137話 苦言
「で、恋人っぽいってどうすんだ?」
「……俺に聞かないでくれ」
そうして、人通りの少ない路地で二人、顔を見合わせる。
「恋人、恋人ねぇ……、腕でも組むか」
「好きにしろ」
「ああ」
ルイスがコテツの腕を抱きしめるように、腕を組んだ。
そして、しばらく彼女はその状態のまま固まっていたが、少しずつ、彼女の顔が赤くなっていく。
「……大丈夫か」
聞いた瞬間、慌てて彼女がぱっと腕を離す。
「やっぱナシ!!」
即座にルイスは後ろを向いて真っ赤になった顔を押さえた。
「思ったより恥ずかしいわコレ……。なしだな、うん……、アホみてぇ」
「本当に大丈夫か? 体調を崩したのでは……」
コテツが言い切る前に彼女が叫ぶ。
「照れてんだよハゲ。こっち見んな」
「ふむ……、禿げてはいないぞ」
「反応するのそっちかよ!!」
「いや、だが、事実と異なる」
「知るか!!」
「顔が赤いぞ、まだ照れているのか」
「キレてんだよ!!」
「……君の頬の赤みはよくわからん」
言うと、彼女ははぁ、と溜息を一つ。
「お前のほうがよくわからねぇよ……。っていうかお前は恥ずかしくねぇの?」
「確かに歩き難く一般的なものではないだろうが、恥ずかしいものなのか? これは」
「いやだってよぉ……。よく考えりゃあたし男にべったり触るの初めてだった。男って、見た目よりごつごつしてて固いんだな」
「ふむ、確かに王宮や貴族に肌をさらす人間は少ないからな」
彼女の護衛、ドミトリーと言ったか。彼もかなり鍛えこんでいるようだが、彼も立場のある騎士だ。礼服を着込む姿からは、箱入り娘ではその中身を想像することはできないだろう。
「てかお前もちったあ、何かないのかよ」
「慣れている」
「慣れてる、ってぇ、どんな風に」
「よく、エーポス達にされる。どういう意図があったか不明だったが、なるほど、恋人らしいのか、これは」
「お前さ、早いとこ亡んだ方がいいと思うぜ、マジで。なんだと思ってたんだよ」
「広い面積での肉体的接触を求めているのかと」
「せめて単純にくっつきたいだけって言えよ。いや、確かに間違ってねぇかもだけどよ」
そして、ルイスはコテツを呆れたように白い目で見る。
「つかさ、エーポス達にてったらスゲェ美人だろ? しかも年もとらねぇ。最終的にそれが良いか悪いかは置いといて男の夢だろ、しかも複数とかお前……、なんかないのかよ」
「……ふむ」
コテツが考え込む素振りを見せると、ルイスはコテツが答えを出す前に口を開いた。
「……ああ、ないから焦ってんのか」
「そんなに俺は分かりやすいのか」
「おう。そりゃ、複数から言い寄られてうはうはって方でも、するっと躱せる方でもねぇだろアンタ」
否定のしようもない。
コテツは確かに焦っている。
「ようするに、待たせてんだろ」
「ああそうだ」
「そーかい。なら、待たせときゃいいだろ、好きなだけよ」
「しかし、時間は無限ではない。彼女等に、時間の無駄を過ごさせるのは忍びない」
彼女達は待つと言った。だが、コテツが応えられなければその待つ時間は無駄だ。
ならば早めに見切りをつけたほうが後々有意義だろうと、コテツは思う。
しかし、それでも彼女達は待つらしい。
ならばコテツは早く答えを見つける必要がある。
だが、そんな思いを、ルイスはあっさりと鼻で笑った。
「ふん、何様のつもりだよ。お前はよ。結果が出なきゃ無駄ってか。んなこと言えるほど上等な人間かね」
「む」
「向こうが好きでやってんだから、他人様のやることにケチ付けてんじゃねーよ。無駄だと思ったら勝手に見切りつけてやめるだろうし、そうじゃないから待ってんだろ。お前が偉そうに時間を無駄にさせるのは可哀想だ、とか言える相手なのか? アンタは謙虚なんだか傲慢なんだか分からん。反論あるか」
「……確かに、そうかもしれん。一理ある」
「素直でよろしい。向こうが待つってんなら待たせとけ。待ってる間に諦めるのも待ち続けるのも向こうの勝手。向こうが諦めた後に答えを出して後悔するのはお前の勝手。代わりに、待たせてる自覚があんなら半端はしないほうが、お互いのためなんじゃねぇの?」
そう言って肩を竦めた彼女をコテツはじっと見つめた。
「……存外に深いことを言うな、君も」
すると、彼女はコテツを見返すが、すぐに視線を逸らす。
「別に……。んなことねぇよ。それより次だ。美味い飯屋がいい」
「食事か」
「高級じゃねぇとこがいいな。安すぎもせず高くもなくて、そこそこ程度に美味い店」
「……難しいことを言う」
「じゃああそこでいいわ。アレ」
そう言って彼女が指差したのは何の変哲もないレストランだった。
しかし、今日に限って言えば、テーブルや椅子を外に出し、オープンカフェの様相を呈している。
「別に構わんが」
近づいていくといくと、ウェイターにすかさず席を案内される。
コテツ達は椅子に座ると、メニューを見た。
「じゃあカルボナーラ、後水」
「ランチセットを頼む、飲み物はコーヒーを」
言うと、ウェイターが下がっていき、ルイスが切り出す。
「で、ぼちぼち相談でも聞いておこうかね」
「いきなりだな」
「そういうのはとっとと終わらせるに限る」
面倒臭そうに彼女は言い放った。
「ほれ、早くしろよ」
「わかった」
ルイスと向き合い、コテツが語ったのは丁度昨日の襲撃されてからアマルベルガの元を去るまでの事だった。
この先どうすればいいのか、などという漠然とした問いにすぐ答えが出ないのは既に分かっている。
だから彼は、もっと直近の話題を指した。
「……ふぅーん、なるほど。姫さんに何か言わねぇとと思ったが、何も言葉が出なかった、と」
「俺は彼女に何を言えばよかったのか」
「何を、ねぇ……」
コテツからそれを聞くと、ルイスはそれらしく唸って見せた。
「それで、何も言えなくてイラついたんだろ?」
「ああ」
「……それが答えなんじゃねぇの?」
投げやりに彼女は言った。
意味が分からず、コテツは問う。
「よく分からないぞ。何が答えなんだ」
「お前、バカだろ」
「確かに、賢いつもりはないが」
「難しく考えすぎじゃねぇの? もっと物事は単純に、感じるままに吐き出せばいいんだよ」
答えそのものを教えてくれる気はないらしい。
これが、何かのヒントになるのだろうか、とコテツは考える。
「感じるままに……、か」
「以上。後は自分で考えろ」
そう言って、彼女は腕を組んで料理を待った。
そんな彼女に、今度はコテツが問いかける。
「では、君の話も聞かせてもらいたい。ここでも話せないか?」
「ここまで、尾行とかはなかったよな?」
「ないな」
「……そか。じゃあ大丈夫か」
ルイスが少し、声のトーンを下げた。
「先に聞いとくけど、お前のとこの城の内部は、大丈夫なのか?」
「……内通者、か」
「怪しいヤツとか、いるか?」
「今、特にはいないな」
「そうか……」
ルイスは、苦しげに呟いた。
「多分あのザトーとか言うじーさんはよ、隠れてきたんじゃなくて、どっちかって言うとアルトとエーポスみたいな、空間系、距離をなかったことにする類の魔術で出てきたんだと思う」
「それは俺も同感だ」
コテツの感覚には、相手はそこに唐突に現れたように感じられた。
あの時点までは何一つ捉えられなかったのに、唐突に現れたのだ。
「で、アタシに付いてた装置は多分発信機みたいなもんだよな?」
「だろうな」
つまるところ、あの装置の元に転送され、あの装置を基点に転送する、ということだろう。
どこにでも自由に送れるというのなら、アマルベルガの寝室に送ってしまえばいい。
どこからでも呼び戻せるというのなら、アマルベルガ本人を自分の下に転送すればいい。
(アレがないと全く使えないのか、あるいは大雑把にならアレがなくても問題ないのかは分からんが)
アレそのものが転送を行なう装置ではないことは、エーポス達が保障してくれた。
彼女等もアルトを呼び出したりするため分かるらしいが、要するに、あんな大きさで転送装置が作れるわけがないと言う。
しかも、その装置を作ったとして、狙った所にきっちりと転送を行うことはほぼ不可能との事だ。
空間は時の流れによって、空間は絶えず変動し続けているらしい。
狙撃に似ている、と言えばコテツにはわかりやすいかもしれないと、あざみは言っていた。
時の流れを加味しない転送は、レティクルに標的をあわせただけの狙撃と同じだという。
要するに、気圧、湿度、気温、風向き、風速を加味しない狙撃は流されて外れる、ということだ。
そして、その計算を行なっても、完璧に計算しきるのはほぼ不可能。少なくとも多少のずれが出る。
それゆえの発信機であり、それゆえに、あざみ達は自分達を基点にアルトを呼び出す。
(好きなところに出せるなら、エーポスに補給物資を送らせることで補給線がいらなくなる。そんな都合のいい話があるはずもないか)
そして、コテツはその時のあざみの言葉を思い出す。
『時間の流れってやつで座標は常に変動します。けれど、私達は動いていません。だから、座標を指定じゃなくて私達を目標に出せば正確な転送ができる訳ですね。私達との繋がりが深くなれば、ご主人様の場所も時空間的に把握できますからそっちにアルト送れますけど。まあ、私達の居ないアルトだけ送っても仕方ないですが』
そう考えると、エーポスを一人本拠に残していけば、物資を送ってもらえるのではないかと思ったが、距離に限界があるらしく、やはりそう上手くは行かないらしい。
あまり遠ざかると、曖昧に方向しかわからなくなるそうだ。
少し、話が逸れてしまったが、ルイスの問いに対する答えは一つだ。
「あれが発信機だというのは、ほぼ確定でいい」
「うん、だよな。それでなんだけどよ。アレをあたしにくっつけた奴が問題なんだ」
それが分かれば苦労はしないのだが、彼女は意外な台詞を放った。
「ドミトリーはどうだ……?」
「……君の護衛か。どういうことだ」
「そもそも、なんで発信機を付けられたのがアタシだったんだ? 他にも、面会してたヤツは沢山いたろ」
「確かにそうだな」
「つまり、適当に選んだんじゃなきゃ、アタシが都合よかったって事さ。じゃあどんなヤツかって、アタシの予定を知ってて、アタシに近づくのが簡単なヤツだろ」
確かに、それならばドミトリーが一番に出てくるかもしれない。
「聞き取りの時にアイツもいたから言わなかった。そしてアイツに聞かれたら困るから、ここまで来たワケだ。気付かれてることに感づいたら、アイツも多分霧みたいに消えちまうだろ」
確かにそうだ。向こうには転送という反則染みた手札がある。
その上で彼を捕まえるには、不意打ちしかないだろう。
「少なくとも、アタシに変なものをつけられるのはアイツしかいねーんだよ」
「それは本当か?」
「昨日、アタシはお前んとこのメイドの着替えの手伝いは断った。廊下で何人か会ったが手が触れるとこまで近寄ってねぇ。朝飯食いに行った時は、確かに何人か後ろを通って行ったさ。でもな、その時にはドミトリーが背後に控えてた。アタシの背中に触れるようなヤツ、見逃すはずがねぇ」
状況証拠は揃っている。信憑性は中々に高そうだった。
「その後アタシは部屋に戻った。アタシんとこのメイドが茶を出しに来たが、やっぱり触られることはなかった。メイドが王族に触れるなんて恐れ多いらしいからな。んで、アンタんとこの姫さんとお話よ」
「証拠はないが、グレーだな。黒に近い気もする」
「だよな」
状況証拠だけであれば確実に黒。
戻ったら確認する必要がある。
「わかった。戻り次第彼を確保しよう」
「おう、サンキュ。ぶっちゃけ、アイツの側が怖いからとりあえず逃げてようと思ったんだが、結果オーライだったよ。話せてよかった」
コテツが言うと、安堵したように彼女は溜息を吐いた。
どれくらいの付き合いがあったのか知らないが、裏切られた衝撃と、心労はコテツには計り知れない。
「彼がどうなるかは分からんぞ」
あくまで気丈な彼女が、あのときのアマルベルガに重なって見えた。
「はー……、ん、任せる。好きに、やってくれ」
そして、背もたれに思いきり背を預け、天を見上げる。
「悪いヤツじゃ、ないと思ったんだけどなー……」
「……ご主人様に、何か言いました? アマルベルガさん」
王女の執務室にふらりと現れたあざみ。
彼女は、書類を片付けるアマルベルガへと、そう問うた。
「言ったわ」
「何を?」
珍しい組み合わせの二人である。
元々他人への興味が薄かったあざみは、アマルベルガとも積極的な関わりを持とうとしたことはなかった。
「要するに、どこか行きなさい、と言ったつもりよ」
「おや、それは困りますねぇ。ご主人様と離れ離れになってしまいます」
わざとらしくあざみは言うが、アマルベルガは目もくれなかった。
「あなたも行っていいわよ。どうせ、扱えないじゃない、あの人以外、誰も」
アルト乗りの数は、時代と共に変遷を続けている。
一国に十人近くいた時もあれば、一人もいない時もある。
今は少ない方だろう。特に、この国は殊更。
大抵の場合は、酷い争いがある時に多く現れる。必要に駆られ、死を賭して乗ろうというものが増えるからでもある。
戦争がなければ逆だ。必要もなく、死のうという人間は多くはない。自分の力を過信した者や野心の大きすぎる者が乗って後悔することはあるが。
「探せば乗れないことはない程度の人は見つかると思いますよ。アルトを100%で乗りこなせる人は世界に何人いるのか知りませんけど」
アルトに乗るに当たって、必ずしも完全に乗りこなす必要があるかと言えば、否である。
完全に乗りこなすには、機体と操縦士の相性もある。要するに、選り好みするほど乗れる人間がいない。
乗っても死なないという大前提の更に上に、機体の操縦の適性、相性まで考えるといよいよ見つからなくなってくるわけだ。
そのため、エーポスによっては、70%の辺りまでしか性能を引き出せなくても、妥協して操縦士にするパターンもある。
「それで満足できるのかしらね、あなた」
「ちょっとしぶとい人間を用意して、速度を三割落として、ですか。ちょっとハッチ開けて蹴落としたくなりますね。全く、巡り会わせって不思議なものですよ。あんなに待ってもいなかったのに、いきなり機体に振り回されるどころか私の方が振り回されそうになる人間さんが来るなんて」
窓際に移動して、あざみは外を眺めながら言った。
やはり、アマルベルガは振り向かない。
「何をしたら、ああなるのかしら」
「何もしないから、なのでしょうけどね。強化魔術でどうにか耐えようとしてみたり、魔術を刻んだアイテムで外部処理させてみたり。魔術学が進んだ今になるほどまともに乗ろうって言う人間はあまりいません」
例えば、ノエルの前操縦士は、強大な魔力によって肉体を頑強にする魔術を戦闘中行使し続けることによって肉体を守り、戦っていた。
悪くないやり方だが、それだと、いわゆる彼の世界のエースにはなれない。
「少しずつ慣らしていったらダメなのかしら」
アマルベルガが言うのは、例えば、長い期間で少しずつ魔術の強度を下げて慣らしていけば、ということだろう。
勿論そういう試みはあった。だがそれで解決するならもっとアルト乗りは増えているだろう。
「その場合、少しずつ生身で耐えられる範囲は広がっていくでしょうね。でも、必ずどこかでぴたっと止まるんですよ。頑張っても85%弱くらいで。それ以降、成長しない。必ず、壁があります」
そこまでを数年かけてじっくりとかけていようが、急いでその境地に達しようが、必ず止まる一線がある。
「そこが、人間の限界なのね」
「多分そうでしょう。そこを踏み越えて生きていられればエースなんでしょう。あとは怖いものなしですよ」
「代わりに、人として大切なものを随分置き去りにしているようだけれどね」
「ま、そうですね。そうですよ」
そう言ってあざみは言葉を止める。
途端に訪れた静寂を、アマルベルガが止める。
「それで、結局あなたは何をしに来たの? 私も、暇ではないわよ」
「では、あなたに苦言を一つ」
あざみが言うと、アマルベルガは顔をしかめた。
「どういう風の吹き回し? それよりもコテツと話でもしてたほうがいいんじゃない?」
「今回は必要ではないですよ、というか余計なお世話なんですよ。あなたに言われてどうするか悩んでる時点で答えなんてはっきりしているのです。あなたが余計なことを言ったので、ご主人様はもっともらしい理由を探さなければいけなくなりました」
「余計なこと、ね。随分言ってくれるじゃない。私は必要と思ったからそうしたのよ。戦争で人間らしさを失った彼が、それを取り戻そうとしている所に、次の戦争が待っているの。私は彼を遊ばせておける程優秀じゃないわ。戦わないためには外に出るしかないわ」
「今までとそんな変わらないと思いますけどね」
「変わるわよ。戦争よ? また、何年もかかるかも知れない。何人も人が死ぬでしょうね。クラリッサも、シャルロッテも、アルベールも、あなた達エーポスの中からも死者が出るかもしれないわ」
語気を強めて、アマルベルガは言った。
あざみは、くるり、と踵を返してアマルベルガを見る。
「お国のために、エトランジェは必要なんじゃなかったんですか?」
「必要だったわよ。戦争を起こさないための見せ札としてね。でも、戦争が起こるなら……、いえ、違うわね。こんな時期にエトランジェを外すなんて愚かすぎるわ。私は女王として彼を最大限有効に利用しなければならない。でもね」
アマルベルガは、言葉を途中で止めると、吐き出すように口にした。
心底疲れた顔で、気丈の仮面を外した。
「情が移ったのよ。戦争に巻き込みたくない。彼にこれ以上、何かを失って欲しくないの。ああもう、我ながら馬鹿らしいわね」
困ったように切なげに、しかし、優しくも愛しそうに彼女は自嘲する。
「私に、あの人を戦争に連れて行く勇気はないわ」
ペンを動かす手も、止まっていた。
そんなアマルベルガを見つめて、あざみは珍しく真剣な顔で告げた。
「でもね、ここにいたら巻き込まない訳には行かないのよ。私はこの国の王族だから」
「そうですか……。じゃあ、最後に一つ、アドバイスをしましょう」
歩いて机の前まで来たあざみに、アマルベルガが顔を上げる。
「素直になるといいですよ。あなたも」
「素直になったら、コテツの手を引いて地獄の果てまで行ってしまうわよ」
拗ねるように呟いたアマルベルガに、あざみは微笑んで呟いた。
「ご主人様を見くびらないでください。地獄の果て程度でどうにかなる人ですか」
あざみが扉を開け、退室していく。
それを見届けて、アマルベルガは溜息を吐いた。
「……そうかもしれないわね」
ふと、思い出したのは出会ったばかりの頃だ。
あの頃は思ったよりも使えない、思い描いていたパートナーとは違って、落胆していた。
「思えば、あの時点でお爺様みたいでやきもきしてたのね」
起死回生の切り札かと思えば、意外とどうしようもなく。
「それでもどうにかしなきゃって肩肘張って、無駄に冷たくあしらってみたりして」
そう思えば、少しずつ頭角を現して。
「気が付いたら肩の力、抜けてたわね」
一人呟いて、苦笑する。
コテツがあまりにも強いから、多分大丈夫だろうと思ってしまったのか。
それとも、本当に強い彼の素が割とダメ人間だったからだろうか。
「……多分、後者だわ」
二度目の溜息。
「彼は私の事、どう思っているのかしらね」
最初は冷たく当たっていたが、今ではそうでもなく、それをコテツも受け入れてくれている。
気がする。
実は嫌いだが上司、上官に当たるから仕方なしだったり、あるいは優しいから言い出せないだけだったり、そんな考えが過ぎりアマルベルガは天を見上げた。
「最初は、利用するだけのつもりだったのにね」
そして、三度目の溜息。
「バカみたいだわ。本当に」
ドミトリーの悪事が感想欄で一瞬でばれててとても面白かったです。
多分彼はこの先もいいとこナシですから散々です。