三日目:心構え・準備編その2「見直さなきゃ始まらないッス」
見直し。
小説を投稿・投函する前に、『必ず』しなければならないこと。小説に限らず、テストだろうが仕事だろうが、常識的なことですね。
【簡易人物紹介】
一彦:男、ツッコミ、解説。
双葉:女、腹黒、解説補助。
三波:女、後輩、天然ボケ、質問。
「さて、前回は句読点の使い方について学んだが……覚えているか、三波?」
「句読点をどこにどう打つかは音読したときのリズムを意識するといい……ッスね! 完璧ッス!」
「ま、それは俺のやり方だから、自分がやりやすいようにすればいいさ。あと、俺の声真似したつもりだろうが、全然似てないぞ」
「みなみ……キミは今日も野山に咲く一輪の彼岸花のように美しいよ……」
「ぅぇう!?」
「双葉は声真似が上手すぎてむしろ怖ぇよ。でもそんな台詞、俺が言うはずもないから騙されるな、三波。ついでに言うと彼岸花は基本的に褒め言葉には適さん」
「そうなんですか? 綺麗だと思うのですけど」
「毒性を持つ・そもそも名前が不吉・異名として死人花や地獄花と呼ばれることすらある・花言葉は『諦め』『悲しい思い出』……これでどう褒めろと? 欧米ではそうでもないらしいが」
「また無駄な知識を披露なさいましたね。彼岸花食べて痺れればいいのに、この自慢しいが」
「……お前、もはや黒い部分を隠すことすらしなくなってきたな……」
「え? この前フタバ先輩のハダカ見たけどどこも黒く――」
「その天然醸造のネタはもういい! とっとと話を進めるぞ」
「そうですね」
「えーと、よく分かんないスけど、ラジャーッス!」
「では、一彦さん。今回は三波さんの元の文章に句読点を打つところから始めましょうか?」
「そうだな……いや。ついでだ、誤字・脱字・誤表現も訂正しておこう」
「ごじだつじご……? 新手の早口言葉ッスか?」
「違います。パソコンで書いていることを前提として言いますが、誤字はタイプミスや漢字変換の間違い。脱字はそのまま、文字が抜けていることで、誤字と一纏めにする場合もありますね。そして誤表現は、慣用句などを間違った意味・言葉で使っていることを指します。『確信犯』や『的を得る』などがよくある例です」
「…………へぇー……」
「わかってないだろ、お前。要するに、日本語としておかしいところを直せ、と言っているんだ」
「うぃッスー」
「その前に三波さん、小説を投稿する前にその小説を見直しましたか?」
「へ? えーと、してない、ッスね」
「俺が間違っていると指摘しても『どこが悪いのか分からない』と言っていたほど重症だったから、見直したとしても無駄だったんじゃないのか?」
「まあ、そうかもしれませんが、心構えとしては知っておくべきことですから」
「また心構えッスか?」
「そうだな。人に見せる以上、――あえて大げさに言うが――“礼儀”は持っておくべきだ。で、小説の礼儀の一つが、“見直す”こと」
「書いた文章を見直し、最低限の誤字などを訂正することは、読者に対する誠意とも言えます。……まあ、確かに少々大げさですが」
「だが、もしも度が過ぎて誤字とかが多い場合、『こいつ読者嘗めてんの? 感じワリー』と思われることになる。『別に他人にどう思われようがカンケーねえし』と開き直るなら、もはや何も言うべきことはないが……」
「特に文章を書くのに慣れていない内は、筆者のそういう感情が文章に現れることがあるらしいですよ。いえ、どこかで聞きかじっただけですが」
「そうなんッスか……気を付けなきゃいけないッスね……」
「馬鹿だと思われたいなら止めないが、常に見られていることを理解しているのかね、そういうヤツらは」
「あぁー! それが前(一日目)に言ってた“見られる心構え”ってヤツッスか!? 常に見られてると思えば、人に嫌われないように振る舞えるってことッスね?」
「はい、よくできました。これは所謂ネチケットなどにも関連していますが……」
「ま、その辺は追々でいいだろう。とりあえず、作者としての心構えを、三波は理解できたようだからな」
「へへー、褒められたッス!」
「えへへ、褒めて褒めて~」
「無意味に便乗するな! そしてそのネタはもういい!」
「さて、それでは本題に入りましょうか」
「切り替え早いな、お前……」
「えーっと、見直すんスね? 日本語としておかしいところを直して、句読点を入れるッス!」
「ああ。今回はその二点をきっちりと直してくれ。もちろん、俺が校正した文章を見ながらするなよ? あ、あと、句読点はキーボードのこことここだ」
「あ、はいッス!」
「健闘を祈ります」
「がんばるッス!」
「……では、三波さんが訂正している間に、私達は乳繰り合ってましょうか」
「…………」
「ツッコミがなければボケが活きませんよ?」
「いつから俺たちは漫才コンビを結成したんだ」
「一億年と二千年前からです」
「…………」
「一彦さん、最近、私に冷たくありませんか?」
「双葉、最近、お前腹黒くないか?」
「……。一彦さん、なんだか三波さんに対しては応対が甘くありませんか? 妙に丁寧に教えていると言いますか……」
「そうか? 別に普通だと思うが」
「いいえ。絶対に私と三波さんで扱いが違います」
「…………。なあ、双葉」
「なんですか」
「その言い種だと三波に嫉妬してるみたいに聞こえるのだが……?」
「――…………」
「…………」
「――――できたッス! って、二人とも見詰め合って、何してるッスか?」
「い、いや? なんでもないぞ」
「ええ、なんでもありませんよ。それより訂正した文章を見せてください今すぐに」
「……? ほいッス」
【原形・三波の小説】
私の名前は陽麗奈15歳女子高生!血液型はAだけどぜんぜマジメでもないいし整理整頓が得意でもないむしろ苦手なんだよねえーこの間なんか自分の部屋でケータイ失くしちゃってどこ????って探し回ったほど私の部屋着たない(>_<)そんあ私だけど実は好きな人がいるんです隣のクラスの名前は和樹君きゃ名前で呼んじゃた!!!!!!!///え告白しないのかって?ムリムリ!「おはよう」も言ったことないんだから・・・
〈了〉
【三波による修正版1・三波の小説】
私の名前は陽麗奈。15歳、女子高生!。血液型はAだけど、全然マジメでもないし整理整頓が得意でもない。むしろ、苦手なんだよねえー。この間なんか自分の部屋でケータイ失くしちゃって、どこ????、って探し回ったほど、私の部屋汚い(>_<)。そんな私だけど実は好きな人がいるんです。隣のクラスの、名前は和樹君。きゃ、名前で呼んじゃった!!!!!!!///。え、告白しないのかって?。ムリムリ!。「おはよう。」も言ったことないんだから・・・。
〈了〉
「ふむ。一応、ぎりぎり見られるようにはなったか」
「ええ。でも、一部で間違いが増えたりしていますが……」
「ま、そこはまだ教えていない部分だから勘弁してやろう。教えたことはちゃんとできているみたいだしな」
「あざッス!」
「…………」
「……言っておくが、別に贔屓して甘やかしているわけじゃないぞ。ちゃんと正当な評価と扱いをしているつもりだ。ただ、腹黒女に優しくする意味を見出せないだけだ。そういう意味ではむしろ双葉の方を贔屓していると言える」
「…………。三波さん、一彦さんが私のこといじめます……」
「オイ」
「え? ええっと……カズ先輩! フタバ先輩だけ特別扱いはひどいッス! ア……アタシも特別扱いするッス!」
「……なんかずれてないか?」
「話の流れからすると、ドMな発言にしか聞こえませんね。…………ふふ」
「ど、どうしたッスか、急に笑ったりして。アタシ、そんなにおかしいこと言ったッスか?」
「いいえ、それもなんですが、そうではなく。ただ、自分の小ささがおかしくなったものですから」
「なに言ってんスか! フタバ先輩はアタシより遥かに巨乳ッスよ!」
「…………」
「…………」
「……? どしたッスか?」
「いてっ! 何故俺を殴る!?」
「いえ。ヤらしい目で見られる前に、と思いまして」
「理不尽だろ……」
「えーっと?」
「お気になさらず、三波さん。では、三波さんが直した文章のことに戻りましょう」
「ったく……まあいい。三波の訂正だが……誤字脱字は完璧に直ったな。正直、その日本語のおかしさに気付かないならどうしようかと思ったが……そこは小学生レベルはあったということだな」
「アタシそんなに子どもじゃないッスよー!」
「少なくとも体は子どもレベ……なんでもありません」
「三波にまで毒吐くなよ……本気にして後で落ち込むから、こいつ」
「……? ……なんの話ッスか?」
「三波さんは可愛いですね、という話です」
「え? えへへー、褒められたッス!」
「えへへ、褒めて褒めて~」
「毎回そのボケをやるつもりか、お前は!」
「お笑い用語で天丼というやつです」
「さすがに三回もすれば飽きる。――さて、たいしたことはしてないが、区切りが良いので今回はここまでとしよう」
「三波さん、今回学んだことを簡単に纏めると?」
「纏めるッスか? え、ええと……“人に見せる前に見直して誤字は修正”ッス!」
「…………」
「…………」
「……あれ? 間違ってたッスか?」
「いや、正しい。何の問題もなく正しいが、期待した答えではなかった」
「いえ、一彦さん。締めにボケを必ず入れなければならない、と思ってしまった私達が悪いのです……」
「え、あの」
「そうだな……三波の天然ボケも万能ではないからな……」
「はい……」
「あ、あれれ? な、なんかアタシのせいで空気悪くなったッスか? 正解したのに、なんでッス……?」
「第三回講座はこれで終わりだ……」
「それではごきげんよう」
「あるぇー?」
閉幕。
“小説を投稿・投函する前に、『必ず』しなければならないこと”=“見直して誤字などを訂正すること”です。時間がないからと言って疎かにしていいものではありません。とは言え、作者が何度見直しても、誤字は必ずと言っていいほどどこかに残ってしまうものです。読者の方々、誤字を見かけたらその作者様に知らせてあげましょう。
ちなみに、誤字脱字誤表現以外についても見直(推敲)すべきものはありますが、それについてはまた今度で。
次回は文章作法の予定です。