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第50話 再会は爆風と共に

 廃城前での合戦はついに決着した。


 帝国の騎士たちの奮戦により、外部の兵士たちは聖王国方面へと撤退していったようだ。

 ただ、騎士たちにも少なくない死傷者が出ている。

 負傷者を安全な場所まで連れていくためにも人員が必要だ。


 本来であれば、一度撤退して態勢を整えたいところだろう。


 しかし、一度廃城を離れてしまえば帝国内での奴隷売買の証拠を持ち出されてしまうかもしれない。

 聖王国を国際社会で公的に糾弾するためにも、帝国内での犯罪行為の証拠はなるべく多く抑えたい。


 結果的に、廃城の中への侵入は個人での戦闘力に長けたリオたちが行い、少数の騎士たちが外部の警戒を行うこととなった。


 ──つまり、聖王国側の思惑通りだ。



 ◇



 廃城の内部は想像以上に整備されていた。

 城の崩れ去った部分は使わずに、一階部分のみを集中的に整備したようだ。

 通路は内部から補強されていて、扉や壁などはかなり真新しい。


 外から見た廃墟という印象が欺瞞ということがよくわかる。

 そこにあったのは立派な軍事拠点だった。


「余計な横槍を入れられる前に奥まで突っ込むぞ! 走れ!」


 先頭を走るギルが声を張り上げる。

 リオたちの狙いは敵の重要人物の捕縛だ。


 本拠地となっていたこのアジトであれば、指導役をしていた人物がいるはず。

 リーダー格を捕えることができれば、帝国内での教会の暗躍を完全に止めることができるはずだ。


 ギルは、そのリーダー格がフィル──黒牧師トレイターであると確信していた。


 彼の復讐心は未だに胸の中で燃え滾っている。フレンに諭され仲間を頼ることを覚えた今でも、その執念は変わらない。


 仲間たちの無念を晴らす。

 フィルに報いを受けさせる。


 その決意を胸にギルは先へと進む。



 しかし、そんな彼らを阻むように現れる人影があった。


「いたぞ、侵入者だ!」


 先程外にいた兵士たちとは雰囲気が違う男たちだった。


 少し意匠の異なる神官服に身を包んだ聖職者たち。

 彼らはギルたちを素早く包囲すると、聖典を手に持った。


「「『聖なる光よ、罪人を裁け』」」


 彼らはまったく同じ聖句を口にした。

 神官がよく使う攻撃用の神聖魔法だ。

 通常の魔法とは異なり、神聖魔法には複数人で同時使用すると威力が上がるという特性がある。


 神官たちの持つ聖典が眩い光を放つ。

 次の瞬間には、リオたちへと光の奔流が襲い掛かった。


「『聖なる壁よ、我らを護りたまえ』」


 光の奔流の前に立ち塞がったローラが詠唱すると、半透明の障壁がリオたちを守るために展開される。

 複数人の協力によって放たれた光の奔流は、全てが障壁を通過することなく霧散する。


「なっ……!」

「う、うろたえるな! 敵の魔力が尽きるまで攻撃を継続しろ!」


 神官たちが驚愕の声を上げる。

 ソウルライト持ちの展開する魔法は、そうではない者たちの魔法とは一線を画す力を持つ。

 特にローラの障壁は、『時空の断絶』を形成するという通常の魔法とはかけ離れた効力を持つ。

 見た目は神官の使う障壁と酷似しているが、その効果はローラの魔力が続く限り無敵と言っても過言ではない。


 ヴァンガード教会の精鋭と言えど、その障壁を貫くのは不可能だった。

 彼らが必死にローラの障壁を破ろうとしている間に、後ろに控えるギルが反撃の準備を完了させていた。



「──リオ、合わせろ!」


 いつの間にか敵の背後まで迫っていたギルの分身が短剣を振りかぶる。

 それと同時に、障壁の後ろから飛び出したリオが別の敵へと斬りかかった。


「フッ!」


 2人の完全に息の合った攻撃が、聖職者たちを次々と倒していく。

 彼らが沈黙するのに、そう時間はかからなかった。


「ふう……この人たち、兵士と一緒に逃げなかったんだ」

「ああ。どうにも兵士って雰囲気じゃないな。……多分、正規軍の連中じゃなくて黒牧師の配下だな」


 つまり、この先に行けばアイツがいる。

 そう考えたギルは一層表情を引き締めた。


 通路を道なりに進むこと数分程。

 リオたちの目の前には、他とは雰囲気の違う扉が現れた。

 ドアノブには真鍮が使用されていて、表面には複雑な模様が描かれている。


 明らかに豪華な装飾は、この部屋が廃城において最も重要な場所であることを示しているようだ。

 4人の緊張感が高まる。


 先頭にいたリオがドアノブを掴み、捻る。

 ドアの向こう側で、何かが蠢いた。


 その瞬間、ギルが大声で警告した。


「──待て、開けるな!」


 警告は、僅かに遅かった。

 扉が開いた瞬間に隙間から投げ込まれた爆弾が、リオの目の前で爆発を起こす。


「──リオ!?」


 ローラが悲鳴を上げるのと同時に、ドアの内側から人影が飛び出した。

 黒い装束に身を包んだその人影は、細剣を真っ直ぐにローラの喉元へと突き立てようとした。


「──ッ、ローラに、触れるなあああああ!」


 リオの絶叫が響き渡ると同時に、彼の振った剣によって細剣が弾かれる。

 未来予知をしているかのような、人間離れした反応速度だった。


「はあ……はあ……」


 爆風が晴れ、リオの顔が露になる。

 顔の左半分の皮膚は焼け爛れ、閉じた左目からは血が流れ落ちている。

 衝撃によって意識が混濁しているのか視線は虚ろだ。


 咄嗟にソウルライトの力でガードしたとは言え、決して無傷とは言えない状態。


 平行世界の記憶を得る前のリオであれば、頭が吹き飛ばされて即死していただろう。



「チッ……大人しく死んでいればいいものを」


 ドアの内側から飛び出してきた影が露になる。

 その顔を見た瞬間、ギルは大きく目を見開いた。


 彼の頭に昔の記憶が駆け巡る。

 まだ幼かった頃。

 自分たちなら本気で世界を変えられると思っていた、未熟で、馬鹿な時代の。


「──殺す」


 かつての友──フィルの姿を見たギルは、短剣を手に飛びかかった。

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