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異世界エース  作者: 兄二
02,初仕事
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8話 依頼否応無し




 コテツは王城の廊下を歩く。


「ご主人様、やる気を出してくださいよー。そんなだから周囲に調子に乗られちゃうんですよー?」

「と、言われてもな。別に適当にやっているわけでもない」


 左にはあざみ、右にはリーゼロッテ、だ。


「本当ですかー?」

「まあ、見た目にはなかなか分からんだろうが」

「えー、でもですねぇ。こう、あれじゃないですか。最後のアレみたいなガキィンッって」

「確かに、アレはすごかったですね。あれだけ、雰囲気違いました。素人目ですから、よくわかりませんけど」


 あざみの言葉に、リーゼロッテも追従する。

 しかし、コテツにとってあの一撃は本意ではなかった。

 彼は、憮然と肩を落としながら口を開く。


「あの動かし方は、褒められたものではない」

「そうなのですか?」


 だが、リーゼロッテが疑問符を浮かべると同時、あざみも首をかしげている。

 コテツは、説明しようと口を開くが、背後から声が掛かって、それは中断された。


「コテツ・モチヅキ! こちらを向きなさい!」


 刺々しい声に、コテツが無表情で振り向くと、そこにいたのは、


「クラリッサか」

「クラリッサか、じゃありませんコテツ・モチヅキ」


 そこにいたのは、王女騎士団副団長、クラリッサ・コーレンベルク。


「今日の訓練はどうでした? まあ、どうせシャルロッテ様に負けたんでしょうけど」

「ご主人様、いきなり喧嘩売ってるんですかこの人」

「気にするな、いつものことだ」

「無視しないで、コテツ・モチヅキ。不愉快です」

「無視はしてない」

「それで、今日の訓練は? まあ、私にも一勝もしたこと無いあなたじゃ善戦しても三分持たないでしょうけども」


 その言葉を、コテツは適当に流して返した。

 わざわざクラリッサの嫌味に付き合うときりがない。


「用件は?」

「なにがです?」

「俺を蛇蝎の如く嫌う君が用も無しに?」

(いや……、嫌味を言いに来ただけかもしれんが)


 結果としては、ちゃんとした用事はあったらしい。

 忌々しげに、クラリッサは口を開いた。


「王女様からのお呼びです。死ぬほど嫌だけど、一緒に行くから早くなさい」

「わかった」


 彼女はコテツを嫌うが、律儀で真面目な性格でもある。決してコテツに不利になるよう賢しく立ち回ったりもしない。

 見たまま、ストレートに考えをぶつけてくるだけだ。些か直情的ではあるが。

 だから、命令があれば如何に気に食わない命令であっても彼女は遂行するだろう。


「と言うわけだ。俺は王女に会いに行くが」


 振り向いて、二人に言うコテツ。

 リーゼロッテは素直に頷いた。


「わかりました」


 しかし、あざみは食い下がる。


「私はエトランジェのパートナーですから。同席しても構いませんね?」


 対するクラリッサは少し戸惑った顔をしたが、すぐに平然として答えた。


「ええ、問題ありません、あざみ様」

「では行きましょうか」


 いつの間にか、あざみが取り仕切っている。

 険悪になり、クラリッサの嘲りに晒されるコテツを気遣ってのものなのかどうかは判断が付かなかったが、なにを言うでもなく、コテツはそれに続いたのだった。
















「よく来てくれたわ」


 王女の執務室。

 謁見の間以外で話をする、ということはまだ公にしたくないと言うことだ。

 その上、コテツ、騎士団団長、副団長と来れば、室内には厄介ごとの空気が漂っていた。

 その、厄介ごとの気配のする空気を切り裂くように、アマルベルガは切り出した。


「公の会議でもなんでもないから前置きなしで行くわ。村から苦情が出てるから、三人で最近住み着いた山賊を倒してきて頂戴」


 まさに、厄介ごと。

 その言葉に、いち早く反応し顔を歪めたのは、クラリッサ。


「何故三人なのですか!? こんな奴いなくても私と団長がいれば……!」


 確かに、この三人という面子は異常でもある。騎士団としてでもなく、エトランジェとしてでもなく、混成の三人で、だ。

 その説明として、アマルベルガは更に口を開いた。


「クラリッサ、この討伐の目的はコテツのためにあるのよ。分かるかしら?」

「……どういうことですか」


 クラリッサが聞けば、アマルベルガはコテツのほうへと目を向ける。


「コテツ。貴方の風評は貴方がどうにかしなさい、ということよ。分かるかしら? コテツ」

「……は」


 そう、コテツの現状の評判は非常に不安定だ。

 先の戦いの活躍を信じて敬意を払う者も居れば、頑なに信じない者もいる。

 だから、評判をある程度固定化しなければならない。

 一応のこと、コテツもそれは理解していた。

 それ故、王女に言われ、コテツは頷きを返すのだが、それだけでは不服なのか、アマルベルガは彼に言った。


「公の場以外では素で構わないわ。むしろ思ったことを話してちょうだい」


 言われて、素直にコテツは思ったコトを口にすることにした。

 王女は聡い。下手に取り繕っては、火傷をすることになるだろう。

 ならば、言われたとおり本音で話したほうがいい。


「俺は別に……」


 そして、本音を言うならば、コテツとしてはどうでもいいのだ。

 風評も、なにも、馬鹿にされて怒るなら、もっと前に暴れている。

 むしろ、風評など知ったことではなく、好きに行きたいと思うのだが。

 だが、そうは問屋が卸しはしない。アマルベルガは、ぴしゃりと言い放った。


「貴方がそうでも、国としては困るのよ。貴方の評価が低いと。だから、盗賊討伐をこなしなさい」


 そこまで言って、アマルベルガは、今度はシャルロッテとクラリッサの方を見る。


「貴方達はその証明役よ。私が想定している最も上手くいったケースならね。王女騎士団団長と副団長が盗賊討伐への貢献を認めたら誰も文句は言えないでしょう?」

「ですが、こいつは……」


 食い下がるシャルロッテに、王女は言葉を被せた。


「勿論、それは最高のケース。駄目なら、貴方達が討伐なさい。結果は変わらないわ」

「つまりこの男に手柄を渡せというのですかっ」

「貴方達にとってそれは誇りを汚す行為だということは分かっているわ。だけどお願い。必要なのよ」


 不満はあるようだが、王女に言われ、クラリッサも渋々ながら、頷くこととなった。


「王女様が、そこまで言うなら……」

「そういうことよ。お願いね」

「はっ、了解です!」


 クラリッサと、シャルロッテが揃って敬礼をする。

 そして、話は纏まったのかと、コテツはどうでも良さげに窓の外へと目を向けるが。


「それとコテツ」


 ぴしゃり、とそこに王女の声が掛かった。


「貴方がやる気になるかどうかは自由よ。だけどね、貴方の意思に関わらず貴方は国の中心に立つし、私が立たせるわ」

「今回の件のように?」


 皮肉。だが、アマルベルガは涼しげな顔のまま。


「ええ」

「ふらりと呼び込んだ外人が国の中心か」

「そうよ」

「正気じゃない」

「わかってるわ」


 最後まで、王女は、表情一つ変えなかった。


「お願いね」

「了解」


 だから、結局コテツは、それだけ言って退室することにした。











「あなたは! 王女様になにを言っているのですっ」


 出るなり、コテツはクラリッサに肘で小突かれることになった。


「ちょっとちょっと、クラリッサさん、別に王女様も怒ってなかったじゃないですか」

「あざみ様……、貴方は何故こんな男のことを……」

「素敵だからですよ。他に理由がいります?」


 言われ、クラリッサは言葉に詰まる。

 行き場を失った矛先は、結局またコテツへと向けられた。


「コテツ・モチヅキ! 少し来てください!」

「何の用だ?」

「訓練です。特別に私が付き合ってあげるから来なさいっ」


 強引にクラリッサがコテツの腕を掴む。


(最近引き摺られてばかりだな……)


 思いながらも、抵抗せずに引き摺られていくコテツ。


「あ、待ってくださいよご主人様ー」

「……大丈夫なのかこの面子で」


 シャルロッテの問いに答えるものは、誰一人としていなかった。








ファンタジーテンプレの極致といえば盗賊の討伐だと思います。

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