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第41話 他人を頼れ

 氷漬けにされて無力化された黒牧師、クリミナルの身柄は帝国の騎士へと引き渡された。

 彼女を拘束したフレンの「正当な裁きを受けさせて欲しい」という要望を汲んでのことだ。

 

 黒牧師としての活動だけでなく犯罪組織『堕落の黒蛇』のトップだったクリミナルの罪は数多く、最終的には死罪となるだろうとのことだった。


 

 黒牧師の捕縛に成功したのはこれが初めてのことだ。

 ハンターは俺が殺したし、ウォールも死んだ。

 この展開については原作と同じ。

 

 そして、このタイミングでリオたちは初めてヴァンガード教会の暗部について詳細な情報を得ることができる。

 つまりは、襲われるだけでなく教会への反撃を始めることができるということだ。


 クリミナルから引き出せる情報はそれだけ価値の大きなものになるのだ。

 


 ◇

 


 夜も深まり、ほとんどの建物から灯りが消えた頃。

 ひっそりと宿へと入ってくる影があった。

 彼が戻ってくるのを待っていた俺は、その影へと近づいていく。

 

「――ギル、この時間まで騎士団のところに行ってた?」

 「うぉ、ブルームか。急に声かけてくるなよ。心臓止まるかと思ったぞ……」

 

 深夜の宿に入ってきたのはギルだ。

 その顔には少し疲れが見えた。

 

 おそらく今日もクリミナルの尋問を担当する騎士団との情報共有をしていたのだろう。


 クリミナルから得られた情報を元にヴァンガード教会を切り崩す策を考えるのは彼の役目。

 少なくとも本人はそう思っている。

 つまり、彼にとっては一番の頑張り時だ。

 

 「あまり無理しない方がいい。クリミナルの件を契機に、帝国騎士団も教会の攻略を本格化する。そうでしょ?」

 「そうだが……お前はどうやってそれを知ったんだ?」

 「秘密」

 「……」

 

 聖王国と隣接する帝国は、長い間ヴァンガード教会の暗躍に晒されてきた。

 

 スパイを紛れ込ませるだけでなく、誘拐や危険薬物の持ち込み、犯罪組織への支援など、目立たない形で帝国領に損害を与えてきた教会の暗部。

 

 帝国はそれを危険視するも、決定的な証拠がないだけに公に対立することができなかった。

 大国たる聖王国に保護された教会と対立するということは、大きな戦争の火種にもなり得るからだ。

 

 それだけに、今回の黒牧師クリミナル捕縛は大きな影響を与えることになる。

 帝国は教会の暗部にメスを入れる大義名分を得たのだ。

 

 俺の原作知識通りに事が進むのなら、今回の情報を基に騎士団はヴァンガード教会の暗部、そしてクリミナルの指揮していた犯罪組織『堕落の黒蛇』を本格的に摘発する。

 リオたちは教会の闇を暴くため、騎士団へと手を貸して『堕落の黒蛇』の討伐作戦へと踏み込んでいくことになる。

 

 「祖国の仇を前に焦っている。違う?」


 ヴァンガード教会の暗部は連邦国の滅亡に関わっていた。

 クリミナルの尋問によってそんな事実が発覚してから、ギルの顔は日に日に険しくなっているようだ。

 

 俺の問いに、ギルはガシガシと頭を掻いた。

 

 「ハァ……そんなに分かりやすいかね、俺は」

 「そうでもない」

 

 淡々と答えると、ギルは恨めしそうな顔で俺を睨んできた。


 「お前と話してると、年長者と話してる気分になるな。正直、自信をなくす」

「別に自信をなくすこともない」


 たしかに俺は見た目よりも年上かもしれない。

 なにせ日本での経験がある。

 

 でも、ギルのように色んな経験をしたわけでもない。

 ただ原作知識で知ったかぶりしてるだけ。胸を張れるようなことでもない。


 

 「……そういうの、リオたちに話してみたら。時には他人を頼るのも大事」

 

 少し迷ってから、俺はギルに他人に相談することを促した。

 

 思うに、ギルは1人で抱え込み過ぎるタイプだ。

 不真面目に見えて責任感が強い。ひねくれているように見えて根は真面目なのかもしれない。

 

 頭を使うことや汚い仕事は自分の役目だと思って1人でこなそうとする。

 

 原作の描写からもそんなパーソナリティはうかがえた。

 ただ、今の彼は少々自分を追い詰めすぎているように見えた。

 

 彼は紙面上の登場人物ではなく今を生きる人間だ。

 抱え込み過ぎるのも精神的に良くないだろう。

 

 

「……まさか、お前に『他人を頼れ』なんて言われるとはな。……いつもなら、鏡でも見ろって言ってたかもな」

 「なぜ鏡?」


 ギルの言葉の意味が分からず聞き返すと、彼は呆れたように笑った。


 「いいや、なんでもない。……ありがとよ。素直にお前の気遣いに感謝しておくよ」

 

 いつもの皮肉気な笑み。

 けれど、その顔には先程までの険しさはない。

 

 ああ、これなら彼が自分を追い込みすぎることはないだろう。

 そう思わせてくれるような、いつもの彼らしい笑顔だった。

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