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異世界エース  作者: 兄二
13,Make fun
189/195

182話 FreeFall


「僕ごと殺す気じゃないだろうな!」


 爆発によって大きく吹き飛ばされたギガンティードの操縦席で、グンゼが叫んでいる。

 素早く機体の状態を確認すれば、上半身と下半身は泣き別れを遂げたらしい。

 現在は、かろうじて残った左腕で、上半身を支えているような状況だ。


「不味いな」


 隊長と呼ばれていた男、ディラン・コッドは低く呟いた。

 どうやって逃げるべきか。


「考える暇も与えてくれないらしい」


 考える間もなく、ハッチが剥がされ、操縦席が露わになる。


『機体を降りろ』


 首元に刃を当てるような冷えた声。

 これが、組織の仇敵、コテツ・モチヅキなのだと理解する。

 どうやら、アンカーでぶら下がりながら作業を行なったらしい。


「いや、まだだ。戦闘は得意みたいだが、こういう駆け引きはどうだ?」


 分析が終わると同時に、ディランの行動は早かった。

 グンゼの肩を掴むと、抱き込むようにして、その首にナイフを突きつけたのだ。


「機体を降りるのはそっちだ!」

『なるほど』

「コテツ! 僕のことは気にするな!」


 グンゼが叫ぶ。


「余計なこと言うなよ。生きたいだろ?」

「お前らの言いなりになるくらいなら、……死んだ方がマシだ」


 グンゼが、挑戦的に笑う。


『随分と、無能な指揮官だな』

「何……?」


 無機質な声が響く。鉄の巨人が、こちらを睥睨していた。


『目先の手柄に執着し、部隊は全滅。引き際を見誤り、果たせていたかもしれない任務すら、しくじった。そして今は、連れて帰るべき、ある種、警護対象とも言えるグンゼに刃を向けている』


 言い返す言葉もない。

 無機質で感情のこもらない分、ひたすらに冷たく事実が突き刺さる。


『無様だな』


 だが、どうして予測できただろうか。こんな化け物がいるなどと。

 たとえ自分じゃなくても同じことをしたはずだ。


「……何とでも言え。だが、痛み分けだ。なんでもかんでも力で思い通りになると思うな!」

『テロリストに言われたくはないな』

「うるさいな……、早く機体を降りるんだ」

『君はグンゼを殺せない。グンゼを失えば、君を守る盾は一枚もなくなる』


 その言葉がディランを追い詰める。


(グンゼを助けに来たんじゃないのか……!? ハッタリか? だが……、この男、何をするか……)


 背筋に、冷たいものが流れる。


「早く機体を降りるんだ」


 動揺を押し隠して告げる。


『その必要はない』


 死神が、その首筋に鎌を当てた。

 当然と言えば当然だ。グンゼ一人の命と、組織の作戦行動の阻止。重要度は明白。


(駄目だ……! 助かる道はない。どちらにせよ殺される……、ならできることは)


 喉を鳴らして、覚悟を決めた。


(機密の保持、そして、奴らの目的達成を少しだけでも妨害すること……!)


 組織の妨害、グンゼの救出が目的ならば、片方だけでも達成できなくする。

 グンゼから情報が漏れることを考えれば、生かして返すことだけはあり得ない。


「分かった。俺もここまでだ。だが、こいつだけは殺していく! 薄情なエトランジェを恨めよ!?」

『やってみろ』


 どこまでも冷静なコテツが苛立たしかった。

 ディランの精神は既に限界に近い。

 理不尽への怒り。敵への恐怖。展望のない今後への不安。

 そしてその捌け口は、抵抗できないものへと向けられる。


「精々悔しがってくれ。地獄で笑ってやる!」


 苛立ち、怒り、恐怖、不安。すべてを込めてナイフを滑らせた。


「地獄で会おう、グンゼ!」


 がり、と硬質な音を立てて、ナイフはその役目を終える。


「……は?」


 おかしい。音も感触も、人間を裂くようなそれではない。

 これではまるで――。


(土でも擦ったような――)


 視線を送って目を剥いた。

 ナイフで切るはずのグンゼの首元。

 そこにいたのは、手のひらサイズの土人形。

 小さなゴーレムがその腹で刃を受け止めていたのだ――。


『よくやった』












 人質に取られ、いよいよかと覚悟を決めた時、グンゼは足をよじ登ってくる何かがいることに気が付いた。


『目先の手柄に執着し、部隊は全滅。引き際を見誤り、果たせていたかもしれない任務すら、しくじった。そして今は、連れて帰るべき、ある種、警護対象とも言えるグンゼに刃を向けている』


 それは、小さな土人形だった。


(ゴーレム!? なぜここに……)


 ゴーレムはそのままよじ登るとまず、グンゼの手首の縄を解いた。


『君はグンゼを殺せない。グンゼを失えば、君を守る盾は一枚もなくなる』


 自由になった腕を、すぐさま動かすわけにはいかない。


(コテツがしているのは時間稼ぎか……!)


 コテツの狙いを悟ったグンゼは、ただ機を待つことにした。

 あらかじめ予測されていたということだ、この展開は。だから、このゴーレムが気付かれないようにここまで来た。

 哀れな人質を装い、逸る気を抑えて、黙って二人の会話を聞き、絶好の機会を待つ。

 器用にゴーレムはグンゼの首とナイフの間に滑り込む。


(いつだ……? もう逃げていいのか?)


 心臓が早鐘を打つ。

 いつの間にかゴーレムは肩までよじ登り、器用にグンゼとナイフの間に滑り込んだ。


「分かった。俺もここまでだ。だが、こいつだけは殺していく! 薄情なエトランジェを恨めよ!?」

『やってみろ』


 ディランの手に力が入ったのが分かる。


「精々悔しがってくれ。地獄で笑ってやる!」


 彼は追い詰められ、判断力が低下している。

 それを見て、グンゼは逆に冷静になりつつあった。

 心臓に悪い状況ではあったが、だからこそ、この降って湧いたチャンスを、意地でもものにすると、虎視眈々と待つ。


「地獄で会おう、グンゼ!」


 そして、ナイフは見事にゴーレムの腹に吸い込まれたのだ。

 ゴーレムは腹が少し抉れただけ。

 いやに大げさに痛がって暴れているが、あからさまに演技っぽい。

 それだけ元気なら大丈夫だろう。


「……は?」


 驚くディラン。そして、コテツの声が響く。


『よくやった』


 ゴーレムは、指もないくせに、親指でも立てるかのようにコテツに向かって手を向けた。


(今――!)


 ディランは動揺から立ち直れていない。

 この瞬間を置いて、他に何がある。


「離せ!」


 グンゼは全力でディランを突き飛ばす。

 ディランは縄が解けていると思っていなかったらしく、簡単に体勢を崩した。


「待て!」


 グンゼは操縦席の縁に立つ。


(は、情けない……!)


 下半身を失っても、尚高い。その高さに足が震えた。


「大丈夫……、大丈夫だ。希望がある分、さっきよりはずっとマシだろう!!」


 叫んで、自分を奮い立たせる。

 肩に乗るゴーレムが、後押しするように、ぽんと頬を叩く。


「跳べ!」


 足が動いた。

 背後には手を伸ばすディラン。


「させないぞ!」


 服の背に、その手が触れたその瞬間。

 酷く冷たい声が響いた。


『言ったぞ。君はグンゼを殺せない。グンゼを失えば、君を守る盾は一枚もなくなると』


 酷く、安心感のある声だった。

 何かが、背後を何かがかすめたのが分かった。ちらりと振り向けば、巨大なマイナスドライバーが、背後を隔てていた。

 数センチずれていれば、グンゼに当たっていたような距離だ。


「ああちくしょう、そうだ、生きて言う機会があれば言ってやろうと思ってたことがあるぞ、コテツ……!」


 風圧に吹き飛ばされ、斜め下へと吹き飛ばされたグンゼは、クレイ・コンストラクターの手に受け止められた。

 絶妙な力加減で、勢いは殺され、怪我もない。

 肩の上で、ゴーレムが楽しげに跳ねる。

 グンゼは、手の上で立ち上がり、操縦席の辺りを見つめて叫んだ。


「僕ごと殺す気か!!」




ヒロイン:グンゼ(眼鏡系ツンデレ男子)

犬が苦手。


ということで、戦闘終了しました。

ここからはエピローグ的な感じです。




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