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第44話 復讐者たち

 奴隷商売の拠点となっていた地下室の調査は帝国の騎士団を中心に速やかに進められた。

 奴隷として囚われていた人たちは全員が解放され、帝国で保護されている。


 彼らの多くは聖王国が最近併合した自治区──旧フレイ連邦国から連れてこられた人々だった。


 つまり、ギルの同郷だ。

 かつてレジスタンスとして戦ったギルが守れなかった人たち、と言うこともできるかもしれない。


 騎士からその報告を聞いていたギルの表情は険しい。

 報告をしている騎士は、その重々しい雰囲気に怯えているように見えた。



 ああ、やっぱりシリアスシーンに居合わせると胃がキリキリするな……。

 部屋の端っこで話を聞いている俺は、そんなことを考えていた。


 戦闘の発生しない場面において、俺がスト……身を隠している意味も特にない。

 ギルたちと一緒に騎士の報告を聞いている。

 と言っても、このあたりは原作通りなので既に知っている知識ではあるのだが。



 報告をしている騎士はチラチラとギルの様子を窺っていた。

 無理もない。数多くの修羅場を乗り越えたギルの醸し出す雰囲気は、殺気とすら言えるほど鋭いものだ。


 初見殺しとも言えるソウルライトを持つギルは、何人もの政府要人を殺した暗殺者でもある。

 普段の態度からは想像できないことだが、彼は眉1つ動かさずに残忍な拷問を行えるほどに冷酷な仕事人だ。

 そんな彼の濃厚な殺気は、騎士と言えど気圧されるには十分な迫力があった。


「……ギルさん、あまり思い詰めないでください。あなた1人の力ではどうにもできないこともあります」


 事情を察しているフレンがやんわりと言う。

 ギルはその声を聞いて少し目を瞑ると先程までの気配を消した。



 ……アッ、推しカプの気配だ! 


 ギルとはたびたび口喧嘩をしてきたフレンにとって、この場面はギルの新しい側面に初めて触れる機会と言うことができる。

 ギルの祖国にかける複雑かつ真剣な思い。それに触れたフレンは、改めてギルという人物に興味を持つ。

 普段は不真面目そうな雰囲気を隠そうともしない彼が真剣になる瞬間。

 その理由に深く触れていくうち、フレンは彼に惹かれていき──


 カーッ、てえてえかよ! ケンカップルは数々の苦難を乗り越えた後になんやかんやで結婚しろ! 



「……すまない。報告を続けて欲しい」 

「──ハッ。地下室から、教会からの指令書と思われるものを発見しました。こちらです」


 妄想に耽る俺とは違い、ギルが真剣な口調で先を促した。

 そうだった。今はシリアスシーンだった。俺はキリッとした顔をする。


 騎士が1枚の紙をギルに手渡した。


 書面は奴隷の扱いについての指示書のようだ。

 具体的な輸送先など、重要な情報が記されている。


 そしてその一番下には、『黒牧師トレイター』という署名がされていた。


 その文面──否、筆跡を見たギルは、大きく目を見開いた。


「これは……まさか、あいつが……?」


 ギルにとって、それは見覚えのある筆跡だったのだろう。

 彼の頭には昔の記憶が想起されているはずだ。


 かつて連邦国のレジスタンスとして戦っていた時の記憶。

 静かに侵略されていく祖国を救うために、共に戦ったレジスタンスの仲間たち。


「『トレイター』……売国奴、か。なるほど、奴にピッタリの名前じゃねえか」


 ギルは右の口角だけを上げて笑った。

 先程までの比ではない殺気が彼の全身を覆った。


「──今度こそ絶対に殺してやるよ、フィル」



 ◇



 ギルにとって今回の敵──黒牧師トレイターは因縁の相手だ。

 かつて共に戦ったレジスタンスの仲間。

 そんな彼が相手だけあって、彼の様子は普段とはかなり違うものだった。

 いつも余裕のある態度だったギルから、少しずつ余裕がなくなっていく。


 ……だからこそ、ここでギルフレのカップリングにも変化が生まれて少しずつ恋愛模様が発展していくんですねェ! 

 推しカプ推進委員会の委員長として、この3巻は見逃せないイベントが沢山発生することだろう。

 の、はずだが……。


「……フレン、その、ギルのところに行ったりしないの?」

「あら、もしかしてブルームさんはギルさんが気になるのですか?」


 なぜか俺の部屋に来て紅茶を振る舞い始めたフレンに対して問いかける。

 すると、思いがけない問いが帰ってきた。

 俺は動揺しつつも否定する。


「ち、違う。私がギルとあれやこれやなることは絶対ありえない。解釈違い」

「あら、その慌てようはいったい……?」


 フレンに不思議そうな目で見られたので、必死に弁明する。


「違う。ただ、様子が気になっただけ。その、ギルの様子が変だったから」

「ああ、そうでしたか。……実は、私も同じことを思っていました」


 フレンは紅茶を置くとこちらに向き直った。


「ギルさんの様子について、ブルームさんの話を聞いてみたいと思いまして。……あのままでは、彼は潰れてしまうのではないでしょうか?」


 フレンは真剣な顔になってそう切り出した。どうやら俺に紅茶を出したのはこの話をするためだったようだ。


 最近のギルの様子はまさしく身を削ると言っていいものだ。

 情報の精査に加えて、最近では他のアジトの調査にも加わっているようだ。

 そのおかげもあり騎士団の調査は順調に進んでいるようだ。

 ただ、最近のギルの顔色はあまり良くないに見えた。


「──仕方のないこと。仇を見つけた復讐者は、己を犠牲にしてでも目的を達しようとする」


 本来のブルームもそうだった。

 使用するたびに死の危険がある狩魂術を躊躇なく使い、情報を集めて仇を探し求めていた。

 その様子は今のギルとあまり変わりないものだ。


 俺が淡々と答えると、フレンは沈痛な顔で俯いた。


「やはり、ブルームさんはそうおっしゃるのですね。……今の彼の様子を見ていると、いつか身を滅ぼすように思えてならないのです」


 フレンは俺の瞳をまっすぐに見つめてそう言った。


「ブルームさん。……彼を止めようとするのは間違いなんでしょうか?」


 その言葉は、きっと俺に向けられたものではない。


 これは復讐を志すブルームを相手にする問いかけだ。

 だから、俺はその答えを持ち合わせていない。

 そのことに少し寂しくなりつつも、言葉を返す。


「……間違いとか間違いじゃないとか、私には言えないし、分からない。──でも、フレンはフレンの正しいと思うことをやればいいと思う。それがあなただから」


 フレンの美点は己の信念と誇りに基づいて正しさを為すことだと思う。


 貴族の務めだからと弱い人を助け、それを苦しめる者を倒す。

 それこそが貴族の務めだと、そう言うだろう。


 俺の言葉を聞いたフレンは、意外そうな顔で俺のことを見た。

 しばらく考え込んだ後、顔を上げる。

 その時には、彼女の顔に迷いは既になかった。


「……そう、ですね。ありがとうございます、ブルームさん。私はあまりらしくないことで悩んでいたようです」

「フレンの悩みが解決したならいい」


 正直打算というか下心ありきでの言葉だったので、ちょっと罪悪感がある。フレンにはギルの助けになって欲しかったのだ。

 でも、これでようやくギルフレが見れるぞ……!

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― 新着の感想 ―
下手に方向性を強要せず、本人の本質に委ねるだけで物語の修正を図る・・・ふっ、ぶるーむは出来る子。
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