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異世界エース  作者: 兄二
04,アウト オア インサイド
28/195

24話 ストレンジスタート





 大剣と刀が打ち合う。

 甲高い音を立てて、今日も二機のSHが荒野を駆ける。

 片方は、赤く、大剣をその手に握る、クラリッサのシュティールフランメ。

 そして、今までと違ったのは、コテツの乗機。

 刀で打ち合うその姿は青ではなく、白と黒。


『本当にっ……! 強いん……、ですね!』


 今までの訓練では考えられないほど、余裕のない声を上げるクラリッサ。

 手続きを済ませ、ディステルガイストを駆って戦いを繰り広げるコテツは、眉一つ動かさずに対応していた。


「機体のおかげだ」

『出力を下げて相手をしておきながらそれって嫌味ですか!』

「愛の結晶ですよ、私とご主人様の」

「思い通りに機体が動くのなら、性能の問題はある程度無視できる」


 あざみの言葉を無視して、コテツは呟いた。

 思い通りに動く機体は、何一つ、ただの一度も直撃を許さない。

 振り下ろされる刃を刀で受け流し、流しきった後、そのままシュティールフランメへと刀を振るう。

 クラリッサは、後ろへ跳んで、それをかわした。

 ディステルガイストは、何の文句も言わず、コテツの思い通りに動いている。

 ――操縦系統。

 コテツがこの世界の機体に対し悩まざるを得ないファクターの一つだ。

 果たして、何がどのように悪いのか、と言われればコテツはこう答える。

 大雑把過ぎる、と。

 目盛りの少ない定規のようなものだ。ディステルガイストが先ほど行った大剣を受け流す動作も、絶妙な角度と力で受け止めることによって成立する。

 だが、アインスではそうはいかない。四十二度で受け止めるべき手首の角度が、五度刻みでしか受けられず、四十五度ないし、四十度で受け止めてしまう。

 些細な違いであっても、エースの操縦は常軌を逸した繊細さを持つ。致命的なのだ。

 しかし、大雑把であることは、悪いことでもない。

 大雑把と簡単であることは、概ね似ている。つまり、操縦が簡単である。

 更に、機体の反応に微妙なラグがあるということも、微細な違いだが、初心者が焦らずにすむ。


「まあ、アインスでの訓練も続けることになるだろうが」

「ご、ご主人様の浮気モノ!」


 対するディステルガイストの操作性だが、非常に繊細で、感度が良い。

 逆に言えば、少しの誤差が操作ミスになる。

 だが、パイロットの操縦をそのまま現実に起こすことのできるこの機体であれば。


『行きます!』


 振り下ろされんとする大剣、振りあがる腕。

 その腕の下へと姿勢低く入り込み、そして、真上へ蹴りを放ち、大剣を弾き飛ばす。


『なっ!』


 そのまま、蹴りの勢いで飛び上がったディステルガイストが更にもう一方の足で、シュティールフランメに回し蹴りを放つ。

 こんな芸当も、可能だ。


「……仕留めたと思ったが」

『舐めないで頂きたいですね、コテツ。私も以前のままではないということです』


 ただし、完全に崩れた体勢へと叩き込まれた足は、シュティールフランメへダメージを与えることはなく。

 半透明の、薄い緑の板に、阻まれている。


「防壁魔術、という奴か」

『先の盗賊への無様な敗北からも、得るものはあったという事です。避ける、ないしは大剣で防げばいいというのが持論でしたが、もしもの盾は必要です。手に持たなくていいなら尚更良い』

「無様でもあるまい。君が生きて、二の轍は踏むまいと思っている以上は、君は負け犬ではない」

『そうですか……、では死んで負け犬になるわけには行きませんねっ』


 半透明の板が割れると同時、クラリッサは大きく後ろへ飛び退いた。

 再開された回し蹴りが空を切る。

 そして、シュティールフランメは、落下してきていた大剣を掴むと、油断なくそれを構えた。

 対峙する二機。


『そう言えば貴方は、今度依頼に出るそうですが』

「ああ」


 依頼。予定通り、貴族の護衛だ。

 娘と共に、王都の舞踏会に参加し、しばらく滞在していたそうだが、帰りの荷物が増えたと同時、馬車も増えて護衛が足りなくなったそうだ。

 ということで、自分の領地まで一週間ほど、護衛を増やすことになった。コテツは、その中の一人として既に登録されている。


『どれくらい?』

「片道一週間。着いた街も少し見るべきだと思っているから、大体二週間ほどになるか」

『……そう、長いですね。しかし、大丈夫なのですか? コテツ。初めての旅にそのような長い依頼を選んで』


 振るわれる大剣を次々といなし、逆に押し返しながらコテツは答える。


「一人で行くわけではない、問題ではないだろう」

『そうですか。ところで、出発は?』

「明日だ」

『……早いですね、コテツ。……まあ、せいぜい頑張りなさい』

「そうさせて貰おう」


 瞬間、コテツの刀が、クラリッサの大剣を再び弾き飛ばす。

 地面に突き刺さった刃が、鈍く、光を放っていた。









◆◆◆◆◆◆









 翌日。

 コテツは王都の外、門の前に立っていた。


「貴方が、依頼を受けてくださる追加の冒険者の方ですかな?」

「ああ」


 発車を待つ馬車が四と、冒険者と、依頼主直属の兵士の姿がいくらか見える。

 そんな中、コテツの前に立つのは白髪交じりの背の高い紳士だった。


「……ふむ、大丈夫ですかな? まあ、さほど危険な旅路になるわけではないのですが……」


 言いつつ、紳士、依頼主である、リヒャルト・イクールはコテツ達を一瞥して、言葉を濁す。

 コテツ、あざみ、リーゼロッテと、女性の多い面子を心配してのことかと思われるのだが、そんな視線に、言葉を返したのはコテツではなく、あざみだった。


「大丈夫ですよっ。ご主人様はエトランジェなのですから! そして、私も魔術が使えますし、リーゼロッテ……、そこの彼女もまた、亜人の身体能力を持っています」


 果たしてそう簡単にエトランジェであることを公言していいのか、迷っていたコテツだが、あざみの態度を見るに問題ないらしい。

 まあ、確かにエトランジェとして名前を売るべきなのだから、当たり前なのだが。

 しかし、そのあざみの言葉によって、リヒャルトはコテツ達を見る視線を変えた。


「確かに、ギルドの紹介ではコテツ・モチヅキとありましたが、これが、今代の……! ……最優の名を継ぐに相応しい方なのですかな?」


 最優の名。コテツには理解できないワードが、驚愕気味のリヒャルトの口から語られる。

 が、あざみもリーゼロッテも表情を変えないことを見るに、どうやら広く知れた単語らしい。

 だから、コテツもこの場で反応することもなく、ただ、話が進むのを待った。


「ご主人様なら、最優よりも、最強の方が素質があるでしょうね。ええ、私を使いこなせる以上はそれくらいになって貰わないと困りますんで」

「ほほう、それは頼もしい限りで……」


 あざみの言葉に、リヒャルトはそう言って笑みを見せた。コテツは話に入っていけず黙っているし、リーゼロッテもまた、傍に控えているだけだ。


「では、よろしくお願いいたしますよ、エトランジェ殿。ああ、それとこれは、個人的なお願いなのですが」

「なにか?」


 笑顔で、あざみが応対する。コテツは既に口を開くことを諦めた。

 自分が下手なことを言うよりも、あざみが対応したほうが確実であるとの判断だ。


「どうやら、皆様年若いようですし、娘を気にしてやっていただきたいのです」

「娘さん、ですか?」

「無論、無理にとは言いませんが、大人に囲まれての一週間の道のりは息が詰まるだろうので」

「ははあ、なるほど、いいですよ。機会があれば娘さんとお話でもすればいいんですね?」

「ええ、そうですそうです。娘にとってもいい経験になるでしょうし」


 どうやら、そういうことらしい。年若い、というよりも、コテツ以外の女性メンバーの方にこの言葉は向けられているのだろう。

 それに、若く見えるがコテツは三十を超えていたりもするのだし。


「それでは失礼します。荷物のほう、よろしくお願いしますよ」

「はい、お任せあれ。無事に着かせて見せますよ」


 頼もしいあざみの言葉に満足したのかにこやかに、リヒャルトは去っていく。

 それを見送って、コテツ達は自分の担当の馬車へと歩き出した。


「……ふむ、視線が痛いな」


 そんな中、コテツはそう漏らす。

 先ほどから、コテツは周囲を歩く冒険者の視線を感じていた。

 まるで、品定めするような、ねっとりとした視線だ。


「それはそうですよ。コテツさんは、今みんなの注目の的ですから」


 居心地悪そうにするコテツに、そう言って苦笑したのはリーゼロッテだ。

 どうやら、そうらしい。コテツの名前は召喚当時から広まっているが、コテツの顔を見た者は少ない。

 そこでエトランジェのワードの一つでも出れば、真贋関わらず注目を浴びるというものだ。


「噂になってますよ、街では、そのう、三メートルの大男とか、腕が凄い長いとか……」

「コクピットに入りきるのか、それは」


 複雑そうな表情でコテツは、馬車の中を見た。

 中身は聞いた通りの追加の荷物だろう。思うに、舞踏会で送られた贈答品の類だろう。上等な包装に包まれた箱が並んでいる。


「私たち、どこで寝ればいいんでしょうねぇ……」


 そうして、馬車の中を見てのあざみの第一声がこれだ。

 三人、馬車で待機する分には問題ないが、寝るスペースはあるのかどうか。


「まあ、一人分くらいのスペースはあるだろう。最悪、俺とあざみはコクピットで寝ればいい」

「わ、私だけ馬車でなんて寝れませんっ」

「俺としては、コクピットの中の方が快適なのだが」


 コクピットは人が寝るように造られてはいないのだが、仕事とあらば、コクピットから何日も降りずに戦い続けるのがコテツの世界の兵士だ。

 むしろ、慣れない馬車とコクピットであればコクピットの中のほうが落ち着くとさえ言える。


「あー……、私もエーポスですしねぇ……。恥ずかしながら、操縦席の方が落ち着くんですよね……」


 そして、困ったように呟くあざみ。

 ただ、その辺りについては、コテツは楽観していた。

 深刻そうでもなく、いつも通りの口調で口を開く。


「まあ、寝る際は馬車を止めての野宿かもしれん。余り心配する必要はないだろう」

「そう……、ですか?」


 心配げに見つめてくるリーゼロッテに、コテツは頷きを一つ返す。


(まあ、いざとなればどうにでもなる)


 そうして、その話を終えたこととし、今度は彼は、疑問をあざみへと向けた。

 先ほどの、会話についてである。


「それより、ところでだが、先ほど最優というワードが聞こえてきたが、一体なんだ」


 最優。エトランジェに関する言葉なのだというのは分かったし、予想も付くが、自分に関係することである。

 聞いておかずにもいられなかった。

 問われたあざみは、考えるようにしながら、口を開く。


「先代の……、まあ、通り名みたいなものですかね。歴代で最も優れたエトランジェといわれてますから」

「そんなに、強かったのか?」


 あざみが皮肉も言わずにパイロットを褒めるようなことは珍しい。

 そう思ったコテツの問いに、あざみは否定を返した。


「まあ、独創的な人でしたけど、彼より強かった人は沢山います。だから、最強じゃなくて最優なんですよ」


 最強ではなく、最優。強さではない所で、先代は優れていたということか。

 黙りこくって、コテツは次の言葉を待った。


「彼を、最優足らしめる要素は、彼のエトランジェ観にあります」

「……エトランジェ観?」

「そうですね……、あるエトランジェは言いました。"エトランジェは剣である。硬きものを切り裂く名剣だ。"また、あるエトランジェは言いました。"エトランジェは槍である。誰よりも前に立つ、戦場の一番槍だ。"まあ、このように例えには武器や防具が多いのですが、先代はこう言ったのです。"エトランジェは旗だ。決して倒れちゃいけない国の旗だ。"と」


 つまるところ、エトランジェという存在をどう捉え、どのように動いていくか。それはエトランジェによって千差万別なのだろう。

 その中で、先代の出した答えは、誰よりも秀逸だったということだ。


「彼が召喚されたのは、紛争に、他国との戦いもある戦乱の時代。その中で、彼は何よりも戦場に立ち続けることを優先したのです」

「なるほど、だから旗か。エトランジェの存在は味方の士気に影響を及ぼす、ということだな」


 コテツの世界のエースもそうだった。敵味方にエースがいればその戦いは五分。味方のエースがいなくなれば絶望、味方にだけエースがいれば、勝ったも同然。

 だから、エースは撃墜されることは許されず、相手のエースを倒すのが義務だった。


「はい。一人で戦局を変えることよりも、決して落ちず、一騎打ちとなれば必ず勝ち、決して功を焦らず深追いせず、戦線を支え続けるのが彼のあり方でした。彼が戦時中に撃墜された数はゼロ、機体に受けた損傷は両手の指で足りると言います。まあ、多少誇張はありますが」


 つまり、ひたすら安定を重視し、味方を鼓舞し続けることこそがあるべき姿だと、先代は判断し実行した。


「そのおかげで、どのエトランジェよりも戦術的勝利を収め続け、最優の名を手に入れたのですよ。先代は」


 と、そこまで説明されて、コテツはリヒャルトに向けられた視線の内容を、本当に理解した。


「なるほど、それ故に俺に向けられる視線も相応になる、ということか」


 先代が優れていればいるほど、今代への視線は厳しいものになる。

 今の所魔術も使えないコテツが持つのは、己のパイロットとしての腕、ただ一つ。

 なのだが、安心させるように、あざみは笑った。


「大丈夫ですよ。ご主人様は、最優にはなれなくても、最強の素質がありますから」

「だといいが」

「そうじゃないと私が困りますよう。まあ、ご主人様もいつか、答えを出すことになるでしょうし、そのときにはきっと」


 いまだ、答えの欠片も見つかっていないが、果たして、コテツは先代に追いつけるのか。


(考えても仕方がない、か)


 いつかはいつかだ。今ではない。

 そう考えて、コテツは一度、馬車から離れた。

 出発まで、今しばしある。もう少し経ってから、という依頼主の言葉なので、依頼主が行くといえばすぐさま行かねばならないが。

 しかし、コテツの体感で十分ほどは猶予があることだろう、と彼は判断した。


「ねぇ、ねぇ、そこの人」


 そして、歩いて数秒。コテツが一人になったのを見計らったかのように、女の声が彼に掛かった。


「何か用か」


 前から歩いてきたのは、コテツと同じ、冒険者。こちらは、元々いた護衛団の一人なのだが。

 ぶっきらぼうに返したコテツへと、彼女は唐突に妙な質問を寄越してきたのだ。




「貴方は、どちらに付くの?」




 コテツには、意味の分からない、何かを。


(……どちらに? 異世界用語か?)


 意味が分からない、ということはこの世界特有の言葉なのか、と、戸惑いは表に出さず、心中首を傾げるコテツを余所に、女は続けた。


「だから、お嬢様と、依頼主、どちらに付くのかって言うことよ」


 コテツは、考える。

 どちらに付く、ということは、お嬢様とやらと、依頼主が対立している、ようである。

 依頼主はリヒャルト、そして、お嬢様は多分その娘だろう。そのどちらに付くのか、聞いているのだ。


(派閥でもあるのか……?)


 下手な返答はできないと判断し、コテツは正直な答えを返す。


「すまない、意味が分からない」


 すると、女は目を丸くした。


「え? 何も知らずに来たって訳?」


 まあ、少し情報が知れた。どうやら、この件について、コテツ以外は大体何か知ってるようだ。

 が、未だに情報は少なすぎる。


「ああ、俺はただの荷物の護衛だ。それ以上のつもりはない」


 それ故事実だけを簡潔に告げ、コテツはそれ以上の言葉を言わずに女を見守った。

 長く青みがかった黒髪を一つに束ねた、旅衣装の女は、納得したように、天を仰いだ。


「あーあー、なるほどね。そっか、じゃあ、変なこと聞いたわね。忘れて」

「とりあえず、中立ということにしてもらえるか」

「わかったわ。ええ、できればこちらに付くか、そのまま中立貫いてくれればうれしいけど」


 そう言って、女は歩いて去っていく。


(……一体、なんだ?)


 どうもきな臭い感じに、初めての旅は始まった――。

えー、お久しぶりになってしまいました。更新再開です。

が、誠に申し訳ありませんが、今回は多少なりとも書き溜めてから推敲して投稿します。

とりあえず、三~五日に一回くらいで、完成したら毎日行きます。

できれば、ご了承ください。


とりあえず、今回は04プロローグということで。

お約束的に護衛クエスト入ります。

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