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異世界エース  作者: 兄二
11,Show Down
139/195

132話 立ち位置

 机に向かって、アマルベルガはふと溜息を吐いた。


「どうか、されましたか」


 控えていたメイド長が言う。


「大したことじゃないわ。ただ……、警備の見取り図を見る限り」


 提出された王都全域の警備の配置図を机に広げ、アマルベルガは一点を指差した。


「もしここに小隊から中隊規模で敵が潜んでいたとして、こう仕掛けてきたとしたら。間違いなくここの警備に当たる二人は死ぬわね」

「おそらく、そうなるでしょう。彼ら二人の役目は敵を撃退することではなく、応援が到着するまで時間を稼ぐことですから」

「……そうね」

「仕方のないことです。王都全域、どこから攻められてもその場の兵だけで撃退できる戦力など、いるだけで国を食い潰します」


 メイド長が、無表情で呟いた。

 確かにそうだ。そんなことは、王都の住民全てをごっそりと警備兵に入れ替えなければいけないだろう。


「……確かにそうよ」

「それでも心砕いているのですね」

「ただの自己満足よ。とっくに、許可の印は押したわ。もう、賽は振られた後。これがベターなのはわかってる」

「なのであれば、尚更、アマルベルガ様が気にするようなことではないのではありませんか」

「確かに、今更無駄よね」


 配置図に、アマルベルガが再び視線を落とす。

 増員し、限界まで引き上げられた警備の度合いだが、それでも足りない。

 相手がどのように攻めてくるか分からない。ここから来たらどうか、こちらから来たらどうか。


「でも、私が諦めたら、その犠牲になるだろう人たちは、どうしたらいいのかしらね」


 本当に敵が来るなら、味方にも死人が出ることになるだろう。

 それは避け得ないことだ。

 理不尽であろうと、なんであろうと。城の兵士になった時点でこういう覚悟はあるはずだ。文句は言わせない。

 だが、それで終わっていいものかと。上に立つ人間が。


「私の仕事はベターな道を探すこと。最小の犠牲を選ぶことよ。でも、もう一つ」


 犠牲は出さざるを得ない。できるだけリスクを削った上で、アマルベルガはいつだって賽を投げる。


「思考停止しないことよ。犠牲を減らせる道はないか、いい方法はなかったか。犠牲なく終えることはできないか、考え続けるのが私の仕事」

「お言葉ですが、些か潔癖すぎるようにも思えます。犠牲を完全になくすことは不可能でしょう。アマルベルガ様は些か背負い込みすぎていると思います」


 メイド長はしっかりと忠言してくれる。

 それはありがたいが、しかしこれだけは譲るつもりもなかった。


「たとえ百点は取れないのだとしても、それを目指すことをやめてはいけないと思うのよ。諦めたくないの。たとえ片手間でも、考え続けたい」

「どうしても、でしょうか」

「どうしてもよ。私はあなたやコテツみたいに天才じゃないのよ。割り切れないの。ついでに意地汚く諦めも悪いのよ」


 見直しても見直しても、直せるところは見つからない。

 これが現時点でのベターだ。警備を続けてきた騎士団が吟味を重ねた結果がこれだ。

 これ以上のものはそう簡単にはないだろう。


「凡人だから、割り切れないまま引き摺って進むしかないのよ。ずるずると、無様に何度も何度も後ろを振り返りながら」


 理想だけを追っていい立場ではない。効率を考えなければならない。

 そして、アマルベルガは凡人に過ぎない。物語の英雄のように誰も死なない奇策を思いつくこともない。

 アマルベルガに許されるのは、考え続けることだけだ。


「……私は、少しでもアマルベルガ様を支えることができているでしょうか」

「十分過ぎるわよ。私にはもったいないくらい」

「アマルベルガ様。私だけでは不足なはずです。それに、真にアマルベルガ様を支えるのは……」


 メイド長が、アマルベルガの名を呼び、そして言葉を濁した。

 彼女には珍しいことだ。


「言ってみなさい」


 気になって言ってみれば、メイド長は、その名を口にした。


「コテツ様は、よろしいのですか」

「何を言っているのかしらね」

「……コテツ様と、距離を置かれているようですが」


 否定はしない。

 確かに、あれ以来、彼とは会っていない。


「アマルベルガ様が一番今支えて欲しいのは……」

「ダメよ。あの人も、自分のことで手一杯だから」


 だが、コテツはなんだかんだと言って、お人好しだ。


「言えば、助けてくれるわ。黙って戦ってくれるでしょう」


 あるいは、自分の意志、希望が希薄なだけか。


「きっと勝ち続けてくれるわ。戦略的にはともかく、戦術的には勝ちを重ねてくれるでしょうね。どこまでも」


 だが、いくら勝ち続けてくれようと、頼り切るわけには行かないのだ。

 ここは、ソムニウムという国なのだから。そして、その長は自分なのだから。


「だからダメよ。今会ったら、きっと際限なく頼っちゃうから」


 戴冠式まで、何があるかは分からない。

 敵が来るかもしれない、あるいは、アマルベルガをよく思わない貴族が何か仕掛けて来るかもしれない。

 不安はある。だがもしも、彼に頼るのだとすれば、頼り切ってしまうだろう。

 彼を効率的に運用するのはいい。だが、何もかも頼りきりになるわけにはいかない。


「女王になるのよ。これから。支えてあげられるくらいにならないといけないのよ」


 ぎゅっと、アマルベルガは手を握った。


「せめて今だけは、この、戴冠式だけは、自分で立たなきゃ」


 強くならなければならない。コテツに頼らなくていいほどに。

 いつ、彼がやりたいことを見つけて、自分の下を去ってもいいように。

 甘えるのは最後と思って、彼に会ったのは、きっと失敗だった。

 結局、弱音が口を突いて出てしまった。

 強がって、誤魔化していらない言葉まで彼に投げかけて、最後に逃げ出した。


「泣いてるだけのお姫様には戻れないわ」


 それでももう、やるしかない。









 アカデミーから戻ってきた頃には、既に日も沈みかけていた。

 ランプの光が照らす室内に、ドアを開ける音が響く。


「ご主人様、礼服ですね! よくお似合いですよ」

「ありがとう、でいいのかこの場合は」


 コテツは、いつもより華美な、礼装の軍服を着込みながら呟いた。

 ノックもせずに扉を開けたあざみは、我が物顔で部屋へ入ってくる。


「そういう君も、か」


 振り向いてあざみを見れば、彼女もまた、真っ赤なドレスを着込んでいた。


「似合います?」

「着慣れていない様子だが」

「うぐ、デリカシーがないですねぇ。そういうとこ、好きですけど」


 痛いところを突かれた様にあざみは顔を歪める。


「この間まで、パーティなんて出席してませんでしたからね」


 パーティ。あざみは苦笑しながらそう言った。

 そう、これから控えているのはパーティだ。

 戴冠式本番を数日後に控えて、招いた賓客を集めてパーティを行なう。

 様々な思惑はあるが、言うなれば懇親会と言った所か。


「すまんな、付き合わせる」


 そして、その中にも、コテツの役割はある。

 その役割をこなすには、あざみが必要だった。


「別に嫌じゃないですよ。っていうか、今は出たいんですよ、パーティに」

「そうなのか?」


 コテツが問うと、彼女はくるりと一回転しながら笑って見せた。


「誰のせいだと思ってますか。女の子の憧れでしょう? 好きな人とパーティなんて。ぶっちゃけしばらくにやけ顔が治らなくてどうしようかと思ったくらいですよ!」

「……そうか」

「むしろ、私が相手に選ばれて、光栄なくらいです。ソフィアお姉さまの方が、見た目は"らしい"でしょう?」

「良くも悪くも、容赦がなさ過ぎる」

「まあ、確かにそういう意味では私の方が適任ですか」

「君の方が動きにハッタリが効く」


 言いながら、コテツは襟を閉める。


「さて、時間ですね」

「ああ、行くか」


 あざみを伴いながら、コテツは部屋の外へと向かったのだった。












「会場の皆さん。本日はお集まり頂きありがとうございます」


 パーティはそんな言葉と共に始まった。

 広いホールに、大量の料理と人。

 高級な料理と香水の匂いに思わず顔をしかめたくなる。


「私の紹介はよろしいでしょう。あちらにいるのが、我が国の誇るエース、エトランジェです」


 その、アマルベルガ声に応えて、一斉に視線がコテツに集まる。


「……コテツ・モチヅキだ」

「そのエーポスの、あざみです」


 仏頂面のコテツと、笑顔のあざみが対照的に賓客の目に映る。


「さあ、皆さん、このパーティを楽しみましょう」


 アマルベルガが言うなり、場が動き始める。

 いるのはアマルベルガと友誼を結ぼうという者や、他国同士でパイプを作ろうという者。

 そして、エトランジェに近づこうという者だ。


「ああ、エトランジェ様。聞きしに勝る凛々しさですわ」


 こういった時の尖兵は常に、見目麗しい女性である。

 確かに、男の心理的防壁を突破するなら女性は有利だ。

 だがしかし、相手を選ぶべきとも言えた。


「そうか」

「つれないのですね。ふふ、いつも、そのように美しい方を侍らせているからですか?」

「侍らせた記憶はないがな」


 華美なドレスに、あまりに多すぎる装飾を付けた女性は妖しげな瞳で、コテツを見上げた。


「でも……、ベッドの上でなら自信がありましてよ……?」

「やめてくれないか。正直興味がない」

「そ、そうですの。分かりました。また、後ほど」


 眉を引きつらせ、女性は去っていく。

 だが、それで終わりではない。

 一人去れば、次が来る。


「エトランジェ様。ご機嫌いかが?」

「悪くない」


 特に良くもないが、と言外に付け加える。

 元来こういった所は得意ではないのだ。

 元の世界においてもパーティに出席することはあった。

 上位のエースになれば、そういった所へ出席する意味も増える。

 だが、慣れはしても、得意になれる訳ではない。


「聞いた通りの方でいらっしゃるみたい。ふふ、お近づきになれて嬉しいです」


 そうやって微笑みかける女性に向けるのは、いつもと変わらぬ無表情だ。


「ところで、私の父の領地に良いブドウ園がありまして」

「そうか」

「エトランジェ様が持つに相応しい地だと思いますの」


 物で釣る、というのはどうやら異世界でも共通のようだが、ブドウ園をエサにされたのは初めての経験である。


「悪いが、興味がないな。管理ができそうにない」


 だが、今日この場においても、相手の顔色を伺う必要はないとアマルベルガからも言い含められている。

 要するに、フォローが面倒だから下手に関わるな、ということだ。

 とにかく武骨な武人のような振る舞いをしておけばいいという。


「あら、そんなことお気になさらずとも」


 エトランジェに大きな権力はない。あるのは権威だ。

 だが、その権威に肖りたい者は決して少なくない。

 世界中大体の場所で尊重され、ソムニウム国内に至っては国益を損なわない限りほぼすべての行動が許される。

 巧く使えば影響は計り知れないだろう。


「管理は私共に任せていただければ。手が空いた時にでも様子を見に来て下されば構いませんのよ?」


 果たしてそのブドウ園がどれほどの価値を持ち、どれほどの利益を生み出すのか、コテツにはわからないが、特に興味もないのは確かだ。

 通常、一も二もなく飛びつくような旨い話だろうと、頷く道理はない。


「それは管理していると言えないだろう。手に負えないものを持つつもりはない」

「……それは残念。気が変わりましたら、いつでも仰ってください。では、ごきげんよう」


 また一人、去っていく。

 しかし、それで終わってくれないのが、このパーティだった。

 またぞろと、人がコテツの元に集まっていく。

 その誰もが見目麗しい女性ばかりだ。

 そういった者の虫除けの為に、あざみが隣に控えているのだが、飢えたハイエナの前には無意味だったようだ

 そうして、集まりつつある人ごみに、コテツが覚悟を決めかけた時、周囲に凛とした声が響く。


「みなさん、エトランジェ様が困っておいでですよ」


 人垣が、自ずから割れて、その人物が姿を現す。

 その人物は、周囲の中でも一際見目麗しく。

 たおやかに歩くその姿はまるでこの場が彼女の為の舞台であるかのように見える。


「君は」

「お初にお目にかかります。エトランジェ様。パッサカリアのルイス・ドナルド・ベネディクト=シルベスターと申します」

「……パッサカリア?」


 聞き返したコテツに、横にいたあざみが前に出て答える。


「西方の大国ですよ。この方は、そこのお姫様です。白百合の美姫と呼ばれる周辺国にも評判の方ですよ」

「ふむ」

「エトランジェ様の雷名は我が国にも轟いております」

「そうか」


 短く答えるコテツに、彼女は口元を押さえて苦笑気味に微笑んだ。

 その仕草すら淑やかで様になっている。


「武骨な軍人気質の実直な好漢。お噂の通りですね」

「買い被りだな」

「ふふ、皆様。エトランジェ様はこういうお方のようです。私達がこのように押しかけてはお疲れになってしまいますわ」


 そう言って辺りを見渡し、彼女は彼女は微笑んだ。

 周囲は、その言葉に何も言えず。

 誰ともなく、コテツに会釈や軽い挨拶だけをして去っていく。

 やがて、十数人はいた人垣は綺麗になくなっていた。


「すまない、助かった」

「いえ、お役に立てたなら幸いです。それでは、失礼致します」


 そう言って彼女は去っていく。


「ふむ」

「いい人でしたねぇ。この場じゃ珍しい限りです。そういう作戦かもしれませんけどね。評価がうなぎ上りですよ、私の中で」


 隣で、あざみが呟く。確かに、コテツ達に対しては彼女の対応が正解だったと言えるだろう。


「む」


 去って行く、その背中をコテツ達が眺めていると、腰元から四角形の布が地へと舞ったのが見えた。

 コテツは数歩前に出て、それを拾い、声をかけるのだが。


「待て」


 その声が届く前に、彼女は人波に飲まれて消えてしまった。


「高級そうなハンカチですねぇ……」


 あざみが隣からコテツの手の中にあるハンカチを覗き込んで言う。


「偶然ですかね。わざとだったらかなりやり手ですよ」


 どうやら、厄介なものを拾ってしまったようだ。


「どうします?」

「地面に戻す訳にも行くまい」


 他の者をこの場で牽制し、そして別の場で会う口実を作る。

 見事に周囲を蹴落とし、個人的に話の場を作ったその手腕は見事としか言いようもない。


「私が行きますか?」

「あまり変わるまい。むしろ君から更に引きずり出されては目も当てられんな」


 エーポスとて、国において重要な役割を担っているのは変わらない。

 それに、あざみから更にコテツへと渡りをつけられても困る。

 できることなら、あまり関わりのない人間に任せてしまいたいのだが、そうすると相手の地位が問題になってくる。

 一国の姫というのならば、それなりの立場の者か、あるいは拾ったコテツに近しい者でなければ失礼に当たるだろう。


「後で俺が渡しに行こう。それより今は――」

「ええ」


 コテツはあざみを伴い歩き出した。

 こうしてパーティに出席し、ずっと立っていればいいというものではない。

 しっかりと、コテツにも役目が与えられている。


「皆さん楽しんでいらっしゃいますか? 今夜は、ささやかな余興を用意しました。テラスを、ご覧下さい」


 アマルベルガの声が、辺りに響く。

 コテツ達は、そのテラスへと立っていた。


「我が国の最高戦力達の、演武をお見せします」


 あざみが、テラスの手摺に腰かけて、月を背後に微笑んでいる。

 その、幻想的な風景に、コテツは正対し真っ向からあざみを見つめていた。

 そして、そのあざみが、ぐらりと後ろへと倒れていく。

 その様を見た周囲が息を呑む音が響き。

 次の瞬間白黒の巨人が、テラスの目前に立っていた。

 ハッチは開かれ、操縦席は目前にある。

 その奥であざみは微笑んだまま、コテツ差し出すように手を前へと向けている。

 コテツは一歩前に出た。

 そして、徐に手摺に手をかけると、コテツはそれを飛び越えコクピットの中へ。


「我が国の最強たるエトランジェ」


 アマルベルガのアナウンスが響き渡る中、コテツが操縦席に座ると同時に、コクピットハッチが閉まる。


『そして、対するは我が国の誇る騎士団の団長と副団長の二人です』


 アマルベルガの声に応えるように、宵闇に光るSHの目が四つ。


「行くぞ」


 くるり、とディステルガイストが振り返る。

 多数の視線を背に、それは夜闇へと飛び立った。


『さあ、やりましょうか』


 通信で、クラリッサの声が響く。

 シャルロッテは――、

 苦虫を噛み潰したような顔でコテツを見ていた。

 それを認めた瞬間、クラリッサの放つ炎の魔術が放たれた。

 高速で迫る燃え盛る尾を、ディステルガイストは下方へ避ける。

 二機を見下ろす上空から一息に超低空へ。

 ほとんど地を這うような地面擦れ擦れの高さで、ディステルガイストは前方へと飛翔した。


『相変わらず、酔狂な操縦をしますね! コテツっ!! 一歩間違えば地面に激突でしょうに!』


 更なる炎弾を右へ左へ回避しつつも、その勢いは止まらない。

 何の遅滞もなくコテツは並び立つ二機へと肉薄する。


『団長!!』


 瞬間、クラリッサが声を上げた。

 そして、シャルロッテが応える。


『座標指定、魔力充填完了……! 氷よ、我が敵を阻む壁と為れ!!』


 その声と共に、大量の冷気を伴ってそれは現れた。

 まるで氷山。正に氷の壁というべきそれが、高速で飛翔するディステルガイストの眼前へとせり上がる。


「ご主人様っ!?」

「慌てるな。問題ない」


 コテツの判断は一瞬にも満たない刹那に行なわれた。

 減速はしない。

 加速したまま、コテツはディステルガイストに氷壁の縁を掴ませた。

 そして、するりとかろやかに。背後から上へと足が、身体が跳ね上がる。

 ディステルガイストが氷壁に着いた手を軸に弧を描いたかと思えば、それは宙へと舞い上がる。


『あれだけやって足止めにすらならないとはな……! コテツ……!!』


 再開される迎撃の魔術を回避しながら、コテツは斜め下へと滑空。

 突破。魔術の嵐を抜け、二機の間にディステルガイストは着地する。

 着地の寸前に二機は左右に跳び退る事に成功した。

 轟音を立てて足は地に着き、地面を抉りながらディステルガイストが前方へと滑る。


『仕掛けるぞ!』

『はい! 団長!!』


 跳び退った二機が今度は跳びかかる。

 左右から剣での同時攻撃。

 ぴたりと嵌ったタイミングでの、見事なコンビネーション。

 しかし、それをコテツは腰部バインダーから引き抜いた二本の刀であっさりと受け、即座に弾き返す。


『くっ……!』


 クラリッサが声を漏らし、二機とも再び距離を取る。

 だが、弾き返した勢いのままに、くるりとディステルガイストが回転したその時には、手の中の刀は忽然と姿を消し、ハンドガンに持ち変えられている。

 躊躇なく射撃。二機は更に距離を取って避け、数発の銃弾は地面を抉る。

 ディステルガイストが両手の銃を投げ捨てると、地面に落ちる前にぱっと消えた。

 そして、落ち行く銃と共に身をたわめていたディステルガイストが飛ぶ。


「ふむ……」

「どうしました?」


 一気に上空に飛び上がったディステルガイストが、佇む二機を見下ろした。


「集中できていないな」


 小さく呟いた言葉に、あざみが呆れたような顔をする。


「これでですか?」

「集中できない程度で墜ちるなら既に死んでいる」

「そーですか……」


 溜息でも吐く様に彼女は言った。


(集中できていない、というよりは躊躇っているのだろうか)


 コテツはモニタを睨み据えながら考える。

 容赦なくシャルロッテを踏みにじる行為を、コテツは躊躇っていると捉えた。


(ここが戦場なら、考えるまでもなかったことだ)


 もしそうだったらどんなに良かったものか。

 ここが戦場で、相対するのが敵なら、そこに悩みも迷いも躊躇いもない。

 ただただ、敵を切り伏せる。それだけの話だった。

 戦場でならば、迷わない。例えそれが最も親しい家族であったとしても、躊躇いなく殺す。

 だが、今ここは戦場とは程遠く、茶番としか言えない現実だ。


「私にディステルガイストを通して伝わってくるものはほぼいつも通りなんですがね」

「そうか」

「寂しいですね。本当なら、ちょっとの心の動きでも伝わるはずなのに……」


 エーポスと長く同じ時を過ごして、絆を深めれば、機体を通して伝わる感情や思考の精度も上がる。

 また、離れていてもコテツの位置が正確にわかるようになったり、様々な変化がある。

 しかし、コテツとあざみには、それらはまだない。


「あざみ、続けるぞ」

「はいはい、分かりました。こっからは私のターンですね」


 あざみが笑顔を作って応える。

未だに章タイトルが決まっていない見切り発車具合。

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