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異世界エース  作者: 兄二
02,初仕事
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14話 Let's Rock!!

 緑の機体が、拳を構えている。

 コテツは、この世界に来て今までになく、愉快な気分だった。


「あざみ。出力を七十%落とせ」

「ええ!?」


 唐突な言葉に、あざみは驚いていたる。当然、クラリッサもだ。

 だが、コテツだけが笑っていた。


「すまんが、俺の我侭だ」


 普段からは考えられないほど獰猛に、だ。


「全力でやりたい」


 そして、驚いていたあざみだが、コテツが言うと、唐突に彼女はは笑い始めた。


「ふ、ふふふ、ふふ、そうですか。ああ、ふふ、はい。私のパートナーは我侭ですね。ですが。私のパートナーとしては素敵な我侭です」

『出力低下』


 機械音声が響き、出力が落ちたことを確認する。

 後はクラリッサだ。自称相棒はともかく、彼女はコテツの我侭に付き合わせることはない。

 そう思ってコテツは口を開く。


「クラリッサ、君はシャルロッテに回収してもらえるか? 些か危険だ」


 対するクラリッサは、首を横に振った。


「ここまで来たら、最後まで付き合います。コテツ・モチヅキ。今更降りろなんていわせませんが。騙していた分、存分に見せなさい」

「騙したつもりはないが」

「わかっているわ。だから、それで手打ちにしてあげるって言ってるんです。負けたら承知しません」


 ならば、異存はない。

 そして。


(負ける気もない……!)


 コテツは、腕を振って出力の状況を確認。そして、左右に構えた腕を、体の前に。


『おいおい、出力を低下だの聞こえてきたんだが、舐めてんのかい?』

「気に食わないなら、上げないと手に負えないくらいやればいい」

『違いない』


 睨み合う二機。


「ふふ……、そしたら、今回はデッドラインは無粋ですかね……」

「なにをする気だ?」


 妖しく笑ってあざみは言った。


「私の得意分野は光ですからね。こういうことも可能なんですよ?」


 瞬間、前に出したディステルガイストの腕、そのすぐ前に光が灯る。

 そして、光は文字を描き始め。


『行くぞっ!』


 相手が拳を振り上げた瞬間、言葉になった。

 描かれた文字は。

 右腕に『――Let's』。

 左腕に『Rock!!』。



「Let's Rock!! 意訳するなら……『ノリノリで行こうぜ』ってところですかねぇ?」

「――中々粋な演出だ」





『おぉおおおおおおおお!』


 翠に煌く拳が迫る。

 屈んで避ける、そこから足払い。

 小さく跳んで避けられた。そこから、相手は空中で蹴りを放つ。

 大きく仰け反り、回避、そのまま蹴り上げ。

 だが身を捻ってかわされる。

 コテツは着地時に蹴り上げた足を地に付け軸足に、回し蹴り。

 腕で受け止められる。


『甘ぇ!!』


 胴に拳が迫る。


「……甘いっ」


 コテツは迫る腕を掴むと同時、受け止められていた足に更に力を入れ、投げる。


『おわっとと、地面はどこだ?』

「下だ」

『そりゃそうだ』


 自ら敢えて飛ばされることで、横に一回転しながらも、アルベールは着地。

 そして、屈んだ姿勢からの鋭い蹴り。

 まるでカポエラのようだ。どんな瞬間でも威力の乗った蹴りを放ってくる。

 だが、コテツの顔に焦りはない。


「鋭い。だが、それだけだ」


 身を逸らして、避ける。


『手厳しいねぇ。そいやっと!』


 アルベールは更に、蹴りだした足を地面について、低く深い踏み込み。

 掌底。

 その掌に向かって、コテツは拳を突き出した。

 拳が、掌を弾く。

 シャルフ・スマラクトが半歩引いた。

 ――双方、至近距離。


『ォおおおおおおおぉおおおおおおおッ!!』


 緑の拳が煌いた。

 瞬間、拳と拳が打ち合い、離れる。


「まだだっ!」

『お互い様だッ!』


 今一度、もう一方の拳が重なり、離れる。


『更に!』

「見えてる!」


 拳がかち合う。そして離れる。


『ま、だ、まぁ、だぁあ!!』

「……!!」


 殴る、離れる。

 殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る!

 拳で拳を打ち落としあい、打ち落とされた拳をまた放つ。

 壮絶な打ち合い。

 神がかったラッシュ。


『おぉおおおおおおおああああああッ!!』


 それは最後に――。

 ――緑の拳が抜けた。


『俺は! 恩を、返すッ!!』


 迫り来る拳。

 このまま行けば、機体の頭部に直撃する。

 果たしてどれほどのダメージがあるかは分からないが、相手の渾身の拳だろう。無傷とは行くまい。


(羨ましいことだ)


 そんな中、全てがゆっくりに見える世界で、コテツはふと、考えた。


(……俺には生きる理由もない)


 死にたくは無い、とは思うが生きる理由は今だ見つかっていない。

 『その死にたくない』だって、大した考えがあるわけではない。ただ、自殺したいとは思わないだけだ。

 つまり惰性だ。惰性で生きている。

 生きる理由など、どこにも存在しないのだ。


(だが……!)


 しかし、ふと、コテツは思い浮かべる。

 背後にいる、己を主と言った相棒。

 応援すると言ってくれた従者。

 不器用に、渇を入れ続けた、少女。

 そう――。


(……死ぬ理由も見つからないッ!!)













 アルベール・ドニ。

 金の長髪に、碧い瞳。軽薄そうな顔。着古した、迷彩服。

 これでも、昔は真面目に騎士を目指していた男だ。

 それが無理だと悟ってからは冒険者に転向。そして、山賊と言う数奇な運命をたどった。

 そして、騎士を断念せざるを得なかったアルベールだが、しかし、魔術は使えないがその分別の分野を限界まで鍛え上げ、練り上げた。

 自分でも、一角のものだと自認している。

 対する相手は、どこかおかしかった。


(ありえねー、ありえねーってこりゃ)


 何故なら、最初のナイフを敢えて弾き飛ばされての一撃。

 アレは必殺のはずだったのだ。あえて抵抗無くナイフを弾き飛ばされて、そのまま刀に拳を入れる。

 そして、体勢が崩れたら追撃だ。後は反撃の隙も与えない。


(だが、アイツはそれを回避した……!)


 彼もまた、意趣返しのようにあえて自分から刀を手放した。結果、無様に体勢を崩されるどころか反撃を放ってきた。

 そして、このラッシュ。

 相手の技量は凄まじかった。


(すげぇよ、そりゃ。拳での接近戦仕様じゃねぇーんだろ? なのに、拳闘仕様のシャルフ・スマラクトに付いて来る……)


 わざわざ、拳で拳を打ち落としてくる。


(ああ、すげぇ。そう、十分アンタは頑張ったともさ。だがね、機体の仕様はガチだよ。出力を下げてなけりゃ、これで俺に負けることもなかったかもしれんけど)


 あくまで正々堂々とやってきた相手に敬意を払い、アルベールは拳を振るう。

 そして。


(ありえねー……、ありえねーよなぁ、こりゃあよっ)


 勝った、と思ったのだ。勝利を確信していたのだ。

 渾身の拳は突き抜けたはずなのだ。

 ラッシュに競り勝ち、その拳は相手に直撃するはずだったのだ。

 確かに、最大の拳がヒットしたと、思ったのだ。


『――お……、お、おおおおぉおおおおおおッ!!』


 だというのに。


(何で俺が殴られてるんだっ!!)


 避けられた。

 土壇場で、首を逸らされた。

 一寸も無い距離で。


(ありえねぇ! あの戦いの中で避ける余裕なんてどこにあった!! どうやったらアレを避けられる!? まるで、まるで分かってたみてぇに!!)


 そして、もぐりこむような拳が、顔面に直撃した。

 大きく、後ろに飛ばされる。


「ぐおおおぉおおおッ!」


 必死でアルベールは機体を操作した。

 倒れたら終わる。

 そこで終わる。


「転ぶなよぉおおおお!?」


 果たして、祈りは届いた。

 大きく背後に滑りながら、シャルフ・スマラクトは立っている。

 確かに、大地に足をつけていた。

 だが。

 だがしかし、自嘲気味に、アルベールは笑う。


「あーくそ。乱暴なノックだなぁ……。死神さんはよ」


 既に、眼前にそれはいたのだ。

 煌々と赤く目を輝かせる、モノクローム。

 眼前に立つ、死神。


「イカレてる……、いや。――最高にイカしてるぜ、アンタ」


 まるで、鎌の刃でも首に当てられたかのように。

 ひやりとした声が、耳に届く。


『――終わりだ』


 瞬間。

 アルベールの体を衝撃が貫いた――。


(これで、良かったんっ、かねぇ……? どうせこんなこと、続けてられるわけもねーしさ……)


 緑の機体が、立ち上がることは無かった。












ちなみに、腕の字は書き換えたわけではなく、あざみが光魔術で腕の前に字を描いた形となります。終わった後は、粒子撒いて消えました。



ということで、戦闘終了。次はエピローグ。

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