爆裂する雷と
送れました。すみません
彼ら彼女らがどんな思いをしていようと、またその思いがどんなに嬉々とした事であっても絶望する事であっても日は落ち過去から光を放つ星が煌めき、やがて空は藍色から白が混ざり日は登る。それは自然の摂理にして人の日常を支えるとても大事な自然現象だ。
「ハイ、これでお終い!各自体育館に移動してね!」
七組教室内。いつもの朝のホームルームである。さすがに三日も連続して戦闘するのは慣れてきたが疲労は残るもの。担任である薊が出席簿を持って教室を出て行った。大方のクラスメイトは立ち上がり今日行われる試験を見るための場所を取りにさっさと移動してしまう。決勝近くなると皆訓練よりも他の者たちによる熾烈な戦いを見ようとするのだ。
結局、取り残されたのは訓練する数少ないクラスメイトと劉二ぐらいだった。
「…………」
此処にいても何の意味も無い。さっさと体育館に移動する。
「……そういえば、」
校舎一階廊下にて劉二は一つ疑問に思った。それは、自己紹介の時だ。記憶は曖昧だが確か自分の姓名の漢字を表す際に
『劉備玄徳の劉に……』
と言ったはずだ。今は亡き親にそう言えば分かると言われていたのでずっと今まで紹介する時にはそう言っていた。しかし、
「…………劉備玄徳って何?てか、誰?」
その劉備玄徳を劉二は知らない。果たして、それは誰なのか。何をした人なのか。考えたって零から答えを見出すのは不可能な話。結局、蟠りを抱えたまま体育館に向かった。
もう三回も来れば勝手に慣れて来るお馴染みの体育館。中央に空間があり、その周りにはジャンクが存在する。
今回の相手はシェリア・オルタネイト。『閃雷のシェリア』の異名を持つ女だ。情報によると雷を扱う事に長けているらしい。されど百聞は一見に如かず。聞いた情報なんて正に氷山の一角だ。この目この身で確認しなければならない。劉二はストレッチをして体を伸ばし、剣を一振り。使い慣れないのは仕方が無い。劉二はそのまま定置につく。そして相手が位置に着いた。
「On Your Mark……」
薊の声が聞こえる。劉二の視界には目の前の倒すべき敵、そしてジャンクの広がるステージしか映って無い。
「Get Set……」
全神経を体中に張り巡らす。細胞の一つ一つまでもを臨戦態勢に持ち込む。世界がスロー再生されてるかの如く全ての動きが視える。
「……Go Ahead!!」
空気を震わす音の情報体が聴覚から神経を通り、脳が認識し理解した瞬間、二人は走り出した。
劉二は走りながら右手に一本の剣『絶現剣』を創り出し、愚直にそのまま横薙ぎに振り抜く。そのリーチはシェリアに届いた。シェリアだって負けてはいない。創り出した『雷撃槍』を片手に持ちその刃と刃を交えていく。これは戦闘では無い。初めの単純な力比べだ。凄まじい音を繰り広げ後ろに大きく跳躍。二人は一瞬笑う。そして、本当の闘いが始まった。
先手は、シェリアだった。シェリアが槍を一振り。その瞬間、目の前が光る。本能的に劉二は右に跳躍した。刹那、先ほどまでにいた場所の前のバイクの残骸らしきジャンクが帯電して吹っ飛んだ。
「爆雷!」
劉二は鋭いシェリアの声を聞く。目の前が白い。初め、劉二は何が起こっているか分からなかった。しかし、理解できる事は一つ。宙を舞っている事だ。訳が分からぬまま体勢を立て直し地面に受け身を取ってその勢いで起き上がる。
「…………!」
地面を見ると黒焦げた跡があった。劉二は予想する。恐らく、声通り爆裂する勢いの雷が着弾し風圧で吹き飛んだんだろう。
戦闘は常に無常。またしても爆雷の声が連続で聞こえて来た。劉二は右に跳躍し左に跳躍し徐々に距離を詰めて行く。ジャンクの吹き飛ぶネジが頬を擦り、鉄の破片が空を切る。切り傷から出血してもそれを無視して距離を詰め切り剣を振りかぶった。彼女は、笑っていた。
「!?」
気付いた時には既に遅い。振ってしまった剣の軌道は変わらない。片手で持っている『雷撃槍』に弾かれた。追撃は終わらない。シェリアは左腕を伸ばし劉二を掴んで、
「はッ!」
零距離から雷撃を撃った。
身を貫く電撃、迸る閃光と共に劉二はジャンクに背中から突っ込む。壊れた四輪駆動車のボロボロのシートが衝撃をある程度和らげてくれた事が幸いだろうか。劉二は一息でジャンクの裏側に這いずり出ようとした。刹那、微かに逸れながら隣のジャンクに爆雷が貫き、部品を外側にぶちまける。劉二は急いで裏側に出てきて右に跳躍から伏せた。バゴン、バゴンと次々にジャンクを貫いて襲う爆雷は執拗に狙う。
半周回った所で劉二はフェイントで剣を上に放り投げる。無駄だ。劉二はあらかじめそう思いしダッシュを止めない。しかし、予測は外れた。雷が放り投げられた剣に直撃。回転しつつ劉二を通り越して地面に刺さる。劉二は、その一連の事象を逃さなかった。今の一瞬のシェリアの表情、そして魔獣眼による爆雷の方向ベクトルから。さらに、自分の持つ敵に見せてい無い技を使うことで、
「……いけるか?」
勝つ見込みはそれなりに低いが無い訳では無い。むしろ勝率があると分かれば俄然やる気が出る。劉二はこの状況を打開すべく行動に出た。
予想外だった。ジャンクの裏に潜んでいるであろう劉二に向けて爆雷を撃ったはずが完璧にフェイント、もはや気の紛らわしにすらなって無い剣に当たってしまったのだ。しかしこんな事態に気を取っている余裕は無い。そう判断付け爆雷を撃っていく。
「…………?」
おかしい。何かがおかしい。狙った方向に撃っても、同じ範囲にしか爆雷が突き進まない。否、三通りのパターンしか無い。そう思い始めた瞬間、
「!」
後ろに気配を感じた。本能的に背後を見ずに雷を落とす。
「……バレたか」
案の定、彼がいた。しかし、これでは謎が深まるばかりだ。彼を狙っているのに三方向しか届かない。彼はどういった絡繰りを使い、ここまで接近して来たのか。脳の片隅にその疑問を置いときながら、今は倒すべき敵に集中する。距離は十メートル弱。こちらの損傷は零。対する相手は多大では無いが確実にある前の方法を使えば次で片づけられるだろう。だから、
「前の繰り返し、よッ!」
振り向き様に雷を撃ち出した。劉二は、前と同じ動きをしなかった。こちらに向かって走り、
「!」
劉二は、半分賭けの勝負に出た。もし予想が正しければ、彼女の雷は『絶現剣』に反応する。更には雷の貫通を止める効果もあるはず。それを仮定とした上での戦法だ。
「うおおおおおおお!!」
声を上げて劉二は走る。目測で約七メートルの距離でシェリアの腕に雷が纏う。その瞬間、劉二は何も言わずに持っている『絶現剣』を十本以上複製。そのまま軽く斜め上に纏めて撒いた。剣はそのままばらけながらも劉二とシェリアの間にバリケードが出来た。劉二はそのまま身を低くしバリケードの下を掻い潜る。そのまま走り続けて
「……しゃあ!」
一閃の爆雷が劉二の背中を通過しシールドを粉砕した。
劉二は走ったまま手元に二本複製。シェリアに向かい右の剣を横に薙ぎった。シェリアは一歩後ろに下がり剣戟の範囲から逃れ槍を突き込む。右足に掛かる体重をずらし、右に傾きながら点移動の槍の範囲を回避。そのまま右の刀を離し手を地につけバランスを調整し立ち上がった。既に剣は右手に握られている。シェリアはかわされた事を悟りそのまま右に体を向けると同時に槍で一閃しようとした。そして、
「……ぁ!」
左の剣に槍を阻まれ、右の剣に槍を弾き飛ばされた。雷撃槍はシェリアの手元から離れると一瞬光り霧散した。雷を固めて作ってあるのだから当然の結果と言えば当然だ。
「く……ッ!」
シェリアは一歩後ろに跳躍。再び雷撃槍を形成しようとした時だ。踵にコツンと硬い物質が当たった。そのまま視線を向けてみると、
「…………あ……」
劉二がバリケードとして使った十数本の剣が落ちているではないか。更に、全て淡い光を放っている。これは忘れる訳が無い。彼氏であるアラス・クロフィードの敗因である『爆発』だ。これは即ち
「…………降参だわ。ずるいじゃないの、その剣複製できるなんて」
敗北を意を表す。
「と言う事で、明日は最後の試験になります!みんないいもん見られるからよく目に焼き付けておくのよ!特に今回はね!!」
そんな感じでホームルームは終わった。黒板には明日の決勝戦の対戦する者の名前が書いてある。と言っても、当たり前だが二人しか無い。そこには、五和田劉二の名と真鈴梓沙の名前が白いチョークで記してある。
教室内は依然としてざわめいている。初めてやって来た転校生がこのクラス、ましてや学年のトップを争うレベルの真鈴梓沙と勝負をするだなんて皆から見れば奇想天外の驚愕的な事実に他ならない。今教室内では劉二の周りにもちらほらと人が集まっているが大半は梓沙の元に集まっている。今劉二の近くにいるのは、
「いやぁ、有名ッスねぇ。色んな意味で」
「それ言うな芳弘」
バイト高校生の北川芳弘、そして
「しかし、よく此処まで登り詰めたな。今までどんな生活して来たんだよ。色んな意味で」
「そうよ。なんつー剣使い方。ハッキリ言って滅茶苦茶よ。色んな意味で」
「分かったから最後の文統一するな!」
先日戦ったアラス・クロフィードと今日の試験の相手、シェリア・オルタネイトだ。確かに劉二の剣の扱い方は異常だがそれは自分の身の関係上仕方が無いでしか済ます事が出来ない。
「まあ過去の話はまた後でにして……で、なんで俺はなんか恨めしい存在になって来ている訳?」
周りに耳を傾けていると数々の声が聞こえるが殆どは劉二の、よりによってあまり良くない評判の声だ。『あそこまで強いと……ねぇ』『てか、戦い方滅茶苦茶だよな』『どういう神経してるの?』『しかもまだ技隠し持ってんじゃねえの?』『なんか、セコいよね』など。
「そりゃあ、あんたこの私達を易々と撃破してくれたもんだからねぇ」
「…………えー」
「劉二さん、まさか女の子達から『何あの強い人!カッコいい!』なんてキャーキャー言われる感じの妄想でもしていたんッスか?」
「それは無い」
「本当は?」
「少しあっ…………おい!」
危うく、と言うか既に遅かった。アラスの一言に乗せられてしまった。我ながら後悔する事だ。確かに、そんな事が起きてほしいと言う想像は少しはあった。
「ま、その内友達増えるッスよ。きっと」
「内心、話してはみたいが皆圧倒的なお前の強さに引き気味、と言うのが現状だな」
「いきなり転校生が此処まで頑張るのもアレよねぇ」
「お前ら厳しいな!」
実はもうこのまま孤独の身では無いかと心配になって来た劉二だが芳弘が時計を見て
「あ、バイトの時間ッス」
の一言でこの雑談らしき物は解散となった。
試合はその通り劉二の勝利で収める事が出来たが損傷度合は劉二の方が上だ。何とも複雑である。
「今日も疲れたなぁ……まだ痺れが取れん」
校舎内を歩いている劉二が呟いた。劉二は腕を伸ばしたりアキレス腱を伸ばしたりするが今日食らった雷の痺れが未だに残っている。恐らく明日にでもなってれば取れはするんだろうがやはり違和感が付き纏いいい感じでは無かった。
「おぉ……着いた着いた」
劉二が校舎内を歩いていた理由が目の前にある。扉には『星聖学園図書室』と書いてあった。朝の疑問を帰りのトイレで思い出したのでどうすればいいか悩んだ結果、最初に出てきたのが此処だ。図書室に参考文献でもあるかどうか探してみようと思ったのだ。
「……失礼します」
劉二は重そうな扉を押し中に入った。
室内は広く、三分の一が机やテーブル、コンピュータなどの作業スペースで、残りがぎっしりと本が詰まった巨大な本棚で埋まっている。着いたものの劉二はどうしたら良いか分からなかった。なんせ莫大な本の量を相手に自分の探したい情報は何処にあるか見当もつかない。しかも、検索機能は無く表示は『あ~お』などの分類で何についてなどの分類はされていない。
「……うわぁ…………」
本棚目の前に立ち尽くす劉二。そんな時、後ろから肩を叩かれた。振り向くと、劉二より少し背の高い黒髪の、腰にまで伸ばした女が二冊の本を持って立っていた。
「……これ」
劉二は持っていた二冊の本を手渡された。どうやらその二冊の本はここあたり周辺の地域の歴史についてとこの大陸の歴史についての本らしい。思わぬ所で欲しい情報について書かれていた本を手渡された。
「あ、ありがとう」
「……来て」
劉二のお礼は無表情で返されたのち、こちらに来いとの指令が来る。黒髪の女はそのまま作業スペース奥の貸し出し場所に向かっていた。慌てて劉二はついて行く。
「もうすぐ図書室閉まるから、貸し出しにしておく。それでいい?」
「ああ、構わないと言うかそうしたかった……」
「じゃ、ここに名前を書いて」
劉二は渡された名刺サイズの紙に『五和田劉二』と書き込む。これで手続きは完了らしい。
「期限は一週間まで。遅延は厳禁」
「……分かった」
劉二は思った。なぜこの女は自分の探そうとしていた本、そして貸し出しをしたかったなどの自分がしようとしていた事が分かるのか。さすがに此処まで来ると不自然だとは思ってしまう。
「……私は朱里祢沙洲。あなたと学年は同じで図書委員をやっているわ。大体は『フィロソフィア』で私の事は通る。能力の関係上、大方したいことは分かるわ」
「は、はぁ…………俺は五和田劉二だ」
思わぬカミングアウトを受けた。『フィロソフィア』で通ると言う事は能力名が『フィロソフィア』なのだろうか。
「……違うわ。能力は『スーヴニール』…………そろそろ時間だから出て行ってくれる?」
「あ、あぁ……」
結局、分かった事は能力名が『スーヴニール』で通称は『フィロソフィア』、本名が『朱里祢沙洲』ぐらいだ。能力がどんな物かは分からなかった。
寮に帰って部屋で読んだところ、この大陸は昔は次元が不安定だったらしく色々な伝説が混ざりこんだ。と言うのが有力説らしい。詰まる所正確には分かって居ないのが事実。そして、劉備玄徳とは昔に別の地域あたりを無双していた武将で、諸葛亮孔明と言う人との策略によりこの大陸を鼎立させたらしい。劉二の理解能力はそこまで位しか分からなかった。難しい字の羅列が多すぎてベッドで読んでいたら途中で寝ていたらしい。気づいたら朝だった。
「…………今日は決勝戦か……」
脳の知識に劉備玄徳と諸葛亮孔明の事は格納されたかどうかは謎だが、今は最大の敵が待ち構えていた。その敵を倒すべく、劉二はベッドから出た。
十三です。多忙により遅れました。
『フィロソフィア』に『スーヴニール』なんてあの姉妹……