第49話 旧アラスカ城の戦い
ヴァンガード教会のアジトの検挙は着実に進んでいった。
アジト内で得た情報を元に、他のアジトの場所を割り出していく。
アジトからは少なくない反撃があったが、帝国の騎士を中心に殲滅を進めた。
戦闘員の多くは聖王国から派遣されて来たならず者だった。
ヴァンガード教会に所属している、というよりむしろ教会に雇われた人間と言えるだろう。
汚れ仕事を行わせて、都合が悪くなれば消すことのできる使い捨ての人材。
それから、その指揮役として『堕落の黒蛇』の人員が少々。
しかしそのほとんどは既に帝国の騎士たちによって無力化された。
一部紛れ込んでいたソウルライト持ちの強敵も、リオたちの協力により順調に倒している。
主要な拠点はほとんど潰すことができた。
となると次に制圧するべきは帝国内のアジトを統括する敵の本拠地──旧アラスカ城だろう。
『旧アラスカ城』は帝国領内に存在する城跡だ。
大昔の戦争で使われたという伝承があるのみで、今ではその起源を知る者がいない古代の廃城。
かつて凄惨な戦闘が行われたと伝えられるそこは、修繕されることもなく放置された廃墟となっている。
その歴史から「亡霊が出る」という噂がまことしやかに囁かれていて、近隣住民ですら近づこうとしない。
そんな風に人が寄り付かなくなった場所を、教会はアジトとして利用していたようだ。
遠くから見ると、たしかに人が住めるとは思えない有様だ。
石壁は大部分が崩れ去り、残った部分にも苔がびっしり生えている。
石造りの城跡には砲弾跡らしき穴がいくつも空いていて、雨風すら凌げそうにない。
「嫌な雰囲気の場所ですね」
旧アラスカ城を見たフレンは、そう呟いた。
後ろにいるローラはどこか不安そうな表情をしている。
近隣住民の噂通り、亡霊が出てもおかしくないような雰囲気だ。
長い間放置されていた石壁には、薄っすらと血の跡ようなものが残っている。
リオたちと共にこの場に来た騎士たちも、不安げな表情をしている。
「だが、この城はよく見ると防衛拠点としての機能は残ってるぞ。城の一階部分は最低限補修されているし、見張り台もちゃんとある。中にいる奴らの反撃によっては、攻め込むのは苦労することになりそうだな」
ギルはそう分析した。
地理的には、『旧アラスカ城』は聖王国と帝国の境界線付近の重要拠点に位置する。
仮に聖王国と帝国の戦争が起きた場合、この位置に聖王国の拠点があれば大きな影響を与えるだろう。
帝国側は完全に機能していない建築物として放置していたようだが、その裏を突かれた形だ。
「総員、配置についたな? ──突入する!」
号令がかかる。
『旧アラスカ城』を攻略する為に揃えられた騎士たちは、廃城に向けて歩みを進める。
騎士たちは全員が甲冑を着込む完全武装だ。
今までに突入したアジトの反撃の苛烈さから、今回も激しい戦いになるだろう。
そう考えた帝国騎士団は、まるで戦争にでも赴かのような準備を整えてきた。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
リオたちもまた、騎士たちの後ろから廃城へと向かう。
さらにその後ろでは、気配を消したブルームが無表情に歩みを進める。
彼女は『リオが騎士でローラが姫だった場合の恋愛シチュ』の妄想に夢中だった。
彼女の意識は完全に妄想の世界にあった。
先程、リオがローラに「あなたの剣になります」と誓ってローラを赤面させたところだ。
ストーカー少女とは対照的に、先頭を歩く騎士たちの警戒心は強い。
これまでに突入したアジトでは、例外なく激しい反撃があった。
今回のアジトはその元締めであり、その規模も最大。
おそらく、敵の反撃も激しいものとなるだろう。
「──敵影だ! 総員警戒しろ!」
廃城の全容がくっきり見える場所まで近づくと、前方に展開する集団が見えてきた。
崩れ落ちた石壁の向こうから出てきた彼らは、帝国の騎士たちとほとんど同じ数だった。
彼らは剣を携え、廃城を守るように立ちふさがる。
とても秘密のアジトに潜んでいた人数とは思えなかった。
彼らは全員が鎧で武装していた。
鎧は帝国の騎士たちにも決して劣らないガッシリとしたものだ。
さらに、きっちりと隊列を組んで敵が到着するのを待っている。
今までのアジトの反撃とは訳が違う。
荒くれ者が徒党を組んでいるわけではない。そこにいた訓練を受けた組織だった。
「……まさか、聖王国の正規軍か?」
統制の取れた動きに、統一された武装。
その様子を見たギルが推測を口にする。
聖王国の主戦力はヴァンガード教会や黒牧師ではなく徴兵された兵士たちだ。
ソウルライトを駆使して戦う黒牧師は一騎当千の力を持つが、戦争は彼らだけでは成り立たない。
拠点の構築や防衛、偵察などの役割は人数が必要だ。
ゆえに、聖王国の主戦力は特別な技能を持たない兵士と言える。
徴兵制を敷き、広大な領土と人口を持つ聖王国は大量の兵士を抱えている。
間諜を利用した情報網と圧倒的な物量。それこそが大陸の覇権国家たる聖王国の強みだ。
「これじゃあもう戦争みたいなもんだな。……リオ、俺たちも前に出るぞ」
「うん!」
ギルが短剣を抜いて言う。
頼られたリオは嬉しそうに返事をした。
突撃しようとしたギルが真っ先にリオに声をかけたのは、彼が他人を頼ることを覚えた証拠と言えよう。
正面からぶつかり合うのは帝国の騎士たちに任せればいい。
ギルとリオは敵の展開する側面へと回り込む。
騎士たちは既に敵とぶつかり合っていた。
剣と剣が交わり、魔法と矢が遠くから飛び交う。
帝国の騎士たちは上手く立ち回っているらしく、比較的優勢に見える。
しかし、既にそれなりの負傷兵が撤退をしていた。
対する相手の物量は未だ未知数。決して楽観できる状況ではない。
「リオ、あれが見えるか? 敵の指揮官だ。あいつを殺せば戦況をかなり有利にできる」
ギルが指差した先には、敵の奥で声を張り上げる男の姿があった。
よく見れば、彼の鎧は、装飾が他の兵士よりも豪華だ。
リオが頷いたのを確認して、ギルが言葉を続ける。
「俺が敵の視線を引き付ける。その間にお前はあそこまで駆け抜けろ」
「分かった」
ギルは何かを取り出すと、敵の足元へと投げつけた。
地面に落ちた瞬間、それは大きな音を立てて爆発した。
「──なんだ!?」
「爆弾だ! 別動隊がいるぞ!」
兵士たちの目がギルの方へと向いた。
彼はそれを確認するとすぐさま背中を向けて走り出した。
彼を逃がすまいと聖王国の兵士が追いかけてくる。
ギルとの追いかけっこに集中し始めた兵士たちの様子を確認したリオは、茂みから飛び出して指揮官の元へと一気に駆け抜けた。
「オオオオオオオ!」
ソウルライトの力を最大限に活かしたリオの突撃は猛牛の突進のようなものだ。
とても兵士たちに対応できるものではない。
一瞬にして指揮官の元まで肉薄したリオが剣を振るう。
鉄製の重厚な鎧をものともせず、刃が指揮官の体を貫き致命傷を与えた。
「よくやったリオ! 一度撤退するぞ!」
いつの間にかリオの近くまで来ていたギルが叫ぶ。
兵士たちを攪乱していたのはギルの分身体だった。
攻撃されても問題のない分身体を囮に使うのは彼の得意とする戦法だ。
ギルの言葉に素直に頷くと、リオはローラたちの元へと走り出した。
敵の兵士たちは指揮官を失ってかなり混乱しているように見える。
この分なら騎士たちが押し切ってくれるだろう。
兵士たちを押し切ることができたら、次はいよいよアジトの中への突入だ。




