二日目:文章作法編その1「句読点は大切です」
句読点。
『必ず』守らなければならない、超!基本の文章ルールです。基礎中の基礎、できていないなら、小学校で一体何を習ったのか……。
【簡易人物紹介】
一彦:男、ツッコミ、解説。
双葉:女、腹黒?、解説補助。
三波:女、後輩、天然ボケ、質問。
私の名前は陽麗奈15歳女子高生!血液型はAだけどぜんぜマジメでもないいし整理整頓が得意でもないむしろ苦手なんだよねえーこの間なんか自分の部屋でケータイ失くしちゃってどこ????って探し回ったほど私の部屋着たない(>_<)そんあ私だけど実は好きな人がいるんです隣のクラスの名前は和樹君きゃ名前で呼んじゃた!!!!!!!///え告白しないのかって?ムリムリ!「おはよう」も言ったことないんだから・・・
「ところで、この文章を見てくれ。こいつをどう思う?」
「すごく……下手くそです……」
「二人とも最初っからひどいッス!」
「では、今後はひどいことを言われないために、これを修正するところから始めよう」
「よろしくお願いするッス!」
「よろしくお願いします」
「……待て。なぜ教えられる側に双葉が座っている?」
「いえ、こちらにいる方が面白そうでしたので」
「わぁーい、フタバ先輩と一緒ッス」
「…………。まあいい。始めるぞ」
「まず、三波。昨日も訊いたが……自分の文章のどこが悪いか分かるか? 当てずっぽうで構わん、なんでもいいから言え」
「んーむむむ………………あっ、分かったッス!」
「お、どこだ?」
「血液型ッス」
「は?」
「あれッス、この前カズ先輩言ってたッス。血液型性格しんだんは正しくないって。A型だからってマジメと限らないッス! そこをこの主人公は間違ってるんスねー」
「…………」
「……いえ、無言で私の方を見られましても。ツッコミはあなたの専売特許ですよ?」
「さすがにツッコミきれる気がしなかったんでな……。とりあえず、な? 三波」
「はいッス」
「俺が訊いているのは、主人公の思考の不自然さや間違い――つまり“物語の内容”ではなく、お前が書いた“文章の間違い”を指摘しているんだ」
「…………?」
「……双葉、ヘルプミー」
「一度、一彦さんが校正した文章を見せてはいかがでしょう?」
「なるほど、名案だ。しばし待て」
「うッス! ……フタバ先輩、こうせーってなんスかー?」
「校正とは、文章や文字の誤りを正しく直すことです。印刷関係で使われることの多い単語ですね」
「えーと、つまり間違い探しするってことッスか?」
「…………そんなところです」
「――――よし、できたぞ」
「おお、早いッス!」
【原形・三波の小説】
私の名前は陽麗奈15歳女子高生!血液型はAだけどぜんぜマジメでもないいし整理整頓が得意でもないむしろ苦手なんだよねえーこの間なんか自分の部屋でケータイ失くしちゃってどこ????って探し回ったほど私の部屋着たない(>_<)そんあ私だけど実は好きな人がいるんです隣のクラスの名前は和樹君きゃ名前で呼んじゃた!!!!!!!///え告白しないのかって?ムリムリ!「おはよう」も言ったことないんだから・・・
〈了〉
【一彦による修正版・三波の小説】
私の名前は陽麗奈。一五歳の女子高生! 血液型はAだけど、全然マジメでもないし整理整頓が得意でもない。むしろ苦手なのよねえー……。この間なんか自分の部屋でケータイ失くしちゃって、「どこ?」って困り果てながら探し回ったほどに私の部屋って汚いのよ。ヤんなっちゃうよね。
そんな私だけど、実は好きな人がいるの。隣のクラスの人で、名前は――和樹君。……きゃ、名前で呼んじゃった! 恥ずかしいなあ、もう。
え? 告白しないのか、って? ムリムリ! だって「おはよう」も言ったことないんだから――――
〈了〉
「…………」
「ま、とりあえずこんなところだろ……。まだ少し手を掛けなければならんところがあるが、それはまた今度としよう」
「お見事です」
「…………」
「ちなみにこれもまた詳しくは後で言うが、これが絶対普遍的に正しい基準、ではないということを知っておいてくれ。文章の校正だけでなく、結構俺が勝手に手を加えたりもしてるしな」
「…………」
「……おい、三波。お前に言ってるんだぞ?」
「……はぅえっ!? な、なんッスか!?」
「動揺するみなみタン萌え~」
「俺の声真似して変なこと言うんじゃねえ!」
「えっ、も、もえるッスか?」
「いや、双葉の妄言を真に受けるなよ」
「えーと、燃えるゴミの日は明日ッスよ?」
「………………」
「ふふ、良い具合に混乱してますね、お二人とも」
「黙れ、腹黒。それで、なに固まってたんだ、三波?」
「や、見やすいなー、と思って見惚れてたッス」
「見惚れ……?」
「みなみ、オレもキューティなお前に見惚れていたよ」
「マジで黙れ双葉、話が進まん。で、三波よ。お前の元の文と俺が直した文、どこがどう違った? 一つずつでいいから答えてみろ」
「えーと、“点”とか“丸”があるッス」
「……読点〔、〕と句点〔。〕のことだな。合わせて句読点という。超がつくほどの基本事項だが、さすがにこれの説明はいらない……よ、な?」
「バカにするなッス! 点が……言葉の区切れ目。丸が……文章? ……の切れ目ッス!」
「……なんか微妙な答えだ……。というか、分からなかったからこそ使ってなかったのか? ……よし、基本こそが最も重要という。今回は句読点の詳しい解説をしよう。では双葉クン、まずは模範解答を」
「はい、一彦先生」
「二人ともなんだかんだでノリいいッスねー……」
「まず、読点とは、文を“意味のある区切りごとに分ける”記号です。“単語の並置”にも使われます」
「うーん、わかったようなわかんないような……どこに点を打つかはどうやって決めるッスか?」
「どれくらいの間隔で入れるかの目安としては、文章を口に出して読んだときに、“息継ぎが必要となった場所”に打つのが一般的ですね。……ちょっとパソコンを拝借いたします。たとえば……」
【双葉による読点の例1】
・良い例A:和彦は言われたとおりに、三回回ってワンと鳴いたが、それを強要させた二場は見向きもしなかった。
・良い例B:和彦は言われたとおりに三回回ってワンと鳴いたが、それを強要させた二場は見向きもしなかった。
・悪い例a:和彦は言われたとおりに三回回ってワンと鳴いたがそれを強要させた二場は見向きもしなかった。
・悪い例b:和彦は、言われたとおりに、三回回って、ワン、と鳴いたが、それを、強要させた二場は、見向きもしなかった。
〈了〉
「こんな感じでしょうか。ついでに、『文節ごとに打てばいいってもんじゃない』という例も示しました」
「あー、なるほど、無駄に打ち過ぎてもウザくなるだけなんスねー」
「それよりも例文にツッコもうか……」
「でも良い例のAとBの違いは何なんスか? どっちも良い感じだとは思うんスけど……」
「いや、それよりこの例文に悪意をかんじ――」
「一彦先生、生徒の質問に答えてあげて下さい」
「……。AもBも正しいと俺は思う。違うのは、筆者の主観でどちらがより『美しく』『読みやすい』と感じるかだ。そこに優劣は存在しない」
「そこに優劣は存在しないっ。……なんだかかっこいい台詞ですね。これが言いたかっただけですか?」
「違うわい!」
「私としては文章の見た目的に、Aの方がぱっと見てわかりやすくて良いですね」
「ツッコミをスルーかよ……。俺としては、Bの方がすらすらと読みやすくて良い気がする」
「ははあ。どっちも正しいから、書く人が勝手に決めろってことッスね」
「ま、そういうことだ。前後の文の兼ね合いなどもあるが、結局のところは筆者の裁量しだいだな。よし、次の説明に移るぞ。双葉」
「はい。また、読点には、読む人にとって“意味を通じやすく”“明確に”させるという場合もあります」
「意味を通じやすく、ッスか?」
「ま、これも例文で示した方が良いな」
「はい、先生」
【双葉による読点の例2】
・良い例A:和彦さん、女の子の寝室で、はきものをぬいでください。
・良い例B:和彦さん、女の子の寝室では、きものをぬいでください。
・悪い例:和彦さん、女の子の寝室ではきものをぬいでください。
〈了〉
「おい! 例Bだと俺が変態になるだろうが!」
「何を言ってるんですか。あなたのことなんて一言も書いていませんよ、一彦さん。……ほら、別人でしょう?」
「…………。どっちにしろこの例文おかしいだろ……なんで女の子の寝室という限定された指定が……普通は玄関だろ……一休さんに謝れ……」
「それより三波さん、理解できましたか?」
「なるほどッス。点がなかったらどっちを脱げばいいのか分かんないッスね」
「ただ、この例文の場合は、『履物』や『着物』と漢字変換することによって読点はいらなくなりますけどね」
「あー、そッスねー。でも口で言う場合だと、結局区切る必要があるッスね」
「いや、実際に対面して口で言う場合は発音やジェスチャーでも示せるぞ」
「和彦先生――もとい、一彦先生、話がずれてます」
「……今何を言い直した!? どこに言い直す意義があったのかを教えろ!」
「さて。わからないならそれは、主観と客観の違いですね。これはまだ後の授業でしますので、まだ早いです」
「……こいつは……」
「相変わらず仲良いッスねー、二人とも」
「…………どこがだよ……」
「うふふ……」
「……次だ。強調について言え、双葉」
「“読点の直後の単語を強調”する場合ですね」
【双葉による読点の例3】
A:突然、和彦は皆見という名の後輩の背に腕を回し、彼女を力一杯に抱き締めた。
B:突然、和彦は皆見という名の後輩の背に腕を回し、彼女を力一杯に、抱き締めた。
〈了〉
「こんな感じです。我ながら良い例文が出来ました」
「おおー、確かにBの方が、『抱き締めた』って言葉が強調されてる感じがするッス!」
「ツッコんじゃ駄目だツッコんじゃ駄目だツッコんじゃ駄目だ」
「口に出して読むとより一層分かりやすくなりますよ、三波さん」
「うッス! 『和彦は皆見という名の後輩の背に腕を回し、彼女を力一杯に、抱き締めた。』……」
「はい、もう一度」
「『和彦は皆見という名の後輩の背に腕を回し、彼女を力一杯に、抱き締めた。』…………」
「さらにもう一回!」
「か、『カズ先輩はアタシの背に――――」
「ストォォォーップ! 待て三波! 何やらされてんだ、お前!?」
「はぅぁ……」
「顔真っ赤にしたみなみタン萌え~」
「もうお前は黙ってろ!!」
「……カズ先輩……」
「なんだ?」
「………………。つ、次の話題に移りましょうッス! 読点は分かったッス!」
「え? あ、ああ?」
「ふふ……」
「なんだ、一体……。まあいい。次は句点だ。双葉」
「はい。句点は“文の終端”を意味する記号です。ここでは句点までの文章を一文、次の一文を合わせて二文、というふうに数えるとします。句点の例は挙げなくてもある程度は分かるかと思いますが、一応……」
【双葉による句点の例】
・良い例:抱きしめた腕が組み解かれ、和彦はその頬に痛烈なビンタを受けた。どうしてそうなるのか、わけが分からずに顔を正面に向けると、涙で頬を濡らしている皆見がいた。そして彼女は震える手でポケットから携帯電話を取り出し、どこかに電話をかけ始める。
「もしもし、警察ですか?」
・悪い例a:抱きしめた腕が組み解かれ、和彦はその頬に痛烈なビンタを受け、どうしてそうなるのか、わけが分からずに顔を正面に向けると、涙で頬を濡らしている皆見がいて、彼女は震える指で携帯電話をポケットから取り出し、どこかに電話をかけ始める。
「もしもし、警察ですか?」
・悪い例b:抱きしめた腕が組み解かれた。さらに、和彦はその頬に痛烈なビンタを受けた。どうしてそうなるのかと一彦は思った。わけが分からずに顔を正面に向ける。すると、涙で頬を濡らしている皆見がいた。そして、彼女は震える指で携帯電話をポケットから取り出した。どこかに電話をかけ始める。
「もしもし、警察ですか?」
〈了〉
「読点の例から微妙に続いてるし!? そして和彦を性犯罪者に仕立て上げるな!!」
「そうッスよ! アタシはそんなことされても警察には通報しないッスよ!」
「いや、男に突然抱きしめられたら通報しろよ。普通に痴漢かセクハラだろ」
「え、や、そうじゃなくってッスね…………あぅ……」
「もじもじするみなみタン萌え~」
「黙ってろっての」
「鈍い男は萎え~」
「はあ?」
「そ、そんなことより! 丸も大事だって分かったッス! 補足説明とかないんスか?」
「丸じゃなくて、句点な。まあ、このクソみたいな例文の悪い例aを見て分かるように、いくら読点で区切っても、文章が長すぎるのはあまり好ましくない」
「ええ。場合にもよりますが、一文につき、だいたい五〇文字から七〇文字くらいまでが限度と言われることが多いようです。これはあくまでも『限度』で、理想は三〇文字から四〇文字くらいで一文とするのが適切とされています」
「わざわざ数えなきゃなんないッスかー?」
「いや、その辺りはフィーリングというか、慣れだ。別にその文字数をきっちり厳格に守る必要もない。どうしても長くならざるを得ないときもあるだろうし、逆にたった一文字で一文とする場合もあるからな。ただし、書いた本人が『長いかもしれない』と感じたら、大抵は二文に分けるべきだと俺は思う」
「ええ。適当なところで句点を打ち、『そして』『また』などの接続詞で繋げると良いでしょう」
「なるほどー。でも、悪い例bはなんだか文章が途切れ途切れで読みにくいッスねー。カタコトっていうか、リズムがないっていうか……」
「そう、“リズム”だ。これは俺のやり方だが、句読点をどこにどう打つかは音読したときのリズムを意識するといい」
「リズム、ッスか……短すぎる文を連続するとやっぱり駄目ッスかねー」
「いや、一概にそうとは言い切れない。これはまた今度にも言うが……短い文章は、テンポが良いのでコメディーシーンや、緊迫感も醸し出せるので戦闘シーンなどに適している。また、あえて淡々としたイメージを出すためにも使われる」
「長い文章は、テンポがゆっくりで、ほのぼのとした印象を与えたい場合などに有効的でしょう」
「うー……なんか難しいッス……」
「ま、今のは余談だ。今度ゆっくりと説明してやるから、今は覚えなくてもいい」
「うぃーッス」
「後は……何か注意点はあったか、双葉?」
「そうですね……ああ、一つだけ。括弧内の最後は――」
「待った、それもまた今度、記号についてのところで纏めて言う。もういいぞ、ご苦労だったな、双葉」
「えへへ、褒めて褒めて~」
「何キャラのつもりだ、お前は! この自称常識人め!」
「存外、ボケるのも楽しいと最近気づきました」
「ツッコミが追いつかなくなるからやめてくれ、三波だけで手一杯なんだ……。それにいくらがんばったところで、三波の天然ボケには絶対に敵わんぞ」
「そうでしょうか? 確信的なボケも捨てたものじゃないと思うのですけども」
「お前は微妙に黒いジョークを入れてくるから性質が悪いんだよ……しかもツッコミ自体を封じてきやがるし……」
「ふふふ……」
「えーと、よく分からんスけど、とりあえずアタシは何すればいいッスか?」
「あー……とりあえず、お前の書いた小説もどきの悪いところが一点だけ分かったな?」
「はいッス。点と丸――えっと、“句読点”が全くないんスね」
「そうだ。だから、どこで区切って読めばいいのかわからず、読者は混乱するんだ。読者のことを考えて書けば、決してこうはならんぞ?」
「読者のことを考えて…………うッス! 了解ッス!」
「よし、では練習としてお前の小説もどきに句読点を入れてみろ。“読点による強調”は別に気にしなくていいから、とりあえず区切りだけはっきりとさせておけ。ああ、俺が直したやつを見ながらするじゃないぞ」
「…………」
「…………三波?」
「三波さん?」
「…………」
「おい、どうした?」
「……カズ先輩……」
「な、なんだ」
「点とか丸って、パソコンのキーボードのどこにあるッスか……?」
「………………」
「………………」
「……どうしたッスか?」
「……な、敵わないだろう?」
「……はい、完敗です」
「へ? 何の話ッスか……?」
「――さあ、今回はここまでだ」
「以上、第二回目の講座でした」
「え、あの、ちょっと!? どこに点があるか――――」
閉幕。
“『必ず』守らなければならない、超!基本の文章ルール”=“句読点を活用すること”でした。本当に小学生レベルですが、たまにできていない人が見られます。ルールは、なければ困るから定められたのです。ルールは、より常識的で普遍的なものが求められます。……ただし、ルールには例外も多く存在します。しかしそれはまた別の話。
補足:句読点〔、 。〕を〔,(コンマ) .(ピリオド)〕や〔, 。〕として使う人がいますが、それは間違っている……とは一概には言い切れません。横書きの公文書では句読点は〔, 。〕として書くと(本来は)決められているようですし、横書きが主流のネット小説では〔、 。〕としろとは誰にも決め付けられません。ただし、縦書きの文書を作成するならばならば必ず〔、 。〕としなければならないでしょう。また、縦書き表示のできるこのサイト『小説家になろう(読もう)』では〔、 。〕とした方が無難ですね。
(参考:ウィキペディア「句読点」の項、「句読点の組合わせ」http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%A5%E8%AA%AD%E7%82%B9)
次回は心構え・準備編の予定です。
7/21 16:30追記:読点の例で、“単語の並置”の例を入れるのを忘れていました。まあ、分かるかと思いますが、一応。単語の並置とは、関連する用語などを読点をつけて並べることです。中黒(中点)〔・〕でも代用できます(主に名詞の場合?)。
並置の例;山田さんの子供は太郎・次郎・花子・三朗の四人だ。彼らは皆、清く、正しく、逞しく生きている。