四日目:文章作法編その2「段落を制する者は……別に世界を制したりはしないが」
段落、改行。
『必ず』守らなければならないこと、一部は『横書き文書やネット小説ならありかもしれない』ことです。
【簡易人物紹介】
一彦:男、ツッコミ、解説。
双葉:女、腹黒、解説補助。
三波:女、後輩、天然ボケ、質問。
【三波による修正版1・三波の小説】
私の名前は陽麗奈。15歳、女子高生!。血液型はAだけど、全然マジメでもないし整理整頓が得意でもない。むしろ、苦手なんだよねえー。この間なんか自分の部屋でケータイ失くしちゃって、どこ????、って探し回ったほど、私の部屋汚い(>_<)。そんな私だけど実は好きな人がいるんです。隣のクラスの、名前は和樹君。きゃ、名前で呼んじゃった!!!!!!!///。え、告白しないのかって?。ムリムリ!。「おはよう。」も言ったことないんだから・・・。
〈了〉
「さて、前回は句読点と誤字を見直し修正し、こうなったわけだ」
「まだまだこれから、ですね」
「そ、そうなんッスか?」
「そうなんっすよ。それじゃあ、もう一度俺が校正したやつと比べてみるか」
【一彦による修正版・三波の小説】
私の名前は陽麗奈。一五歳の女子高生! 血液型はAだけど、全然マジメでもないし整理整頓が得意でもない。むしろ苦手なのよねえー……。この間なんか自分の部屋でケータイ失くしちゃって、「どこ?」って困り果てながら探し回ったほどに私の部屋って汚いのよ。ヤんなっちゃうよね。
そんな私だけど、実は好きな人がいるの。隣のクラスの人で、名前は――和樹君。……きゃ、名前で呼んじゃった! 恥ずかしいなあ、もう。
え? 告白しないのか、って? ムリムリ! だって「おはよう」も言ったことないんだから――――
〈了〉
「はふぅ……」
「もえ――」
「黙れ、双葉。三波も、見惚れてないで帰ってこい」
「いたっ! あ、あれ、なんでアタシ、カズ先輩に叩かれてるッスか?」
「一彦さんは実はドSなんです」
「適当な事を言うな!」
「どえす、ってなにッスか?」
「……いや、なにと言われてもな……」
「好きな子は虐めるタイプってことです」
「え…………」
「また上手い言い方を思い付くものだ」
「…………微妙に理解してませんね、一彦さん」
「何がだ?」
「いえ。三波さん、顔真っ赤ですけど、大丈夫ですか?」
「ひゃい!? だだ、だいじょぶッス!!」
「……どうしたんだ、一体?」
「気にしないでくれッス!」
「そんなことよりさっさと話を進めましょう、一彦さん」
「最初に話を逸らしたのはお前だろ……まあいい。さて、三波。俺のとお前のを比べて、前回は句読点に気付いたわけだが……他に何か違う部分は?」
「えーと…………段落ッスかね……?」
「な……に……!?」
「びっくりですね」
「え、そんなに驚かれるようなことを言った覚えはないんスけど……」
「いやいや、これが驚かずにいられるか」
「な、なんでッスか」
「句読点も知らなかったあの(アホの)子が、いつの間にか段落なんて言葉を……成長してくれて母さん嬉しいワ」
「滅茶苦茶それっぽいな、おい。双葉は声真似が上手いというより演技派だったのか……」
「んー……? 馬鹿にされてるような気がするッス……」
「いえ、三波さん。褒めていますよ」
「そ、そうなんッスか……えへへ……」
「とてもそうは聞こえな……いや、なんでもない」
「うふふ……」
「それでは、今回は段落についてだ」
「はいッス!」
「よろしくお願いします」
「双葉はまた生徒側かよ……。まあいい、続けるか。段落について知ってることは、三波?」
「えっ? えーと……段落ごとに、一文字分の空白を入れるッス」
「ん、基本だが、よく知ってたな。正確に言うと、段落ごとの“行頭一字下げ”だ。ただし横書きの場合は賛否両論――と、これは後で補足しよう」
「あと、会話文で鉤括弧(「」)が入る場合の行頭は下げる必要がありませんよね」
「その通りだ。他に段落のことで何か知っているか?」
「はいッス! 段落には形式段落と意味段落があるッス」
「……ホントに今日はどうしたんだ、お前?」
「予習でもしてきたのでしょうか」
「………………」
「……図星かよ。だがまあ、別に恥じる必要はない。というより、熱心だと褒めるべきことだろう」
「そ、そうッスか? えへへー……」
「も――」
「さて! 話を続けよう。まあ、せっかく調べてきてくれたところを悪いんだが……その二つの種類分けは、小説や説明文の『読解』においては役立つかもしれんが、『書くほう』となるとあまり気にする必要はなかったりする」
「えぇーっ、そうなんッスか!?」
「確かに、書いているときはあまりそういうことを意識して改行したりしませんね」
「そういうこと。ここでは書くための実用性重視でいくから、そういう国語の授業的なことは敬遠させてもらう…………三波、そんなに落ち込むな。その努力は無駄じゃない。……たぶん」
「たぶんッスか……」
「たぶんなんですね」
「……きっと役に立つ日が来るさ! さあ双葉クン、改行すべき主な状況を五つ答えてもらおうかなー?」
「……強引な誤魔化し方ですね、一彦先生。一応、質問に答えますと、この五つです」
【改行すべき状況】
一:話者の変更。
二:描写する人物の変更。
三:場面転換。
四:時間変化。
五:文の強調。
〈了〉
「うー、よく分かんないッスよー……」
「また例文でも出しましょうか?」
「そうだな……『普通の』例文を頼む」
「うふふ……『普通の』ですね、任せてください」
「楽しみッス!」
「……滅茶苦茶不安だ……」
【改行すべき状況・双葉の例文】
(一:話者の変更による改行)
「一比古さん、その鞭を取ってください」
「はい、二場さま。優しくお願いいたします」
「ふふ」二場は無垢とすら言える純粋な笑みを浮かべ「それはあなた次第ね」
(二:描写する人物の変更による改行)
そう言って彼女は、一比古の手から長く、よく撓る鞭を受け取った。そして跪く彼の前に立ち、二場は純粋な笑みを嗜虐的なそれに変えると、左手に握りしめた鞭を思いっきり振り上げた。
一比古は身を縮め、目を瞑って耐える体勢に入った。しかし、来るはずの痛みと衝撃はいつまで経ってもやって来ない。不審に思って彼が目を開くと、そこには血だまりに浮かぶ二場の姿があった。
(三:場面転換による改行)
「一体……何が……!?」
わけが分からなかったが、戸惑ってばかりではいられない。まずは、救急車――いや、もう手遅れか。一比古はそう判断して、警察に連絡すべく、電話の置いてある居間へと駆けた。
そして居間に着き、足を縺れさせながらも電話機に向かう。受話器を上げるのももどかしげに、彼は一一〇番を押下した。しかし。
(四:時間変化による改行)
「通じない……!? くそっ!」
思わず悪態を吐く一比古。ここ数日続いている嵐によって断線でもしたのだろうか、受話器から聞こえるのはダイヤル音ではなく、ただただ無音が返ってくるのみだった。
……いや、もしかしたら断線ではなく…………
――そう思ったところで、彼の意識は途絶えた。
どれだけの時間が経ったのだろう、こつ、こつ、と何かが床に当たる音が聞こえ、一比古は目を覚ました。
(五:文を強調するための改行)
「痛っ……!」
頭がやけに痛む。どういう状況なのかを思い出そうとしていると、一比古の耳に女の声が響いた。
「目が覚めたッスか、ヒコ先輩」
その声が聞こえた瞬間、一比古は空気が鉛のように重くなったのかと錯覚してしまった。
息が詰まり、手は震え、体は身動ぎすらできない。
ありえない。一比古は思った。
彼女が。
彼女がここにいるはずがない。
なぜなら、一年前に、彼女は、
――死んだはずだからだ。
「皆見……!」
見上げる一比古の目に映ったものは、悲しげな笑みを浮かべたかつての後輩の姿だった。
〈了〉
「……ツッコミどころは多々あるが……ま、即興にしてはなかなかいい出来なんじゃないか?」
「おお……! すごいッス、さすがフタバ先輩ッス!」
「そうですか? 即興だから仕方ないとは言え、まだまだ推敲の余地はあると思いますが。……血だまりに浮かぶ死体の描写も避けてしまいましたし……」
「頼むから年齢制限がつくようなことは書かないでくれよ……? まあ、あれだ。三波もいるんだからな」
「取って付けたような理由、ありがとうございます」
「……? どういう意味ッスか?」
「気にするな。それで、三波、理解できたか?」
「はいッス。完璧ッス!」
「よし」
「ああ、一つだけ補足を。話者の変更による改行ですが、筆者によっては話者が変更されていない場合でも改行することがあります」
【改行しない場合】
「ふふ」二場は無垢とすら言える純粋な笑みを浮かべ「それはあなた次第ね」
【改行する場合1】
「ふふ」
二場は無垢とすら言える純粋な笑みを浮かべ、
「それはあなた次第ね」
【改行する場合2】
「ふふ」
二場は無垢とすら言える純粋な笑みを浮かべる。
「それはあなた次第ね」
〈了〉
「これは完全に、筆者の好みによるだろうな」
「一般書籍では、【改行する場合2】が多い……ような気がします」
「曖昧ッスねー」
「ちゃんと調査したわけではないものですから」 (※作者註:情報求む)
「ま、そのことは今度考えるとしよう。で、他に質問は?」
「えっと、改行する意味は分かったんスけど……一つの段落の長さの限度は決まってるッスか?」
「それは、双葉の挙げた一~五との兼ね合いや、本のサイズ、内容やジャンルなどにもよるが……」
「ライトノベルなどの文庫本サイズを例にとると、一ページはだいたい四〇字×一六行ぐらいで構成されていますよね。その場合、一つの段落の長さは四行から五行、文字数で言うなら二〇〇字前後までが適当でしょう」
「二〇〇字……これも一文の長さを考えるときみたいに、筆者の勘で決めていいッスかね?」
「基本的にはそうだな。ラノベなんかの娯楽小説の場合、一ページぎっしりに文字が詰まっていると読者は敬遠しがちになる。極端な例になるが――逆に学術書なんかだと、あまり細かく改行しすぎると、スカスカで内容が薄く感じられるだろうな」
「はい。ですから重要なのは、何のために書いているのか、どんな人がターゲットか、といったところでしょうか」
「アタシが書いてるのはネット小説ッスからねー。ぎちぎちに書きつめると読み難そうッス」
「横書きメインのネット小説だと一文ごとに段落を下す人も多いですね」
「ああ。それは賛否両論だろうが……先程の例の五(=改行による強調)が特に分かり難い、というかできなくなるので、個人的には好かんな。文章書く練習にならんし」
「ただ、やはり見やすくはありますね。特に携帯から見る人にとってはそうしてもらった方がありがたいのではないかと。それに、例の五は、空行を入れることによって一応は代用することはできますし、一~四はさほど気にならないでしょう」
「プロ作家志望ならば製本化されることを前提として書かねばならんから、改行の仕方にも慣れておくべきだな。作家志望でなくとも『一般向け』や『縦書き表示前提』に小説を書くとするならば同様にした方が良い」
「逆に、あまり『紙でできた本を読まない人』やそもそも『文字を追うことになれていない人』を読者ターゲットとするなら、一文ごとの改行もありでしょうね」
「んー、じゃあアタシはどっちにすればいいッスかねー? 作家志望でもないし、特にどういう人に読んでもらいたいか意識したことないッスから」
「迷っているなら、『一般向け』に書くことをお勧めする。文章構成の練習にもなるからな」
「それが無難ですね」
「じゃあそうするッス!」
「あと、ネット小説でよく見られる段落分け・改行方法としては、以下のものが挙げられる」
A:段落初頭の一字下げを行わない。
B:会話文と地の文の間に空行を入れる(二行以上の空行の場合あり)
C:改行するとき全てに空行を入れる(二行以上の空行の場合あり)
D:二、三文程度の短い会話文中でも、一文ごとに改行する(空行も入れる場合あり)
「Aはネット小説に限らず、横書き文書全般でよく見られることですね」
「まあな。実は横書きにおいては厳密な規定がないと言っていいんだが……個人的には一字下げをした方が見やすいし分かりやすいと思う」
「そうじゃないとどこで段落が変わったのか分かり難いッスからねー。それに、文の最後(末尾)が行の一番後ろに来た場合、段落を変えたのかどうかが全く分からなくなるッス」
「BとCは見やすさ重視でいくなら、さほど問題はないと思われます」
「Bぐらいならありだと思うが、Cはなあ……あまり空行が目立つのは俺としては逆に読みにくいのだが……しかしまあ、まだ許容範囲か。問題は、Dだ」
「なんかマズいッスか?」
「見た目重視や読みやすさ重視というならば、はっきり言って失敗している。俺はケータイからはあまり見ないのでよく分からんが、おそらく同じだろう。双葉、例文を」
「私、すっかり例文作成係ですね。楽しいから良いのですけれども」
【会話文中の改行・双葉の例文】
「ヒコ先輩。
私のこと、覚えててくれたんッスね。
嬉しいッス」
私が笑うと、ヒコ先輩は怯えたように後ずさった。
……当然ッスよね……
だって私は死んだんだから。
「死んだのになぜって思ってるッスか?
実は単にあのとき死んでなかっただけ……
では、ヒコ先輩には通用しそうにないッスね。
じゃあ一つずつお話しするッス」
そうして私はこうなった事情を彼に話し始めるのだった。
〈了〉
「えーっと、どこが会話でどこがそうでないのか、一瞬見ただけじゃあ、錯覚しそうッスね」
「その通りだ。確かに、遠目から一見しただけでは読みやすそうにも思えるが、実際に見てみると読みにくいだけだ。特に一人称視点で、さらに主人公の思考まで入れるとわけが分からん。ちなみに双葉のコレは、決して極端な例ではなく、実際にこんなのがたまにあるから困る」
「ただ、台詞が途轍もなく長くなる場合に限り、段落分けしてもよろしいでしょうね。もちろん一文ごとではなく、まとまった意味ごとの段落分けですが。たとえば昔語りをするときなどにそのキャラの台詞として語らせたい場合は、十数行~数十行に及ぶ可能性がありますから」
「それも個人的にはあまり好かないんだよな……そういうのを読んでる途中で、今読んでいる部分が台詞の中なのか地の文なのか、分からなくなるときがあるのは俺だけだろうか」
「どうッスかねー。せんさばんべつ、じゅうにんといろ、ってヤツじゃないッスかー?」
「片言になるぐらいなら無理に難しい言葉を使わなくても……」
「……よし。今回はここまでとするが、どうやら三波は四字熟語が好きらしいので、今回のまとめを四字熟語を使って表してもらおうと思う」
「ええぇっ?」
「なんという無茶振り。やっぱりSっぽいです。……頑張ってくださいね、三波さん」
「助けてくれないッスかー!?」
「楽しそうでしたので、止める必要はないかと」
「お前こそドSだろうが……。さあ三波、そろそろ言え」
「制限時間短いッスよ! えーとえーと…………だ、“段落楽々”ッス!」
「…………」
「…………」
「だ、駄目ッスか?」
「いや、意味が分からんし、勝手に四字熟語を作るな」
「でも語呂はいいですね」
「ッスよね!」
「残念ながら語呂は関係ない。では意味不明で面白くないことを言った罰として、今日習ったことを踏まえて、お前の小説を次回までに訂正してこい。宿題だ」
「うわ! 鬼ッスー、鬼教官がいるッスー……」
「というか、初めからそうするつもりで無茶振りしたんですね。まあ、段落分けするだけなので、すぐに終わりますよ」
「そうッスけど、宿題という響きが嫌なんスよ……」
「ちゃんとやってこいよ。では、解散だ」
「第四回目の講座、終了です」
「おにー、きちくー、あくまー……」
閉幕。
“『必ず』守らなければならないこと”=“段落や改行をきちんととること”。ただし、一部例外あり、です。本文で一彦も言っていますが、私はケータイから小説を見ることはほとんどありません。従って、ケータイからの表示がどうなっているのか、どういうものが見やすいのか見にくいのか、そういうことがあまり分かりません。ケータイから見ている人で、段落・改行について何か意見や反論があるならば遠慮なく申し立ててください。
次回も、というかしばらくは文章作法編が続く予定です。