29話 Standby Lady?
それは、唐突に現れた。
高速の飛翔。
『スピーカー接続完了。ついでにオープンで通信も。いつでも行けますよー』
『了解、では、斬る』
その滑空から放たれた細身の曲刀の一撃が。
睨み合っていた兵士の機体の一機を、いとも簡単に切り裂いた――。
『各員に通達する。俺は、エリナに付く』
その白黒の機体は、コテツの声で、喋っていた。
遠巻きから戦場を見守るエリナは、あれにコテツが乗っているのだ、と悟る。
『コテツ……、あなた……!!』
そんなコテツの乱入は、ルーの驚きによって迎え入れられた。
そして次には彼女の声に喜色が滲む。
『そう! やっぱりね、その機体をどっから出したのか気になるけど、まあ良いわ、即席で良いからうちの面子と連携して!』
敵の戦力低下、新たな味方の参入によって冒険者の士気が上がり、ルーは勝利を確信したようだった。
それは他の冒険者も似た空気で、波に乗ろうとするように彼らは前に出る。
だが、そんな中。
『邪魔だ』
戦場は凍りついた。
何故。
エリナの心中にそんな言葉が浮かぶ。
「コテツっ!?」
何故彼は――。
冒険者の機体の四肢を、切り落としたというのか。
『何やってるの!? それは味方よ!?』
悲鳴にも似た声を上げるルーに返ったのは、しかし、冷静な声音だった。
『いや、これでいい』
次の瞬間。
ディステルガイストがぶれて消えた。少なくともエリナの目にはそう映った。
そして。
また、機体が四肢を失っている。
今度は、兵士と、冒険者の機体の両方が。
『俺は君たちのどちらかに付くといった覚えはない』
冒険者達も、兵士達もそれからの立ち直りは速かった。
流石にベテランと言うべきか、すぐさまコテツを敵と認定し、数機が飛び掛っていく。
『エリナ、聞こえているのだろう?』
だが。
それら全てはあっさりと弾き返された。飛び掛っていったのとまるで逆、時を戻したかのように弾き飛ばされる。
そこには、悠然と立つモノクロの機体。
その相貌が、じっとエリナを見ていた。
『俺は、君の味方だ――』
「コテ、ツ……」
その言葉は、冷たいくせに優しくて、何故だか、涙が零れ落ちた。
『敵は手練れよ!! 隊列を組んで! 屋敷側の人員は放っておきなさい!』
『十分に注意せよ! 大型魔獣時の隊列を組め! 相手は危険だっ、冒険者達のことは捨て置いていい、向こうもそれどころではないだろう!』
双方陣営の長の檄が飛ぶ。
弾き飛ばされただけの機体たちは立て直され、いったん下がると固まるようにして、隊列を組んだ。
『やれ!!』
両陣営の攻撃の合図が重なる。
流石によく訓練されているようで、即座に砲撃と火球の魔術が飛来した。
「エリナ、聞いているか?」
コテツは、機体を操作し、ブーストを吹かしながら大きく横へとずれる様に移動する。
『近接攻撃! 行きなさい!』
移動した先に敵機が現れ、今にも剣を振り下ろさんとするが、コテツは機体を空中へと舞い上がらせた。
そして、宙返りしながら敵機後方に着地。
「君は聞いたな。どちらが幸せな道か、と!」
『決まっている、領主となり、民を導くことこそが一番の正道!』
『冒険者だわ! 望まぬ領主よりも自由な渡り鳥であるべきよ!』
そして、飛び越えた敵機の背中に蹴りを放つ。
回避行動は間に合わせない。
吹き飛ぶ機体を見送り、すぐさま刀をハンドガンに持ち替えると、ルーとクラウスの機体へと牽制をして、彼らへの答えとする。
彼らは、銃弾を飛び退るようにしてかわす。
「そのことに関して、君に一つだけ言えることがある……!」
ルーとクラウスの回避行動、それだけを確認し、別の機体へとディステルガイストは低空を飛翔する。
その勢いに下がりながら逃げようとする敵機。
牽制に放たれる弾丸を右へ左へと避け、コテツは両手に持った銃の弾丸を放っていく。
連続して当たる銃弾は、やがて腕をもぎ。
すれ違ったその瞬間、低めに出された蹴りが足を破壊する。
「一体何が幸せなのか」
戦いながらも、コテツはエリナへと語りかけた。
リヒャルトとの会話で得た、一つの答え。
いや、答えにもなっていないかもしれないそれを、それでもコテツはエリナへと伝えようと思った。
「そんなものは、君が決めろ!」
いつの間にか持ち替えられた刀が、また一機を切り裂いていく。
『え……?』
遠巻きのエリナの声が、コクピットに響く。たとえ距離があってもディステルガイストはその声を拾ってくれるようだ。
「どちらが幸せな道なのかじゃない。君にとって何が幸せなのか、それは君自身が考えろっ」
『弾幕を張れ! 増援が来るまで時間を稼ぐんだ!!』
『こっちもよ! 兵士を囮に生存優先で戦いなさい!!』
張られる弾幕の雨をディステルガイストは縦横無尽に避けながら飛翔していく。
(結局幸せとは、本人の主観に過ぎない。決めるのは、エリナでしかない)
そして、高高度から落下しながらの斬撃。
「君の幸せは、君にしか決められない……!」
着地と同時に再び跳躍。先ほどまでいた地面を弾丸が穿つ。
『私は……、でも……!』
モニタの隅に、ズームされたエリナが映っている。その顔には、未だ迷いが見えた。
コテツは、その顔に思ったのだ。本当にエリナは冒険者になりたいのかと。迷いを持ってして、幸せになれるのかと。
彼女に手渡された二択。そのどちらもが、幸せではない道なのではあるまいかと。
だから、本当の彼女の答えを聞きたいと思ったのだ。
きっとリヒャルトならば、その幸せを、応援してくれるだろうから。
「君は言ったな。自由になりたいと。ならばこれのどこが自由だ。冒険者になるか、父の跡を継ぐか。一体これのどこが自由だというんだ……!」
答えを待つために、時間を稼ぐために、コテツは戦闘を続ける。
大人が勝手に、結論を出してしまわぬように。
エリナの答えを待つために。
「自由が欲しいなら君が決めろ! どちらかではない幸せを、そして、君がもし何を選んだとしても。俺は君の決意を推す……!」
『私は……!!』
エリナは、コテツへと声を上げた。泣きそうな声で。
『いいんですか……っ、わがままを、許してくれるのですかっ……!』
コテツは、顔色一つ変えずに、あっさりと返した。
「暇なのでな。どこまでも付き合おう」
自分にしてみれば皮肉気な言葉であるが、それもいいかとコテツは心中だけで苦笑する。
目的もなくふらふらしているコテツもまた、自由なのだ。
だから、涼しい顔でコテツは弾幕を避け続けた。
コテツが戦場に来て、エリナに付くといったとき。
エリナは嬉しくもあり、悲しくもあった。
不器用な彼が、結局自分を選んでくれたことは嬉しかった。やはり優しいと、笑顔になってしまいそうだった。
だが、しかし、彼の助力で首尾よくこれが成功してしまったなら。
二度とエリナは、彼に会えないだろう。それは、寂しい。
だが。
コテツはエリナの味方だ、と言った。
他の誰でもなく、エリナの味方だと言ってくれたのだ。
周囲は、そう、発端はエリナだったのかもしれない。
だが、もう状況はエリナの手を離れていた。
止めようと言っても、ルーは止まってくれはしなかった。
これがあなたにとっての幸せだと言って聞かなかった。
それに対抗するように、兵士達も熱くなっていき、結局、エリナの意思はどこにあるのかわからない状況だったのだ。
ある種、寂しかったとも言える。
だが、コテツはエリナの味方だと言ってくれたのだ。
「私は……!」
だから、エリナは考える。
果たして自分の幸せとは。
ふと、彼女は昔のことを思い出した。
彼女は、自分の父に向かって昔、自分の口から冒険者になってみたいという言葉を口にしたことがある。
――おとうさま、わたし、おおきくなったらぼうけんしてみたいのです!
父は、応援してくれると言った。それが、なんだか嬉しかった記憶がある。
だけど、その言葉は。
その言葉は――。
「私は、この街が好きです……!! 私は、私はお父様の跡を継ぎたくないわけでも、冒険者になりたいわけでもないのですっ!!」
決して、家を出たいという意味なんかじゃなかったのだ。
「私は自分で何も手に入れてこなくてっ……、何も持ってなくて……! こんなのじゃ、伯爵どころか、誰にも胸を張れなくて……!」
ただ、誇りが欲しかった。何をしても、誰を前にして胸を張れるだけの誇りが。
それが無いと、安心して大人になれないから。誰にも胸を張れないから。
「私の……、私の幸せは……!!」
これから口にする願いはあまりに都合がいい願いだ。
だから、今まで口に出さなかったし、出すつもりもなかった。
でも、たった一人、味方がいてくれるなら、言える。
自分の願い。
他の誰でもない、自分が決めた幸せ。
口に出したら最後。後戻りは出来ないだろう。その願望を口にした瞬間、それ以外の道を考えられなくなってしまうだろう。
その願いはあまりに魅力的だから。
状況が。そして、戦い続ける白黒の機体の背が、告げていた。
――さあ、覚悟はいいか?
エリナは叫ぶ。喉が枯れそうなほどに。
「私は……、私が胸を張れるようになったその時に、この街に帰ってきたいですっ!! 例え都合の良い考えだと笑われても、私は――!!」
酷く都合のいい願い。酷く我侭な願望。
『エリナ』
喉が枯れそうなほどに叫ぶエリナへと、コテツは呼びかけ、彼女は言葉を止めた。
その声は冷たくて。その割りに優しくて。
その声は静謐なくせに、とても力強かった。
『――後は任せろ』
エリナは、その言葉に、何か返さなければと思って、良い言葉が思い浮かばなくて。
結局エリナは。
涙の跡を隠しもせずに、笑顔を返した。
「はいです!!」
戦場には既に、三機のSHしか残ってはいなかった。
コテツと、ルーとクラウス。たったそれだけ。
『エリナ! 貴族になんかなったってろくなことにならないわ!! 国外で冒険者になるのがエリナのためよ!』
「エリナのため? 違うな、それは君の理想だろう」
『違うわ! エリナにとって自由こそが幸せなの!! そのためには冒険者が一番だわ!!』
「それは君にとっての幸せだ。君が手を引き、彼女を導く、それは本当に彼女の幸せか?」
『わかってない! 貴族はね、結婚相手すら決められないのよ。恋愛の自由もないの!』
「それを含めて、エリナが決めることだろう」
刀と、大振りなナイフが、激しく打ち合う。
背後から、クラウスの魔術の火球が迫る。
『伯爵になる方が、無難な道だ。少なくとも私は今でもそう思っている!』
すぐさま飛び退って、ハンドガンに持ち替え、銃撃を放つ。
が、すぐにルーが背後から襲い掛かる。
それに、牽制の回し蹴りを放ちながら、コテツは両機から距離を取る。
「間違っているとは言わない」
結局、コテツには彼らを否定できるだけの年月の積み重ねはない。
エリナへの思いも、真剣さも彼らには負けるだろう。
だが。
「だが、生憎俺はエリナの味方でな」
それでも引かない。
「あざみ」
「はいはいなんでございましょう」
「中距離から近距離に対応する武装はあるか」
その問いに、あざみはいつものように笑いながら応えてくれた。
「はいはい、こんなのはどうでしょう」
腰部スラスターがスライドし、内部から二丁の銃が現れる。
いつも使用しているハンドガンよりも細身で長い印象を受けるそれの最大の特徴は。
――砲身に、銃剣状に鎌の刃が付いていることだ。
「ディステルガイストのテーマのひとつはあらゆるケースに全適応。それ故に、こんな微妙な武器もございます。他にもっと使いやすいのもありますけど、とりあえずこれ使ってみます?」
迷わずコテツは、その銃を引き抜いた。
『Change Arms』
機械音声が響くと同時、光の粒子が両手に持つ銃のグリップから収束し、二つの銃を繋ぐ鎖が形成される。
「鎖鎌か。いいだろう――!」
コテツはそう、こともなげに言ってのけたのだった。
『ええい、ここは協力するわよクラウス!』
『わかった、私もそれがいいと思う!』
再びルーが格闘戦を挑んでくる。
上から振り下ろされた剣を銃の鎌部分で受け流し、もう片方の手の鎖鎌で銃弾をクラウスの元へと放つ。
彼の機体の前方にあった待機状態の火球が消え、クラウスの機体は跳ねるように移動する。
(……そんな簡単に使いこなせるもんなんですかねぇ、鎖鎌って)
そんなことを思いながら、あざみはコテツを見つめていた。
移動しているクラウスの機体の腕へと、鎖鎌が投擲され、巻きつく。
動きを制限されたクラウスへ、容赦ない銃撃。
そして、巻きつきが解除され、手元に鎖鎌が戻ってきたと同時、すぐさま背後へと振り向き、銃撃。
飛び掛ろうとしていたルーの機体がそれを中断し、避けるように走り出す。
そして、その前方へと、コテツは鎖鎌を投擲した。
『なっ!?』
それはルー機に当たることはなく地面に突き刺さり。
機体の足に鎖を引っ掛けることに、成功した。
転倒。それに目もくれずコテツは鎖鎌を引き戻しながら背後を振り返る。
「……そこか」
どうやら、クラウスは後衛に徹するようで、いくつもの火球をコテツへと放ってきている。
数を重視した、小さな球。それが幾つも迫ってきていた。
『これだけ放てばいくらかは!!』
迫る火球に対し、コテツは鎖部分を掴むと、そのまま振り回す。
「数で押されるならエースなどやっていない」
円を描くようにして回転するそれが、轟音を立てて空気を切り裂く鎖と鎌が火球を掻き消す――!
「そこだ……!」
そして再び投げられる鎖鎌。じゃらじゃらと音を立てて伸びていく鎖。
今度は機体の胴体に当たる。
致命傷にはならず、装甲に弾かれるが十分だった。少しでも体勢を崩せれば。
『ぐあ!?』
「対応が遅い」
踏み込み、そして鎌を振るう。
鎌が、強引にその片腕をもぎ取っていく。
『このっ!』
「奇襲にしてはお粗末だ」
そこで、背後から迫ってきたのは投げナイフ。
こともなく、首をそらして避ければ、そのナイフはクラウスの機体に弾かれることとなった。
(なんというか……、楽しそうですねぇ)
思いつつ、コテツの背後であざみは苦笑した。
やはり、こうしているときが、一番コテツは生き生きとしている。
他に何も知らないからか、それとも付き合いが長いからか。まるでSHを動かすことを生き甲斐としているかのようでもあった。
今も尚、幾通りもの機体と武器の運用の思考が、機体を通して流れ込んでくる。
あざみは、苦笑半分、安心半分でそれを見守っていた。
まだ自分には、コテツへと渡せるものがあることへの安堵。ディステルガイストにはまだまだこのような武装が積まれている。
(きっとご主人様を満足させて見せますよ……!)
鎖の伸縮自在である鎖鎌。ハンドガンよりも威力は低く、刃もさほど威力が高いわけでもない。そんな武装であるのにも関わらず敵を圧倒するコテツならば、きっと搭載された武装も使いこなせることだろう。
振るわれる鎌は、まるで体の延長のように自在に動いて時には敵の動きを阻害し、時に攻撃し、時に防御に利用されている。
だが、そんな中、遂に。
ルー機がコテツの懐に入り込んだ。
神速の踏み込み。コテツがクラウスへと銃を向けた一瞬の出来事だった。
『いい加減に、落ちろって言うのよぉおお!!』
屈みこむような姿勢。そこから放たれる渾身のナイフ。
その軌道は正確で、当たればディステルガイストに痛痒を与えることは間違いない。
当たれば、だが。
「……もう遅いぞ」
いとも簡単に、ディステルガイストはルーの機体の横をすり抜けていた。
避けれないはずのナイフを避けれたからくりは簡単。
絡まっていたのだ。その腕に、その鎖が。
その鎖が腕の軌道を逸らし、回避を可能にしていた。
『機体の操作が……!』
瞬間。
『え、きゃああ!!』
すれ違った勢いのまま、コテツは鎌を引くと、絡んだ鎖でルーの機体は上方へと打ち上がった。
果たして、ルー、彼女は、自分の状況を理解できていたのだろうか。
あざみにはわからない。
ただ、機体は真っ逆さまに落下して。
その機体の瞳とディステルガイストの赤く光る双眸が重なったその瞬間。
「もう手遅れだ」
鈍く光る刃が煌いた――。
「ルー!!」
クラウスは、コクピットで今までにない戦慄を覚えていた。
自分たちも、そして、相手になるはずだった冒険者達も、ベテランだったはずなのだ。
だがしかし、今となってはクラウス以外に戦えるものはいない。
「……そうか、私一人になってしまったか」
呟いて、クラウスは腰にマウントされたランスを引き抜いた。
右腕はもうないので左腕だけでクラウスはそれを構えると、すぐさまコテツの元へと走り出した。
覚悟を決めた。もう諦めて、槍を置いてしまっても良かったのだ。
だが、しかし、クラウスはランスを手に取った。
今更、自分だけがここで抜ける訳には行かない。
(ならばせめて……!! 私も派手に散ろう! あなたはその手でお嬢様に絡んだ鎖を砕けばいい!!)
ここまで来たならばいっそすべて壊してしまったほうが清々しいだろう、と。
あの白黒が、最期に残った自分を、大切なお嬢様を縛るすべてを壊してしまえばいい、と。
ただがむしゃらに走る。
口からは雄たけびが漏れていた。
「ぉおおおおお!!」
走る、走る!
彼我の距離は中々に遠い。
クラウスは、右へ左へと走りつつ、牽制の銃弾を避けていく。
何故だか、時間が緩慢に見える。
銃弾も酷く鈍い。そんな時の中を、クラウスだけが加速していた。
「貫くッ!!」
ぐいぐいと、クラウスはその距離を縮めていく。
『させるつもりはない……っ』
そして、あと少しと言ったところで、鎖鎌がクラウスの元へと飛んできていた。
当たるか、当たらないか、その瀬戸際。
当たれば致命傷であることは、誰よりクラウス自身が想像できた。
致命的破壊を受けるのではない。
右腕を失い、機体のバランスが良くない今、この速度での突撃時にそれだけの衝撃を受けようものなら、機体は横転し、その衝撃によって損傷が生まれ、それが致命傷となる。
だが、しかし、これを避ければコテツに今一度鎌を引き戻して放つような間はない。
そして、鎖鎌の銃撃くらいならば、なんとか耐えられることだろう。
つまり、この鎖鎌の一撃がすべてを決めるといって過言ではない。そんな一瞬だった。
そんな一瞬において、クラウスは、避けて勝つか、当てられて負けるかしか考えられなかった。
他の全てが頭から抜け落ちて、純粋に勝ちたいという想いだけが機体を動かしていく。
「避けろ……、避けろ……、避けろよぉおおおおおおおお!!」
迫る鎖鎌。致命的な死神の鎌。
その攻撃を、――クラウスはかわしていた。
口には自然と笑みが浮かんでいた。強敵との戦いの末に浮かぶ、満足の笑みだ。
そう、これで勝った。このままランスで突撃して、地面に引きずり倒してみせる。
そこから、止めを刺す。。
そのはずだった。
銃声と、謎の金属音が鳴るそのときまでは。
『取った』
銃声、金属音。それは投げた鎖鎌に弾丸が当たった音である。
そう、もう一方の手に残っていた鎖鎌の銃撃は、何故か鎖鎌の柄に当たっていたのだ。
ただのミスか、と考えるクラウスだったが。
すぐにそれは勘違いだと知れた。
何故なら。
撃たれて軌道修正された鎖鎌と鎖が。
「鎖が……ッ!!」
機体の左腕に巻きついている――!
やられた。そう思ったときにはもう遅い。
死神が、その左腕を掴んでいる。
遠くで、白黒の機体が、ぶん、と大きく手を引いたのが見えた。
そして、急激な重圧が掛かる感覚。
加速していた思考は対比して極端に鈍くなり。
機体が浮いて、コテツの機体の元へと高速で引っ張られていく。
「ぬ……、ぉ、お……!」
そして、クラウスが目を見開いたその瞬間には。
『覚悟はいいか――』
「……私の負けか」
目前に、拳だけが存在していた。
夜は、静かだ。
コテツは、機体に膝を付かせると、エリナの前へと降り立った。
そして、ただ一つの方向を指差して言う。
「行って来い」
その方向は、リヒャルトがいる方向。
誰でもない、彼女の父親がいる、その方向へ。
「おかえりなさいです、コテツ」
エリナは、そんなコテツを見て。
「そして、ありがとう」
彼女は微笑んだ。
そうして、父の元へと歩き出した彼女を見送り、コテツは息を吐いた。
「……とんだ依頼だ」
続いて降りてきたあざみが、その隣で苦笑していた。