表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界エース  作者: 兄二
13,Make fun
190/195

183話 意味はないけれど。


 村に戻り、グンゼは真っ先に子供たちに会いに行った。


「心配かけたな……。まあ、この通りだ」


 子供たちに抱き付かれるグンゼを、コテツは遠くから見ている。

 そこに声をかけたのはカーペンターだった。


「よかったねぇ。めでたしめでたしだ」

「そうだな」


 彼女が発した声はいつも通りの気の抜けた声だったが、途中からその調子が変わったのを、コテツは感じ取った。


「ほんとに、よかった……」

「カーペンター、君は」


 その声は途中で震え出し。


「私でも、守れた……」


 明らかな涙声に変わった。


「ほんとによかったよう……!」


 彼女は、コテツにしがみついて涙を流した。


「うあー! ほんとによかった!」

「……そうだな。君が、成し遂げたことだな」

「私達!」


 訂正されて、コテツは頷いた。


「そうだな、俺たちがしたことだ」


 泣いている彼女に、コテツはどうしていいか分からず、ただ立ち尽くすだけだ。


「カーペンター」


 どうしたものかわからないまま、ただ名前を呼ぶ。


「アリア」


 すると、返ってきたのは彼女の別の名前だった。

 コテツはただ、次の言葉を待つ。


「アリアでいいよ。アリアって呼んでよ。空気も読んでよ」


 空気を読む。コテツにとって酷く至難である。


「カーペンター」


 うっかりといつもの調子で呼ぶと、ジト目で見つめられた上に脇腹を抓られた。


「……アリア」

「うん」

「帰るか」

「うん!」


 頷いて、カーペンターが離れる。

 続いて、別れを追えたらしいグンゼが近づいてきた。


「もういいのか?」


 コテツが問うと、彼は少し照れくさそうにうなずいた。


「……ああ。まったく、子供は騒がしくてかなわないな」

「そうか。俺はこのまま君を王都まで連れていくが、構わないな?」

「願ってもない話だ」

「了解」

「ちょっと待て、おい!」


 コテツはグンゼを肩に担ぐと、膝を突いたクレイ・コンストラクターのコックピットまで滑り込む。


「やるなら、やると言え!」

「すまん」


 遅れて、カーペンターもコックピットに座り、クレイ・コンストラクターが歩き出す。

 子供たちが手を振り、見送る中、三人はその村を後にした。


「さて、グンゼ。君が何故追われていたかは聞いてもいいだろうか」


 子供の手前、訊かないようにとコテツにしては頑張って空気を呼んだのだが、今、その障害となるような子供たちはいない。


「僕は研究者だ。僕の研究が奴らには必要らしい。ナンセンスな使われ方をするのが許せなくて逃げて来た」

「研究?」


 聞き返すカーペンターに、彼は眼鏡の位置を直しながら答えた。


「魂さ。お前は、魂がどこに宿っていると思う?」

「知らん」

「ちょっとは考えてくれ……」


 呆れたように、グンゼが頭を押さえる。


「だが、確かにその通り。頭か、胸か、全身に行き渡っているのか。それは未だにわからない」


 薄く笑いながら、彼は得意げに語った。


「お前もアルト乗りならわかるだろう? 魂の存在が。確かな生きた人間でなければアルトは反応しない。では生きた人間とはなんだ。何を見てアルトは反応する? 鼓動か? もしかすると、魂じゃないのか?」

「俺はただのパイロットだ。そういう話をされても困る」

「つくづく話し甲斐のないヤツだな。……ともかくだな、僕は、魂と魔力は密接に関わっていると考えている。魔力は生命力の余剰分。魔力が使えなくても、魔力の源泉となる部分は誰しも持っているということだ。これが、魂を構成する」


 できれば早く本題に入ってほしいのだが、得意げに語るグンゼを、コテツは止められなかった。


「死して魔力の生成が止まり、生命力が枯渇する。これによって宿っていた魂は朽ちて行くんじゃないか? 逆に、その魂に魔力さえあれば、魂はそこにあり続けるのではないか?」


 少しだけ、コテツにも心当たりがあった。

 ノエルのクリーククライトは、搭乗者が死んでも尚、動くことができた。

 それは、機体内の濃密な魔力によって魂が存在し続けたからなのだろうか。


「と、いうのが僕の研究だ」

「だいたいわかった。それで」


 続きを促すコテツに、グンゼは応えた。

 少しの間を置いて、彼は、重く告げる。


「お前が殺したルードヴィヒ。こいつの魂を抽出し、別の何かに宿らせる気だ――」


 コテツはただ、頷いた。


「なるほど」


 そういうことであれば、躍起になってグンゼを捕まえようというのもわかる。

 指導者に関わる一大事だ。

 コテツはあっさりと納得したが、カーペンターは大仰に驚いた。


「できるの!? そんなこと……、死者の蘇生なんて」


 だいたい魔術でなんでもできると思っているコテツではわからない感覚だが、どうやら常識をはずれたことらしいのは確かだ。


「できるさ。僕は、天才だからな」


 随分な自信である。

 だが、ここまでして追ってきた敵を考えれば、嘘でもないのだろう。


「だが、僕の研究は魂の探求と、肉体からの解放だ。再度肉体に封入するなど考えられない。それが戦争の類に関わるなら尚更だ」


 心底嫌そうにグンゼは歯噛みした。


「君さえこちらに確保しておけば大丈夫なのか?」

「いや、そのうち技術を完成させて成功させるだろうな。時間稼ぎ程度だ」

「そうか」

「結構な部分まで完成してしまったんだ。……天才すぎる弊害だな」


 誤魔化すように彼は目を逸らす。


「天才なら後先くらい考えろー」

「う、うるさいな! 仕方ないだろう、あのときはやけっぱちみたいなものだったんだ!」


 騒がしい帰り道になりそうだと心中で嘆息したコテツの肩で、ゴーレムが慰めるように肩を竦めていた。

















「……何それ」

「拾った」


 肩に乗る、小さな土人形を見た瞬間アマルベルガはそれを口にした。


「どうするの、それ」


 陽気に手を挙げ、あいさつ代わりにダンスまで見せるゴーレムを見て彼女は目を細める。


「飼おうと思う」

「返してきなさい」


 にべもない言葉にゴーレムがショックを受けたジェスチャーを見せ、地面に倒れ込む。


「……面倒だ」

「本気で飼うの?」

「そのつもりだ」

「……もう、仕方ないわね」


 アマルベルガがそう言うと、ゴーレムは勢いよく立ち上がり頭を下げた。

 それを見てアマルベルガはふっと微笑んだ。


「あなたよりよほど愛想がいいわ」

「……そうか」


 心中でコテツは苦い顔をするが、目的は果たした。


「では失礼する」


 退出し、廊下を歩いて自室へ戻る。

 いつも通りの日常が返ってきた。


「静かなものだな」


 室内に染み入るように声が響く。

 最近騒がしかった分、静けさが目につく。

 そんな中、不意にノックの音がコテツの耳に届いた。


「誰だ」

「私ー」


 その声は、カーペンター、いや、アリアのものだった。

 コテツが、扉を開けると、そこにはアリアが立っている。


「えへへ……、来ちゃった」


 はにかむように微笑んだ彼女の印象は、いつもと大きく違っていた。

 いつもポニーテールにしていた髪は降ろし、白い長袖のワンピースと同系色のケープに身を包んでいる。


「やは、いきなりごめんね?」

「いや、構わない」

「そう? よかった」


 彼女は、一歩前に出て部屋の中へと入り、後ろ手に扉を閉めた。


「それで、何の用だ?」


 また仕事の依頼、にしては格好がそういう用途には向かない。

 そう考えながらまじまじと見つめるコテツに、アリアは朗らかに言った。


「理由はない!」


 楽しそうに、嬉しそうに。


「――ただ、寄ってみただけ」

「暇なのか」

「ひ、暇じゃないし! 忙しいし! 合間を縫って会いに来たんだし!」


 心外だと言うように声を荒げるカーペンターに、コテツは特に表情も変えず、ただ立ち尽くした。


「まー、そういうことだから楽にしといてよ」

「それはこちらのセリフだと思うのだが」

「気にしない気にしない。お姉さんは家探しするから!」


 コテツは、どうしたものかと悩んだ末に、結局椅子に座って好きにさせることにした。

 テーブルの上の本を取り、ぱらぱらとめくり始める。


「何にもねぇぜ!!」


 アリアが諦めたのはすぐだった。

 気のないふりをしながら、ちらちらとコテツを見る。


「……ねぇね、何読んでるの?」


 後ろから、抱き付く様に首元に腕を回される。


「チェスの指南書だ」

「ふぅん?」


 更にそこから、人差し指で頬をつついてくる。


「なんだ」

「なんでもない」


 言いながらも、つつくのは止めない。

 やがて、手はコテツの手に重なり、強引に本を閉じさせた。

 コテツはされるがままになっている。

 さらに、頬を摘まんだり、頭を撫でたり、執拗に彼女はコテツに触れた。

 そして、彼女はおもむろにコテツの膝の上に対面するように座る。

 そのまま、彼女はコテツの肩に手を突いて、背筋を伸ばした。

 そこから、何をするつもりだったのかコテツにはわからなかったが、結果が伴う前に、アリアはコテツの肩から手を滑らせ、バランスを崩した。

 右手が肩からずりおち、彼女の体が横に大きく傾ぐ。


「あわっ!」


 コテツは、それを腕で受け止め、自らの方へと抱き寄せた。

 そしてそのまま、腰元を掴み、持ち上げて地面に下ろす。


「危ないぞ」

「うん」


 アリアは素直に下ろされ、コテツの横に立つ。

 コテツは、畳んだ本を再度開き尚した。

 アリアはそこからまた、きょろきょろと辺りを見回して、何か面白いものがないかと探すが、結局視線はコテツに戻ってきた。


「あざみでも呼ぶか」

「のーせんきゅー」


 コテツとしては、我ながら上出来な気遣いだと思ったのだが、断られてしまった。


「そい」


 再び、アリアはコテツの本を閉じさせた。

 そして、何故かその両手を取り、手を繋いで微笑む。


「何がしたいんだ」

「えへへ、そうだ。クッキー作ったんだけど、食べてよ」


 彼女はポケットから可愛らしい袋を取り出すと、中からクッキーを一枚つまみ、口元へと持ってくる。

 されるがままに、コテツはそれを食べた。


「おいしい?」

「ああ」

「やった」


 もう一枚を取り出しながら、再びカーペンターはコテツの膝の上に座る。


「危ないと言ったはずだが」

「ぎゅっと捕まえててくれれば落ちないよ!」


 降りる気はないようなので、コテツはその通りにアリアの背に腕を回した。


「君は、本当に、何の用なんだ」


 コテツは問う。ここに来ていまだにアリアの用事が分からないでいる。

 アリアは、コテツを見上げるとにへらと気の抜けた微笑みを見せた。


「用事なんてないよ。ただ、会いに来たんだ」


 俺にか、と聞こうする前に、クッキーで口を塞がれる。


「用事もないのに、ここまで来ちゃった。それだけなんだけど、私にとっては大事なこと、なんだよねぇ」


 コテツは無粋なことを口にする前に黙ることにした。


「また来ていい? よかったら、沢山来たいな。一緒に街にも出かけたいね」


 コテツにはよく分からないが、これまでアカデミーに籠りきりだったアリアが頻繁に来るというのは悪いことではないだろう。


「構わない」


 前々から連絡が不便だったのだ。シバラクやアルトの整備など、相談したいこともある。

 頻繁に訪れるということならば、それはそれでありがたい。

 そしてまた咥えさせられたクッキーに、何故か彼女は自分で噛みついた。

 自分でも食べたいなら食べさせてないで好きにすればいいものを、などと的外れなことを考えているコテツを他所に、彼女は楽しそうに微笑んでいた。

これにて13終了です。

いつも通りインターバルおいて14です。14はエリナ編予定です。


アリア・カーペンター


エーポスの中では割と年上の方。

生成系の魔術は生まれつき得意だが、機体の整備や開発などは後天的な勉強によるもの。

朗らかで細かいことを気にしなさそうに見えるが、割と気にしすぎで、何でもないように振る舞っている。逆に窮屈そう。

戦えない負い目があったり、コンプレックスがあったり面倒くさい。

割と乙女。

料理、お菓子作り、編み物など、乙女っぽいことは大体得意。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ