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異世界エース  作者: 兄二
13,Make fun
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177話 禁じられていない遊び

 作業を始めて数時間が過ぎた頃。

 遂に二人は坑道の横穴を発見した。

 コックピットを出ると、土砂で埋まっていた部分と、無事だった部分の境目で、グンゼを始めとする数人の男たちが立っていた。

 男たちは、村の作業員たちである。


「おんや、みなさまお揃いで? てか、どしたの?」


 首を傾げたカーペンターに、事情を説明したのはグンゼだった。


「あなたたちがまた坑道に潜ってから、いきなりコレが押し掛けて来たんだ。あんまりにも必死に坑道に連れて行こうとするものだから、腕っ節に自信のある者を募ってここまで来た」


 そう言って指さした足下には、小さなゴーレムの姿があった。


「姿を見ないと思っていたが、助けを呼びに行っていたのか」


 コテツの言葉に、ゴーレムが大きく頷く。


「土の中を移動したんだねぇ。えらいえらい」


 しゃがみ込んだカーペンターがゴーレムの頭を撫でると、ゴーレムは照れたように頭を掻く仕草を見せた。


「まあ、ともあれ、二人が無事でよかった」

「ああ、すまない。心配をかけたな」

「別に。恩人に死なれると寝覚めが悪いからな」

「しかし、随分自然に受け入れられたものだな」


 コテツが、ゴーレムに視線を遣って言うと、グンゼはコテツの耳に顔を寄せて耳打ちした。


「学者様、なんだろう? 魔物じゃなくて、魔術師が創ったゴーレムだと思ってる」

「なるほど。カーペンターが作成したという事にしておけばいいのか」

「そういうことさ。さて、早く帰らせてもらおう。明日には発つつもりなんでね」

「急ぐ旅だったのか。すまない、手間を取らせたな」


 コテツの謝罪に、グンゼは肩を竦めて答えた。


「いや、どちらにせよ、準備がなくてね。今日は足止めだったとも」


 そういえば、始めて坑道で会ったときも、随分と軽装だった記憶がある。

 彼はいったいどのような旅をしているのだろうか。


「行き先は?」

「田舎に長居したくなくてね。王都に」

「ならば、送るが」


 目的の鉱石が足りるだけ掘り出せたかはわからないが、さすがにもう一度採掘するのは無理だろう。

 ちらりと背後の崩れかけた穴を見て、コテツは考える。


「いや、大丈夫だ。僕がいると、迷惑をかける事になるからな」


 眼鏡を直す仕草を見せて、彼はコテツの誘いを断った。


「そうか」


 それ以上詳しく追求することはなく。

 しばらく歩くと、前方から暖かい日差しが差し込んでいた。









 戻ってきた宿の一室で、コテツとカーペンターは暇を持て余していた。


「しばらく、使えないかぁ……。予算、降りるかな」

「君しか使わないような坑道であれば……、どうだろうな」


 掘ってみたはいいが、危険生物が徘徊するようになり、普通の人間は使用しなくなった坑道である。

 かといって、つぶしてしまうのももったいない、という状況だったが、勝手につぶれてしまった場合、直そうとするだろうか。

 そんな疑問を、コテツは思考の角に追いやった。


「俺が考えたところで仕方のない話だ」

「そーだねー。仕方ないかぁ。じゃあ、暇だし、どっか行こうよ!」


 あっさりと気分を変えて、朗らかにカーペンターは言った。

 確かに、まだ昼過ぎだ。

 夕食まで、時間がある。


「よっし、行くぞー」


 強引に彼女はコテツの手を取り、照れたように笑った。


「えへへ、手、握っちゃった」


 そのまま、彼女は歩きだし、手を引かれるまま、コテツはその後を追った。


「ねね、どこ行く? なにする?」

「任せる」

「マジで!? じゃあ暗がりとか行っちゃうう? 人に言えないことしちゃう?」

「前言撤回だ。公序良俗に反しない範囲で頼む」

「ぬーん、ダメかぁ」


 外に出て、二人手をつないだまま、カーペンターがくるりと振り返り、向かい合う。


「そしたらどこにいこうか」

「どこでも構わん」

「勘違いしないでよね! これはデートなんだから! オーケー? もうちょっと楽しそうにしようか!」

「君は楽しそうだな」

「うん! でもコテツさんは楽しそうじゃないねぇ。こんな美人が一緒にデートしよって言ってるのにさぁ」


 下から不満げに見上げられてコテツは黙り込んだ。


「あれ……、もしかして私って言うほど美人じゃない?」

「……美人なのは認める。起伏も大きく、女性らしい体つきをしている」

「え、うん……」

「会話も合う。気だてもいい。気さくで、俺のような付き合い難い人間にも明るく接している」

「……やめてください、死んでしまいます」

「なぜ敬語なんだ」


 いつの間にか、カーペンターは顔を真っ赤に、俯いていた。


「とにかく、俺は君に感謝するべきだ、と思っている。しかし、この顔だけは生来の性分だ。すぐにはどうにもならない」

「つまり、つまらない訳ではないんだね?」

「まあ、そうなるな」

「そっか、よかった」


 彼女はコテツの手を引き、再び歩き出した。


「どうするかは後で決めよう、うん」


 歩いていると、宿の庭に椅子を置き、読書をするグンゼの姿が見えた。


「あ、そういえば、さっきちゃんとお礼言ってなかった……」


 そう呟いたカーペンターは、庭の柵を越えてグンゼに近づいていこうとする。

 だが、それより早くグンゼに近づく小さな二つの影があった。


「ん? お前たちは……」


 そして、その二つの影は、グンゼに棒状のものを突きつけて叫んだ。


「やい、まおう! おまえのあくじもここまでだ!」


 叫んだのは、小さな男の子であり、突きつけたのは木の枝だった。

 その横に立つのもまた、年端もいかぬ少女であり、有り体に言ってしまえば、そう、ただの勇者ごっこだ。


「やば、怒るかな……?」


 カーペンターが不安げにその様を見つめる。

 見かけない大人がいたから遊んでもらおうとばかりに少年少女は近づいたのだろうが、相手はコテツほどではないにせよ、あまり愛想を感じない。

 そんなカーペンターの不安をよそに、グンゼが立ち上がる。


「ふん、ガキども……。我が魔本の力を受けてなお、同じ台詞をほざけるか?」


 そう凄んで見せたグンゼに、思わずカーペンターが叫ぶ。


「ノリノリだーっ!」

「な、なんてさっきなんだ、まおう……」

「まさか、その聖剣だけで我を倒せるとでも思うたか! 思い上がりも甚だしい!」

「くっ、このまおうに、おれは、かてるのか……?」

「諦めないで!」


 そう叫んだのは、カーペンターである。


「お、おまえは」

「久しぶりだね。君にその剣を授けて以来、かな」


 全力で子供のごっこ遊びに突入したカーペンターを、コテツは無言で眺めていた。


「確かに、剣だけでは、魔王は倒せない。でも、その剣に勇気を込めれば、魔王に届く……!」

「ゆうき……」

「くっ、だが……、それも剣が届けばの話。我が魔力の奔流を越えられるか!」


 無論、グンゼの周囲に魔力の流れは目視できない。

 だが、それにたじろぐように、対する三人が後ずさった。



「たしかに、これじゃ、ちかづけない……、まもるだけで、せいいっぱい」


 少女が呟く。


「くそう、ここまできて……」

「このまま押しつぶしてやろうぞ!」

「……大丈夫だよ。必ず倒せる。なんたって、今この場には、彼がいるんだから!」


 ちら、ちら、とカーペンターから視線が送られてきた。

 最初は無視していたが、四回目辺りでお前も来い、と目で言っているのだと把握する。


「……俺か」


 のそりと、コテツは柵を越えた。


「と、とう、さん……!?」


 いつの間にか、父にされていた。


「俺はどうすればいい」


 演技ではなく、心の底からの問いである。

 心中困り果てていたが、声が重く、冷たく響いた。


「コテツさんは魔王の動きを止めて!」


 コテツが、歩き出す。


「了解した」

「やらせんぞ! 我が魔力の奔流に呑まれよ!」


 手を差し向けるグンゼ。

 だからといって何があるわけでもないのだが、手からは魔力が放たれているという設定らしい。

 どうするかコテツは考えたが、カーペンターが何も言わずに黙っているということはそのまま行け、ということだと判断した。


「我が魔力が、効かない……!?」

「そう、勇者の父である彼の肉体は一切の魔力を通さず、跳ね返す!」


 と、いう設定である。


「馬鹿な、馬鹿な!!」


 コテツは驚くグンゼの背後に回り、羽交い締めに。


「うぉおおおおお!」


 少年が走り出し、木の枝を大きく振りかぶり、グンゼへと振るった。


「ばか、な……」


 コテツが腕を離すと共に、大仰にグンゼが胸を押さえ、膝を突いた。


「ふ……、今回は、貴様の勝ちだ、勇者……、だが覚えておくんだな……! おぞましき魔物とは、人の心に住むことを!」


 それらしきことを口にして、グンゼは倒れ込んだのだった。








「やー、楽しかったね!」

「ふん、子供の遊びに付き合うのも大人の仕事だ」


 にこにこと笑うカーペンターと対照的に、澄まし顔でグンゼが眼鏡を直す。


「グンゼさん、良い人だったんだねぇ……」

「か、勘違いするな。ただの気まぐれで子供に付き合ってやっただけだ」

「めっちゃノリノリだったじゃん」

「くっ……」


 そんな中、コテツはジャングルジム状態であった。

 子供たちによじ登られ、ぶら下がられ、時折落ちそうになったら拾い上げる。

 気が付けば二人しかいなかった子供たちは、十人弱まで膨れ上がっていた。


「ところで、アレはいいのか?」

「コテツさんも人気だねぇ」


 そう呟くとカーペンターはコテツに近づいていく。


「私もぶら下がるー!」


 そう言って彼女はコテツの首に飛びついた。

 下を向けば、すぐそこにカーペンターの顔があった。


「微動だにしないとは、お主、鍛えておるな!」

「軍人だからな」

「ぬうう、負けるかー! グンゼさん、グンゼさん! ぶら下がるんだ!」

「なぜ僕が……!」

「いいから! 早く!」

「う……」


 剣幕に圧されたグンゼがコテツの背後に回り、これまた首にぶら下がる。


「失礼する。……なんで僕がこんなこと」


 ぶつぶつと呟きながらグンゼは不満げにしていた。


「しかし、お前、本当に微動だにしないな。大人二人と子供八人だぞ」


 腕やら足やら、頭やら、人が接触してない場所の方が少ないような状況である。


「軍服越しに見てもわからなかったが、相当鍛えているのか……」

「逆に、君は随分と軽いな。十全な食事を摂っているのか? 体も少し鍛えた方がいいかもしれん」

「くっ、余計なお世話だ……、が、ひ弱な自覚はある。覚えておこう」


 悔しげな声でグンゼは言った。


「しかし、もういい時間だな。帰った方がいいんじゃないか」


 コテツは、空を見て呟く。

 今にも、日が落ちようとしていた。


「むむ、ようし、皆、撤退だー!」


 カーペンターが叫ぶと、蜘蛛の子を散らしたように、子供たちが方々へと走り出す。

 家へと帰っていくのだろう。


「ふぅ、僕も帰るよ。明日、早いんでね」

「ばいばい、グンゼさん」


 グンゼが立ち去ると、コテツとカーペンターだけが残った。


「俺たちも帰るか」

「うーい」


 そうしてコテツが歩き出す。


「ところで君は、いつまでぶら下がっているんだ」


 カーペンターは、コテツの首からぶら下がったままだった。


「いーじゃん。それより、結局、デートじゃなくなっちゃったねぇ。残念」


 余り残念そうに聞こえない声色で彼女は言う。


「あれはあれで、なかなか面白い経験だった」

「そっか、よかった。まぁ、でも、次は二人きりで、ね?」


 微笑む彼女を抱え上げ、コテツは改めて歩き出した。

あとがきに書くことがなくなってまいりました!


以下、感想欄にてお答えしておいた方が良さそうだと思った内容です。

本当は一件ずつお答えできればいいのですが、

どうも頂く感想というのはどれも嬉しく、どうお返事しようか考えるうちに一晩経ってしまったりしまして。

感想返信はストップさせていただいておりましたが、無視となってしまうと不実と言えるものもあり、特に私自身の不手際、間違いなどに関しては

作者として答えるべきと思った所のみ、拾わせて頂きたいと思います。

他、できれば、疑問などにもできればお答えしたいなと考えています。



ロングソードの定義に関して。

結論から言ってしまえば、申し訳ないのですが、長剣と統一で書いておけばよかったなと現在は考えています。

一応ですが、作中でロングソードは広義におけるロングソードとして扱っています。

西洋刀剣についてはどうも、定義が読む資料、時代背景ごとに異なっていたり(狭義における本来のロングソードは中世前期くらい? 感想でも仰っていたように騎兵が使用する剣という説を目にします)。

ただし、本作はリアリティ寄りの中世ファンタジーの類ではなく、重厚感皆無の軟派ファンタジーのため、RPG的でわかりやすい長剣として、「ロングソード」の名称を使っています。

しかしながら、違和感を覚えた方がいることと、正直そこまでこだわるべき表現でもないことを考えると長剣の方が適していたかな、と。

あと後キーボードで打つときに長剣の方が打ちやすいです。

というか、こういう説明が必要な時点で文章書きとしては負けだと思います。

申し訳ないのですが、今からすべてを長剣に修正するというのも難しいので、今後の参考とさせて頂きたいと思います。



速度と距離。

完全に私のミスです。

これは本当に申し訳ないです。

本当に深く考えてなかった結果となります。

回避運動を行ないながらだから直進距離ではないにせよ、

DFでの高速戦闘でならあり得ない距離が飛び出しています。



ヒロインについて。

増加気味な自覚はあったりします。

ただ、とりあえず、出したかったキャラクターはほとんど出そろいました。

そして、自分の傾向についてもある程度自覚がありますので、当初より、ヒロインには以下のような格付けでキャラクター分けがされています。

A,メインでストーリー展開が用意されている。

B,キャラクターエピソードとしては完結、再登場の余地はある。

C,1章限りの出演。

と言った感じである程度割り切ってキャラを増やしていこう、というのが方針でした。

ただし、言われてみればここしばらく、メインストーリーを進めたいがために早くキャラクターを出し切ってしまわなければと躍起になりすぎた感もあり、キャラクター登場回が続いたり、登場させることを重視しすぎたりしてしまったところがあります。

その辺り、上手くいっていないように見えるのは完璧に私の構成力不足と言うほかなく、

今後、精進させて頂きたいと思います。


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