153話 月光
「コテツ、これを見てちょうだい」
ある日、コテツはアマルベルガの執務室に呼び出されると、一枚の紙を渡された。
「これは?」
「読めば分かると思うけど、あなたに招待状よ」
素直にその紙に目を落とせば、祝賀パーティに是非エトランジェに出席して欲しいという内容だ。
それだけ見ればなんら変哲のない誘いの手紙なのだが。
差出人のディカルド・ディスタルド伯爵。コテツは、この名前に見覚えがあった。
「なるほど」
アマルベルガから受け取ったブラックリストにあった名だ。
正確にはグレーゾーンの相手である。怪しいが、特に何かしている確証もない。
「殲滅すればいいのか」
「……ねぇ、過激すぎよ」
頭痛でもするかのように、アマルベルガは眉間に手を当てた。
「そこまでしなくていいし。別に何にもなければそのまま帰ってきていいくらい」
「いいのか?」
「そこまでしろとは言わないわよ。もうちょっと相手が黒っぽければ証拠の一つでも掴んで来いって言うところだけど、現時点じゃ何かあったら報告するだけでいいわよ」
「そうか」
「まあ、たぶん何事もなく帰されるでしょうけどそれはそれでいいの。正直、わざわざあなたを突っ込む案件でもないし、かといって断るってほどでもないってところ」
面倒そうに彼女は言い切った。
「裏じゃ何かやってそうだけど、あなたが動くのはこっちで尻尾を掴んでからよ」
「何か怪しいところでもあるのか?」
「直轄区でご禁制の薬……、まあ麻薬の売買ね。規模が大きいのが気になるってくらいよ。大分巧くやってるのかしらね。いくら調査しても、ちょっとした地下組織にはつながるけど、領主までいかないのよね」
リストの中には、もう既に証拠が固まって、表舞台から降ろす準備が整っている者と、証拠が足りていないものが居る。
そして後者にはほぼ前者に近い者と冤罪の可能性がある者が混在する。
「現地に行って、会って、話して、何もなければ今回はそれでいいわ。調査は続けるけど」
言われて、もう一度コテツは紙面に視線を落とした。
祝賀会。内容としては女王の戴冠式の完了と、エトランジェの勝利を祝うらしい。
「伯爵の誘いに関しては、なんに対しても首は縦に振らないでね」
「ああ、分かっている」
もし相手が黒ならこの誘い自体罠かもしれないが、それに関しては可能性が低いと言える。
麻薬売買で富を得ながらも、今まで尻尾を掴ませず上手くやっているのだ。
エトランジェを害すリスクを犯すほど馬鹿な相手ではない。
では何が目的かと考えれば、懐柔、買収だろう。
「国益を損なわない限り、エトランジェの行動は阻害されない、か」
コテツが呟いたのは、自らの立場だ。
国益を判断するのは国王であるため、結局王の印象次第でもあるのだが、それ以外に対しかなり融通が利くことは強い。
現実的ではないが、大っぴらに麻薬の売買をした所で、節度を守れば、つまるところ王の不興を買わない範囲ならば問題ないのである。
「というかもう、止める自信がないわよ」
「必要があれば止めて貰わねば困るが」
「止めて。そんな必要があるような状況にならない事が肝心よ、ね?」
「君が望むならば」
「……そう。でも、実際どうなの? ソムニウムと喧嘩したら」
「前提として、単機なら占領統治の事は考えず、打撃をのみを与える事となるが、この国に属する全ての戦力を殲滅するのは骨が折れるな」
「……そう」
しらみつぶしで探して潰すには国は少し広すぎる。
「だが、王都の防衛網を壊滅させ、王都に致命的な打撃を与え、離脱するだけなら問題ない」
「あー……、そうでしょうね」
「後は国外に脱出するか、あるいは身を潜めてからゲリラ戦を展開するかだな。めぼしい領主の本拠を襲撃して離脱を繰り返していく」
「考えたくないわ、それ。駆けつけたときにはことが済んだ後とかね」
「と、言ったところだ」
「まあ、国として形を保てるか怪しい所までもっていかれそうということは分かったわ。さて、そこで質問ね」
「なんだ」
「麻薬売買されるのと、国が半壊から全壊するのどっちが国益に反するの?」
「……」
コテツは黙り込んだ。
「そういうことよね。つまりあなたさえ手に入ればこの国で大体やりたい放題できるってことよ」
「そうかもしれん」
「実際、あなたの注目度は最高潮に高まってるわ。この間の戦いといい、何か考えている貴族からしたら喉から手が出るほど欲しい切り札よ。これから誘いも増えるでしょうね、そんな風に」
そう言って、たおやかな指でアマルベルガは招待状を指差した。
「面倒だな」
「そう。でも、それだけ重要視されてるってことよ、心しておいて」
「君を裏切るつもりはない。勧誘するだけ無駄なのだがな」
「さっきからあなたは私を喜ばせてどうしたいのかしらね?」
あきれたようにアマルベルガが言う。
「む、俺は何か言っただろうか」
「なんでもないわ。さ、行きなさい。いい報告、待ってるから」
「了解」
ディスタルド到着初日。街の入り口ではなく、屋敷の隣にある格納庫へとディステルガイストを置き、コテツ達は屋敷の中へと向かった。
「あまり、格納庫に置いておく意義を見出せないのだがな」
ディステルガイストは可能であればあざみが保持しておくのがいい。
そうコテツは呟いた。
「まあ、そう言わずに。何か細工でもされたら一発でわかりますから。ここは向こうの顔を立ててあげてください」
「ああ、わかっている」
例えば、馬で来ながら、馬は預けないようなものだ。
それではまるで相手を信用してないように見える。
格納庫を自分で持っているような相手に招かれた時は、その格納庫に預ける。
それがこの国の礼儀として成立していた。
「それに、歓待のマニュアルみたいなものも、格納庫からスタートするわけですよ」
あざみの執り成しの通り、格納庫に降り立った瞬間から侍従達が出迎え、今まさに馬車に乗せられ、屋敷の前まで運ばれようとしている。
恭しく馬車の扉を開け、乗車を促す執事に、コテツは一瞬視線を送るとそのまま馬車に乗り込んだ。
距離は大したことがない。
一息つく暇もなく屋敷の前につき、コテツたちは再び地面に降り立った。
「さぁ、こちらへ」
執事が手で指示し、先導する。
コテツが続き、無用に大きな扉が開く。
エントランス。その中心に屋敷の主が立っていた。
「これはこれは、遠路はるばる、ありがとうございます。エトランジェ殿」
「問題ない。こちらこそ、招待、感謝する」
「勿体無きお言葉」
伯爵は、背の高い偉丈夫であった。
人懐っこい笑みを浮かべた大男が、僅かに腰を曲げ、視線を合わせてコテツと言葉を交わす。
「活躍の噂は、ここまで届いておりますよ! エトランジェ殿。何か私も支援できれば良いのですが」
「それには及ばん」
「そう仰らずに。欲しいものなどあれば、ご用意致しますよ?」
問われ、コテツは一瞬の逡巡の後に答えた。
「欲しいものは自分で手に入れる主義だ」
「さすがです。何かお力になれることがあればどうぞ」
「必要があれば、そうさせてもらおう」
「ところで、その欲しい物は、現在あるのでしょうか?」
「ないこともない」
ないと言ってしまうのは簡単だが、今少し探りを入れたいとコテツは考えた。
「何かとSH乗りは入用だ」
具体的な所は何も話さずに言う。
「なるほど、定期的にまとまった金額が欲しいというところでしょうかね?」
伯爵はどうやらSHの保守や改造に金がかかると解釈したらしい。
相手が食いついてきた以上、否定する理由はない。
「そんな所だが、今の所当てがない」
「なるほど……、では商売にご興味は?」
「あると言えばある。それなりの額が稼げるものなら大体な」
「始めてみてはいかがですか? その時は私も少し力添えしますよ」
「残念だが、エトランジェは一定以上の派閥を持てん。商売がはかどるほどの人員は動かせない」
これは事実だ。
エトランジェの名によって勢力を集められクーデターでも起こされれば溜まった者ではない。
一定以上の派閥の言う、一定とはその時勢によってさまざま異なるようだが、どの時代であっても少なくとも3桁を超えたことはないという。
ただし、これはエトランジェを守る法でもある。
派閥を作ればしがらみが増える。中立を保つ限り、エトランジェは標的にされ難い。
究極的に一個人の兵士でしかないコテツを害そうとするメリットがあるのは、正面切って女王とやりあいたい者だけだ。
女王と事を構えない範囲で巧くやろうという者に対して、コテツは現場に居合わせでもしなければ何の邪魔にもなりえない。
「エトランジェ様。商売とはさまざまなやり方があるのですよ。直接人に売る方ではなく、現地の売る人間に品物を渡せばいいのですよ。そうであれば、売る物を絞れば少人数で捌いていけます。ガレージの維持費とSHのパーツ代くらいならまかなえるでしょう」
まるで麻薬売買の話にも聞こえる。
販売は街の売人に任せ、最低限の人数で元締めをやる。
「そんな商品の当てがあればいいのだがな」
単一の商品で需要があり利益が上がるものがいいと、言外に口にする。
もちろん連想されるのは一つだ。
「そこは難しいところですね。何かいいものがあったらお伝えしますよ」
流石に食いついては来ない。当然ではあるが、そもそもグレーゾーンの人間である。
もし黒だったとしても、ここまでアマルベルガに大きな証拠を掴まれていないということは、それなりに用心深い性格なのだろう。
焦って引き込もうとはしないはずだ。
(あるいは俺の一人相撲かもしれんが。……そっちの方が気が楽か)
祝賀パーティまであと数日ある。いるかどうかすら定かではない敵に用心するのはどうにも疲れそうな話であった。
「おっと、つい話し込んでしまいました。では長旅でお疲れでしょうし、まずは部屋にどうぞ」
再び、執事が先導し、歩き出す。
長い廊下を歩き、コテツとあざみは別々の部屋に通された。
あざみは何か言いたそうだったが当然の帰結である。
「こちらの部屋になります。本日はゆっくりとお休みくださいませ。何かありましたらそちらのベルを」
「ああ、わかった。下がってくれ」
「は、それでは失礼いたします」
凛々しい動作で執事が退室する。
コテツは、ベッドに座り込んだ。
(近々、パーティ前に伯爵との茶会もある)
パーティ当日に現地入りするようなことはほとんどない。
到着が早いというより、出発が早いというべきか。
交通が発達しておらず現地に向かう際は半月やひと月がかりになることもある。そんな中天候によって旅が大幅に遅れることもあれば、体調を崩す可能性もある。
挙句の果てに魔物が出る。思ったより被害が大きければどこかで補充する必要が出てくるだろう。
何かあってもいいように余裕を持たせて出発するのが常なのだ。
遠方の者やトラブルがあった者などはギリギリに来ることもあるが、今回コテツとあざみはディステルガイストで何事もなくずっと飛んで来たのだ。
一番乗りと言ってもいいほどの早さであった。
「しかし……」
コテツはぽつりと呟いて視線を部屋の奥側へと向ける。
(あれは、何だ)
入室した時から気になったことがあり、コテツはそちらをじっと見つめた。
それは壁である。
アイボリーに塗り込まれた壁の柱となるレンガ造りの部分。
レンガの一つに白い靄がかかっていた。
(医者に見せるべきか)
最近、ああいった白い靄をよく目にする。
他者には見えないらしい。
何かの異常かもしれないのだが、さりとて調子が悪いという風でもない。
まずいようなものなら体が反応するものだが、いかんせんどうにも違和感がないのだ。
見えているのが普通だとでも言うように、靄はそこにある。
コテツは靄のかかったレンガに触れた。
「む……?」
何か、違和感がある。
繊細な操縦を行うパイロットの指先はかなり敏感だ。
その指がごく僅かにそのレンガが動いたのを捉えた。
「固定されていない。押し込むことができるのか」
何らかの仕掛けなのだろうか。
罠であるかどうか。否だろう。白い靄があったから気づけたようなもので、そうでなければ気づくことはなかっただろう。
罠のスイッチであるならこれは罠にかける方が押すものだ。
「ふむ」
迷いなくコテツはそれを押し込んだ。
果たして、罠が発動するようなことはなかった。
コテツの予想通りの結果である。
しかし、かといって何が起こるというわけでもない。
(ただの欠陥か? ……相手が相手だからと過敏になりすぎているのか)
そう思った瞬間彼が変化に気付く。
横の壁だ。横の壁に白い靄がかかっている。
それは人ひとり分程度の大きさで、かなり濃い。
コテツは、その壁の前に立ち、先ほどと同じように壁に触れようとした。
「何?」
その行為は失敗した。
伸ばした先に、壁の感触がない。
有体に言えば、手がすり抜けた。
コテツは、唐突に自らの軍服のボタンを引きちぎった。
王家の紋章が特別に施されたそれを、コテツは徐に壁の向こうへと投げ込んだ。
かつん、かつん、と固い何かを跳ねる音が響く。
向こう側には床があるらしい。
(あざみを呼ぶか)
探索しに行きたいが、果たして帰還できるかが問題だ。
推測するに、あのレンガはスイッチだ。
しかしあのレンガはどれほどの時間で元に戻ってしまうのか。
一定時間であれば、誰かをこの部屋に残しておきたい。
そう考えあざみを呼びに行こうと思った瞬間、ノックの音が響いた。
「ご主人様ー、開けますよー」
「ああ」
丁度タイミングよくあざみが入室する。
「丁度いい。あざみ、頼みがある」
彼女が入室するなりそう言うと、彼女は喜色の笑みを浮かべた。
「た、頼みですか! まさか、長旅で溜まってるからその捌け口を私に。けだものですね! 受けて立ちましょう!」
「そこに見えない空間が存在する。魔術だと思うが少し調べてくれないか」
「ですよねー。違うとは思ってました。で、そこの壁ですか?」
「ああ、これだ」
言いながら、コテツが壁に触れる。
「わお、消えました」
「そこのレンガを押し込んだらこうなったようだ」
「ふむふむ?」
彼女はわざとらしく顎に手を当てながら、前かがみになって壁を見る。
「はーん、なるほど、うん。もともとはただの壁だったんです?」
「多分だが、そうだ」
最初壁の方に靄はなかった。レンガを押して発生したというのが妥当だろう。
あざみには見えてはいないのだろうが。
「でも、よくわかりましたね」
「偶然だ」
「これ、認識阻害の魔術ですよ?」
「なんだそれは」
「んーとですね」
壁の中へを入れて、彼女は左右に動かし始める。
何かに当たったように手が止まり、そこから彼女は滑らせるように手を上へと動かした。
すると、また止まり、今度は右へ。そこからしばらくしてまた止まって下へと動いていく。
彼女の掌が、丁度人ひとり分より大きいくらいの長方形をなぞった。
「と、こんな感じで、本当はこの壁には長方形に穴が開いているわけです。たぶん普段は普通に壁があるんでしょうけど、そこのスイッチを押したらこう、せりあがったり下がったりしたんじゃないですかね。隠し扉ってやつです」
「なるほど」
「しかしですね。用心深いことにそこから更に、壁が動くと同時に、壁が存在していると見せかける魔術が働いているようです。結構いい奴ですよ、しかも。ここが空洞だってことを知っていないと壁の感触を勝手に錯覚しちゃうと思うんですけど……、ご主人様、どうやってわかったんです?」
「なんとなくだ。指先に違和感があった」
とりあえず無用な心配をかけることもないとコテツは適当にごまかした。
「そうですか。まあ、とりあえずそんな感じです」
「体に害は?」
「知っている人間だけが通り抜けるための術式ですから、通っても全く問題ありませんよ」
「そうか、わかった。では行ってくる」
「え、ちょ、ちょっ、行くんですか!?」
歩き出そうとしたコテツの背に、慌てた声がかかる。
「む、そのつもりだったが」
「いえ……、まぁ、確かに気になりますしいいんですけどね」
「ああ、では、君はスイッチの方を頼む。スイッチが戻るようなら五分に一度、スイッチを入れなおしてくれ」
「わかりました。じゃ、ここで待ってますね」
「ああ」
迷いなくコテツは進み、靴の底で地面の間隔を確かめながら中へと入っていく。
感じたのはひんやりとした冷たい空気と、湿った臭い。
そして。
コテツは踵を返して部屋の中へと戻っていった。
「あれ、お帰りなさい」
あざみがきょとんとしている。
「明かりがない。ランプを持っていくぞ」
少し微妙な空気が流れたが気にせずランプを点火し中へ。
見れば、内部は石造りになっている。
先の見えない、石造りの廊下だった。
その通路を奥へ奥へと進む。
「……む」
しばらく進むと、その奥に、うすぼんやりと光が見えた。
コテツはランプを消すと、腰から銃を引き抜く。
間もなく闇に眼が慣れた所で、彼は前に進んだ。
何か、気配がする。
生命というものが感じられない暗く静かな廊下の向こうに、息遣いが聞こえる。
明かりの漏れる先。鉄格子が見えた。
(地下牢なのか?)
ともあれ、息遣いの主はそこにいる。
コテツはぬっと音もなく格子の前に出ると、格子の向こうへと銃を構えた。
「久方ぶりの客人だ……。こんにちは、いやこんばんはかな。ああ、すまない。こう長くここにいると時間の経過が掴めなくてね」
若い女の、いや、少女の高い声が石の壁に反射した。
「君は誰だ」
コテツの視線の先にいたのは少女だ。
陳腐な言葉で言えば、美しく可憐だ。
長い、艶やかな銀の髪に、金の瞳がランプの明かりに反射して財宝のように煌めく。
まとった襤褸切れと、無骨な手枷と足枷が、薄明りの照らす白磁の肌と対照的で、どこか背徳的だった。
手枷は鎖で繋がれ、これでは満足に動くこともできないだろう。
「君は誰だ。何故ここにいる」
銃を向けて問うコテツに、少女は驚いたような顔をした。
「私を知らないでここに?」
「知らん。誰だ。有名なのか」
彼女にとってコテツは予想外の客らしい。
当然と言えば当然だろう。
コテツだってここを見つけたのは偶然だ。
「レンガに靄を出したのは君か」
「なんだいそれは?」
念のため確認するが、不思議そうに彼女は首を傾げるばかりだ。
その顔は、あどけない少女の割に酷く大人びて見える。
「いや、何でもない。それで、君は何者だ」
「私の名前は……。いや、言わない」
「君に選択権はないぞ」
呟いてコテツは意識させる用に銃口を揺らめかせた。
それを見て、何故か彼女は微笑んだ。
待ち望んだ救いでも見つけたかのように。
「引き金を引くなら、どうぞ。でも、貴方に逆らう気はない。聞きたい事があればなんでも答えるさ。でも、名前は教えない」
「何故だ」
「必要ないからさ」
「その判断は俺がする事だ」
「じゃあ、名前は後にしてほしい。言いたくないんだ。意味があるとも思えない。他の事全て聞いて、それでも必要と思えば……、聞けばいい」
脅しは効かないらしい。何となくコテツは察した。
戦場で幾度か見たことがある。
「君は死にたがりの顔をしている」
「それが貴方の聞きたいことかな? 普通、感じても口にしないけどね、そんなことは」
「ただの確認事項だ」
「そうだね。心のどこかで貴方が引き金を引くことを願っているよ。でも、手や足から撃つのはやめてほしいかな」
おどけたように彼女は言った。
「いくら死ににくいと言っても痛いものは痛いんだよ」
「……それについては同感だ。では、質問が終われば楽に殺してやると言ったら?」
「それは駄目かな。私は自ら死を選ぶことはないよ。死を餌にされては、私は口を閉ざさざるを得ない」
その言葉に、コテツは自分でも気づかぬうちにわずかに目を細めた。
「君は矛盾している」
「知っている。でもいろいろあるだろう。身勝手に死ねるのは、ある意味幸せ者だ」
「そうか」
呟いてコテツは銃を下ろした。
「いいのかな?」
「脅しは無意味だ。君が協力的な以上今のところこれは必要ない。では問おう。名前は聞かない。君は何故ここにいる」
「いい質問だね。全てがこれで片づくよ。私は――」
彼女の金の瞳が妖しく光った気がした。
「私は、吸血鬼さ」
はい、というわけで吸血鬼編……、なのですが、
いろいろ気になるので今死ぬほど書き足してます。当初より三割か四割文章が増えそうです。
できるだけ毎日更新できるようには努力しますので、良ければお付き合いください。
ちなみに、書籍化関係はつい先日校正された原稿が届いたのでこちらを修正中。
死ぬほど忙しいですが暇で閑古鳥が鳴くよりずっといいなぁ、という心境。
さて、今回は本作のメインヒロイン疑惑のあるアマルベルガ。
今回の章でもチョイ役出演を果たしましたね。
章単位の登場回数で言えばコテツに次ぐような気もしてきました。
しかしながら、今回の書籍化の範囲ではコテツとはそんなに仲良くなかったんだなぁ、と今しみじみしてます。




