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第43話 『時戻し』の魂は気高く輝く

 『爆破』のソウルライトを持つ男を倒した後。

 ギルが先行して宿屋の地下へと入ったので、リオたちも同じく地下へと入ろうとしている。

 

 地下室への扉は、爆風に晒されても尚傷1つない頑丈な鉄製だった。

 宿屋のものというよりむしろ監獄のソレのようだ。

 

 鍵は既にギルが開錠した後。

 ドアノブに手をかけたリオが、扉の向こうへと声をかける。

 

「ギル、奥は大丈夫……?」

 「――待て、来るなッ!」

 

 リオが声をかけた瞬間、ギルの鋭い声が飛んだ。

 その気迫に、思わずリオの動きが止まる。

 どんな事態が起きているのか分からず、リオとローラは顔を見合わせて困惑するばかりだった。

 

 しかし、その後ろに控えていたフレンはあくまで冷静だった。

 

 「ギルさん、状況を教えてください。どうして入ってはいけないのですか? 敵がまだいるのなら私たちも加勢します。トラップが仕掛けられているのなら教えてください」

 「……ダメなものはダメだ」

 

 扉の向こうのギルは珍しく歯切れが悪い。

 その声を聞いたフレンは、何かを悟ったようににっこりと笑った。


 「お断りします」

 

 バタッ、と乱暴に地下室へのドアを開けたフレンは、迷いなく先へと進んでいく。

 リオとローラもまた、戸惑いつつもその後へと続いていく。

 

 

 「これは……」

 

 その先にあった光景に、フレンは眉をひそめた。

 そこには拷問室と言っていいような光景が広がっていた。

 人間を拘束するための首輪や鎖、檻の数々。壁にはべったりと血潮がついている。

 地面には使用済の注射器と、何かの肉片、そして血。

 

 部屋の端には、赤黒い肉塊と化したモノがゴミでも片付けるように放置されていた。

 

 「ウ……ッ!」


 見るに堪えない光景だった。

 目に涙を浮かべたローラが、反射的に後ろを向いてえずく。

 リオが彼女を気遣うように背中に手をやった。


 「……だから言っただろ。来るなって」


 バツの悪そうな顔で奥に立っているのはギル。どうやら既に1人でこの部屋の調査を始めていたらしい。


 「やはり、ギルさんは、この光景を見せたくないから来るなと言っていたのですか?」

 「そうだ」

 

 フレンはその返答を聞いて眉を釣り上げた。

 どこか怒っているような表情だ。

 

 「たしかに、その配慮はあなたらしい優しさですね。――ですが、ギルさんは、少し私たちを子ども扱いしすぎではないでしょうか」

 「なに?」


 ギルが不機嫌そうに眉を吊り上げる。

 しかし、フレンもまた不満な様子を隠そうともせず言葉を続けた。


 「たしかに、この光景は直視には凄惨すぎるものです。けれども、少し侮りすぎではないでしょうか」

 「なに……?」

 

 「――ギル。奥にまだ生きている人はいた?」

 

 いつの間に立ち上がったローラが、強い意志を籠めた瞳でギルを見つめていた。


 「生きているなら、私の治癒魔法で助けられるかもしれない」

 「お前……」


 ローラは決して凄惨な光景に慣れたわけではない。

 彼女は人の死とは程遠い平凡な農家の生まれだ。

 傷や血を見るのは未だに少し怖い。

 人間の尊厳を弄ぶ所業には、生理的嫌悪が湧き出す。

 

 けれども、彼女にとっては怪我人の治療の方が大事だった。

 助けられるかもしれない人がいるのに、足を止めているわけにはいかない。

 ただそれだけで、彼女は残酷な現実に立ち向かえる。


 「ギルさんは一人で背負い込もうとしすぎです。私のよく知る人にそっくりですね。もっと私たちのことも信用してください」

 「……そうだな。ローラ、ついてきてくれ。お前なら助けられるかもしれない人がいる」

 

 フレンの言葉を聞いたギルは小さく頷いた。

 

 そして、すぐに奥の方へと歩いて行く。

 ローラと、そして彼女を心配そうに見るリオがそれについていく。


 「……ブルームさんもこれくらい素直だったなら良かったのですがね」


 その様子を見たフレンは、そう呟いてから自らもまた地下室の奥へと歩いて行った。



 ◇

 

 

 地下室の奥には、何人もの人が手錠で拘束されていた。

 おそらく、奴隷として出荷する直前だったのだろう。

 男女関わらず体には暴行の跡があり、怪我をしている者も少なくない。


 「ローラ、こっちだ! 怪我が深い!」

 「うん!」


 ギルが示した人の元へと駆け寄っていったローラは、すぐに状態を確認する。

 瘦せこけた若い女だ。

 

 青白い顔に、血管の浮き出た二の腕。

 そしてその左脚は、まるで力任せに引きちぎられたように途中から無くなっている。

 切断面からは血が流れ続けている。このままでは出血死してしまうだろう。


 「ッ……ひどい傷」


 その傷を見たローラが一瞬怯む。

 しかし、それも一瞬のこと。彼女はすぐに治癒魔法に集中しはじめた。

 

「『治癒の光よ』」


 傷口に手をかざしたローラの治癒魔法が行使される。

 

 その力はこの世界で彼女のみが扱えるソウルライト。

 時を巻き戻し傷を消し去る奇跡の力だ。

 

「コイツは……すごいな」

 

 その光景を見たギルが驚嘆の呟きを口にする。

 『時戻し』の奇跡がその力を発揮する。無くなったはずの脚が再生していく。

 それはまるで、植物の成長を早回ししているかのような光景だった。


 「……ッ」

 

 治癒魔法を行使し続けているローラの額にはわずかに汗が浮かんでいた。

 四肢の再生は彼女自身も初めて行う未知の領域。ソウルライトの消耗も激しい。

 無言で集中する時間が続く。

 

 緊迫の時間がしばらく続いた後、女性の左脚は完全に元通りになった。

 ローラは額に汗を浮かべながらも安堵の表情を浮かべていた。

 

 「ローラ、大丈夫か……?」

 「うん。……脚は治ったけど、かなり血を流してるからしばらく療養が必要だと思う。それに、ここまでの治癒は初めてだから脚がちゃんと動くかちゃんと確認しないと……」

 

 女性のこの後の処置について語っていたローラが、突然ふらりとよろめいた。

 後ろに控えていたリオが彼女の肩を支える。

 

 ソウルライトを集中して行使したローラはかなり顔色が悪い。

 リオが気遣う声をかける。

 

 「ローラもちょっと休もうか」

 「でも、他の人の治療が……」

 「いや、緊急処置が必要なのは彼女だけだ。少し休むといい」

 「ほらローラ。少し外に出よう?」

 

 リオはいつになく優し気な声で語りかけると、ローラの肩を支えたままゆっくりと外へと歩いて行った。

 普段はお姉さんのような態度をすることも多いローラだが、今はリオとの立場が逆転しているようだ。

 

 微笑ましい光景に、ギルは少し頬を緩めた。

 推しカプオタクな少女がこの場にいれば、不審な奇声を発していたことだろう。

 

「さて、俺は負傷者の搬送を手伝うか」

 

 そろそろ帝国の医療班が到着する頃だろう。

 

 ギルにも応急処置の心得程度はある。傷を治すことはできなくても苦しみを緩和することくらいはできるだろう。

 

 もう少し頑張るか、とギルは血の匂いのする地下室の奥へと入って行った。

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