特にすべき事もなく、寝ようかと考え出したところに突如アマルベルガの声が響き、目の前に水色の半透明の板に映ったアマルベルガがいたのだから、コテツ無表情で面食らうこととなった。

 曰く、召喚主故に、コテツとアマルベルガの間には魔力的繋がりがある。それを使えばこうして通信のようなことができるのだそうだ。


『おめでとう』


 皮肉でもなく、アマルベルガは言う。いまひとつ表情には見えないが、普通に祝福するような声音で。


「それを聞きにわざわざこんな真似をしたのか?」

『まあ、そうね。一応有事の際にはこういうことになるって教えておこうとも思ったのだけど』


 どうやら、通信の魔術のお披露目でもあったらしい。確かに、この術は状況によっては余計に驚いてしまうかもしれない。


「それとだが、帰りに、一人人員が増える」


 そんな意図で送られた通信のようだが、丁度いいと言っていいだろう。

 帰ってからエリナを連れてきたと報告するより、先んじて言っておいたほうがいいだろうから。


『どういうこと?』


 怪訝そうに問うアマルベルガに、掻い摘んでコテツは今回の件について説明した。

 事の発端や、当たり障りないエリナやその周辺人物のこと。

 それと、結末。


「――と、いうことだ」


 その事実を聞くなり、アマルベルガは口を開いた。


『なるほどね。部屋を用意しておくわ。言っておいて』

「む、いや、向こうである程度はどうにかするだろう」


 あっさりと城に住まわせる方向に持っていったアマルベルガにコテツは言うが、彼女は取り合わなかった。


『いえ、こちらにも考えがあると思ってちょうだい。まあ詳しいことは後で話させて』


 そう言われてはコテツに反論しようもない。

 政治そのものにはとんと無縁であったのだから、口を出せない領域だ。


「わかった、すまない」


 ただ、普通に行って帰ってくるだけの仕事が、一人人間を増やして帰ってくることになった件については多少の負い目を感じている。


『いいえ、気にしないで。誰かの悩みを解決できたなら、それは素敵なことよ。あなたにとってもね』

「……そうか」


 いつもより若干優しげに、アマルベルガは言った。

 と、その時、部屋にノックの音が鳴り響く。

 アマルベルガは、それを聞いて会話を切り上げた。


『誰か来たみたいね。じゃあ、私はこれで失礼するわ』

「ああ。それと、帰りは少しこちらに滞在してからになる」

『そう。無事の帰りを待ってるわ』


 ぷつりと音声が途切れ、半透明の板も左右から狭まりやがて線になって消えた。


「入ってくれ」


 そして、コテツの声が響くと同時、入ってきたのはエリナ。


「こんな夜更けに、どうしたんだ?」


 妙だと思って聞くコテツに、少し恥ずかしげにエリナは言う。


「なんだか、今日はいろんなことがありすぎて、眠れない、です」


 確かに無理からぬことかもしれない、とコテツは納得した。

 人生の方向性が決まる瀬戸際だったのだから。


「その、すこしお話いいですか?」

「構わないが」


 夜に男の部屋を訪ねるのはあまりよろしいこととは思えなかったが、コテツには彼女に襲い掛かる気概はないので、結局その提案を受け入れた。


「あ、ところで、誰かと話してたですか? 話し声が少しもれてたですが」

「ああ、少し通信のようなものをな」

「そうなのですか。……ああ、そういえば」

「なんだ?」

「お父様からは、なにか言われたです?」

「娘を頼む、とだけな」


 他にリヒャルトは何も言わなかった。


「そうですか……」


 と、そこでエリナは一旦言葉を止める。

 なにか思うところがある様子で、コテツには何も言えなかった。

 そして、しばらくの間を空けてから、エリナはもう一度口を開く。


「コテツには、感謝しても、しきれないです。あ、明日からはお師匠様ですね」

「俺が勝手に始めたことだ」


 別にコテツに助けるだとか、救うだとかそういった考えがあったわけではない。

 自分すらまともに救えないコテツは、困っているところを助ける程度ならまだしも、人生レベルで人を救おうとは思わない。

 ただ、コテツがこの世界で生きるに当たって避けられないものに突き当たったから立ち向かっただけだ。


「それでも、ありがとうです。コテツ」


 だが、そう言ってエリナは笑う。


「コテツは、どれくらいこの街にいるですか?」

「出発は、四日位後になりそうだな」


 見て帰るだけの観光気分なら、一日もあれば十分なのだろうが、コテツがしたいのは観察だ。

 場合によってはこの街のギルドの軽い依頼を受けてみようかとも思っている。

 故に四日。状況によっては更に伸びるだろうが。

 その言葉を聞いて、エリナは更に表情を綻ばせた。


「じゃあ、明日は街を案内するですね? この街の、いろんなことを、コテツに教えるです」

「ああ、頼む」

「コテツに、この街を案内できること、嬉しく思うです。本当に」


 エリナは、コテツが先日街を案内してくれないかと聞いたことを律儀に覚えていてくれたようで。


「なら、今日は寝ることだ。起きていなかったら、勝手に散策するからな」

「うー……、そうですね……。でも、眠くなるまでお話させてください」


 そう言ってコテツを見上げるエリナ。コテツは呆れ気味だったが、結局断らなかった。


「まあ、付き合おう」


 対するエリナは、その笑みを少し悪戯っぽく変えて。


「暇だから、ですか――?」

「……まあ、そうだな」


 少し参ったように、コテツは答えたのだった。



よし、これで05終了です。

恒例と化した終了時の王女への報告がここに来て未だありましたが、こいつは早く王女について掘り下げたいとか考えてるせいですね。


しかし、今気になっているのですが、一話この文量で問題ないですかね?

長いとか短いとか、短くして更新スパンを短くしてくれると嬉しいとか、むしろ一章分一気に更新してくれとか、思うところがあれば言って下さると嬉しいです。

まあ、流石に一章分一気にとかなるとかなり間が空いてしまう予感がしますが。


それと、毎度毎度誤字が多くてすみません。

指摘くれる方、本当に助かっております。こちらも更に推敲しないといけませんね。

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