130話 今までとこれから
「主様。家族が増えたそうですね」
「ああ、そうなる」
部屋に唐突に現れたノエルは、そう言った。
「それでは私はどのポジションになるのでしょう」
「君は、妹でいいのではないか?」
謎の問いに、コテツは投げやりに返した。
「妹ですか。悪くありませんね」
そして、コテツのベッドの上で足をぱたぱたとさせている、休憩中のターニャに彼女は向き直る。
「ノエル・プリマーティです。ターニャお姉さま」
「お姉さま……、悪くないかも!」
割と二人とも満更でもないらしい。
ノエルなんかは、心なしか目がきらきらとしているように見える。
「しかし、私が妹ですか……」
そして、考え込むような仕草。
その後、彼女はコテツに向かって表情一つ変えずに言う。
「お兄ちゃんっ! えっちしよ! と言った所でしょうか」
声だけ無駄に弾んで臨場感たっぷりなのが怖い。
「……間違えている。君は」
「お気に召さないようで。なるほど、分かりました」
彼女は、再び口を開いた。
「お兄様、性交しましょう」
「根本を間違えている」
「ターニャも混ざるー!」
「何もしないが」
言いながら、コテツは座っていた椅子から立ち上がる。
「アマルベルガに呼ばれている。俺は行くぞ」
「はい、留守番はお任せを」
「部屋に戻らない気か」
「主様におかえりなさいを言いたいので」
「そうか」
ノエル達を残して、コテツは廊下に出る。
そして、アマルベルガの執務室へ、だ。
「いらっしゃいコテツ。そしてお祭りに行きましょう?」
入るなり耳に届いたのはそんな言葉だった。
「いいのか」
「いいのよ。私だって楽しんだっていいじゃない」
町娘の着るような簡素な服装に着替えたアマルベルガは言った。
「あなたは、楽しかった?」
問われて、コテツは考える。
エリナと祭りのことだ。
「わからんな。悪くはなかったと思うが」
「そう。あなたらしい返答ね」
「それで、アマルベルガ、これからどうするんだ」
「劇場に行きましょう。見たい劇があるのよ。その後は適当に回りましょうか」
歩き出すアマルベルガの足取りに迷いはない。
ほとんど外に出ることもないくせに、城下の地理を把握しているのだろうか。
そして、迷うこともなく彼女は劇場に辿り着いた。
「ここね。時間もそろそろだし、丁度いいわ」
「ああ」
「ここは飲み物飲んでいいみたいね。始まる前に、飲み物を買ってきましょうか」
「それくらいなら俺が行ってこよう」
「あら、悪いわね。お願い。そうね、あなたと同じ奴でいいわ」
「了解」
劇場の中には、ジュースを売る屋台があった。
飲食は普段は禁止しているが、祭りということで規則を緩め、ついでにジュースの売り上げも手に入れようということだろう。
「二つ頼む」
「何の味がいいですか?」
「分からん、任せる」
「分かりました。同じ奴でいいですか?」
「ああ」
飲み物を受け取り、コテツはアマルベルガの元へと戻る。
「飲み物だ」
「ありがとう」
コテツは飲み物を渡して、アマルベルガの隣に腰を下ろす。
「始まるみたいね」
「ああ」
程なくして、演劇は始まる。
それは、天才魔術師によって造られた人と見紛うようなゴーレムの少女が魔術師や人々との関わりの中で人間らしさを得ていく物語だった。
最終的に、神が少女の行いを誉め、彼女を本物の人間にして終わりだ。
それを、コテツはぼんやりと眺めていた。
ずっと無表情だった少女が少しずつ表情を増やしていく様を。
「まるで、あなたみたいだったわね」
劇が終わって、アマルベルガは呟いた。
だがそれを、コテツは否定する。
「俺はあのようには変われない。未だに序盤から進んでいない俺は、演劇にすれば三流だろう」
「そう。でも、ああなればいいわね」
劇場から出てきた二人は、一旦そこで立ち止まる。
「次はどうしましょうか」
「アマルベルガ、君に任せる」
「そ、じゃあ昼食にしましょ。後ね、ここでアマルベルガはやめなさい」
「了解。アミィ」
そして、アマルベルガはコテツの腕を抱きしめながら歩き出す。
「何故腕を掴む」
「人が多いわ。できるだけコンパクトに歩かないと邪魔になると思うの」
「……ふむ、そうだな」
二人は腕を組んで歩き出す。
「君に食べさせて貰わなくとも、自分で食べれるつもりだが」
「そうは言うけどあなた、右手に紙袋があるじゃない」
「君が左腕を離してくれれば問題ない」
アマルベルガが左手で差し出してくる、丸いパンのような食べ物を、仏頂面で食べながらコテツは言った。
「嫌よ。人ごみを歩いた経験なんてほとんどないから流されるわよ。私」
「ぬ……」
それは困る。妙に所帯じみていて忘れるが、コテツの隣の女性はお姫様なのだ。
「それに、王女手ずから食べ物を渡すなんて早々ないから、味わっておきなさい」
そう言われても、と言いたいがコテツは何も言わないことにした。
「微妙そうな顔ね。もう。近々私も女王よ? もっと敬ってほしいものだわ。嘘だけど」
「嘘なのか」
「あなた、上官に敬語を使っても、愛想はゼロでしょう。ないわ」
「……そうか」
「いつものあなたの方がマシよ」
彼女はそう言ってコテツを見上げると、またパンを差し出してくる。
今度は黙って食べた。
「皆、楽しそうね」
「そうだな」
活気に満ち溢れ、人々で溢れ返る道を見て、アマルベルガはそんな感想をこぼした。
「……この中に、いつか亜人の姿を沢山見つけたいものね」
アマルベルガの手に、力が篭るのを感じる。
だが、すぐにその力は解けて何事もなかったかのように彼女は言う。
「さ、行きましょ、コテツ。なんだか、人混みに酔っちゃったみたいだわ」
その言葉と共に、二人は人混みを抜けた。
確かに、慣れない人混みはアマルベルガには少々きつかったかもしれない。
「帰るか?」
コテツの問いに、アマルベルガは首を横に振った。
「まだよ。せっかく出てきたんだしね。行きたいところがあるのよ」
「どこだ」
「ついてきて」
アマルベルガに先導されて、コテツは歩く。
たどり着いたのは、何の変哲もない河原だった。
「ここに何の用があるんだ」
コテツのそのままの疑問に、アマルベルガはにやりと笑みを浮かべた。
「入るのよ」
徐に靴を脱ぎ、スカートの裾を摘んで上げるアマルベルガ。
その白くて細い足が露になる。
「んっ、思ったより冷たいのね……」
「水だからな」
「今日は暑いから、もっと温かいかと思ってたわ」
言いながら、ざぶざぶと、アマルベルガは川の中へと進んでいく。
「実は私ね、川遊びって初めてなのよ」
乱反射する川のきらめきを一身に浴びて、アマルベルガは微笑んだ。
「一回してみたかったのよね。コテツ、あなたはしたことあるの?」
「あるぞ」
「どんな風に?」
「川の端から、端まで歩いたことがある」
「……それ行軍って言わない?」
「そうとも言う」
「随分楽しそうな川遊びね」
「稀に川の中でダンスを踊ることもある」
「敵に狙われて?」
「そんな時もある」
「……愉快ね」
アマルベルガが、呆れたような微妙そうな顔をする。
「川の中ってこんな感じなのね。ぬるっとしてて、変な感じ。ねえ、あなたも来たら?」
「いや、いい」
「遠慮せずに来なさい。実はいい年こいて川遊びなんて恥ずかしいのよね」
「君が始めたんだろうに」
「まあ、そうなんだけど、少しくらい付き合ってくれたっていいじゃない」
アマルベルガはそう言うが、別に川遊びをするつもりもないし、わざわざブーツを脱いで、というのも面倒な話だ。
「それより、アマルベルガ」
「何? 一緒に遊ぶ決意表明か、愛の告白なら受け付けるわ」
「どちらでもないが、深いところもある、気を付けろ」
コテツが口にすると、アマルベルガは下方を見つめながらざぶざぶとコテツの方へと歩いてくる。
「らしいわね。今のところそれらしいものはないけど――ッ!?」
瞬間、アマルベルガの体が大きく傾ぐ。まるで足を踏み外したかのようにコテツの目には映った。
言わんこっちゃない、だとか、それ見たことか、と言ったニュアンスの言葉を吐き出すよりも速く、コテツの体は動いた。
一足飛びに、アマルベルガの元へと駆け寄る。
彼我の距離は向こうから近づいてきていたため3メートルもない。
到達までに、二秒は要らない。
即座にアマルベルガの元まで辿り着いたコテツは、彼女の体を強引に抱き寄せた。
「無事か」
密着し、至近で見つめあいながらコテツは問う。
「え、ええ……。大丈夫」
そのまま、アマルベルガはコテツに寄りかかる。
「……怖いわね、いきなり足場がなくなる感覚は」
「アマルベルガ」
「ねぇ、コテツ」
コテツに寄りかかったまま、アマルベルガはこぼした。
不安げに、その目を揺らしながら。
「私、怖いわ」
掴んだ肩が、震えていた。
「私はね、不安定になっていく状況に対抗するためには、これしかないと思ったの」
「……」
「必要だと思ったから、実行したわ」
女王になることは勿論、テロリストを国一つが完全に敵として認めるというのは大きな意味があるだろう。
「でもね。これで私もあなたも、国の皆も、危険に晒されるかも知れない」
彼女の肩は、小さい。
「ねえ、知ってる? 私が判を押すだけで死ぬ人の人数」
そんな方に掛かっているものは、あまりに重過ぎるのではないかと。
「いつも考えてる。もっと、良い道はなかったのかって。犠牲とか、苦労とか、減らせないかって。お父様ならどうしたかしらって」
彼女は、弱音を吐いている。
「私はちゃんとできてる? コテツ。ちゃんと、やれてる? 分からないわ。たまに何もかも、怖くなるの」
悪態は吐いても弱い姿を見せようとしなかった彼女が。
「……助けて、コテツ」
怖いのだ。分かっている。
そんなことは、分かっている。
彼女はただの女性だ。決して強くはなくて、才能もなく、ただ諦めが悪くて真っ直ぐなだけだ。
そんなただの女性が命を狙われると知って、それでもあえて自らの命をチップに掛けに臨んだ。
きっと、アマルベルガの戴冠をよく思わない人間は国内にもいる。
(仕掛けてくる、だろうな)
式中は警備が濃いようで薄い。人の流れはどうやっても制御しきれないし、どうしても人前に出なければならない。
国民の前で殺す、というのも意味がある。アマルベルガの死を隠し影武者を立てて、フリードを筆頭にアマルベルガ派が政治を引き継ぐという最終手段が封じられる。
「教えてほしいの。何が正解なのか。いつだって、犠牲は出て、完璧な答えなんてなくて……、分からないのよ」
言葉が、なかった。
「……アマルベルガ、俺は」
そんなことは、コテツにもわかりはしなかった。
所詮一介の兵士なのだ。高度な政治的判断など、できはしない。
何を言うべきか、何を言わなければならないのか。
考えて、しかし。
機を逸した。
「ごめんなさい。変なこと言ってるわね」
不意に、アマルベルガの表情がいつものように戻る。
コテツに寄りかかったままの態勢も、元に戻った。
「まぁ、ええ。私は平気よ」
ざぶざぶと、彼女は川を出て、コテツもそれに続く。
「アマルベルガ」
「あなたは、変わらないのね――」
彼女はコテツに背を見せながら、そう呟いた。
「ねぇコテツ。無理しないでもいいのよ」
「俺は無理など」
「前、言ったと思うけど。きっとあなたは、私の元にいる必要はないのよね。私が必要としているだけで。むしろ、あなたをもっと上手く導いてくれる人がいると思うの」
アマルベルガは微笑む。
「とにかく、泥舟に乗り続ける必要はないし、いつでも乗り捨てればいいのよ」
「それは困るぞ。俺は、まだ何も見つけていない」
コテツは言う。
まだ、自分が変われたとは思わない。生きる理由も見つかっていない。
ここがなくなるのは、困ると。
「本当に、そう思ってる?」
しかし、彼女は問うた。
「周りがそう言うから、あるいは、なんとなく人生に必要そうだから。そうは思ってない? 本心から、欲しいと思ってる?」
その言葉が、胸に突き立つ。
それは、そう。
コテツが目を逸らして来たものだ。
本当に自分はそれを見つけたいと思っているのか。
望んでいるのか。必要に駆られて、不本意ながら求めているだけではないのか。
「もしそうなら、きっともっと時間を掛けて考えるべきなのよ。でも、それに、ソムニウムは向かないわ。これから尚更、忙しくなるから」
分かっている。分かっているのだ。
だが、頷くことはできない。
「多分、私が変えてあげようなんて、おこがましい話だったのね」
もやもやと、腑に落ちない感覚がわだかまる。
何かが喉に引っかかったような。
「一度、よく考えるといいかもしれないわ」
彼女は、微笑んでいた。
次回11に入ります。
そして、期間をあけすぎたらしく、所々忘れてるようなので、間違ってるところはボチボチ修正します。
そもそも間が空かなくてもやらかす時はやらかしますからね。
できるだけ直していきます。
異世界エースFAQ
Q1
なんかノエルに対してコテツは甘くない?
A1
あざみの扱いが酷いだけです。
Q2
なんかコテツはアマルベルガを優遇してませんか?
A2
あざみの扱いが雑なだけです。
Q3
なんかコテツってソフィアに対して優しいような……。
A2
あざみの扱いが適当なだけです。
そして、ホモが足りないそうなので、拾ってみました。
愛以上の何か
ターニャ(世界の中心どころか世界=コテツ)
エミール(アカン)
愛
あざみ(朝チュン希望)
ソフィア(一緒に本を読みながらゆっくりと生活したい。むしろコテツの膝の上で本を読みたい)
アマルベルガ(私がいないとダメねと既に女房気分か)
ノエル(現在醸成中。急速に上昇している最中)
ラッド(ホモォ……)NEW!!
かなり好き
クラリッサ(完全にアウト。恩もあるし完全に負け)
シャロン(ガンガン攻めるエーポス勢を見ていいなぁ、と物欲しげ。亜人故の遠慮)
エリナ(王子様)
結構好き
モニカ(恩もあるし、村に別にそんないい男もいないし)
メイド長(カワイイ。しかし年齢とか色々アレなので焦り気味)
気になる男性
シャルロッテ(頼りになる同僚。あるいは友達。クラリッサがチョロかったので置いてかれた)
よく分かっていない
リーゼロッテ(亜人で従者だしという心理的ストッパー。しかし根底ではどうなのか。というか無差別主義と言うだけで亜人には好感度上昇補正が)