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五和田劉二の思い

遅れてすみませんでした

「終わりだぁ!」



 アラスの敗北を示す宣告に、劉二は全力で答えてやった。



爆発(explosion)!」



 アラスは全く流暢では無い英語を耳にする。『explosion』とは爆発の意を表す単語だ。何事か。アラスは氷塊を叩き付ける初動に入り決着が付くまでの刹那考える。その解答は、確かに足元に存在した。



「刀だ…………!」



 刀だと、と最後まで言い続ける事は許されなかった。足元には、氷漬けにされた刀が一本。今、その刀は灰色の光を帯びている。これを目にした時、何が起こるかは言うまでもなく分かる。決着の女神は必ずしもアラスに微笑んだ物では無い。自分を(おとしい)れ、自らの危険な状況すらも作戦と考えた劉二に向けられる物だったのかもしれない。



 アラスは空中に身を投じている。否、投じられた。爆風による物だ。氷塊を振り上げた瞬間、完全に不意を突かれた(ゆえ)爆風を対処しきれなかった。作戦に嵌った結果がこれである。アラスは地面を転がるまでの間、考えていた。自分の甘さ、そして相手(劉二)の無謀な作戦、そして、あの刀捌き。全てを考え、彼は敗北をこう評価した。



「面白い…………!!」



 アラスは、起き上がる頃には刀を突き付けられているかな、と思いながらも受け身の姿勢に入った。










 その後、アラスの身体損傷と武器崩壊、そして劉二の刀の突き付けによって勝敗は決まった。劉二の勝利だ。しかし、勝利をもぎ取った劉二も身体はボロボロ。何を言うにも、まず至近距離の爆発に加え追い込められていた地形上爆風をモロに食らう立ち位置となっていたのだ。身を低くして最低限の処置は取ったものの氷の破片などでダメージは少なく無い。次の試合は明日。今日この状態ではさすがに無理があるだろうと薊の判断で決まった。










「えー、今日の試験進出者はこんな感じね」



 七組教室内でのホームルーム。薊は今日の試験(戦闘)で勝ち上がった者の名前と明日の試験の相手を書き出していた。その中にはヴァルドや梓の名前もあり、そして



「……次は…………まあ、そうだろうな」



 当たり前と言ったら当たり前なのだろう。次の相手は『閃雷のシェリア』ことシェリア・オルタネイト。先の試験で撃破したアラス・クロフィードの彼女である。

 特徴としては、軽くウェーブのかかった金髪で背が高く、呼応するかのように胸も大きいし足も長く細い。要するにスタイルは完璧。女として憧れる人も多いはずだ。個人的に言わせれば一つ残念なのがずっとジーパンを履いているところだろうか。ミニスカートとか履いたら凄い良さそうな気もする。

 戦闘としてはアラスのように作戦を立てて狡猾に追い込むスタイルではなく、力と勢いに任せ押していくタイプだ。圧倒的な雷撃の前に折れた者も多い。



「じゃ、これでホームルームは終わり!あ、アラス君と劉二君は後で私の元へ」



 一瞬、劉二はアラスに目を向ける。アラスも首を振っている事から何の事かは分からないようだ。疑問を持ちながらも号令は掛かる。皆は立ち上がり、礼を済ませたところでがやがや騒がしくなった。劉二とアラスは教卓に行き薊の元へ。二人が着いたので薊は話した。



「氷の破片の掃除、芳弘君とやってきてね」


「……はい」


「…………分かりました」



 今になって劉二は思い出した。この戦闘フィールドは芳弘が掃除をするのだ。確かに戦闘が熱くなったとはいえ、あの破片の掃除を一人でやらせるのは酷にも程がある。納得した劉二は机に戻り鞄を持って再び体育館に行くことにした。










「おーい芳弘!」


「手伝いに来たぞ」



 体育館内。アラスと劉二は箒で掃いている芳弘の元へ駆け寄る。芳弘が手を止め顔を上げた。



「お二人さん、どうしたんスか?」


「ああ、掃除の手伝いだよ」


「派手にやってしまったんでな」


「成程……この氷の破片はアラスさんのものッスね」


「そういう事だ」



 アラスが頷き、掃除道具の場所を聞いた。芳弘は近くにある縦長の箱を指差し、あの中に箒と塵取りがあると言った。二人は道具を取りに行き、手分けして大量に散った氷の破片を搔き集めることにした。



 無言で搔き集めて数十分、ふと疑問に思った。この氷は魔術で作られた筈だ。ならば、|本人『アラス』の意思で消せるのでは無いか。思う先が吉日。近くで掃いていたアラスに聞いてみた



「それはだな……」



 話を聞く所によると、この氷は自然界で出来た氷、即ち水を低温度で冷やし続けた際に発生する水分子の凝固による物体を媒介とし、氷魔法を発動できるらしい。氷自体の量は少なくても発動できるのだが氷が無いと発動できないらしい。



「これを見ろ」



 アラスは腰についている筒を見せた。水筒にも見える金属の筒の中には氷が詰まっている。これを媒介とし強力な魔術や剣を生成していたのだ。まだ俺は甘い。いつか、媒介無しで魔術を成し遂げて見せる、とアラスは言った。劉二の超える壁は日々高くなる。聞く劉二の心境は複雑だ。そんなことを思っている内に掃除は終わった。日が、沈みかけていた。










 劉二はアラス、芳弘と別れ寮の自室に戻って来た。夕飯は学食で済ましている。今日は本戦だけあって予選とは段違いに疲れた。ベッドに飛び込もうとしたが、



「……風呂」



 風呂に入らなければいけない。最近はシャワーだけで済ませていたがゆっくり熱めの風呂にも浸かりたい。そんなオヤジ思考の劉二はある事を思い出した。そう、この寮にはなぜか温泉があるのだ。温泉と言ってもそこまでは立派ではなく、銭湯と呼ぶにふさわしい。いつもは人混みを避けて行かなかったのだが、やはり行ってみたいと言う好奇心もある。そこで劉二は銭湯に入れるギリギリの時間帯を狙うことにした。日を越さなければ良いらしい。



「ならば狙う時間は十一時半」



 しかし、現在時刻は夜八時。時間までかなりある。どうするか考えた挙句、外をぶらつく事にした。










「涼しいな……この世も捨てたもんじゃ無い」



 呟いた所で、まだ十数年しか生きていない自分が何を言うんだと嘲笑した。今、劉二は広い学園内の寮を出た少し木のある場所を散歩している。夜風が涼しく、空には雲にかかった満月が輝く。否、



待宵(まつよい)、だな」



 そう呟いてみる。確かによく見ると満月にしては少し欠けている。満月では無いのだが。そこに、見知らぬ声が割り込んで来た。



「待宵ってのは、望月となる十五夜、八月十五日の一日手前の八月十四日の事を指すわ。翌日の十五夜の月を待つ宵の意。別名小望月よ。転じて、来る筈の人を待つ宵の事も指したりする。決して満月の一歩手前が待宵って事じゃ無いから気を付けてね」



 声は後ろから聞こえてきた。驚きの解説力。あわてて劉二は振り返った。そこにはショートヘアの女の人が立っている。背丈は劉二より少し低く服装は半袖に上着を着ており、下はミニスカートと呼べるのかは分からないが短めのスカートだ。



「解説ありがとう。……ところで、どちら様?」


「私は荒月冴美(あらつきさえみ)。違うクラスの人よ」


「俺は五和田劉二。……もう知ってると思うけどね」



 荒月冴美は壁に寄り掛かった。夜風で短い髪が靡く。劉二は立ち去ろうとした。一歩を踏み出した時、



「…………ねぇ、言葉って不思議と思わない?」


「はぁ?」



 思わず劉二は足を止めてしまった。荒月冴美はお構いなく続ける。



「物事にはすべてルーツがあるわ。ポテトチップスはある人の嫌がらせから。サンドイッチはトランプしつつ食べ物を食べられるかという我儘な発想から生まれた物。全てをたどれば何かしらに行きつくわ。だけどね、所詮人間。ただ一つ、辿れない物があるわ。そう、それが今私達の使っている『言語』よ」


「…………」


「言語だけは神の定めた掟。それは不可侵にして神聖な物よ。そして、言語には強大な力が隠されているわ。その力には人間には見えないけど、たまに姿を現すのよ。よく、この一言が心に打たれました、なんて言われているけどそれは言語の力。言葉自体に力は無いけど、それを選び、並び替え、組み合わせる事によって強大な力が現れるわ。旧約聖書にも有るじゃない。初めに神は『光よ。あれ。』と仰せられただけで光を生んだ。こんな具合に凄まじい力があるのよ。だけど…………」


「……だけど?」


「もうこの力は薄れてきたわ。『大量の言語の出現』でね。旧約聖書創世記第十一章、バベルの塔の話よ。人類がバビロンに天に達するほどの高塔を建てようとしたのを神が怒り、それまで一つであった人間の言葉を混乱させて互いに通じ無いようにした。そのため人々は工事を中止し、各地に散った。こんな神話はご存じ?」


「そこまで詳しくは無いが、な」


「そう。で、その散った言語を使ってるのが私達今の人間。……残念よねえ。神のただ一つ定めた言語が使えないなんて。そう思わない?」


「別に」


「素っ気無いわねえ……まあいいわ。要するに、言葉には力がある。今は無い。それだけよ。長い話を聞いてくれてどうもありがとう」


「はぁ」



 何とも不思議な女だ。劉二はそう思い、また歩き始めた。冴美は見送る。劉二は、奥の方へと闇に紛れて消えた。



「…………神の定めた言語は、今も存在するんだけどね」



 冴美が呟いた途端、体から見た事も無い文字がボロボロと漏れ出す。それは誰にも読めない。否、読めるはずが無い。冴美の使う能力なのだ。神の定めし消滅した言語。万物を成す言語。それは、



「…………『消滅言語(ロストバベル)』……」



 その呟きははたして文字なのか、声なのか。誰も見る者など居ない。










 劉二は冴美と会話した後そのまま進むと結局また寮に辿り着いてしまった。まだ時間は十時。たった一時間半しか潰せてないかあの女相手に一時間半も潰せたのかどう考えるかはご想像に任せるとしよう。しかし、残りが一時間半残っている事に変わりは無い。はてさてどうしたものか。劉二は思考する。訓練するにも体力と言う物が有るし、夜の散歩はなんか気が滅入ってする気が起きない。このまま寝れたらいい、とは思うものの風呂に入って無い体はそのためスイッチが入っておらず眠気はまだ来ない。



「……ああ、そういやCD持って来てたな…………」



 ふと思い出して旅行用のバッグを漁る。手にしたものは三枚のCDとプレーヤー。これは気に入ってるちょっと古めのロックバンドのCDだ。バスドラム重視な低音系今時ポップな曲が流行っている中、ロックは少々薄れてきている。今のロックだってそこまでメリハリが無い。だから劉二はこの昔のロックバンドが好きだった。豪快にして大胆なドラム。それを後押しするようなベース。そして、曲を彩るエレキギター。



「俺の、親父の趣味立ったんだけどな…………っと」



 コンセントにプラグを差し込み、起動したのでCDを読み込ませる。劉二は時間までの間音楽鑑賞で潰すことにした。



「あ、ちょ、音量デカい……」










 現在時刻は午後十一時半五分前。ガラリと扉を開ける音が誰も居るはずの無い浴場に響く。見渡すと、シャワーが十五台ほど。そして、大きな浴場、温度は四二度位だろうか。少々(ぬる)めの浴場が一個、近くにサウナと小さな水風呂があった。学校にしては豪華すぎる設備。しばしその眺めに呆けていた劉二だが、皮膚が夜中の寒さを感じ自然と足がシャワーの方へ向かっていた。とりあえずコックを捻り水を出す。流れる水からは蒸気が上がり、温度がある事を示す。温かい。劉二は純粋にそう思う。そのまま頭からシャワーを被り、濡れたところでお湯の方へと移動した。



「…………ふぃ~……はぁ…………」



 浸かるお湯は熱く無い。だが、疲労を取るにはこの上無い温度だ。皆はこの温度を『丁度良い』とでも言うのだろうか。そう思考していた所で劉二は気づく。劉二は、まだ自分を認めていない。劉二は、まだ自分が『人間』である事を認めていない。だとしたら『皆は』なんていうことは無いだろう。なんて馬鹿な事なんだ。劉二はお湯に空を顔に向けて浮かびながら考える。空には、点々散らばる過去何千年何千万年から光を放ってきた星が輝き、望月に満ち足りない月が照らす。



「………………」



 劉二は空を見つめる。その目に映るのは星の光で無い。忘れる事すら許されない出来事、あの日、全てが分かり全てを失った日だ。優しかった母と、逞しかった父。それがいつしか、あの見たくも無い忌々しき魔獣となったあの日。劉二の頬がキラリと輝いた。それは水滴では無い。月光が、劉二の涙を反射したのだ。



「……俺は、両親の為に何か出来ただろうか…………」



 そんな心の呟きを吐いた。しかし、言った所で過去の事実など変える事なんて出来ないのだ。過去を認めずして今を生きられるか。生きるためには、過去を認めざるを得ない。劉二は底に尻を付け座った後お湯でバシャバシャ顔を洗い、涙を落として立ち上がった。髪から水滴が滴り落ちる。しばらくその光景をぼんやり眺めた後、顔を振り思考の中身と水滴を振り払って浴場の扉に向かった。










 シェリア・オルタネイトは、部屋の中をうろついていた。何と言っても今日の試験(戦闘)の事である。彼氏もアラス・クロフィードが転校生、五和田劉二に敗れてしまった事だ。



「……はぁ…………」



 あの戦術、あの大胆な行動、自らを陥れる勇敢さ。全てをとっても抜けている所が無い。しかし、自分の彼氏が負けてしまった所で彼女たるシェリアが黙って見過ごす訳が無い。幸いにも担任の薊が気を利かせてくれたのかどうか知らないが転校生の五和田劉二と当たる事になっている。


「どうするよ……どうするよ私…………」



 どうしようもなくうろついていた。明日の事が気になって仕方が無い。勿論恋愛沙汰では無く『敵』としてだ。相手は相当の刀の使い手だ。しかも刀には爆発能力があり、無くなった所ですぐに再生出来る。ただ、劣る事と言えば刀は同時に一本しか作り出せ無いらしい。事実、戦闘を鑑賞して分かったのが刀は常に一本だった。



「……あぁもう!」



 やはり戦法や戦術など考えるのはシェリアの思考に合わない。勢いとの力量で勝ち抜くのが自分の主義。難しい考えを止め、ベッドに飛び込んだ。やはりテンションの増加の為だろうか。眠れやしない。そのままゴロゴロ転がりながら夜を過ごしていった。










 寮に戻ってきた頃には深夜零時を二十分前後過ぎていた。劉二は時計を確認し、睡眠時間は大丈夫だと自己完結したのでベットに潜り込んだ。



「強いんだろうなぁ……」



 そんな、一抹の不安を抱えながら。

こんにちは。十三です

最近他のユーザー様の書かれた小説も読んでいますが、自分のレベルの低さが分かります。



これからも頑張りますのでよろしくお願いします

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