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異世界エース  作者: 兄二
13,Make fun
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173話 坑道

「ルードヴィヒ様の容体は?」


 ラインイレーサー、本拠。

 地下の第一研究室。


「今の所、安定しています。ですが……」

「現状では動くわけにはいかない、か」


 机いっぱいに広がった資料を睨み付けながら、研究者であるヴィクセン・テトラットはいらだたしげに机を叩いた。


「あの裏切り者を何としても捕まえるぞ」

 

 二十代前半という若さに似合わぬ鋭い眼光で、ヴィクセンは助手を睨み据えた。


「しかし、彼がいなくても既に基礎部分は完成しています。あとは我々だけでも完成できなくはないでしょう」

「こだわりすぎるな、ということか? 確かに、我々だけでもどうにかはなる。それは私も疑っていない。だがな、ルードヴィヒ様は計画の遅延を望まれないだろう。何より私自身、一刻も早く、全てを終わらせたいと思っているんだ。培養液の中から未だ出られぬルードヴィヒ様を見るたびに、胸が締め付けられる」

「それは、私も同じ思いです……、いえ、研究所一同そう思っているでしょう」

「……そうか。では、やることはわかっているな。一刻も早く奴を連れ戻し、すべての作業を完了させる」


 ヴィクセンは深くうなずき、研究室から廊下へと出た。

 早足に歩む隣には、彼よりも若い、少年と見まごうような助手の姿がある。


「奴の居場所はわかっているんだろう?」

「はい」

「どこに?」

「ソムニウムです」

「……つくづく縁があるな! 奴は王都に逃げ込む気か」


 声を荒げつつも、頭の中は冷静に、対応を組み立てていく。


「転送システムは使えるのか?」

「いえ、まだ修理中だったところを、彼が無理に使用したことと、追っ手を阻むためあえて壊れるように設定して転移したため……」

「そちらの修理もやり直しか……、いや、尚悪いか。落とし前は付けてもらうぞ……! 近場に潜伏している部隊を動かせないか、軍事部門に要請してくれ。ルードヴィヒ様のためと言えば、彼らも嫌とは言うまい」

「分かりました!」


 歩みの速度は次第に上がりやがて二人は走り出した。







 不可思議な熱を発する坑道。

 コテツ達はその中を歩いていた。


「あんまり離れないでね。魔術で換気代わりしてるから。っていっても有毒ガスじゃ死ななそうだけどね」

「俺を何だと思っている」

「うーん……、っとと、来たよ!」


 カーペンターが答えようとして、途中で止める。

 前方から、地面を這うように何かが近づいてくる。


「ヒュージラットだね。大丈夫?」


 それは五十センチほどの鼠だった。

 ずんぐりとした体躯に土色の毛並。

 数は五。

 五対の赤い瞳がコテツたちを見上げていた。


「でかいだけの鼠で、魔術とかは撃ってこないけどすばしっこくて数が多いと厄介だよ。噛まれるとちゃんと治療しないと病気になるかもしれないから注意して」

「問題ない」


 即座にコテツは前方へと剣を投擲した。

 突き立つ剣が、ヒュージラットの一体を縫い止める。

 その手に武器がなくなった事を隙と見たか、それともただの本能か、一体のヒュージラットがコテツへと飛びかかり、もう一体が足下から襲いかかる。

 瞬間、ずだん、と爆発音のような重い音が当たりに響く。

 コテツの足が、直下のヒュージラットを踏み抜いていた。

 ただの鼠と呼ぶにはいささか大きいヒュージラットが、背骨を踏み砕かれ、落としたトマトのように地面にへばりつく。

 そして、その踏み込みのまま、コテツは下から拳を突き上げた。

 飛びかかったヒュージラットの腹へと拳が突き刺さる。

 採掘の為着用した白い革の手袋越しに、肉ごと骨を砕く感触。


「略式詠唱、黒き氷柱!」


 拳で打ったヒュージラットが跳ねるようにしてから地面へと落ちる最中、背後からカーペンターの声が聞こえた。

 瞬間、なにもなかった坑道に、岩の杭が生える。

 魔術で作られた柱が二体のヒュージラットを貫いた。


「ふぃー、アレだね。前衛がいると安心感が違うね」


 額の汗を拭うような仕草をしながら、カーペンターは言った。


「普段は一人で潜っているのか?」

「うん、そだよ。大した動物もいないし、危険はあんまりないし。それでも、普通の人は潜りたがらないから、半分私専用だけどね」

「それは、大丈夫なのか?」

「あー、ちゃんと別の坑道があるから大丈夫だよ、普通の人用のもっと安全な奴」

「では、何故君はこちらに?」

「そもそも、危ないのと今回の私の目的は分けられないんだよ。私が欲しいのは魔力を通す特殊な鉱石で、魔力素が潤沢なところにしかないんだよ。そして、魔力素が潤沢ということは、魔物がほいほい出てくるってわけさ」


 動物が魔力素を吸収し、変質した結果が魔物だ。

 魔物同士が繁殖する可能性もあるが、どちらにせよ生まれるのは魔力に適応した動物だ。

 魔力の関わる物が欲しければ、おのずと魔物に出会う確率も上がる。


「なるほどな」


 言いながら、コテツはロングソードを振るった。

 蝙蝠が悲鳴を上げながら地に落ちる。


「やー、でもほんと助かる。これからもついてきてもらおうかな」

「忙しくなければ構わない」


 だがそもそも、エーポスである彼女が、護衛も付けずにこんなところまで来ていいのだろうかと、コテツは思う。

 いくら、カーペンターが魔術が得意で、危険が薄いとは言え、不意打ちで大量の敵に襲われればどうだろうか。


「なんだったら、依頼を寄越せばこちらで採ってくるが」

「こればっかりは私の目で確認しないとねぇ」

「そうか。ではできるだけ呼べ」

「あはは、なんか悪いね、気を遣ってもらっちゃって。大丈夫だよ。慣れてるし」


 カーペンターはそう言って笑った。


「ふむ……」


 やんわりと断られてしまっては、コテツに食い下がる言葉はない。

 何かないものかと少ないボキャブラリーを探る中、気配を感じコテツはロングソードを振り抜いた。


「スキートバットだね。必要な餌の量が多いから、群は組まないで単体で襲ってくるよ。その方が楽だけど。ちなみに、吸血中はまったく無防備。血を吸われるのは慣れてるんじゃない?」


 ロングソード越しに確かな感触が伝わり、短い動物の悲鳴と共にそれは地面に落ちた。


「一緒にしたら怒りそうだがな」


 これまた大きめのコウモリを一瞥し、コテツは言った。


「さ、進もう」

「先ほどから思っていたが死体はいいのか?」

「心配しなくても、魔物たちは頻繁に洞窟内で食い合いしてるからね。死体もスタッフがおいしく頂いちゃうよ」


 確かに、この坑道に来るのがカーペンターくらいということなら、外からの食事は早々来ないというわけだ。

 となれば、ここの生態系はこの洞窟内で完結していることとなる。


「お、そこ」


 二人坑道を歩く中、彼女は不意に気が付いたように言う。

 指さした先は、何の変哲もない岩の壁。

 しかし、よく見れば表面が微妙に色が違う。


「埋まってる」


 彼女がそう言うと、コテツは腰に下げていたピックを手に持った。

 おもむろに彼はそれを振るって壁を掘り始める。


「うんうん、そこ。お、採れたね」

「これが目的のものか」

「うん。目標はもっと派手に大きくだけどね」


 壁からはずれるようにしてコテツの手に収まったのは、鈍い鉄色の鉱石だった。

 魔力に縁のあるということで光ったりしていてもおかしくはないとコテツは考えていたのだが、特にそういうこともないらしい。


「じゃ、帰ろっか」

「いいのか?」

「今日はお試し。どれくらいあなたが洞窟に慣れてるか試したかったし。これでどんな鉱石かもわかったでしょ?」

「ああ」

「おっけー、じゃ、ゆっくり休んで明日から本番ね」

「了解」


 そうして、二人は坑道を後にした。










「ヒュージラットとかの魔力は見えた?」

「いや、見えていない」


 宿の一室。まるで医者の問診の様に、二人は向かい合って座っていた。

 男女が宿に二人きり、というのは余り適切でないように思えたが、この部屋は彼女が個人的な伝手で常に空き部屋にしてもらっているらしい。

 既に年間使用料のようなものは支払い済みであり、経費削減を思えばこうして同じ部屋に寝泊まりすることになる。


「じゃあ、坑道全般では何か見えた?」

「見えていない」

「うーん……、無意識での発動条件がよくわかんないなぁ。今は?」

「特に何も」

「意識して見たら?」

「周囲に魔力素は見あたらない」

「じゃあこれは?」


 意識しながらカーペンターを見つめる中、不意に彼女の内側に薄く靄がかかる。

 彼女の内側に透けて見えるというのは些か妙な状況だが、魔力素が実体でない以上、それもあり得る話なのだろう。


「見えた。君の全身を循環するように動いている」

「ちょっと活性化すれば意識したら見えるんだね。このくらいの活性なら、坑道の魔物なら意識すれば見えるんじゃない?」

「明日、試してみよう」


 突如として降って湧いた視覚的に魔力を知覚できるという能力。

 使い方を考えれば、強力な武器になる。


「後は自動でオンになる条件かなぁ。まあ、初めて見るケースだし、すぐわかるもんでもないね!」


 カーペンターは立ち上がり、手を叩いた。


「今日はコレで終わり! 明日も早いのでしっかり寝るよーに!」

「了解」


 魔力素の感知についてはまだ積極的に役立てるのは難しいだろう。

 意識すれば見える、と言ってしまえば簡単だが、実践するのは簡単ではない。

 何の気なしに見ている木のテーブル、その木目は意識すれば簡単に見えるが、意識しなければ記憶にも残らない。

 ふと思い立って、意識して眺めることは難しくないが、四六時中常に意識するとなればどうだろうか。


(訓練で補えるか?)


 戦闘では、見てからでは遅いなどということはざらにある。

 そろそろ魔術が来ると予測し、意識して敵の魔力の動きを見てから攻撃する位ならその間に撃ってしまった方が楽だ。

 そもそも、これまで魔力など見えなくても魔術の類は避けてきた。酷く今更な話でもある。

 思わぬところで勝手に発動し、タイミングが良かった時くらいしか使い道がなく、役に立てば御の字と言ったところか。

 迷宮探索であればもしかするとと言ったところだが、魔力を使っていない原始的な罠には意味がないし、魔力が常に循環している、アンリエットと出会った牢の出入り口のような仕掛けならばいいが、スイッチを押してから初めて魔力が始動するような仕掛けであれば、またこれも意味がない。


(どちらかと言えば隠されたものや痕跡を見つける方に期待すべきか)


 使った魔術のその残滓。隠蔽を目的とした魔術。あるいは、隠蔽したい魔術に所縁のある品などは思い当たる場所で意識して見れば一発で分かる。

 もともと戦闘で必要としていなかった技能だ。別の分野で役立つならそれはそれで構わない。

 コテツは、椅子から立ち上がり、ベッドに入ることにした。


「襲ってもいいよ!」

「安心しろ」


 コテツは短く切り捨てて、ベッドの上で目を瞑った。


今回掘りに来たのはSHの装甲に使用される、レグタイトと呼ばれる鉱石です。

つまるところ、書籍版巻末資料の装甲材質レグリニウム合金のアレです。

ちなみに一式から三式までの各装甲に関する設定があるんですが、微妙な文量で中々出せないまま173話まで来ちゃったんでお蔵入りしたという……。

装甲がどうのとかそもそも気にならない人には果てしなくどうでもいいですからね!


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