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異世界エース  作者: 兄二
11,Show Down
138/195

131話 無風


「……コテツ」


 声は、どこか遠くから聞こえていた。


「……コテツ!」


 鉄同士が強く擦れるような、軋むような嫌な音も今は遠い。


「訓練に集中してくださいっ、コテツ!」


 そして、今一度呼ばれてコテツは意識を外へと向けた。


「む」

「上の空ですね、コテツ。訓練に集中しなさい」


 コテツを現実に引き戻したのはモニタの向こうのクラリッサだった。


「まったく、どうしたのですか。あなたともあろうものが。情けない。訓練にならないではありませんか」


 そう呟いた彼女は今。


「あなたが上の空だと容赦がなくて私が一瞬で負けますからねッ!!」


 シバラクに組み敷かれたシュティールフランメの中で涙目だった。


「……すまん」

「手加減して欲しい、とは言いませんし、私の弱さですからなんとも言えませんが。そのですね……、三秒で終わると本当に訓練になりませんから」


 うつ伏せに倒れたシュティールフランメは左腕を捻り上げられており、天に向かって突き出された、唯一自由な手を力なく動かすのみだ。

 どうしてこうなったか、と問われれば、向かってきたシュティールフランメを引きずり倒して拘束しただけのことである。

 ただし、それが訓練中の初撃で容赦なく行なわれたので、訓練になるならないの話ですらない。

 おかげで、クラリッサも意気消沈である。


「とりあえず、退くぞ」


 そう言ってコテツは機体を動かそうとする。


「待ちなさい」


 それを何故か止めたのはクラリッサでだった。


「この状況から抜ける、というのも一つの訓練とは言えませんか?」


 生来の負けん気故なのか、それとも、コテツに気を遣ったのか。


「言えなくはないが」

「どうにかして見せますから、そのまま動かないでください」


 とりあえず、コテツは言われたままに動かずにいる。

 そして。


「行きますよ……!」


 シュティールフランメの瞳が強く輝き、機体がぎり、と力を増す。

 そして、シュティールフランメの腕が解き放たれた。


「……すまん」


 胴体から。

 根元からぼきり、と。


「いえ、まぁ……、謝られると、私の方が立つ瀬がないですから、やめてください」


 クラリッサは更に消沈した。










「それで、どうしたんです?」


 機体から颯爽と降りたクラリッサは、コテツに近づいてくるなりそう言った。

 勿論、機体が壊れたのでその時点で訓練は終了である。

 整備員がこれから大忙しになるだろうが、そこはまあ、仕事と割り切ってもらうしかない。

 シュティールフランメのパーツは予備があるのだから、すぐに終わるはずだ。

 壊れた方の腕も、綺麗に取れたので再利用は十分に可能である。

 この大事な時期に、機体を壊したという失態はどうしようもないが。


「少し、悩んでいる」

「いつも能天気、というか……、極めて鈍いあなたが悩みですか」


 馬鹿にしているのか、それとも心配しているのか。

 分からない口調で彼女は言う。


「わかりました、聞きましょう」


 しかしそれでも、聞く意志を見せるのが彼女らしいとコテツは感じる。


「そうだな。君から見て、俺は変わったと思うか?」


 その問いに、クラリッサは言葉を濁した。


「……なんとも言えませんね」

「俺としても実感がない。つまり、もう少しやり方を考えるべきなのでは、と思う」

「なるほど」

「そもそも、漠然としたものを、探しているふりをしていただけのようにも思う」

「確かに、言うは易し、ですが。時間もかかるものではないでしょうか」

「確かにそうだが、変化が全くない、というのは問題ではないか?」

「変化、ですか……。全くないとは思えませんがね」


 溜息でも吐くように、彼女は呟いた。


「そうだろうか」

「ええ。でも、あなた本人が感じていないと意味がないんでしょうね。本当に鈍い人ですね、あなたは」

「すまん」

「別に謝る必要はありませんが。どちらにせよ、時間が必要なのでは?」

「そうか」


 至極、全うな意見だった。

 そうして、彼女は肩を竦めてコテツに言う。


「しかし、聞いておいて難ですが私はこういった相談には向いていないようですね」


 コテツから否定の言葉は無い。猪突猛進なのは、彼女の美徳でもある。

 こういったことに頭を悩ませるのは彼女らしくもない。


「団長の方が頼りになるかと思いますよ」

「……今回は、彼女の力は借りられそうにないがな」

「そうですか。理由は聞きませんが、とりあえず、できるだけ人生経験が豊富そうな方に聞けばいいかと」

「そうか」

「我ながら、情けない限りですよ。あなたの悩み一つ解決できないとは。私も勉強不足ということですか」

「いや、十分参考になった」


 少なくとも、一人でぼんやりと考えているよりはずっとましだっただろう。


「そうですか。では、ま、また相談してもいいですよ」

「そうさせてもらおう。と答えるべきか、このパターンは」

「コテツの癖に生意気ですよ、それは」


 そう言ってわざとらしく不機嫌そうにして見せたのだった。


「しゃんとしなさい、コテツ。いよいよ今日から、始まるのですから」













「うーん、いいねぇいいねぇ」


 訓練を終えたコテツは、アカデミーへと足を運んでいた。


「見るからにいい機体だよね、最高級の」


 くるり、とコテツの方に振り向いて、カーペンターは言う。

 鮮やかな紅色の髪と活発そうな目。ツナギの上半身を腰に下げた、タンクトップに軍手という、いつも通りの彼女だ。


「そうだな、エース機の一つだ」


 格納庫の彼女と、コテツが見上げているのは、そう、ターニャのポーキュパインだった。


「エース機! あの、あれ、あれだよね! シバラク!! あれ、私も一枚噛んだ! 楽しかったなぁ……」

「それで、どうだろうか」

「うーん、とりあえず、重装甲だったから損傷はあんまりないよ。パーツの精度は私が担当すれば大丈夫だし、磨耗部分の保守くらいはどうにかなるっすねぇ。動力に関しては私じゃお手上げかなぁ。つっても、3年くらい動き続けるんでしょ?」

「ああ」


 カーペンターの問いに、コテツは頷いた。

 継戦能力もエース機に求められた一つの性能だ。

 単機行動が多いのがエース機であるし、たった一機で戦況を覆すことを目的としているのだ。

 そして、もしも味方が全滅してたった一機となってしまっても、戦線を維持し続けられるように、だ。

 できる限りメンテナンスフリーで、長く戦い続けられる機体を構築する。

 無茶に無茶を重ねて、ボロボロだったシバラクとは違う。

 比較的状態の良好なポーキュパインはさしたる整備も必要ないようである。


「それが尽きたら、できるだけ良いエンジン積んであげるけどね。出力は落ちるよ。正直ね」

「武装はどうなる?」

「ミサイルとかは作れなくもないよ。ものによっては性能据え置きとは言えないケド。スプリットミサイルとかは面白いねぇ。でも作れるかはちょっと……、まあ、作るけどね。作っちゃうけどね」

「そうか」

「つまるところ、壊さなければ大丈夫って所かな。壊しちゃったら、直せないっていうか、その分性能が落ちると思っていいかなあ」


 だとすれば一安心と言ったところか。

 この世界でエース機が損傷するような事態は早々ないことだろう。

 そんなことを思っていると、不意にコテツの前方に回りこんだカーペンターが、彼の顔を覗き込んだ。


「それよりさ、その顔、その顔だよ、君」

「俺の顔に何か付いているか」

「ポーキュパインよりずっと、メンテして欲しいって顔だ」


 涼しい顔で、核心を突く。


「そう見えるか」

「見えるねぇ。見えちゃう見えちゃう。年の功だけはあるんだなぁ、これが」


 興味津々な顔で彼女はじっくりとコテツを見つめた。


「で、何々? お姉さんが聞いちゃうよ?」

「……そうだな」


 彼女は、ある種経験が豊富と言えるだろう。

 コテツは、滔々と状況を語って聞かせた。


「ふむふむ、なるほど。暗くじゃなくて明朗に報告しちゃう辺りが君らしいねっ!」

「それはともかく、とりあえず参っている」

「とりあえずなんだ……。まあ、うん、ふーん、なるほどねぇ。で、君はここを出る気なの?」

「そのつもりはない」

「なんで?」

「新天地で新たに始めたところで、どうにかなるとは思えん」

「本当に?」

「ああ」

「それだけ?」


 カーペンターは、コテツを質問攻めにする。


「他に何かあるのか?」

「ふぅん。大体分かったよ」


 そのまま彼女は、何か分かったかのように腕を組んでうんうんと頷いた。


「ぶっちゃけ、悩んでないよねぇ?」

「ふむ? いや、これまで真剣味が欠けていた可能性はあるが……」

「いやいやそういう話じゃなくて」


 手で、コテツを制して彼女は続けた。


「答え、出てるじゃん? 出ちゃってるじゃん? というか、うん、君って多分思い込んだら一直線の人だよねぇ。一度なんか決まったら悩んだりするタイプじゃない、か」

「君一人で納得されても困るぞ」

「んー、じゃあ、ずばり言うよ。君は悩んでるんじゃなくて、イライラしてるんだよ!」


 びし、と指を刺して彼女は口にする。

 コテツは、その答えに、懐疑的な視線を向けた。


「俺が苛立っている?」

「そそ。答えはとっくに出てるでしょ? でも、君はその答えを気付いていない。いや、上手く形にできないのかな?」


 覗き込まれる度に、まるで、見透かされるような。

 興味津々なその瞳に吸い込まれそうで。


「でも、今はその明確な答えを求められてるんだね。だから、イライラしてる。あるのに吐き出せないそれは、きっとちゃんと、君の胸にあるよ」


 とん、と優しくカーペンターはコテツの胸を指で叩いた。


「そんなものが、あるのだろうか」

「あるよ。多分。きっと、うん。それはきっと、何かの拍子にぽろっと出て来るんだと思う」

「……そうか」

「明確な答えを上げることはできないけどね」

「分かっている。そんなことができるなら、きっとこうはなっていない」


 落胆するでもなくコテツが呟けば、カーペンターは明るい笑顔を見せる。


「私は、ほら、何がなんだろうと機械いじってたら人生楽しい人だからさっ! そういうのはあんまりわかんないんだよねぇっ」


 その表情の奥を、コテツに見透かすことはできない。


「でも、私そういう人だからさぁ」


 ただ、それでも、満面の笑みを浮かべて親指立てつつ応援してくれる彼女を疑ってみようという気にはならなかった。


「そうやって真面目に向かっていく人、カッコイイと思うよ!」




なんだか最終話みたいな流れができててアレなんですが。ハイ、確かに最終話っぽい流れですね!

確かに、今までぬるい話オンリーだったインターラプトがシリアス漂わせたらそんな匂いもしてくるってもんです。

ただ、ぶっちゃけると半分は本編を盛り上げるためのフラグ撒きの尺が足りなかっただけです。

ただでさえ長い11なのに、かなりシーンカットしてますし。

もう半分はたまに無駄に話を盛り上げたい衝動に駆られるというか。

時折でかい花火打ち上げたくなる性分なんです。

その上元々、寄り道寄り道本筋寄り道寄り道本筋くらいで進んでるんでたまに派手にやらないとさっぱり話が進みませんし。


つまるところ、今章で終了する予定はありません。

ただし、更新頻度については、保証書が付いてきません。

ネタだけは貯蔵がありすぎて困ってます。

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