150話 適切な零距離感
夜は静かだ。
いつも騒がしすぎるくらい騒がしいあざみも顔を出さないし、リーゼロッテに頼む用事もなくなり、休んでもらえば一人の時間が訪れる。
コテツ・モチヅキはこういった時間が嫌いではない。
ランプの明かりで、本を読む。元の世界ではあまりできなかった事だ。
そんな暇がなかったのもあるし、各地を転戦すれば本を手に入れることも難しかった。
同時に、然程本に興味がなかったのもある。
暇や余裕ができてやっと、こういったものに手が出せる。
「……ふむ」
備え付けの机にランプを。そして上等な椅子に座って読むのはチェスの指南書だ。
最近のコテツは、馬鹿の一つ覚えのようにこういった本ばかり読んでいる。
コテツには、自らは文学的な本を読む読書家にはなれないという自信があった。
コテツは自らが無学であるという自覚があるが、それ以上に、この世界の言語とその解釈の壁が存在していた。
召喚された際に、全く異国の地と言えるこのソムニウムで全くコミュニケーションに問題ないほどの翻訳魔法をかけられた、正確にはそれ込みでの召喚がなされているのだが、これが厄介なもので、文章も読めるのだが参った事にニュアンスや比喩、意訳すべき点等が読み取れない。
人間を相手にした場合、声色や感情なども読み取っているのか、そういった不都合がないのだが、文章はどうにもならない。万能に見える翻訳魔法の弱点である。
真にコテツが本を楽しむには、ありのまま正確に翻訳された文章を、再度翻訳し直す必要がある。
例え異国語から日本語に翻訳するという工程が省かれたとしても、そう簡単に行くならば翻訳家など世界に必要ないだろう。
まずは、表現から勉強し、身に着けなければならない。
そういった今まで関わってこなかった分野を勉強して見るのも悪くはないとは思うのだが、どうも食指が動かない。
興味の無い分野とでも言えばいいだろうか。
「まるで学生のモラトリアムだな」
昔、エースとして中学校に赴き、軍への志願を奨励したことがある。
広報部の用意した、現役の英雄が「未来のため、共に戦おう」と子供達を勇気付けるというシナリオに則って、台本通りにいたいけな子供達へと耳障りのいい言葉を口にする、そういう巡業のようなものだ。
そうしてコテツの言葉を聞いた子供達の中には、みんなを守る軍人になる、だとか、コテツのようなパイロットになるであるとか、一緒に戦いたいだとか口にした子供もいた。
やりたい事が決まっている。子供故の短絡さもあるだろうが、今思えば、少し、羨ましい。
呟いたコテツは、本を閉じた。
ぱたん、と僅かに空気を漏らしてその本は今日の役目を終えた。
「明日は勝てるか」
呟いて、無理だろうなと心中で返す。
少なくとも、教本に頼るうちはチェスで勝てる日は遠いだろう。
とかく教本を読み込んで、それを手放してからが本番なのだ、とコテツは思う。
ふと、本を手放したコテツはランプの明かりを見つめた。
「不便なものだな」
嫌に原始的な明かりだ。
街中には人型機動兵器が闊歩するくせにと、コテツは何度目になるかわからない違和感を抱く。
果たして、何らかの照明を実用化することは可能だろうか。
まず発電所を造り、その上更にインフラを整備し広域に供給。まず、コテツには無理だろう。
少なくとも国を挙げての事業になる。今のソムニウムでは難しいだろうしコテツにそのような舵取りはできない。
電気があって当然の生活はしていても、その基盤を造った時代の人間ですらないのだ。どのように普及させたかなど想像も付かない。
そういったインフラ系を整備する事のできたエトランジェは、きっと凄まじい執念があったのだろう。
では、バッテリー式などのものはどうだろう。
これは簡単そうだ。事実、街灯などは周囲の魔力素を取り込んで点灯するスタンドアローン系統らしい。
思うに、造るのは簡単なのだろうが、こちらは設備の小型化や、ジェネレーターなどのコスト的な問題があるのだろう。
しかし、これでは技術者の仕事であってコテツにできる事などない。
「元々、向いていない自覚はあるが……」
元の世界ではDFに、今ではSHに乗るくらいしか能のない男なのだ。
最近は、それでもこうして考える事がある。
要するに、道を探す一環だ。
こうして、少し暗い部屋に一人座っていると、嫌でも何か考えろと空間が急かしてくる。
静かで、誰にも邪魔されない、この空間。
意外とコテツは、この瞬間を気に入っている――。
「主様」
と、思った瞬間乱暴にドアが開け放たれ、扉が悲鳴を上げた。
かと思えば閉めるときは静かに優しく。
入ってきたのはノエルである。
「……入る時はノックをしてくれ」
既に随分と遅い時間だが、彼女は薄紅の髪をそのまま垂らし、白いノースリーブのシャツに、手元が広がったラッパ状のアームカバー、紅色のプリーツスカートと、日中に見るいつも通りの格好だった。
「夜の時間帯に敢えてノックせずに勢いよく男性の部屋に突撃する事で男性のソロライブに遭遇。ソロライブを邪魔され男性はハァハァと興奮状態。そこに若い女が入れば我慢できずにそのままベッドに押し倒されて朝チュンまっしぐら、だそうですが。主様は楽器を嗜むのですか?」
「……いや、特には」
またヨハンナの入れ知恵か、とコテツは諦観にも似た感情を抱く。
そして、またいつも通りノエルは意味合いを勘違いして捉えているようだ。
「では、今度楽器を購入しに行きましょう」
「俺に音楽的才能はない。楽器を演奏するつもりもないぞ」
「そうですか。困りました」
もしノエルが困らない事態になったら、今度はコテツがひたすら困る事になるだろう。
頭痛がしそうな頭を堪えつつコテツは問う。
「それで、何の用だ」
まさか、用件がそれだけということはないだろう、と思いつつももしかするとそれだけかもしれないなどと過ぎりつつの質問だ。
「そうでした、主様。大変な事になってしまいました。一大事なのです」
「なに?」
ちゃんとした用件があったことに安堵を覚えつつも、一大事とやらにコテツは僅かに眉を動かした。
夜中に訪ねてくる程の大事。予測されるのは、荒事の類か、それとも機体とエーポスに関わる事か。
荒事などいつ起きてもおかしくない立場であるし、前回の一件によってコテツと彼女等エーポスは深く結び付いた。
何らかの変調をきたす可能性もある。
「――最近、ベッドに入って主様の事を考えると、眠る事ができません」
「……そうか」
コテツにできたのは短く答える事だけだった。
心のどこかでろくな用事じゃない気がすると思えたのも、一つの慣れだろうか。
「それで」
「それで、とは?」
「それに対し俺にどうしろと」
「困っています」
言いながら、彼女はぼす、と音を立ててベッドの上に割座した。
所謂女の子座り、とでも言えばいいだろうか。
「主様の事を考えると眠れなくなってしまうので、主様に会っていれば、考えなくて済むかと」
「効果はあるのか」
「今の所は。しかし、他にも困った事があります」
「……この際だ、言ってみてくれ」
コテツは、椅子から立ち上がると、ノエルの座るベッドに近づく。
「もしかして、主様に嫌われているかもしれないと思うと、なぜか胸部に圧迫感を覚え、呼吸がしにくくなります」
そう言って、彼女は少し俯いた。
そのまま彼女は地を数秒見つめたかと思うと、コテツを見上げ、彼の袖を摘むようにして掴んだ。
「……だめです」
なんとなくだが、泣きそうな雰囲気が見て取れた。
「それは、いけません」
自分で言いながら、考えてしまったようである。
見掛け上は無表情だが、彼女は随分と表情豊かだ。
「嫌ってはいない」
「本当ですか?」
「ああ」
「主様は、私の事をどう思っていますか?」
「好ましく思っている。だが、君の要求する愛情とはまた違ったものであるとも思う」
コテツは本音を口にした。
変に取り繕って好きだと言っても拗れるだろうことは間違いなしだ。
「そうですか」
彼女の求める好きとは違うのだろうが、それでも信頼する相棒の一人なのである。
「その証拠が欲しいと思うのは、わがままなのでしょうか」
「証拠?」
「あなたが私を、親愛としてでも好いてくれているという証が、欲しいです」
「どうすればいい」
「抱いてください」
「それは親愛から逸脱している」
「……おかしいですね。証が欲しいと言えば襲ってもらえると」
どこまでが本気なのか、相変わらず分からないのがノエルだ。
「ではキスが欲しいです。おやすみのキスが」
「キスならいいという理屈はおかしい」
「そうとも限りません。世の父や母は子にお休みのキスをする事があるそうです。つまり、家族の情の域を出ません」
「そうなのか――」
納得しかけて、今回は思いとどまった。
「そういえばだが、君は俺の子ではない」
「そうでした。では、どうしましょう」
ノエルが小首を傾げ、考え出す。
「ノエル、星が綺麗だぞ」
そこに、あまりにも唐突にコテツは言った。
ちなみに、カーテンが閉まっている上に、今日は雲がかかってあまり空は綺麗ではない。
あまりにもド下手過ぎる話題転換である、がしかし。
「そうですか。そういえば、最近あまり、外に出ていません」
コミュニケーションがド下手という点ではノエルも負けず劣らずであり、あっさりと話題は変更。
「そうでした」
呟きながら、ノエルがまた俯く。
今度は、眠そうで、少しまぶたが下がっていた。
「主様、明日……、一緒に……」
ぱたん、と。
電池が切れるようにノエルが前へと倒れる。
「ノエル」
呼ぶが、返事がない。
別に苦しそうでもなく、ただ普通に、というか安らかに寝息を立てていることを見るに、最近本当に眠れていなかったのだろう。
コテツは、仕方ないので彼女をベッドに寝かしてやる事にした。
片手で彼女を抱え上げると、布団をめくり、彼女を寝かせる。
「服がしわになりそうだが……」
まさか脱がせて着替えさせるわけにも行かない。
今更リーゼロッテを呼ぶのも憚られた。
仕方がないので、そのままだ。
布団をかけて、そのまま寝かせる事にする。
「さて、俺は……」
椅子で眠るか、と言い掛けて、いつの間にやら服の裾をがっしりと握られている事に気が付く。
引き剥がしたら起きてしまうかもしれないくらい力強くだ。
起こしてしまって再度あの問答になるのも少々面倒だったコテツは、少し考える。
が、そこで都合よく、まるでさっさと寝ろとでも言うように、ランプの油が切れ、ふっと光が消える。
「……あるじさま、わたしと……、いっしょに……」
ぽつりぽつりと寝言を呟く彼女の寝顔をちらりと見つめた後、コテツはたった一つしかないベッドで寝ることにした。
朝、目が覚めると同時に状況を確認する。
昨日はノエルと一緒に寝て、今は静かに寝息を立てるノエルに抱きしめられている。
「……ふむ」
ベッドの上とはいえ振り落とすのは不憫に感じたコテツは彼女を抱き返し、抱えるように身を起こした。
抱き合うような格好で二人、ベッドに座る。
「……おはようございます、主様」
ぱちり、とノエルの瞳が開いた。
「ああ、おはよう」
そして、しばし見詰め合う。
「離れてくれないか」
「それはどうしても必要な事項でしょうか」
「できれば」
「できません」
コアラか何かかと言いたくなるほど離れたがらない彼女に、コテツは言った。
「一度部屋に戻って着替えてきてくれ」
「着替え、ですか。……臭いますか?」
「いや、違う、そうじゃない。街に出ようと思う。君もどうだ」
「わかりました」
即答だった。
即座に彼女は離れると、何もない空間から今着ているものと全く同じ服を取り出し、徐に現在の服を脱ぎ捨てた。
「……部屋に戻って着替えてきてくれと言ったつもりだが」
「結果に大差はありません」
「過程を重視してくれないか」
「問題ありません」
「いや、ある」
コテツは呟き、諦めて目を瞑って見ないことにする。
「早く着替えてくれ」
しばし、衣擦れの音が響き。
「終わりました」
ノエルの言葉が耳に届き目を開くと。
そこには、下着姿の彼女の姿があった。
「どういうことだ」
「ちょっとした茶目っ気です」
真顔でノエルは言う。
「もう少し茶目っ気らしさを出したらどうだ」
露骨に目を逸らしながらコテツはズレた意見を口にした。
「てへぺろ」
いつもと変わらぬ声色。
コテツの目には映らないが、これも真顔だろう。
「……」
諦めた様に、コテツは目を瞑った。
「早く着替えてくれ」
「はい」
そして、少々の時間が経ち。
「終わりました」
今度は、しっかりと着替えている。
入れ替わるように、コテツがベッドから立ち上がり、着替え始める。
じっと見つめてくるノエルを黙殺してコテツは着替えを終えた。
職業柄、あまり気にしない方ではあるのだが、微動だにせず、瞬きすら怪しい程にガン見してくるとあれば、些か居心地が悪い。
「では、顔を洗ってきます」
「……ああ」
結局部屋に戻るなら、ここで着替えた意味は会ったのか。
頭痛がしそうなのでコテツは考えるのをやめた。
ともあれ、そろそろリーゼロッテが来る頃だ。
「コテツさん、起きていますか?」
いつも通りの時間のノック。
「ああ。入ってかまわない」
コテツが言うと、木製のバケツを手にしたリーゼロッテが入室する。
「お水です」
「ああ、すまない。ありがとう」
コテツは呟いてその水を受け取る。
今先ほど立ち去ったノエルの姿を思い浮かべ、コテツは洗顔をするのだった。
「何か、欲しいものはないか?」
街に出た第一声がそれだった。
コテツの考えはこうだ。
どうにか彼女の言う証というものを物で代替できないか、と。
そういった類を物に代えるのは少々不順かもしれないが、ある意味勲章だってそうであるし、結婚指輪だってそうだろう。
ただし、何を渡せばいいか分からないコテツはあっさりと考える事を放棄したのである。
清々しいまで潔く諦めた結果が、本人に聞く、だ。
「愛が欲しいです」
が、ノエルはそう簡単に御せる相手ではなかった。
「金で買うのは難しいな……」
「そうですか」
「他にないか」
問うと、こくりと彼女は首を傾げた。
「わかりません」
「そうか」
結局二人は、あてどもなく街を彷徨う羽目になった。
「あなたは、何がいいと思いますか」
逆に問われ、コテツは困り果てる。
しばし、沈黙の後。
「花か」
あまりにワンパターンな選択であった。
「花、ですか」
「花は嫌いか?」
「嫌いではありません」
つまり、好きでもないということか。
「あなたが贈ってくれるのなら、嬉しく思いますが」
「ふむ……」
とりあえず女性には花を贈っておけ、というわけにもいかないようだ。
「女性は、装飾品か」
「アクセサリですか」
あまり反応はよくない。
「ふむ。調度品はどうだ」
「インテリアですか。参考までに、主様はどのようなものを部屋に置いているのですか?」
「……」
コテツ、黙る。
考えてみれば、必要最低限、元から部屋にあったもの以外は増えていないのだ。
「君は、何が好きなんだ?」
「主様です」
きっぱりと目を見て言われて、コテツは大きく息を吐いた。
「それ以外で頼む」
「……なんでしょう」
「聞かれても困るな」
そう呟きながらも、コテツは趣味というものに思いを馳せる。
「本はどうだ」
いの一番に思いついたのがそれだ。
「主様はどうですか?」
「最近よく読んでいる」
「では、それで」
「……どういう意味だ」
「どういった本を読まれるのですか?」
コテツの問いは無視され、別の問いが返って来る。
「チェスの本だな。最近はそればかりだ」
「主様はチェスを?」
「ああ。初心者だが」
「私もやります」
コテツの言葉を食い気味に、彼女は言った。
「……ノエル、君は君がやりたい事を」
「主様と、チェスがしたいです。愛する人と同じことをしたいと思うのは、間違いでしょうか」
「……いや、そうか」
ここまで真っ直ぐ好意をぶつけられると、少し背筋が痒くなる。
かといって、あざみを見習えとは口が裂けても言わないが。
「では、本屋に行くか」
コテツは淀みない足取りで本屋へと向かった。
なにせ、それこそ前にノエルと歩いた道のりだ。
あっさりと書店に辿り着く。
店の扉を開ければ、古い紙の匂いが鼻腔をくすぐった。
「どれが良いのでしょう」
印刷技術が未熟であるため、本というものが大きく普及しない中、品揃えが少々不安だったが普通に何とかなりそうだ。
コテツは、一角で本をぱらぱらと捲って中身を確認する。
「君はチェスをどれくらい知っている?」
「今の私にとっては主様のコミュニケーションの道具です」
「……つまり素人と」
どれがいいのかなど、コテツにも分からない。
何せコテツも初心者である。
が、どれが初心者向けかはコテツにも分かった。
何せ、初心者であるコテツが理解できる、あるいは理解できそうな内容のものを探せばいいのだから。
逆にさっぱり分からないような内容のものは上級者向けと言えるだろう。
「これだな」
「分かりました、本日は持ち合わせがないので、その内にこれを……」
「俺が贈ろう」
コテツが呟くと、不思議そうにノエルは目を瞬かせた。
「主様が、私に、ですか?」
「不満か?」
「いえ。ですが、よろしいのでしょうか」
気の利いた台詞の出ないコテツは、その本を持ってカウンターへ。
すぐさま、買い上げてしまった。
「では君にこれを」
今しがた買い上げ、紙袋に入ったそれをノエルに渡す。
「ありがとうございます」
相変わらず無表情で、嬉しそうに微笑んだりはしない彼女は、大事そうにその本を胸に抱きしめていた。
「行くか」
思ったよりよくわからない方向に進んだが、彼女が喜んでくれたならそれでいいだろう。
コテツにとっても、ボードゲームに興じる仲間が増えるのは悪くない。
しかも、同じ初心者で、実力が伯仲するのなら、願ってもない。もしかすると連敗記録が止まる事もあるかもしれないだろう。
「主様。分からない事があったら、聞いてもいいでしょうか」
「俺に分かることなら答えよう。分からないことは、リーゼロッテにでも聞いてくれ」
果たしてこの本は親愛の証になったのかならないのか。
さっぱり不明だったが、ノエルの雰囲気がなんとなく楽しそうなので良しとすることにした。
ランプの光が部屋を照らす。
今日のコテツは椅子に座ってぼんやりと考え事に耽っていた。
今日の議題は、クラリッサを怒らせない会話方法についてだ。
(彼女は簡単に怒りだす。俺の発言が不用意なせいだと推測されるが、口を噤めばそれはそれで怒りだす)
比較的本気で、コテツは悩んでいた。
(計測した所、ここ一週間で俺と彼女の会話回数は18回。事務的会話が10回と、挨拶程度が4回、私的な会話が4回。彼女が怒りだした回数は4回。ふむ、先週に比べると減っているな。いや待て、週に4回も怒り出すのはおかしい)
自分の感覚も狂い出している事に少し薄ら寒いものを覚えつつ、コテツは考える。
(会話の端々に謝罪する作戦は失敗だった。何を謝っているのですかと怒り出した。……カルシウムの摂取を勧めてみるか?)
と、全く以って的外れな思索に挑むコテツ。
夜の静かな時間は、思考を落ち着かせてくれる。
今日はいい案が出そうだ。
考え事に最適な、静かな夜の時間、コテツはそれが嫌いではない。
「主様」
噛み締めた瞬間、ノックと声。
「……開いている」
返事を返せば、今日は静かに扉が開いた。
「眠れません」
コテツは黙る。
何故だか、頭痛がして来た気もする。
「何故だ」
「夢を見ました」
「どのような」
「主様に、面倒だから近寄るなと」
やはり、本一冊では不安は拭いきれなかったか。
「私は、面倒でしょうか」
夢に見るということは、少なからず自覚があるのかもしれない。
いつもの無表情は迷子のように不安げで。
コテツはそんな彼女に向かってこう告げた。
「そもそも、俺にとってはほぼ全てのコミュニケーションが難解で面倒だぞ」
一体何の慰めなのか。
「……」
コテツですら察するほどの気まずい沈黙が舞い降りる。
「……寝るぞ」
コテツは、誤魔化すように言った。
ランプの火を消すと、一人分の空きを作ってベッドに入る。
「どうした」
「……最近、主様を近くに感じます」
「そうか」
「そのためか、あなたの事ばかり、考えています。だからこそ、不安になるようです」
「寝ろ」
ノエルの言葉に対し、コテツは短く返した。
「遅くまで起きているから妙な事を考える」
「……はい」
躊躇いがちに、彼女はベッドに入ってきた。
「これで君は、俺の寝首が掻けるな」
「そのようなつもりはありませんが」
「知っている」
コテツは、ノエルに背を向けて呟く。
「だが、これはそういうことだ。そういうことを君に許している」
コテツの背に、手の感触があった。
「意味は分かるな」
無表情で、まるで体温すらないかのように振舞う彼女の手は、その実温かい。
「はい」
「寝れそうか」
「はい」
「では、寝てくれ」
「はい」
もう今日は見れそうもない彼女の顔は、こんなときも無表情なのだろうか。
益体もないことを思いながらコテツは目を閉じた。
以来、酷く頻繁にノエルが一緒に寝るようになったことについて、彼はあざみに追及を受ける事となった。
「犬猫と変わらん」
その言葉は、あざみに言っているのか、それとも自分に言い聞かせているのか。
「……ああ、犬猫と変わらん。……多分な」
多分後者だろうとその会話を聞いていた者は思ったという。
さて、というわけで書籍化する訳ですが、やはり気になるのは書籍化のメリットかと。
ダイジェストとか削除もありませんし、更新もこっちで続きます。
では書籍化の見どころは?
ということで、書籍化のメリット、下にまとめときました。
ちなみにさらに下の方にカバーイラストとか出てるんで、気になる方は飛ばして見に行きましょう。
・メカが格好いい。
プロのメカはやっぱり違いますね! 血沸き肉踊ります。
正直二冊目以降が出るとしたら一番楽しみなポイントです。
・女の子が可愛い。
プロの女の子はやっぱり違いますね!
メカはやっぱり細かいデザインなどいろいろあるのですが、
こちらは全力でGOサイン出しました。
・執拗な加筆修正。
頼まれてもいないのに一部戦闘を差し替えたりしました。
大筋は変わってないですけどちょこちょこ加筆はしてます。
特に一章は大目にやってます。
戦闘については、一章・グラット・エイサップ(ほぼモブ)との戦闘を一通り差し替え。
二章・アルベールとの戦闘序盤差し替え。三章・ブランサンジュのトドメ方法変更。
三章はちょっとした変化、二章は序盤が大分。一章はごっそり変えました。
・本になる。
コレクション要素と、本には本の良さが、デジタルはデジタルの良さがあると思います。個人的には紙もデジタルも好きです。
大体こんな感じです。
実は私はコミカライズで一巻分読んだ結果、原作を二巻目から読み始めたことのあるうつけなので、同じモノをもう一回読んでもという気分もわからないでもなく。
せっかくなんで戦闘シーンだけでも地味に改造しといたんでそこだけ立ち読みでもしてもらえればこれ幸いです。
さて、では今日はカバーイラストとコテツとディステルガイストの絵から公開していきましょう。
カバーイラストです。面子はコテツとあざみとディステルガイストですね。
コテツです。私のイメージより結構若い感じですが、大人の事情というやつですね。書籍化に当たっては若い方がいいそうです。
見慣れて来たらこれはこれで中々いいんじゃないかと思います。
2014/9/17追記
コテツのデザイン変更が決まりました。
ディステルガイストです。地味に何回か出しなおしてもらってます。
メイン主人公機ですし、アクションに必要な部分とかいろいろあって大変でしたが流石にプロの仕事は違うなぁと思います。
次回は多分あざみの設定画が出てくるんじゃないかなと。