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第42話 検挙

 騎士団による『堕落の黒蛇』の調査は順調に進んだ。

 違法奴隷の売買や強盗など、様々な犯罪行為が明らかにされる。

 

 彼らの犯罪の手の内が暴かれるたび、騎士たちは驚愕と共に「この組織は絶対に滅ぼさなければならない」と使命感を新たにする。

 

 

 そのアジトのうち1つは、帝都に堂々と居を構える宿屋だった。

 調査によれば、この宿屋では地下室で奴隷を管理しているようだ。

 そもそも帝国内では奴隷取引は全て禁じられているものだ。


 「まさか、こんな堂々と居を構えているとはな。舐められたものだ」

 

 宿屋を前にして、帝国の騎士が憮然とした表情で言う。

 違法な奴隷取引を行っている店としてはあまりに堂々としすぎだ。

 帝都の治安維持を担う彼らが憤るのも無理はないだろう。


 「……リオ、いけるか?」

 「うん」


 騎士たちの後ろに控えるギルとリオが会話を交わす。

 その後ろにはフレンとローラの姿もある。

 

 彼らは今回の拠点の検挙に手を貸すことになった。

 違法な商売をしている今回のターゲットからは、激しい反撃が予想されているからだ。

 

 

 対価はヴァンガード教会の情報。

 それに、リオたちにとっては自分たちと同じように教会に苦しめられている人を助けたいという思いもあった。


 

 「――突入します!」


 先頭に立つ騎士が叫ぶと、宿屋のドアを開ける。


 「帝国騎士団だ! 勅命により、この店の調査を行う!」


 甲冑に身を包んだ騎士たちが次々と中へと入っていく。

 物々しい気配に、宿屋の受付の女が恐怖に身を竦ませる。


 反撃の気配は一切ない。

 もしや何かの間違いで、この宿屋は普通の宿なのではないか。


 そんな考えが騎士の頭をよぎった時――爆音が響き渡った。


 「なんだ!?」

「中で爆発です! 先行組の被害甚大!」


 騎士たちは動揺しつつも戦闘態勢を整える。

 

 爆発は宿屋の奥から発生したようだ。しかし、外壁はダメージを受けた様子がない。

 おそらく、こういった事態を想定して堅固に作られていたのだろう。宿屋というよりむしろ監獄のようだ。

 

 重武装の騎士たちが倒れた宿屋の奥、爆風の先から人影が現れる。


 「おいおい、コイツは何事だ!? これからいいとこだったってのに邪魔しやがってよお!」


 ドレッドヘアーに浅黒い肌の男だった。身に纏う粗野な雰囲気は、犯罪組織の一員と言われても違和感のないもの。

 騎士たちの姿を確認した彼は、苛立たしげに右手を前にした。


 「チッ、犬共が……爆ぜろ」

 

 直後、再び爆発が起きた。

 重たい鎧で身を守っているはずの騎士たちが軽々と吹き飛ばされる。

 

 その様子を見たギルが一歩前に出た。

 

 「ソウルライトだな。俺が出る」

「ギ、ギル殿……大丈夫なのか?」

 「問題ない」

 

 騎士の身を案じる声に軽く答える。

 帝国の騎士団は訓練を積んだ者ばかりだが、ソウルライトを覚醒させた人員はごく一部。

 あの攻撃的なソウルライトと戦うのは少々荷が重いだろう。

 

 

 ギルはまるで散歩にでも行くような気軽さで男の前まで歩いて行く。

 『爆破』のソウルライトを持つ男はそれを見て眉をひそめた。


 「なんだお前。死にたいのか? お望み通り、内臓から粉々にしてやろうか」

 「いや違う違う。ただ少し話を聞きたかっただけさ。……なあ、お前はここで何をしてたんだ?」

 「あぁ? ……まあ、どうせここはもう廃棄だからな。全部爆破する前に教えてやるよ」


 ドレッドヘアーの男は、この拠点を丸ごと爆破した上で逃走する気のようだ。

 国家を敵に回してなお自信満々な態度。騎士団など相手にならないと言っているようなものだ。

 

「俺の仕事はなぁ、ここの奴隷共に『恐怖』を覚えさせることだ。支配を嫌がり自由を主張する馬鹿どもを殴って殴って殴って、言うことを聞く従順な奴隷にする。恐怖は一番簡単に人を縛り付けられる首輪だ。ちょっと肉を抉るだけで簡単に言うことを聞く。次は頭を爆破してやるよ、とか言えば泣いて許しを乞う。そうやって調教した上で、商品として出荷する。どうだ、最高の仕事だろ?」

「ああ、そうか……」


 ギルの声は恐ろしいほどに静かだった。

 それは恐怖のあまり黙っていたのではなく、怒りからの沈黙だった。

 

 「――くたばれ」

 

 ギルの敵意を感じた男が『爆破』を使った。

 

 「ハッハァ! 木端微塵、てなあ!」

 

 重装甲の騎士を吹き飛ばすほどの爆破が直撃したギルは死体も残らず死亡した――かと思われた。


 「――フッ!」

 

 背後から迫ったギルが、男の腹に短刀を押し当てていた。

 

 「は……? な、ぜ……」

 「派手な力を使う奴は周辺の警戒が疎かになるもんだ。お陰で楽勝だったよ」

 

 ギルのソウルライト――分身はその力を知らない者に対して絶大な効果を発揮する。

 分身体を使って男との会話をしていたギルは密かに男の背後へと周り、奇襲をした。


 麻痺毒のついた短刀で刺された男は、すぐにその場に崩れ落ちた。

 

 

 「脅威は排除した。負傷者の手当を頼む」

 

 ギルは騎士にそう伝えると、宿屋の奥へと進んで行った。


 その様子を見ていたリオとローラが話し合う。

 

 「ギル、なんだか雰囲気がいつもとは違ったね……」

 「うん……怒っている、のかな」


 たしかに、いつもの彼とは雰囲気が違う。

 いつもの彼なら、余計な挑発などしないで仕事を淡々とこなしていただろう。

 

 3人はギルの様子を不思議に思いながら、宿屋の奥へと歩みを進めた。

 

 

 ◇



 俺は彼らが無事に『爆破』の男を突破した様子を遠くから見て、安心の為一息ついた。

 ひとまず原作通りと言っていいだろう。

 4人は地下室へと向かって行ったので、ここからの展開を観察することはできないが……。

 


 さて、今回なぜ俺が戦闘には参加せずに観察のみしているかと言うと……現状では、ラスボス――ミレディがどう動くか分からないからだ。

 

 先日俺が接触した時の動き――ミレディが俺を襲撃してくるという動きは、全くの予想外だった。

 

 原作通りであれば、彼女自身が動きを見せるのはこれよりもずっと後のはずだった。

 しかし、イレギュラーは起きた。

 俺という存在が世界に影響を及ぼしたのか、あるいはそういう平行世界だったのか……それは分からないが、懸念点が1つ増えてしまった。

 

 他の原作イベントの途中に、ミレディが介入してくる可能性がある。


 

 原作では、ミレディは本拠地である聖王国から一度も出てこなかった。

 しかし、彼女が「出てこない」のか「出てこれない」のかはハッキリと分からない。原作でも最後まで言及がなかった。

 

 そして、リオたちが未だ成長途中である今、ミレディに抵抗できるのは俺のみだ。

 であれば、俺が他の敵と戦っている隙を突かれるのはマズい。


 おそらく、先日の一戦でミレディは俺のことを警戒しているはず。

 彼女にとって天敵と言える陽光を扱う力。そして、不死者たる彼女を殺し得る死神の力。

 警戒心の強い彼女なら、先んじて俺を殺しに来る可能性もある。

 

 俺が身を潜めておけば、最悪リオたちが戦いの最中にミレディに襲われてもすぐに助けに入れる。

 奇襲される形での接敵を避けられる。

 だから、俺の役目は彼らの活躍を見守ることなのだ。


 あれ、これじゃもしかして今までと変わらないか……?

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