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異世界エース  作者: 兄二
13,Make fun
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179話 不動

「小休止だ。十分後に行動を再開する。こいつを回収するまであまり休めていないからな。少しだけだが、機体内でしっかり休め」

『了解!』


 随伴する四機の仲間たちに命令を送ってから、隊長格の男はグンゼに視線を向けた。


「……残念だったな。グンゼ」

「最低の気分だ。少しは気を遣えないのか」


 グンゼは嫌そうな顔で吐き捨てた。

 狭いコックピットで、後ろ手に縛られながら、グンゼはじっと耐えていた。


「着眼点は良かったが、もう少し鍛えておくべきだったな」

「うるさいぞ……!」


 苦虫を噛み潰したような顔。


(やっとの思いで逃げたと思ったら、このざまか)


 グンゼが組織から逃走するにあたり選んだ場所は、王都である。

 理由は単純明快、大々的に攻め込んで、大きく失敗した場所だからだ。

 だが、一つ問題点がある。

 それは、忌々しい、手の甲の刺青だった。

 手の甲の刺青は、術者へと、魔術によって刺青を刻まれた人間の居場所を教える。

 これがある限り、グンゼの居場所は相手に分かる。

 そのために、こうして簡単に捕まってしまうのだ。

 それを何とかするための坑道でもあった。魔力を含んだ鉱石により、魔力の氾濫した坑道内ならば、一時的に反応をごまかせる。

 この魔術によって分かるのは大まかな場所。そして、方向だ。ある程度近づいたら方向から居場所を割り出す他ない。

 そういう術式だからこそ、一時的な欺瞞の効果がある。

 そして、その間にどうにかその術式そのものを強引にでも解除する方法を模索するつもりだった。

 だが、そもそも、ある程度潜っただけで死の危険に瀕する以上、断念するしかなかった。

 コテツの言う通り、彼らの力を借りて奥まで行けたとして、その後出てこれずに殺されるのがせいぜいだろう。

 解除が終わるまでどれくらいかかるかも分からない以上、彼らに護衛を頼むわけにもいかない。


(最初から行き当たりばったりだが、僕も考えが甘かった、か……)


 他に選択肢がなかったのもあるが、もう少しマシな選択はできたはずだ。

 特に、無理に坑道に潜ろうとして一日無駄にしたのは痛恨の失敗となる。


「しかし、わざわざ捕獲命令が出るなんて、随分重大な研究をしてたんだな、お前は」

「そうだな。お前みたいな低脳には理解できないような高尚な研究だよ」

「無学なのはわかっているが……、高尚な研究ならなぜ逃げた?」

「確かに僕は、研究ができるなら多少、法を犯そうが厭わない方だが」

「なら、いいだろう。研究費も設備もあるんだ」


 ここ一番で不機嫌そうに、苛立たしげに、グンゼは吐き捨てた。


「高尚な研究と言ったんだ、僕は」


 後ろ手に縛られ、万事休すながら、反骨心だけは未だに折れず。


「研究が低俗でおぞましいことに使われるのだけは、我慢ならないんだよ、僕は!」


 そんなグンゼを、操縦士の男は苦笑して見つめていた。


「そんなことで脱走したのか」

「そもそもあんなところに連れてきたのもお前たちだろう。拉致同然に!」

「でも、言われた通りに研究はしたのだろう」

「ああ、他に選択肢などなかったからな!」


 グンゼはただの研究者だった。

 小さな港町に住み、金を稼ぐためだけに仕事をし、その金を研究にそそぎ込んだ。

 設備もなく、困窮した研究だったが、それはそれで生活に満足していた。

 コミュニケーションが苦手なグンゼとしては、アカデミーとは反りが合わず、一人で自由に研究しているのが性に合ったのだ。


「研究しろと言われて従ったのは確かだ。少なからず、潤沢な資金と設備で好きにやっていいというのは魅力的だった」

「利害の一致だ」

「そうだな。認めてもいい。僕は私欲で悪魔に魂を売った」

「悪魔とは酷いな」

「だが僕の研究だ。あんな使い方は認めない」

「使う方の自由だろうに。お前は研究していればいい。使うのはこっちだ」


 その言葉に、気に食わない、とばかりにグンゼは男を睨み付けた。


「言っただろう、お前には理解できない高尚な研究と。魂だぞ。僕たちは鬱陶しい体を脱ぎ捨てることで自由になれる可能性がある」

「わからないな。体がなくなれば酒もタバコも楽しめない」

「だから低俗なんだ。何故解放された魂をまた肉の檻に閉じ込めなければならない!」


 その剣幕に、男はため息を吐いた。


「高尚過ぎて分からないな。だが、どちらにせよやってもらうことは一つなんだ」

「絶対に協力しないぞ、僕は!」

「関係ないな。それとも、自害でもするか?」


 確かに、男の言うとおりなのだ。

 このまま連れて行かれれば、研究するか自害するかの二択しかないだろう。

 正式な組織じゃない分、まともとは言えない手法ならいくらでも持っている彼らだ。

 拷問、脅迫、洗脳、どれくらいできるかはグンゼにはわからないが、その言葉が洒落にならない組織だと言うことは知っている。


(どうする……? 逃げるチャンスはまだ、あるのか?)


 冷えてきた頭でグンゼは考える。


(やはり、助けを求めるべきだったのか?)


 目を瞑り、思い浮かべたのは先日に出会った学者と兵士の二人だ。


(保護を求めるべきだったか? 恥も外聞も切り捨てて)


 研究所に監禁されていたグンゼは外の状態に詳しくないが、ある日突如として周囲が騒がしくなったのは知っている。

 エトランジェが、ルードヴィヒを退けた、と。漏れ聞こえたその言葉。

 王都にはそのエトランジェがいる。そのエトランジェに保護を求めれば、おいそれと敵は手を出せないだろう。

 問題はどうやって渡りを付けるかだったが、コテツは名のある兵士なのだろう。

 ゴーレムを粉砕した手管といい、只者ではない。だが、一兵卒がどこまで城の上層部に縁があるかまでは分からなかった。

 ではカーペンターはどうか。わざわざ護衛を付けられる程の学者なのだ。

 あの二人に頼めば、十分に可能性はあった。


(だが僕は、悪魔に魂を売った男だ)


 助けて欲しい、というには余りに遅すぎる。

 楽しんだのだ。研究を。どうせよくないことに使われると知っていて、自分を騙した。

 どうせ従う他ないのだと、言い聞かせながら楽しんだ。


(どの面下げて、助けろだなどと……)


 どちらにせよ、もう遅いのだ。


(よし、死ぬか。だが、どうやって死ぬ? 残した研究が心残りだが。……心残りだが)


 死を決意するが、手も、足も縛られている。


(気に食わない。僕の研究が踏みにじられる。あの世界を理解できない人間に踏みにじられ、食い散らかされる。くそ)


 舌を噛み切っても死ぬことは難しい。しかも、男は治療しようとするだろう。そうすれば尚更死亡率は下がる。


(一度だけだな。機体のハッチが開くその瞬間の一度だけだ。飛び降りる。どうにか隙を突いて。多分、死ねる)


 当たり所が良ければというべきか、悪ければというべきか。

 余程でなければグンゼは死ぬことができるだろう。


(……死にたくないな。まだ研究がしたい)


 グンゼはなまじ冷静にものを考えられる分、自分が死ぬ他ないことを知っているが、それでも覚悟を決めきれる程悟りきってはいなかった。

 むしろ、知識欲は人並み以上にある。そういう意味では人より生に貪欲だ。


(こんな小うるさい体、脱ぎ捨ててしまいたい。やはり、僕たちは肉体に縛られている……、いや、これは現実逃避か。言うほど僕も冷静じゃないのかもしれない。情けない)


 そう考えて、思い浮かんだのは、あの村で出会った兵士の顔だった。


(あいつなら、表情一つ変えなさそうだな。表情筋が死んでそうだからな!)


 爬虫類並に表情が読み取れない男だった。

 カーペンターという学者含め、よくわからない、変わった二人だ。

 そんな彼らと、子供たちと、最期に楽しく遊べたのは偶然の手向けだったのかもしれない。


(……まあ、ともかく。やることは決まったわけだな。ああ、そうさ。あとは足が竦まないことだけ考えろ。どうせ僕は運動音痴さ。慌てて機体外に出ようとしただけで、その気がなくても足を滑らせる)


 グンゼは喉を鳴らして唾を呑み込んだ。

 自分に言い聞かせても、やはり割り切れない。

 理屈は理解できても納得はできないでいる。


(大丈夫か、僕は。その時に、ちゃんと死ねるのか……?)


 グンゼは心中で呟いて、縛られた拳を握りしめた。


「さて、そろそろいいか」


 そして、休憩の終わりを告げる男の言葉。


「各機、作戦行動を再開する」


 その声に合わせ、周囲の機体も動き出した。

 だが、その動きは一度停止することになる。


「……ん?」


 声の代わりに、銃声が聞こえて来たからだ。


「……なんだ」


 男は、悠長に機体を振り返らせた。

 その先に、人影が見える。


「人? 軍服、軍人か?」

「まさか……」


 距離があって顔までは判別できない。しかし、こんなときに軍服を着た人間など、グンゼには一人しか思い浮かばなかった。

 男が、コンソールを動かし、人影を拡大する。

 そこに居たのは予想に違わぬ人物だった。


「コテツ……! あいつ、なんであんなところに!」


 グンゼを追ってきたのだ。そんなことはわかっている。

 だが、SHの前に生身で現れるその無謀さ。例えグンゼを思っての行動だとしても、無駄死にだ。


「……コテツ?」


 そして、歯噛みするグンゼの言葉に、男は過剰に反応した。


「確かに、見たことのある顔だ……。コテツ、コテツ・モチヅキじゃないか」


 その時、男の顔に喜色が浮かんだのを、グンゼは見逃さなかった。


「特級の抹殺対象か。しかも生身と来た」

「待て! あいつは無関係だ! このまま逃げるのは難しくはないはずだろう! どういうことだ!!」


 ここまで、周囲を警戒しながら動いている。

 だからこそ、生身で走って追いつけたのだろう。

 逆に言えば、逃げようと思って逃げるのが難しい相手ではない。

 と、言うのが現実的な案ではないのはわかっていた。どの方向に逃げたか露見しただけでも逃走の難度は上がる。


「ここは見晴らしがいい。どちらにせよ殺すが、エトランジェとあれば尚更に決まっているだろう、グンゼ」


 だが、それ以上の殺すべき理由があったことに、グンゼは驚いた。


「エトランジェ!?」

「なんだ、知らなかったのか」


 目を丸くするグンゼには目もくれず、男は部下に指示してコテツへと近づかせた。

 指示は単純明快。


『踏みつぶせ』


 弾や魔力の消費、命中精度などのことを考えればもっとも安定と呼べる選択肢だ。

 

「逃げろ! 逃げるんだ!!」

「うるさいな。彼には届かんよ」


 グンゼの叫びも空しく、コテツはそこに立ったままだ。

 微動だにしない。

 SHが片足を上げた。


「なぜ、動かないんだ、コテツ……」


 ぽつりとグンゼが呟く。

 そう、動かないのだ。逃げようともしない。

 意味が分からない。


「コテツっ!!」


 今に、踏みつぶされる。

 そう思った瞬間。


『ああもう! 何やってんのさ!!』


 コテツの前に、別のSHが現れたのが見えた。



SHの歩行速度は大体時速20km強です。

どうやって定義したのか今一つ覚えてないんですけど無次元速度がどうとかやったり、した、ような……。




工具について。

コテツなら多分SHにスコップ一本あれば何とかなると思います!

戦闘に重要な機能が一部オミットされてるだけで、機体性能そのものはそんなに悪くないですしね。



ソフィアの髪色について。

青寄りグレーカラーとさせて頂いたのは、

・書籍化すると思ってなかったので、絵にすることを想定したカラーリングではなかった。

・あざみとの差別化。

・私の中では割とグレー寄りのカラーでした。(何色と一口に言っても、受け手次第で千差万別であるとともに、私の描写不足でもあります。これに関しては正確に伝えられなかった私の実力不足です。申し訳ありません)

以上の理由による調整です。これは私が必要と思い、問題のない程度だと判断しました。

ご了承頂ければ幸いです。


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