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第47話 カプとは恋愛関係のみを示さない

 推しカプの名場面を見られた興奮からようやく冷めてきた。

 俺は乱れた息を整えて呟く。


「無事に進んだみたいで良かった」


 ギルとフレンはまだ会話を続けているようだ。


 2人の間に流れる穏やかな雰囲気は友好的なもの。それが一番安心できる。


 ソウライ世界であれば『平行世界なのでギルはバッドエンドです!』とかやりかねないからな。

 良かった良かった。


「それにしても、フレンの台詞が何か違ったような……?」


 確信はない。

 自他共に認めるカプ厨たる俺だが、流石に台詞を一言一句覚えているわけではない。

 でも、フレンの台詞はもう少し違う感じだった気がする。


 うーん……まあいいか! これでもうギルフレは成就したようなもの。

 勝ったな! ガハハ。


 ハーッ、これからが楽しみだぜ。


 俺はスッキリとした気分でその場を後にした。



 ◇



「──お前らに、聞いてほしい話がある」


 翌日の朝、ギルはそう切り出して仲間たちを呼び出した。

 ついでに俺まで呼ばれたので、同じようにギルの部屋へと集まる。


 おそらくこれは原作にもあったギルの過去回想の話だろう。

 フレンに諭されて自分のことを改めて仲間たちに語ることにしたギルのシーン。


 俺までこの場にいるのは解せないが……。


 リオやローラ、そしてフレンの前でギルは初めて自分の過去を詳細に語り始めた。


「……そっか」


 一通り話を聞いた後、ローラがポツリと呟いた。


「辛かったね」

「……」


 ローラの率直な言葉に、ギルは何も答えなかった。

 けれどその瞳には、様々な感情が渦巻いているようだ。

 何かを堪えるような、けれど何かから解放されたような表情だ。


「ギルさん。やっぱり話して良かったですね」

「……」


 フレンが優しい表情で言うと、ギルはバツが悪そうに目を逸らした。

 その様子は拗ねた男の子のようにも見えて、どこか微笑ましい。



 ……うおおおおこれだよこれ! 

 俺は待ちに待ったギルフレの気配に1人で感動していた。


 ケンカップル期(仮)を経て、フレンはギルの理解をかなり深めた。

 その結果として、フレンはギルの理解者のような態度を取ることができるようになる。

 言い換えるならば『母親』のような、といったところか。


 これ以降のフレンは、時折ギルが皮肉を言っても時折意味ありげに微笑むようになる。

 彼のぶっきらぼうな優しさが感じ取れるようになったからだ。

 それを見たギルはどこか気まずそうな顔をする。

 フレンを『母親』とするならギルは『反抗期の息子』のようなもの、と言うことができるだろう。


 しかし! 

 しかしそれはフレンが"上"になったという単純な片づけ方をすることはできないのだ! 

 落ち着いた雰囲気のあるフレンだが、その年齢はギルよりも下。

 ギルのいたずらな言葉遣いに振り回されることもあるのだ。


 つまりギルフレとは、母子のような微笑ましいやり取りと、普段は落ち着いているフレンの年下っぽい言動という2つの旨味を兼ね備えた最強の存在なのだ……! 




「ねえねえ、ギルのこともっと聞かせて! 私、今までギルのこと全然知らなかったって分かった。だから、昔のこととかもっと聞かせてよ!」

「あー、うるさいうるさい! どうでもいいだろそんなこと!」


 いつの間にか、ローラが身を乗り出してギルへと質問を投げかけていた。


「おいフレン、お前が余計なこと言うせいで面倒なことになっただろ! どうしてくれるんだ!」

「あら、少しくらいはいいじゃないですか」


 クスクスと笑うフレン。

 その笑顔は普段とは違いいたずらっぽい色を含んでいる。


 それにしても、と俺は2人の様子を観察する。

 この時点において、ギルとフレンはかなり恋に近い感情を持っていたはずだ。

 けれども、今見ている感じだとあまり色っぽい雰囲気は感じない。


 ムム、まさかこの推しカプ厨の目に曇りが生じたか……などと疑う。

 まあでも、この世界が全部原作通りにいかないことは既に痛いほど思い知った。そういうこともあるだろう。


 個人的には今の互いを理解した相棒のような空気感も好きだ。

 そういう風に考えていると、ふとフレンと目が合った。


「……あら」


 フレンは少し目を細めて笑うと、俺の隣へと歩いて来た。


「ブルームさんには感謝しないとですね。あなたの助言のお陰で、ギルさんの深い所に踏み込むことができましたから」

「私は関係ない。フレンがやったこと」


 俺という存在がなくても原作では上手く行っていたからな。

 俺は推しカプを眺める壁程度の存在だ。

 俺が何かしたと言われると、むしろ罪悪感がある。

 それは本来の道筋を捻じ曲げるような行為だからだ。


「フフッ、そうやって自分のしたことにはとことん無頓着な所、昔から変わりませんね」


 しかしフレンはあくまで優しい笑顔で言う。

 彼女の透き通った瞳は、俺の心の底にある罪悪感すら見通しているような気すらした。


「フレン。ギルのこと、結構分かった?」


 湧き上がった感情を誤魔化すように、俺はフレンに問いを投げかける。


「ええ、少しは。気づいてしまえば案外簡単なことでした。──ブルームさんと同じですね」

「…………え?」


 フレンの予想外な言葉にしばらくほうけてしまった。


「えっと、その、どの辺が?」

「あら、やっぱり自覚がないのですか?」

「え、うん……」


 たしかに、復讐を志すという点において、ブルームとギルは似ていると言える。

 ただそれは原作通りだった場合のパーソナリティだ。

 記憶を共有しつつも別人である俺はギルとは全然違うのではないだろうか。


 ギルはこう、あれだろ。

 一見するとしっかりと自立してるように見えるけど、ふとした時に脆さが見えるというか。

 そういうギャップみたいなのが魅力だろ。


 俺の場合は推しカプ厨として確固たる信念を持って行動してるからな。ギャップとかない。……ないよね? 


「……フフッ」


 そんな風に悩む俺を、フレンは楽しそうに見ていた。

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