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異世界エース  作者: 兄二
10,「14g」
131/195

124話 ありのまま

「吹けば飛ぶほど軽いから、大切にすべきなのでしょう」


 晴れ渡った昼間の街で、ノエルはぽつりと呟いた。


「少なくとも、自ら風に晒しに行くのが賢いとは思えんな。俺の言えた台詞ではないが」


 晴れた街で、観光の続きを。


「……ま、軽いから集まって重くなろうとするんだろうさ。オレらみたいのはさ」


 そんな彼らの前には、帽子を取って、ブラウスとプリーツスカートを着用したラウの姿もあった。


「つーかさ、なんでいきなりそんな暗い話題なんだよ姉ちゃんよ……」

「何となく思いましたので」

「……そーかい。せっかく人が案内してんだからもっと楽しくいこうぜ」


 先導するように、歩くラウは振り向いて肩を竦めた。

 そんな彼女へコテツは言う。


「ところでラウ、言葉遣いを直すんじゃなかったのか?」

「あっ……、くそ……。せっかく私が案内しているのですから、楽しく行きましょう、お二人とも」


 わざとらしい丁寧語でラウは言ったのだが、いかんせんどうも本人もしっくりこないと言ったところか。


「やめだな。なんかあんたら相手じゃムリっぽいし」


 ラウは、そう溜息を吐く。


「無理にやる必要はないかと思うがな」

「えー? そうかぁ? あんたらはこんな物言いのやつに案内されて嬉しいか?」

「別に問題ないな」

「そうですね」

「オイ」


 事件を終えて、教会に対するマレットからの援助は消えた。

 果たしてどの程度の額をマレットから支援されていたのかは知らない。

 しかし、ラウの顔に絶望はない。一概に良かったとは言えないかもしれないが、最悪ではない。

 そうであるといい、と思いつつ。


「しかし、本当に大丈夫か?」


 その件について、コテツは聞く。


「いいんだよ。本当にダメになったら泣きつくから、待ってろって。それまでは、皆で気張ってみるよ」


 気負った様子もなく、ラウは答えた。


「オレも頑張ってみるさ。観光案内」


 無くなった援助分。それを埋めるための手段の一つが、観光案内だ。この街に詳しい子供達で、観光客の相手をし、金を貰う。

 大金はもらえないなりに、人数がいればそれなりの足しにはなるだろう。

 他にも家庭菜園を本格化して野菜を売ったりなど、様々考えているようだ。


「あいつらとあちこち遊んで街駆けまわった経験が活きればいいよなぁ。いろいろ穴場とかも知ってるんだぜ、オレ」


 そんなラウの顔は、どことなく活き活きとしているように、コテツの眼に映った。


「楽しそうだな」

「ま、そうだな。これからキツイだろうけど。でも、黙ってエサもらえるの待ってさ、もらったエサの味に文句を付けてた頃よりはマシかもってな」


 まるで、憑き物が落ちたようだ。

 焦りもなく、穏やかで。


「そ、それよりさぁ……」


 そして、彼女は唐突に恥ずかしがりながらコテツに問う。

 はにかみながら、上目遣いで。


「この格好、どうかな……?」

「若いうちから女装はどうかと思うぞ」


 真顔で言ったら、ラウの蹴りがコテツの脛に直撃した。


「オレはっ! 女だ!!」

「……そうだったのか」

「気付いてなかったのかよ……」


 がしがしと、ラウは頭を掻いた。そういう動作が女らしくないのだが。

 そのまま彼女は半眼になってコテツを睨み、投げやりに吐き捨てた。


「あー、くそ、緊張して損した、バーカバーカ」

「すまん」

「いいって、まぁ、身から出た錆ってやつだしさぁ。ほら、とっとと行っちまえよ、ばーか」


 ぴたり、とラウは足を止める。

 

 気がつけば、三人は門の前に辿り着いていた。


「ここが最後の観光地、まぁ、街の門だわな。それだけ。さ、この街は楽しかったか? って聞くにゃあちっとアレなことありすぎたよなぁ」

「確かに、忙しくはありましたが、しかし収穫はありました」

「そーかい。そりゃよかった」

「ぽ」


 わざとらしく頬に手を当てて、ノエルがコテツを見る。

 何となく居づらいので、コテツはその視線から逸れるように動いた。


「ま、月並みだけどまた来いよ。そんときゃびしっと最初っから最後まで面倒みてやるからさ。うちの奴らも会いたいだろうし」

「そうだな、その時はよろしく頼む」


 そうして、一歩、コテツは門の外に出た。

 邪魔にならないよう前から横に移動したラウを後ろに、歩いていく。

 そんな中、ふとノエルが足を止めて、後ろを向く。


「そういえば一つ。無理に言葉遣いを直す必要はないとは、私も思いますが」


 ノエルが後ろを向いたのを見て、コテツも首と視線だけで背後を見る。


「代わりに、笑顔があればいいのでは?」


 年相応、かくあるべし。そんな光景がコテツの視界に映る。


「そーかい。ま、色々と、ありがとな」


 少しだけ悪餓鬼染みた、少年のような笑みは、それでも可憐だった。


「いい笑顔です。では、これにて」


 二人は再び、歩き出す。

 生暖かい柔らかな風が二人の鼻先を撫ぜた。

 むせ返るような土と草の匂いが心地いい。今日は、日差しが強くて少し暑いくらいの天候だ。


「クリーククライトを出しましょうか?」

「いや、いい。歩いていればそのうち馬車が通るだろう」


 歩いて帰る距離ではない、というのは確かだが――。


「彼はうるさいからな」


 無駄に時代がかった口調で喋るAIを思い出しながら、コテツは目を瞑った。


「そうですね。では、ゆっくりと歩きましょうか」


















「お二人さんはどんな関係なんだい? 恋人? 夫婦?」


 荷馬車の御者である、恰幅のいい商人が、荷車に乗った二人に問う。

 王都へ向かうという商人の馬車が通りかかった所を、コテツ達は同乗させてもらっていた。


「片思い中の妻と、つれない夫です」

「……ノエル」


 コテツの隣に寄り添うように座るノエルがしれっと言う。

 商人は、当然怪訝そうな顔をしていた。


「片思いってあんちゃん、こんな美人捕まえて旅行までしといて……」

「現在、姉妹でこの方を取り合っている最中です」

「あんちゃん……」


 横目で、商人がコテツを見た。


「本の端で指切って出血多量で死ね」

「……ぬ」

「だってあれだろ、この子の姉か妹ってことは美人だろ絶対!」

「姉と妹です」

「尚悪し!」


 一人憤慨し、天に吠える商人。そんな彼を尻目に、ノエルは言った。


「主様、主様、大変です」

「どうした」


 何事かと、コテツは周囲を警戒するが。


「主様と手を繋ぎたいです」

「……ノエル」


 ノエルがコテツの手をとり、ぎゅっと握る。

 コテツは視線で抗議してみるが、そんなことを気にするノエルではない。


「主様、もっと大変です」

「今度はなんだ」

「主様にぎゅってして欲しくなりました」


 彼女は、馬車内を器用に移動してコテツの膝の上に向かい合うように腰を下ろす。


「……大変なのか」

「大変です。こんな風に情動を押さえきれないのは、初めての経験です。一大事です」


 じっと見つめてくるノエル。

 しばらく、見つめあった後、彼女は愛らしく小首を傾げた。

 なぜ抱きしめないのかと、催促しているかのようだ。

 これだから、ノエルは性質が悪いのではないだろうかと、コテツは思う。

 彼女には悪気が無い。いや、あざみだって悪意はないのだろうが、あざみのように"分かっていて"やっているなら断るのは簡単なのだが、ノエルは些か純粋すぎて断りにくいのだ。

 彼女は、悪ふざけでなく本当に大変だと思っているのだ。


「ぎゅってしてくれないのですか?」

「……」


 コテツは無言で彼女の背に手を回した。


「もっと強く、お願いします」


 言われるがままにすると、彼女もまたコテツを抱きしめてくる。

 体全体で体温を感じるように、押し付けるように。


「……大変です」

「今度はなんだ」


 ある種の諦観と共にコテツが問うと、彼女は言った。


「……もっとくっついていたくなってしまいました」


 見上げる瞳にコテツは完全に諦めることにして。


「あんちゃん」

「なんだ」

「爆ぜろ」

「すまん」


 少しずつ、馬車は王都へと向かっていく

というわけで、今回は終了です。果たして何日連続更新したのやら。

予定外に挟み込んだ話でしたが、その内やろうと思ってたことを捻じ込んだのですっきりしました。クリーククライトに乗ったり。

サブAIの設定はペーターのためにあったといっても過言ではありませんし。


さて、ではお付き合いありがとうございました。

できれば近いうちにまたやれたらなぁ、とは思ってます。話は確定してるんで文章化するだけなんですが、また11は長くなりそうだなぁ、なんて。



ちなみに、クリーククライトです。うっかりミスで混乱させてしまいすみません。

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