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異世界エース  作者: 兄二
Interrupt,前座
136/195

129話 好きと愛

「ターニャ、明日明後日に休みをあげます」


 廊下をせわしなく駆けるターニャに、メイド長はそう告げた。


「う? いいの? 忙しいんでしょー?」

「かわ……、ごほん、この祭事ですから。他のメイドにも交代で休みを取らせています。あなたも、来てからあまり休んでいないでしょう?」


 そう言ってメイド長は視線を窓の外に向けた。


「二日間、祭りを楽しんで来なさい。本番になれば、また忙しくなりますから」


 ターニャはその辺り疎いので、何が起こるのかよく分かっていない。

 忙しくて、そして城下で祭りをしているくらいならわかるのだが。


「ん、わかった。ありがとメイドちょー。明日行ってくるね」

「……ええ、そうするといいでしょう」










 翌日は晴れだった。

 こうしてみると、久々の城下である。

 興味もなかったので、ほぼ外に出ることはなかった。


「んー、『人の厚意は無駄にするな』、だね」


 ターニャは昔コテツに言われた言葉を思い出す。彼女にとってはコテツが世界の理だった。

 コテツが全てであり、それに関わらないものにはあまり興味がない。それが彼女だ。

 人と仲良くする事とて、その根底には、他人と仲良くすればコテツが喜ぶという側面が少なからずある。

 意識、無意識に関わらず、ターニャはコテツの望む女の子でありたいと行動する。


「お祭りかぁ……。コテツと来たかったな」


 金はある。別に給金は低くないし、寮暮らしである。

 しかし、特に何が欲しいわけでもなく。賑やかな雑踏も色あせて見える。


「いつになったら会えるのかなぁ」


 メイドになったらなったで、勝手な行動を取るわけにはいかない。

 それに、用のないメイドはエトランジェの自室の近くに近寄ることができないのだ。

 専属になりたいが故の売込みを防ぐためだ。実際、専属となれば高い給金が出るし、あわよくばエトランジェに見初められて玉の輿、という夢見るメイドも少なくない。

 が、そのような真似をメイド長が許すはずもないのだ。

 用もなしに恣意的にエトランジェの部屋の近くを通ろうとすると、何故かメイド長はお見通しで、後々怒られる。

 勝手に部屋に入ろうものなら厳罰ものである。ちなみに最近殊更厳しくなった。

 チャンスは、エトランジェの部屋の前の廊下の掃除の時くらいしかない。

 しかも、偶然コテツが部屋を出るのを待つのである。

 決して分のいい賭けではない。


「うー、考えても仕方ないよね! 何か食べよっか!」


 ターニャは、笑顔を作って、肩に乗る虎のような生物こと、トラに話しかける。

 がう、と同意するようにそれは鳴いた。


「何食べよっか。お肉がいい?」

「がうっ」


 ターニャは、食事が嫌いではない。

 いつも一人、同じメニューを食べさせられていた頃は、ただの作業でしかなかった食事であるが、コテツの側に付いて以来、様々な味があることを知った。

 だが、今だって一人は味気ない。

 今はトラがいるが、それでも、一番重要なたった一人が足りない。


「おじさーん、これくださーい」

「へいよお嬢ちゃん。銅貨20枚な!」

「はい」

「おう、おう、ちゃんとあるな。よし、お嬢ちゃんかわいいから一本おまけだ!」

「わぁ、ありがと、おじさん!」

「気にすんない! 楽しんできな!」

「はーい!」


 串を受けとってターニャは歩き始める。一本をトラと食べようかと思ったが、一本増えたので一本ずつだ。

 片手で自分の分を。もう一方の手でおまけしてもらった方の串を持ち、肩のトラに近づければ、トラは自分から首を伸ばして串へと齧り付く。

 肉は、食べたことのない類の肉だった。食感は鶏肉に近いだろうか。細い繊維が寄り集まったかの印象で、臭みは特になく、味付けは塩に付随して何らかの調味料を使っているようで、少々ばかりスパイシーだ。

 何の肉か確認もしなかったが、そんなのはいつものことである。

 外に出て、なんでもかんでも適当に買って食べるのが好きなのだ。

 たまにコテツは渋い顔をするが。

 それでも、単一の味ばかり食べてきたターニャにとっては、なんだって美味しい。何も味がないことすら新鮮だ。


「コテツは変なのも食べれるけど、たまに嫌がるもんね」


 ゴカイのスープだろうがブルーチーズだろうが、割とゲテモノでも涼しい顔でコテツは食べるが、凄まじく糖分過多のケーキだったり、とんでもないほど大量のアイスだったり、そう言ったものには難色を示す。

 他にも、『これはなんだ』と問われ、『知らない』と答えて呆れられた回数は一度や二度ではない。


「日本のご飯は美味しいからねー。その内コテツに作ってあげたいなぁ」


 ふと、第二の故郷とも言える国の味を思い出す。


「味噌と、醤油かぁ」


 前の世界で料理が作れたわけでもないので作り方も曖昧である。和食に関し分かるのは精々だしと味噌の二つが重要と言ったところか。


「頑張れば作れるかなぁ」


 ターニャには、醤油や味噌の味噌の作り方など分からない。しかし、時間ならある。

 被検体として戦い続けた頃とも、コテツと転戦を続けた頃とも違う、ゆっくりと流れる時間。


「おい、聞いたか? 向こうでエトランジェが店やってるってよ?」


 そんな中、不意にターニャの耳にそんな言葉が届いた。

 そこからほぼタイムラグ無しでターニャはその声の方向を見る。

 すると、そこでは二人連れの旅人が談笑しながら歩いていた。


「マジかよ。ガセだろ?」


 そんな声を背に、ターニャは走り出す。


「まぁなぁ……。昨日の奴は信憑性高かったんだがな。そしたらあちこち真似しだして、今日はあちこちでエトランジェだ」


 二人の旅人の話を置き去りにして。











 走ってすぐさま辿り着いた、エトランジェのいる店。


「ガハハッハ! 俺がエトランジェだぁ!」


 立っていたのは、筋骨隆々の大男だった。


「うん、違うよねぇ……。うん」

「どうした、嬢ちゃん! このエトランジェになにかご用かい!」

「おじさん、私ねぇ。ウソは好きじゃないなぁ」

「嘘? 俺が一体どんな嘘を吐いてるって」

「じゃあ、おじさんのお名前、教えて欲しいなぁ」


 ニコニコと笑うターニャに、男は答える。


「何を隠そう、俺こそがコテ……」

「違うよね?」

「え、いや、コテ……」

「違うよね? 言ったよね。嘘は好きじゃないって」

「お、おう」

「本当のお名前、教えて欲しいなぁ」


 有無を言わせぬ迫力。見た目はただの少女だが、これでもエースである。


「ヴォルトって言います、ハイ……」

「コテツはね、もっときりっとしてて、かっこいいよ」

「仰るとおりです、ハイ」

「ところで、コテツを探してるんだけど、知らない?」


 問うと、ヴォルトと名乗った男は驚いた顔をする。


「コテツを? 嬢ちゃん、知り合いかなにかか」

「うん。おじさんも?」

「一応な。冒険者仲間のご同業だからな。あと内の変態特殊性癖のアホが迷惑掛けてる」

「ふーん、そっか」

「で、コテツの居場所ねぇ。確かに、昨日は祭りに出てたらしいな。ラッド(ホモ)が言ってたから間違いはねぇ。今日もいるかは、わからんな」


 そう言ってヴォルトは肩を竦める。


「そっか、ありがとおじさん。探してみるね」

「ああ、頑張んな、嬢ちゃん」


 再びターニャは歩き出す。

 そして。














 二時間後。


「もうやだぁー!!」


 ターニャは往来で叫んでいた。

 自称コテツに会うこと十数回。その全てが全くの別人である。

 多少頑張って似せたものから明らかにやる気の感じられないものまで実にバラエティに富んだ人々であったが、当然ターニャを満足させられるわけがない。

 そんなターニャに近づく人影が一つ。


「大丈夫かいお嬢さん、具合でも悪いのかな、ささ、こちらへどうぞ」


 明らかに怪しい男である。


「だれ?」

「僕かい? 僕は、そう」


 ターニャの腕を掴み、歩き出そうとする男は爽やかに笑って言った。


「エトランジェ、コテツ・モチヅキ! 決してロリコンではない!!」

「うがーッ!!」

「おぼふッ!」


 男の腹にターニャの拳が炸裂。

 崩れ去る男。涙目のターニャ。

 運が悪かったのは、そこに丁度王都の警邏隊が現れてしまったことだ。


「……君、これは一体」

「えっとね。私、なにもやってないよ?」


 可愛らしく首を傾げてみるも、効果はなく。


「少し、話を聞かせて欲しい、そこに転がっている男と一緒に」


 多分だが、しっかりと話をすれば分かってもらえる類だろう。

 別に警邏隊も端からターニャをしょっ引こうというのではなく、トラブルがあったから話を聞こうという類のようである。

 しかしながら。


「どうしてこうなっちゃうかなぁ!」

「あ、待ちなさい!」


 ターニャに冷静に話し合うような余裕はなかったのである。

 駆け出すターニャと、それを追う兵士達。


「コテツに会いたいだけなのにぃ!」

「ちょ、速っ……」


 兵士達も追いすがるが、ターニャの速度に追いつけていない。

 そして彼女はそのまま門まで駆け抜けて。


「ちょ、君、何を……!」


 制止する門番を持ち前の小ささですり抜けて、預けてあるポーキュパインへと飛び乗った。


「もうやだーッ! コテツーっ!!」










 重装の機体が王都の外へと飛翔し、くるりと旋回する。


「うー……。もう会いに行っちゃうもん!」

『すぐに機体を停止し、操縦席から降りるんだ!!』

「えいっ!」


 かわいい掛け声とは裏腹に、追手のSH二機の頭部にレーザーが直撃し、小爆発を起こす。


『ぐわっ、なんだ! くそ、見えん……!』


 レーザーを放ったのは、ポーキュパインの腕に配備された砲門だ。

 両腕に五本ずつの砲門が装備され、各砲門が全て別の標的を狙えるようになっている。

 ポーキュパインが腕を下ろし、王都、王城へと向かい始める。

 後続の増援が、ターニャを止めんとして現れる。

 次は、両腕だった。

 敵は十機。対する砲門も十。

 ほぼノータイムで放たれた光が敵を正確に撃ち抜く。


「私、コテツにっ、会いに行くんだから!」

『今、王都で何をしているのか分かっているのか! お前が王都の中で暴れたら……!』

「知らないもん!!」

『まるで駄々っ子だ……』


 完全に我慢の限界に至ったターニャは止まらない。

 そんな彼女の前に現れたのは、腰元の二つのバインダーが特徴的な、白黒の機体だった。


「にゃあ! 邪魔しないでよ!!」

「がうがう!」


 ターニャに応えるようにトラが吠える。

 そして、放たれるレーザー。

 その初撃を、目の前に浮遊する機体は首だけ逸らして避けて見せた。


「ふぇ? もういっかい!」


 機体が、横にずれる。二度目の回避。

 そして、その回避場所に合わせて放ったもう一本のレーザーすら避けられた。


「うー……、にゃー!!」


 今度は、一機に対し両腕を使う。

 十のレーザーが連続して白黒の機体を襲った。

 同時ではなく、一本ずつタイミングをずらして避けきれないようにだ。

 しかし避けた。速度ではなくレーザーの間を緩急ですり抜けるようにして。

 向きになったターニャは更にレーザーでの射撃を続けつつ、背からミサイルも放つ。

 一度上へ向かった二本のミサイルは、宙で割れたかと思えば十のミサイルになった。

 そして、回避を続ける敵に接近し、全てのミサイルが再び割れた。


「スプリットミサイル!」


 百の小さなミサイルが、敵機を追尾する。

 だが、それでも敵は動じもしなかった。

 レーザーを避ける動きが変わる。

 激しいブーストを一瞬ずつ吹かせる大きな動きだ。


「激しく動いても追っかけるよ! ……アレ?」


 ほぼ直角に動いたミサイルが当たったのは、十本のレーザー達だった。

 ミサイルが誘爆し、一気にその数を減らす。

 そして、更に相手はハンドガンを取り出し、小さく動き回るミサイルを迎撃し始める。


「この動き……」


 無駄のない回避軌道と正確無比な迎撃。

 そして、攻める時は一瞬。

 レーザーの格子をするりと抜けて、最初から距離などなかったかのように前方にそれは現れて。


『その機体に乗っている者に問う。君は一体……』

「コテツだぁああーっ!!」


 がしぃーん、とポーキュパインは目の前の機体に抱きついていた。


『……やはりターニャか。どうして君が』

「コテツだぁーっ! コテツ、コテツ、コテツぅ!」

『……話を聞いてくれ』

「よかったぁあー……! コテツだよぉ……!」








 城の廊下をコテツは早足で歩く。


「で、あの子、知り合いなんですか?」


 その後ろを歩くあざみは問うた。


「ああ。世界、という意味では同郷だ」

「……同郷? 召喚されたわけでもないのに、一体、どうやって」

「わからん、が予想は付く」


 予想が付く、というよりは、他にありえないと言ったほうが正しいかもしれない。

 コテツの知る限り、コテツの世界にある、次元を超えるための技術と言えば、一つしかない。


「しかし、リーゼロッテ、君も知り合いだったのか」

「は、はい。ターニャちゃんが、コテツさんと同じ世界の人だったなんて……」


 リーゼロッテもあざみも動揺しているようだ。

 エトランジェ以外の異世界よりの訪問者は前代未聞、ということなのか。

 コテツも驚いてはいるが、招かれた身ではあれど、あまり代わらない境遇だ。

 自分と似たような境遇の人間が一人増えたに過ぎない。この世界の他の人間からどう見えようと。


「来たようだな」


 ぴたり、とコテツが立ち止まる。

 廊下の向こうからは、少女が走ってきていた。


「コテツーっ!!」


 そして、少女はコテツの側まで走り寄ると、勢いよく跳んで、コテツに抱きついた。

 かなりの勢いの付いた一撃を、コテツは受け止めつつ、後ろに倒れこむ。


「ちょ、ご主人様が襲われてるーッ!!」

「問題ない」


 こんなことは日常茶飯事であり、無理に受け止めるより後ろに倒れこんでしまったほうが楽という経験を生かした対処である。

 そして、コテツに馬乗りになったターニャは。


「コテツ!」


 コテツの顔を覗きこんで言った。


「結婚しよ!!」

「……」


 コテツ、思わず沈黙。


「私ね、欲しいものがあるんだ」


 上機嫌で、にこにことターニャは笑っている。

 状況がつかめないコテツは、黙って次を促した。

 すると。


「コテツの赤ちゃんほしい」

「……何故」


 とりあえず、何とか振り絞ったのはたった二文字である。


「コテツと離れてね、わかったことがあるの」

「聞こう」


 ターニャは、酷く優しく笑った。

 慈しむように、微笑んで、告げる。


「ターニャ・チェルニャフスカヤはね。コテツのこと、愛しています」


 男として、なのだろう。もういい加減にコテツにも分かる。

 今更、家族に向けるそれだ、とか勘違いだとか言ったりしない。

 昔から、ターニャには好きだ好きだと言われていた。コテツはそれがどういう好きなのか判別できなかったし、ターニャにすらわかっていなかった。

 だが、今回の言葉は、今までのものとは、違う。あざみ達がコテツに向けるようなそれだ。


「それとね、おじいちゃん達と暮らしてて、思ったの。家族が欲しいなぁって」


 理解して、変わったのだろう。ターニャ・チェルニャフスカヤという少女は。

 判然としなかった好きを、見紛うことなき愛に。


「私ね、コテツと、家族になりたい。それとね、コテツと家族を増やしたいの」


 頬を赤く染めて、ターニャはコテツに言う。


「だから、ねね、私と家族になろ?」


 無邪気に、彼女は言うのだ。


「私と幸せな家庭、作ろ?」


 ターニャに我侭を言われるのは慣れている。

 慣れているので、一瞬適当に頷きそうになるが、踏みとどまった。


「断る」

「……え? う……、もしかして、結局大事にしちゃったから、私の事嫌いになっちゃった?」


 悲しそうに、ターニャは言う。


「いや、違う、そうじゃない。俺の問題だ。今の所、誰とも結婚できそうにない」

「うー……、そっか」


 依然、ターニャの顔は晴れないままだ。


「しかし、結婚以外でも家族になることは不可能ではないだろう」


 コテツは、ターニャを立たせ、自らも立ち上がりながらそう言葉にした。


「え? なぁに、それ」

「夫婦でなくとも、兄でも父でも構わん。今ならば、姉にリーゼロッテが付く」

「えっ。私ですか!?」

「仲がいいのだろう? 無理にとは言わんが、良ければ付き合ってくれ」


 驚くリーゼロッテだが、驚きから立ち直ればすぐに微笑んでくれた。


「構いませんよ。私、お姉さんになります」

「リーゼさんが、お姉ちゃん……?」

「ああ。すると自動的にシャロンも姉に付いてくる」


 シャロンはリーゼロッテの姉のようなものだ。とすれば芋づる的に、というやつである。

 本人の了承は得ていないが、まぁ、どうにかなるだろうと、コテツはたかをくくる事した。


「コテツが、お兄ちゃんで、リーゼさんがお姉ちゃんかぁ……、悪くないかも」

「とりあえずはそれで我慢してもらえないか」

「うん……、でも私との結婚も考えておいてね?」

「分かった」


 そして、纏まりかける話。

 なんとなく通じ合ったような生暖かい空気の中で、コテツとターニャが見つめあう。

 しかし。


「ちょぉーっと待ったぁ! この私を忘れてませんかねぇ!」

「あざみ、そういえば居たな」

「忘れられてた!!」

「それで、何が不満だ」

「最近扱いが雑ですねちくしょー! 親密さの表れということにすればあら不思議複雑な気分! というのは置いといてですね! 私は!? 私は家族に入れてもらえないんですか!?」

「ターニャ、アレが妹だ」

「じゃあ私もお姉ちゃんだね!」

「妹ですか!! 何で妹ですか! 年上ですよ!! とんでもなく! とっても!!」

「では祖母だな」

「悪化! 悪化してますよ! どこかおばあちゃんですか!」

「君が実年齢の話を出したのだろう」

「ぬううう……、いやほらもっと、別にあるじゃないですか」

「おばあちゃんはもういるよー、コテツ君にも早く紹介したいなぁ」

「ほら、この子もそう言ってますし、母とかどうですかね! 父と仲睦まじいことこの上ない!」


 そんな言葉にコテツは一言。


「……俺の母が君というのは……、流石にない」

「ヒャッホーッ! 今までで一番の冷たい眼差し!! ターニャさんの兄ポジ固定ですかそうですか!!」


 結局あざみは妹で妥協した。












「あら、別に結婚しても良かったのに」


 興味なさそうにアマルベルガは言う。


「本当にそれでいいのか、君は。そもそも、アレだけの騒ぎになったが……」

「だってねぇ。強いんでしょ? あの子。あなたに迫るくらい。そして、あなたの事も裏切らなさそうだし」


 あけすけに、彼女は言い放った。


「喉から手がコンニチハ、よ。もうするっと出るわよ。欲しいに決まってるじゃない、バカじゃないの。結婚一つなら安いものだわ」


 そして、最後の方はぼそぼそと。


「重婚歓迎だし、それにほら、そうなったらアレよね。私が本妻よね、王族だし、王女だし、これから女王だもの。体面的に」

「何故君が出てくるんだ?」

「忘れなさい」

「了解」


 ごほん、と彼女は咳払いを一つ。


「まぁ、ともかく。彼女が嫌がらないなら、戦力としては大歓迎よ。あなたの事抱きしめてキスしてあげたいくらいよ。……割といつもだけど」

「そうか」

「で、また専属増やす?」

「俺に問われても困るな」

「じゃ、増やしなさい。そっちの方が扱いが楽でいいのよね。もう専属=あなたの後宮で行こうかしら。エトランジェは気に入った女の子を専属にして回ってるって。きっとメイド達が熱くなるわね」

「ほどほどに頼むぞ」

「ええ、そうね。ただ、あなたのお気に入りということにしておけば、安全がある程度保障……、っていうのは前も言ったかしら」

「ああ」

「ま、そういうこと。……ついでに、立場抜きにして言えば……、アレね。わざわざ異世界から追っかけてくれた女の子、大切にしてあげなさい。結婚しろとは言わないけど」


 なんだかんだと言って、アマルベルガもお人好しだ。できるだけ冷徹で合理的な女王でありたいと思っているようだが、それでも、優しい女性だと、コテツは思う。

 その割りに、その肩に乗った重責は不釣合いなほどに重いとも。


「どうなるかは分からんが、もう少しターニャとは話す。彼女が戦うことをどう捉えてるかはわからん。あまり過度な期待はしてくれるな」

「ええ、お願いね」











「コテツは、今も戦ってるの?」

「ああ」

「じゃあ、私も何かあったらがんばる」


 こちらから聞くまでもなくあっさりと、それは決まった。


「コテツの敵は私の敵だもん」

「そうか。すまないな」

「ううん、男の人を影に日向に支えるのがりょーさいけんぼっておばあちゃんも言ってた」


 本当に、ターニャは上機嫌だ。


「しかし、君はやはり、時空間爆発によってこちらに来たのか?」

「うん。ええとね、エミールと、じんじゅーろーと一緒にどかんと一発」

「……エミールも来ているのか」


 ジンジューローは大方巻き込まれたのだと思う。

 エースの中では大分常識的で、何かと割を食う彼を思いだしながら、コテツは遠くを眺めた。


「しかし、随分危険な真似をしたものだな。ここに来れるとも限るまい」

「うん、でもね。コテツ君がいきなりどっか行っちゃうから」

「それは、すまん」


 ぎゅ、とコテツの手は握られた。


「コテツが教えてくれたんだよ、全部。世界には沢山の色があることも、色んな味も、匂いも、ぬくもりも。コテツ君がいないと、わかんなくなっちゃうよ」

「……そうか」

「ねね、コテツ君、また、昔みたいにわしゃわしゃってしてほしいな」


 言われるままに、コテツは彼女の頭に手を置いた。


「えへへ」


 彼女は微笑む。彼女の年に不釣合いなほど優しい笑みだ。


「私ね、今メイドさんなんだよ、えへんっ」

「ああ、驚いた」

「ちょっとだけだけど、料理もできるようになったよ。お洗濯とお掃除はたくさんできるようになった」

「成長したな」

「えへっ、もっと褒めて褒めて。今度コテツ君にもお料理食べさせてあげるね」


 そして、ターニャはコテツを上目遣いで見る。


「私、がんばったよね?」

「ああ」

「そか。うん、がんばった。コテツがいなくて、寂しかったけど、がんばったよ。だから、ご褒美ほしいなぁ」

「……大したものは出せんぞ」


 勝手に居なくなって寂しい思いをさせた負い目もあり、コテツは承諾。


「うん、大丈夫。赤ちゃんとかじゃないから、平気だよ。じゃあね、ここに、紙と、ペンがあります!」


 ターニャはメイド服のポケットからメモ帳と万年筆を取り出した。


「ここに、コテツの苗字を書いてほしいな!」

「そんなことでいいのか?」


 コテツはメモを受け取ると、久々の漢字を書いて見せた。

 そして、彼女にペンとメモを戻す。


「うんっ、ありがと、これ、貰うね!」


 ターニャは嬉しそうに、メモを大事そうに抱えて走り去っていく。

 とても嬉しそうに見えたが、今ひとつ腑に落ちないままコテツはそれを見送った。

 その意味を知るのは少し後のことである。

















「ターニャ・C・モチヅキですっ。 改めて、よろしくお願いします!」


 あざみがまた騒ぎ始めたが、いつもの事なので放っておくことにした。









日付は変わってますけど、社会通念的にはまだ5/1だと思います!

そして、何事もなくするっとターニャが合流。一番乗りです。



そして、なんとなく作った好感度ランク表


愛以上の何か


ターニャ(世界の中心どころか世界=コテツ)

エミール(アカン)




あざみ(朝チュン希望)

ソフィア(一緒に本を読みながらゆっくりと生活したい。むしろコテツの膝の上で本を読みたい)

アマルベルガ(私がいないとダメねと既に女房気分か)

ノエル(現在醸成中。急速に上昇している最中)



かなり好き


クラリッサ(完全にアウト。恩もあるし完全に負け)

シャロン(ガンガン攻めるエーポス勢を見ていいなぁ、と物欲しげ。亜人故の遠慮)

エリナ(王子様)



結構好き


モニカ(恩もあるし、村に別にそんないい男もいないし)

メイド長(カワイイ。しかし年齢とか色々アレなので焦り気味)



気になる男性


シャルロッテ(頼りになる同僚。あるいは友達。クラリッサがチョロかったので置いてかれた)



よく分かっていない


リーゼロッテ(亜人で従者だしという心理的ストッパー。しかし根底ではどうなのか。というか無差別主義と言うだけで亜人には好感度上昇補正が)


ターニャ・C・モチヅキ


もともとは火星のエースであるが、コテツに負けた後あっさりと裏切る。

当時ほぼ人と関わったことはなく、モニタ越しの研究者位としか喋ったことはないし、ほとんどを与えられた部屋の中で過ごすことになった上、情操教育だとか道徳と言ったものにも無縁であり、火星への忠誠心は零に等しかった。

何らかの実験の被検体であったらしい。

コテツに負けてからはコテツにべったり。エースが増えるのは嬉しいので地球も容認。ついでに怪しい動きをしてもどうにかするためにコテツとセットにしておくのは当然の流れだった。

彼女にとってコテツは、唯一の他と違う、区別されるべきものである。

彼女の世界のすべてはコテツによって教えられた、コテツを基点としたものであり、コテツに対する依存度はどのヒロインよりも高い。

コテツのためなら世界を敵に回すことに何のためらいもない。

コテツに会った当初よりは大分成長して、人と仲良くだとかそういったことも覚えたし、嫌いではないが、一番中心にコテツが居るのは最初から今まで、これからも永遠に代わらないものと思われる。

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