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異世界エース  作者: 兄二
13,Make fun
188/195

181話 剣を執る。

「これも違ったか」


 ばらばらになったSHを見下ろして、コテツは呟いた。


「マジででたらめだねぇ……、お姉さんびっくりだ」

「問題ない。それより、次が来るぞ」


 コテツがそう言った瞬間、二機が破れかぶれで、前後から突っ込んでくる。

 片方をコテツは受け流すように投げ飛ばし、もう一方に向けて拳を向けた。

 クレイ・コンストラクターの右腕に、工作機械が現れる。

 箱状の機関部に取り付けられた、太い金属の棒。

 SHの全長の半分近い金属棒の先は中央が尖った十字となっている。

 その棒が高速回転を始め、甲高い音が響く。


「インパクトォッ! ドライバーッ!!」


 振り抜かれるそれが、敵のSHの肩に突き刺さった。


「って言うと必殺技っぽいよね」


 深く突き刺さるそれはやがて回転を止め、クレイ・コンストラクターは機体性能任せに、串刺しにした敵機を持ち上げる。

 そして、空いている左手が、その手の工具を振るった。

 金属を打つ、甲高い音が数秒響きわたり、幾つかの部品が脱落する。


「おっけー?」

「ああ」

「逆! 回! 転っ!」

 

 一度止まった回転が、カーペンターの叫びと共に再開する。

 先ほどよりも強いトルクにより、敵機が回転。クレイ・コンストラクターは回転する敵機へ蹴りを入れた。

 瞬間、首の皮一枚程度で原型を留めていた敵機が部品をまき散らしながら吹き飛んでいく。

 地面に着いた頃には、装甲を剥がされた胸部しか残っていなかった。


「これも違ったか」


 そして再び敵機を解体。操縦席を確認し、またグンゼがいないことを知る。


「てか多分、アレだよねぇ」


 カーペンターはちらりと視界の端のそれを見た。

 先ほどから高見の見物を決め込んでいるSH。ほぼ間違いなく、グンゼはそれに乗っているだろう。


「だろうな。解体するのは、骨が折れそうだが」

「無理とは言わないんだねぇ……」


 そのSH実に巨大であった。

 クレイ・コンストラクターの四倍はあるだろうか。

 明らかな重装甲。戦闘用のSHでも簡単には破壊できないだろう。


「どんな重装甲も、剥がせば無意味だ」

「あー、うん、そだね」


 無茶苦茶を言っているが、酷く、納得した。

 素直に頷いてしまったことに苦笑しつつ、コテツの次の行動を待っていると、彼はこう口にした。


「君は、思い知らせてやるべきだ」

「はい、何をですか先生」

「彼は見誤った。時間稼ぎを任せ、逃げるべきだった」


 コテツは、酷く冷たい目でそれを見ていた。


「エトランジェを殺せるチャンスに目が眩んだな。生身なら殺せると考えた。次は作業機位なら倒せると踏んだ。君と、クレイ・コンストラクターを侮った」

「私じゃなくて、私たち、ね?」


 カーペンターが言うと、彼は頷いてくれた。


「……そうだな。では、手痛い教訓と共に、二度目などないことを、教えてやろう」


 コテツが操縦桿を握り直す。

 カーペンターが問いかけた。


「プランは?」

「時間をかけて解体する」

「うーん、できるんだろうけど……」


 カーペンターは辺りを見渡し、呟く。


「随分と上手いこと分解したもんだよねぇ。ほんと」

「壊すことは得意だ」

「なら作るのは私の得意分野!」


 腰部アーマーが割れるようにして、サブアームに切り替わる。


「これだけの部品があれば……」


 サブアームが必要な部品を片っ端から拾い上げ作業を始める。


「足りないパーツは魔術でカバー!」


 SH三機分のパーツがあるのだ。サブアーム四本が火花を散らし、駆動部、ジェネレーター、刀身を形成していく。


「コテツさんそれ取って!」


 カーペンターの意思に答え、コテツが足で目的のパーツを弾く。それをサブアームが受け取り、セットし、ドライバーを持ったアームが取り付ける。


「ごめん! パーツ一個足んない!」

「……なるほど」

『この隙にぃ!!』


 瞬間、背後から跳びかかって来ていた敵機に、クレイ・コンストラクターは振り向いていた。

 振り向きざまにその手の工具が再び閃く。


『あ……?』


 肩と股関節。弾けるようにして、そのSHは手足を失った。

 そして、そのまま落ちていこうとする敵の頭を、クレイ・コンストラクターは捕まえる。


『な、何を……』


 頭を掴んで、腕を伸ばし、ぶら下がる敵機へと残る手でいくらかの作業を行うと、その脇腹へとクレイ・コンストラクターは手を突き入れる。

 冷たく響く声。


「これだな」


 鉄が擦れる耳障りな音。引きちぎる音、拉げる音。

 次の瞬間、機体内部からコテツはジェネレータを引き抜いていた。


「おうさ! サンキュー!!」


 サブアームがそれを受け取り、制作中のそれに取り付ける。


「できた! 超振動高熱切断ブレード! 名付けて二人の愛の共同作業Mk-2!」

「1はどうした」


 それは、鍔の辺りに箱型の駆動部が付いた長大な片刃の剣。

 鋭利な輝きを持つそれが、唸りをあげた。


「気にすんない!」

「そうか。では、やるか」


 呟くコテツに、剣を構えるクレイ・コンストラクター。

 それに対し、カーペンターは息を呑んだ。


「どうかしたのか」


 喉を鳴らしたカーペンターに反応し、コテツが問う。


「いや、今更なんだけどさ……。武器、なんだよね」


 初めて持つ、武器の感覚に、震えた。

 自分で握る武器は重かった。そして、それをこれまで人に押し付けて、自分は握ってこなかった。

 これを振るえば、本当に後戻りができない気がした。


「これが……、私の殺意」


 だが、それでも。彼と肩を並べ、戦うと決めたのだ。


「大丈夫か?」

「大丈夫。でも、やっぱり怖いから。……お願い、もっと激しくして」


 これから、武器を振るう。

 そう決めた。


「何も考えられない位、めちゃくちゃにして」


 その言葉に、コテツは応えた。


「了解」


 クレイ・コンストラクターが走り出す。

 巨大な敵機へと向けて。


『ギガンティードに向かってくるのか……。勝算があるのか?』


 駆けだしたクレイ・コンストラクターに対し、敵は冷静に砲撃を放つ。

 肩部、腕部、脚部に装備された連装砲が地面を穿っていく隙間を縫うように、コテツは駆けた。


「あの機体ね、多分魔術で軽量化してる。多分……、この辺! 装甲に割れ目でも作れればあっちもこっちもぐだぐだになるよ!」

「……なるほどな。見えるぞ。あの流れを断てばいいんだな」


 カーペンターがモニターのウインドウに表示させたギガンティードという敵機の立体映像に印をつけて見せ、コテツはそれを確認し、何か掴んだようだ。


「では、手荒く行く。よろしく頼むぞ」

「うん!」


 砲撃の隙間を縫って突撃。クレイ・コンストラクターが足もとまで辿り着く。


『それでどうするんだ?』

「考えが甘いぞ」


 その巨大な足を前に、しかしコテツは速度を緩めなかった。


『何ッ!』


 敵の驚く声が響く。

 クレイ・コンストラクターが足を駆けのぼり始めたからだ。

 左手には剣、右手には小型のドリル。

 コテツはそのドリルの刃を打ち付けて、ロックを解除し刃だけを残すと、それを足場に更に装甲を駆け登った。

 そして、胴体辺りで跳び上がりながらの切り上げ。

 取り付けられたジェネレータが高らかにエンジン音を響かせ、振動する刃が装甲に縦一閃を書き入れる。

 跳び上がった勢いのままのクレイ・コンストラクターを、敵の手が追った。


「アンカー射出ぅ!!」


 カーペンターが叫ぶと腰部アーマーからワイヤーアンカーが射出される。

 アンカーはサブアームのマニピュレータを共用している。

 敵機の首元にわずかにめり込んだアンカーはその手を開き、がっちりと装甲を掴んだ。


「巻き取り!」


 機体が引っ張られ、敵の手を置き去りに、首元へとクレイ・コンストラクターは移動する。

 そして、コテツは首元で止まろうとせず、姿勢制御スラスターで方向のみ調整。

 クレイ・コンストラクターは慣性を殺さずに敵機の後ろへと出た。

 まだついているアンカーにより機動が変わる。

 弧を描きながらアンカーで巻き込むようにしてギガンティードの胸部へ。

 胸部装甲に背中を付ける形で、右手と足が胸部装甲を擦る。

 するとコテツは、そのまま胸部装甲へと逆手持ちにした左手の剣を突き立てた。

 火花を散らし、ずり落ちる機体と共に装甲へ亀裂を入れていく。

 その間にアンカーは外れ、たわみながら腰元へ。

 胸元のクレイ・コンストラクターを捕まえようと再び手が迫る。

 装甲を蹴って跳躍。手を回避し、一旦距離が離れるが、だがまだ、逃がさない。


『ちょこまかと!』


 身を捻りながら、再びのアンカー射出。今度は左右の二本。

 掴もうとしてきた左腕に取り付き、巻き取り。

 まっすぐに腕へと向かい、激突寸前でアンカーを解除。

 腕に手を突き、飛び越えるようにして腕の上へ。

 腕を走りながら、剣を下に向け、刃を擦っていく。

 今度は右腕からの砲撃。

 左腕への攻撃を終えたコテツはすぐさま跳躍し、右腕にアンカーを取り付ける。


『避けられるか!?』


 巻き取られる中、クレイ・コンストラクターへと連装砲が照準を合わせる。

 それを見て取ったコテツはアンカーを解除。もう片側のアンカーを敵の胸元へ。


『ファイア!』


 巻き取り。がくんと機動が変わり、砲撃を回避、そしてアンカーを解除して更にアンカー。

 再度腕に取り付いたアンカーが巻き取りを始める。

 腕の下をくぐるようにし、アンカーによって縦に弧を描く様にして、腕に乗る。

 装甲に傷を付けながら腕の先へと向かって走り、また飛び降りる。


『今度こそ!』


 真正面に来たクレイ・コンストラクター。敵がそれを掴もうと両側から腕が迫る。


「わかっているのか。鈍くなっているぞ」


 アンカー、射出。敵の顔面に取り付いた二本のアンカーが機体を眼前へと近づける。

 次の瞬間、コテツはその顔面を蹴りとばした。


『ぐっ、く……!』


 そのまま、後ろへすれ違うようにしながら体を捻り、再びアンカーが射出。

 仰け反った体勢のその両腕にアンカーが取り付き、そのままクレイ・コンストラクターは背後に着地。

 そのアンカーを引き、仰け反った体勢を更に崩させる。

 ギガンティードは一歩後ずさって転倒こそ免れるも、体勢は大きく崩れる。

 アンカーを解除し、今度は足へ。


「振動、熱良し! 叩っ切って!!」


 人の尺度で言えば、大木のような脚部。

 そこへ向けての横一文字。

 火花を上げて、刃が突き立つ。

 その刃は足の中間ほどで停止してしまった。


「大丈夫!」


 だが、カーペンターはコテツにそれを伝えると、叫ぶ。


「ジェネレータ直列起動! 最大出力限界突破ッ!!」


 剣の駆動部から機械音が響き、そして。

 ――ヲォォォォォオオオオオオ。

 剣の唸りが大気を震わせた。

 刀身が赤く染まり、柄から光の粒子が漏れ出す。


「やっちゃって!」

「了解」

「ブースト!!」


 瞬間、駆動部が火を噴いた。

 剣の後ろへと吹き出すブースターの炎が刃を後押しする。

 ――一刀両断。

 遂にギガンティードが倒れようとする。


『何だと……!?』


 その倒れ込むギガンティードから逃げるようにクレイ・コンストラクターはブーストを吹かせる。

 スライディングしながらブーストによって高速で、がりがりと地面を削りながら滑り、ギガンティードの前へ出て反転。

 跳び上がる。


「最後だ、行くぞ」


 初手は、投擲。

 その手の刃が空気を引裂き、敵機の腹部に突き刺さる。


「あいよー、アンカーリリース!」


 そして、アンカーが突き立った剣の左右に着弾。


「そいでぇ! スピン!」


 フルパワーでの巻き取りが始まる。

 投擲した剣へと迫る機体をスラスターで姿勢制御。

 コテツが選んだ攻撃方法は、蹴りだった。

 アンカーによって一直線に敵機へと向かうクレイ・コンストラクターが蹴りの構えを取る。

 その狙いは、剣の柄尻、そのものだ。


「せいやぁーッ!」


 しかして、距離はゼロに。

 衝撃。剣が深く沈み込む。


「ジェネレータ駆動限界突破!」

「退避するぞ」


 そして、今一度、剣を蹴って跳躍。

 ギガンティードから離れると、俄かに剣が光を放つ。


「ジェネレータ四つ分! 纏めて持ってって!」

「大盤振る舞いだな」


 くるりと宙返りしてクレイ・コンストラクターが着地したその瞬間。

 限界を超えたジェネレータが激しい光を伴い大爆発を引き起こしていた。










爆発に巻き込まれたグンゼの安否が気になります……。


ギガンティード氏のサイズに調整が入ったんですが、飛び降りたら間違いなく死ぬ高さになったので、二話前のグンゼのセリフに修正入りました。

特に流れに変化はないです。


コテツ流解体術最終奥義

心臓ジェネレータもぎ取りまで発動しましたね。



クレイ・コンストラクター


ぶっちゃけ何のために造られたかよくわからないアルトだったが、なんということでしょう、匠の技により途端に鬼畜仕様に。

単機サバイバル向け。敵を材料にセントリーガンとか作って拠点防衛にどうぞ。

アンカーはロマン。

光学ステルスまで付いたら本気でホラーに。

ちなみに、装甲を破損させて魔術の機能をダウンさせるのは魔力が見えるコテツとSH製作に詳しいカーペンターだからできる芸当。

カーペンターだけでは目隠しで爆弾解除しているようなものだし、コテツだけでは知識なしで爆弾を弄っているようなもの。


二人の愛の共同作業Mk-2


高周波、高熱、ブースト加速機能付きの長剣。なんでもつけりゃいいってもんじゃねぇぞ。

ありあわせのパーツで製作された、十分こっちも離れ業。

解体のプロことコテツとこの道一筋のカーペンターの二人だからこそ実現可。

ただし、急ごしらえのため燃費最悪。

ジェネレータ四基も使用する。でも元手はタダ。

ジェネレータ四基も使った挙句大爆発させても自分の懐は痛まない。

やったね!


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