一日目:心構え・準備編その1「読者のことを考えろ」
心構え。
最低限、『必ず』持っておくべき心構えです。これがないならチラシの裏にでも小説書いてろ、って話です。
【簡易人物紹介】
一彦:男、ツッコミ、解説。
双葉:女、常識人?、解説補助。
三波:女、後輩、天然ボケ、質問。
「小説とか書くときの文法とか作法とか、めんどくないッスかー?」
「ん? どうした、三波。藪から棒に」
「や、アタシ今、パソコンでネット小説書いてるんスけどね。読者の感想で『文法がめちゃくちゃ』って言われちゃったんスよねー」
「へえ、小説を書いているとは初耳ですね。書いたものを少しお見せ頂いてもよろしいですか?」
「ほいッス」
【三波の小説】
私の名前は陽麗奈15歳女子高生!血液型はAだけどぜんぜマジメでもないいし整理整頓が得意でもないむしろ苦手なんだよねえーこの間なんか自分の部屋でケータイ失くしちゃってどこ????って探し回ったほど私の部屋着たない(>_<)そんあ私だけど実は好きな人がいるんです隣のクラスの名前は和樹君きゃ名前で呼んじゃた!!!!!!!///え告白しないのかって?ムリムリ!「おはよう」も言ったことないんだから・・・
〈了〉
「…………」
「…………」
「ど、どうしたッスか、二人して固まって。なんか言って下さいッス」
「これはひどい」
「もはやコメントのしようもありません。感想を貰えたことが奇跡、いえ、読んでもらえたこと自体が奇跡ですね」
「いや、読んだというより、最初の一文だけ見て『これ無理』とギブアップの感想を送ったのではないか?」
「ああ、それなら納得です」
「え、ええっ!? ちょっと待つッス! どこが悪いッスか!」
「それすら分からんなら教える価値もないぞ……」
「ひどいッス!」
「まあまあ、一彦さん。『学問のある馬鹿は無知な馬鹿より馬鹿だ』とか昔の偉い人が言っていますし、まだ学問も何も知らない分、改善の余地は十分にあるのでしょう。『千里の道も一歩から』とも言いますから」
「後者はともかく、前者はひどい言い種のような……。まあいい。それで、三波自身としては直そうという気はあるのか?」
「っていうか、直す必要性を感じないッスけど……?」
「そこからですか……」
「小学一年生からやり直せと言いたくなるのだが」
「うーん……ではそのレベルからお教えしましょうか」
「勉強いやッス……」
「三波さん、そんなことを言っては一向に小説を書く腕が上達しませんよ?」
「でも、めんどいッスよ……」
「……三波。いくつか訊きたいんだが」
「なんッスか?」
「お前は、人に小説を読んでもらいたいのか? それともただ徒然と自分のために自己満足の文章を書き連ねたいだけなのか?」
「えーっと、できれば読んでもらいたいッス」
「じゃあ、お前は読む人に不快感を与えたいのか? それとも楽しんでもらいたいのか?」
「ええっ!? そりゃどうせなら楽しんでもらいたいに決まってるッスよ!」
「だが、三波。はっきり言わせてもらうが、お前の文章は不快でしかない。読むだけ、いや、見るだけ時間の無駄になるからな。少なくとも、普通に楽しめるというヤツはごく少数だろう。なぜそう思われるかは後回しとして、まずはそこを自覚しろ」
「うっ……そうなんスか…………」
「そうなんだ。“見られる心構え”を持つこと。それは常に持っておけ」
「見られる心構え…………」
「……まあ、そう落ち込むな。読んで不快に思われたくなければ、きちんとした文章作法を学ぶしかない。学ぶ気があるなら教えてやるが、どうする?」
「…………やるッス。がんばるッス!」
「よし、いいだろう」
「さて、今回一彦さんが言いたかったことをまとめると、“他人に自作小説を見せるならばそれなりの心構えを持つこと”、そして“しゅんとしたみなみタンはぁはぁ”ということですね」
「えぅっ? カズ先輩アタシにはぁはぁしちゃうんスか!?」
「ツッコミという名の暴力をお前らに全力で振るってもいいか?」
「暴力反対ッスよ!」
「っすよー」
「双葉、お前、腹黒さがにじみ出てるぞ……?」
「ふふ……」
「え? この前フタバ先輩のハダカ見たッスけど、別に黒くなかったッスよ?」
「…………」
「…………」
「どしたッスか、二人とも?」
「……微妙ながらもオチがついたので、第一回講座っぽい何かはここまでだ。解散!」
「はい。それではまた次回」
「え? え? ええぇっ?」
閉幕。
以上、“最低限、『必ず』持っておくべき心構え” =“他人に自作小説を見せるならばそれなりの心構えを持つこと”でした。心構えというか、覚悟と言った方が分かり易いでしょうか。文章には――わざとそうしているのではない限り――自然とその人の“知性”とも言えるモノが滲み出てきます。馬鹿には見られたくないですよね。……暴言ばかりで申し訳ない。
次回は文章作法編です。