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異世界エース  作者: 兄二
10,「14g」
123/195

116話 無慈悲な斧


 教会のある北区から南区まで歩いて一時間。そんな中で見るノイマインの街並みは、流石に観光地というだけあって、露店や屋台も数多く存在している。


「流石、というべきでしょうか」

「何がだ?」

「王都に負けない露店の数です」

「そうだな」


 そんな中を歩けば、露店の店主に呼び止められるのも、少なくない。


「お二人さん、どうだいうちのアクセサリーは。お嬢さんに似合うものもきっとあるよ」


 そんな声の方を、ノエルはふと振り向いて。


「アクセサリー、ですか。ごく一般的な男女はよくこういった贈り物をするそうですね」

「ごく一般的、か」


 興味は無かったし、ノエルは催促している、という風でもないが、送るべきかと少々迷う。

 一般的な男女の行なうことならば、とりあえずこなしておいてもいいかもしれないと。


「何か欲しいものはあるのか?」

「贈って頂けますか?」

「ああ、贈らせてもらう」


 ついでに、物を選ぶときの参考にもさせてもらうとしよう、と。女性への贈り物のセンスが皆無なコテツはノエルの視線の先を見つめた。


「では、これを」


 ノエルが選んだのは、簡素な幅広の指輪のついたネックレスだった。


「あいよ、お買い上げありがとうございます。銀貨3枚で」

「ああ」


 コテツが銀貨を手渡し、品物を受け取る。

 そして彼は、そのままノエルにそのネックレスを手渡した。


「ありがとうございます」


 ノエルは、長い髪をかき上げて、首にネックレスのチェーンを掛ける。


「似合いますか」

「わからん。違和感は無い」

「そうですか」


 そんな二人を、店主が笑う。


「そら、こんな美人なお嬢さんなら何だって似合うさ」


 言いすぎ、では無いのだろう。彼女は美人だ、というのはコテツにも辛うじて分かることだ。


「かもしれんな」

「きっとそうでしょうよ。それじゃ、ありがとうございました」

「ああ」


 言って、コテツ達はその場を立ち去る。

 そして、しばらく歩いているとノエルが口を開いた。


「コテツ様」

「なんだ」

「実は、あなたに私からも贈り物があります」

「そうなのか」

「一般的な男女は贈り合うもの、らしいので」


 そう言って、彼女は両手を前に差し出した。その手には、まだ何も無い。

 だが、そこから一メートルほどの何かが像を結び始め。


「どうぞ」


 その両手の上には、巨大な剣が乗っていた。


「……一般的、か?」

「特殊な金属を使用した業物です。刀身に魔力素をチャージできます」


 コテツの疑問はあっさりとスルーされた。


「俺に魔術は使えないが」


 ノエルの差し出す大剣は刀身は長さ一メートルを越え、幅も五十センチはあるだろうか。装飾は無く、実に素朴。それでいて無骨。分厚い刀身に、簡素な鍔と長い柄があるだけだ。


「問題ありません。この剣の用途は、チャージした魔力素を使用し、刀身に触れた魔術に干渉することです」

「つまり、どうなるんだ?」

「障壁が割りやすくなったりします。まず魔力素による干渉を行い、それによって破壊できなかった場合、刀身による物理攻撃が成されます。その際、魔力素が干渉した分、障壁は強度が減少します。他の魔術に対しても、同様の効果が得られます」


 要するに、魔術に対しこの刀身をぶつけた場合、最初にこの剣に封入された魔力素で対抗しようとしてくれるということだろう。それで打ち消せなかった場合は、減衰させてくれる便利な品のようだ。

 一般的な男女の贈り物、と言えるかどうかは分からないが、使えそうなのは確かだった。


「そうか。ありがとう、使わせてもらおう」


 だから、一般的な男女の贈り物かどうかなどという疑問は、そっと心にしまっておくことにした。


「存分に振るってください。魔力が無くなれば、私でなくとも魔術さえ使えればチャージできるはずです」


 そう言って、彼女はその手から大剣を消す。

 使う予定が無い今、彼女に預かっていてもらうのがいいだろう。


「そろそろ一度戻るか」

「そうですね」


 まだ日が高いにも関わらずそう言ったのは、フェリノアが大体この時間に買い物に出ると言っていたからだ。

 世話になっている以上は、多少の恩返しは必要だろう、ということでコテツ達はフェリノアの買い物に付き合うことにしていた。

 教会を始点として、大きく円を描くように移動していたため、協会はすぐだ。

 歩いて数分も見ないうちに教会が見え、それと同時に教会の中庭に立つフェリノアの姿も視界に入る。


「あ、おかえりなさい。どうでしたか? この街は」


 シスターもコテツ達に気が付いたようで、近くまで来て柵越しに声をかける。


「綺麗な街だ」

「ありがとうございます」


 彼女は、ちょうど洗濯物を掛け終えたところのようだ。コテツ達もいいタイミングで帰ってきたと言える。


「でも、ちょうどよかった。これから買い物なんです。よろしければ付き合ってもらえませんか?」

「ああ、そのつもりだ」


 そう答えると、フェリノアは優しく微笑んだ。


「ありがとうございます。ちょっと待ってくださいねぇ」


 彼女は、小走りで入り口から出てきて、コテツ達に合流する。


「では、行きましょうか」


 歩き出す彼女にコテツ達は続く。


「市場にはもうお二人は?」

「まだ行っていないな」

「交易が盛ん、というわけではありませんが、観光地ですから面白いものもたまにありますよ」

「惚れ薬はあるでしょうか」

「……ないと思います」


 はたしてその惚れ薬を彼女は自分に使うのか、コテツに使うのか。

 わからないが、命拾いしたのは確かだろう。


「あ、ここです、ここ」


 フェリノアはそう言って市場の入り口を指差した。

 客引きの声や、値切りをする客の声、主婦だろうか、同じ買い物客同士での雑談と、様々な音が入り乱れている。


「値切りますよ、がんばりましょう」

「金は俺達も出す。あまり気にしなくていい」

「なら尚更です。うちは食べ盛りがいっぱいですから、できるだけたくさん買わなきゃ」

「そうか」


 値切りでは役に立てそうにないので、コテツは荷物持ちと財布に徹することに決めた。


「でも、家族の間に遠慮は無しですから、厚意に甘えてたくさん買うんですけども、大丈夫ですかね?」

「構わない。金はある」


 旅行にあたって、ある程度の金は持ってきていた。

 アマルベルガが、旅に出る前に『これくらいは持っていきなさい。給金はちゃんと渡してるでしょ?』と弾き出した数字に応じた金額は持ってきている。

 『ああ、でもあなたなら何も買わないで戻ってきそうね。そうなったら、笑ってあげるわ。ちゃんと使ってきなさい』

 そんなことも言われているが、何とか笑われずに済みそうだ。


「ありがとうございます。腕が鳴りますね!」


 そう言って、フェリノアは笑う。そんな時だった。


「おねぇちゃーんッ!」


 堰切って、教会の子供が駆け寄ってくる。


「ミィ、どうしたの? 薪拾いは……」

「魔物に襲われたの! おっきいクマみたいなやつ!」

「魔物に!?」


 フェリノアが悲鳴のような言葉を放つ。

 コテツは、ノエルに視線を向けた。


「熊、ということでしたら、この地域にはフォレストベアの亜種、ブラックベアと呼ばれる魔物が生息しています。ただし、山の上部に生息するので、子供たちが薪を拾いに行くような範囲で見かけることはほとんどありません。餌がなくて降りてきたのだとしたら、運が悪いとしか言いようがないでしょう」


 滔々と語るノエル。対照的に、フェリノアは動揺を隠せないまま聞く。


「ミィ、他の子達は!?」

「大体は逃げてきたけどっ、ラウと男の子たちが何人かわざとクマの前にでて私達を逃がしてくれたから――っ!」


 コテツの世界の普通の熊ですら子供が逃げ切れるような相手ではない。

 逃げるために、囮が必要だったということだろう。


「そんな……!?」


 あまりの衝撃に、へたり込むフェリノア。


「お姉ちゃん! ラウ達を助けて!」


 ミィ、と呼ばれた少女が叫ぶ。

 その声に応えたのはフェリノアではなく。


「案内してもらえるか」


 問うのはコテツ。

 彼は、無造作にミィを抱え上げ、問いを変えてもう一度聞いた。


「どっちだ」

「え、あ、あっち!」


 指差された方向へと、間髪入れずにコテツは走り出した。















「あーもう、くっそ……、厄日もいいとこだな今日は!」


 ラウは、木の上で悪態を吐いた。眼下では、黒く巨大な熊がこちらを見上げている。

 他の子供たちも、同様に木の上でじっと身を縮こまらせていた。

 ブラックベアはその巨体故に木登りができないようだ。そして、ラウ達は日常的に木登りをして遊んでいたのが功を奏した。

 木登りができない面子は先に逃がした。残っているのは囮役だけである。


「……諦めるのを待つしかねぇか」


 ぽつり、とラウは呟いた。

 何とか気丈に振る舞ってはいるが、心臓は今にも飛び出しそうなくらい脈打っている。


「刺激すんなよ。じっと待ってろあいつはここまで来れない以上、いつか諦めて帰る」


 ラウは、すぐ近くの木にいる家族へと声をかけた。

 できるだけ静かに、低く、ブラックベアを刺激しないように。


「う、うん……」


 リーダー格のラウが取り乱せば、今何とか保っている周囲の平静はすぐさま瓦解するだろう。


(早く帰ってくれよ……!)


 天にも祈りたい気分でラウは心中にて呟く。

 神など信じていないが、今この瞬間だけは誰でもいいから助けてほしいと思う。

 そうして、熊と子供達はしばらく睨み合っていた。

 一瞬に過ぎないような、永遠に続くような、じりじりと背筋を焼くような焦りと不安の時間が過ぎ去っていき――。

 熊が遂に視線を下げ、一歩後ろに後退した。


「諦めたのか……!?」


 一瞬見えた希望に、ラウを含めた全員が顔に喜色を浮かべかける。

 その時だった。


「ガァアアァッ!!」


 熊が吠えると同時に、その腕をラウの上っている木へと叩きつけた。


「うわぁ!」


 木が大きく揺れ、ラウは手近な枝にしがみ付く。

 落下だけは免れたが、ただでさえ早鐘を打っていた心臓は今にも破裂しそうなほど激しい鼓動を刻む。


「なにしやがっ……」

「ガウッ! ガアァッ!!」


 一度では諦めずブラックベアは連続で木を叩く。


「やめっ、やめろよっ! 折れる、折れるッ!」


 その度に木は大きくしなり、揺れ、葉を落とす。

 やがて、軋むような音も聞こえてくる。


「ダメ、やだ……! 折れるだろ……!?」


 そして、ブラックベアは大きく腕を振りかぶり。

 慈悲なく叩きつけた。


「う、あ……」


 根元から、ぐらり、と不安定な浮遊感が伝わる。そして、ゆっくりだった傾きが、速度を上げて、地面へと迫る。


「やだぁああッ!!」


 悲鳴と枝が豪快に折れる音を伴って、木が横に倒れきった。


「う、ぐ……」


 衝撃から立ち直り、どうにか身を起こすラウ。

 木の枝がクッションになったおかげで、枝で引っ掻いたくらいの傷しかない。

 しかし。


「あ……、あぁ……」


 命の危険は目の前にある。

 仲間たちが、ラウの名前を呼び、早くに逃げろと叫んでいるが、足は震えて役に立ちそうにもなかった。


「グルルル……!」


 黒い巨熊がラウを睨み付ける。

 朱い血の色のような瞳の鋭い眼光が、ラウを射抜いていた。

 まるで、その視線に射抜かれたように体が動かない。


(死ぬ、これ死んだ……!)


 ブラックベアが、その丸太のような腕を振り上げる。


(死にたくない、こんな簡単に――!)


 涙目に染まる視界。

 そんな中、視界の端に、ラウは飛来する直径五センチほどもない石を見つけた。


「ガウ……?」


 石の当たったブラックベアが訝しげにあたりを見渡す。

 そこに、声が響く。


「どうやら、間に合ったようだな。無事で何よりだ」

「あんた……!」


 片手に巨大なバルディッシュを携えて現れたのは、コテツ・モチヅキ。

 彼は、空いている手にもう一つ持っていた石を、ブラックベアへと投げつけた。


「さて。療養中で戦闘行為は禁止されているが、不可抗力だろう」

「ガアアッ!」


 石を二度もぶつけられたブラックベアが、コテツの元へと動き出す。


「無事のようですね。我々は、巻き込まれないように避難しましょう」


 そんな中、背後からかかる声。

 ノエルだ。


「魔術師のねぇちゃん! それにミィ!」

「ラウ、無事でよかった!」


 ミィが声を上げる中、ノエルはラウの体を抱き上げて、コテツとブラックベアから距離を取る。

 その様を見て、ラウは思わず声をかけていた。


「お、おい、いいのかよ!? あんた魔術師だろ! あの兄ちゃん援護しないと死んじまうぞ!」


 ブラックベアは中型一歩手前の魔物だ。一対一で戦うような相手ではないことは、ラウですら知っている。

 だが、ノエルは一切進行方向を変えようとはしなかった。


「あの方は」


 熊の振り下ろした腕を、バルディッシュが弾く。

 そして、体制が崩れた隙に――。


「あの程度で死ぬような方ではありません」


 片手で、目一杯に遠心力を乗せられたバルディッシュがブラックベアの頭に叩き込まれた。


「前回と違いバルディッシュもあったが……、脆いな」


 まさに叩き潰すかのように、無慈悲に。

 頭蓋の砕ける音と共に、ブラックベアはその頭部を地面にまで叩きつけられた。

 巨熊は、もうピクリとも動かない。


「……すげえじゃん」


 呆然と、ラウは呟いたのだった。




二本更新したからと言って話が進むとは限らない。そういうことです。



余談。

シャロン・アップルミントに付いてググっても今ひとつ出てこなかったため、古本屋に出向くことになったことをご報告いたします。

……本当にいました。

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