第39話 百合カプという可能性
いつも使っている食堂の席に座り、食事を始める。
適度に手を進めながら、俺は正面に座る彼女に問いかけた。
「それで、今回はどうしたの?」
彼女──ローラがこちらを向く。
ローラから俺とフレンへの相談の持ちかけがあったのはこれで二度目だ。
たしか、前回はリオのことでの相談だった。
「実は、2人に相談というかお願いがあって……」
そう言いながら、彼女は少し下を向いた。
何やら言い出しづらいことらしい。
やがてガバッと顔を上げた時、彼女の頬は真っ赤だった。
「こ、今度リオとパーティに行くことになったから、ドレスを一緒に選んでくれないかな!」
まるで一世一代の告白のように言うと、ローラは赤面して下を向いた。
「それは構いませんが……しかし、どうしてお二人でパーティに?」
冷静に聞き返したのはフレンだ。その様子を見て、ローラはどこか安心したような様子を見せた。
……思うに、ローラとフレンっていう組み合わせもアリなんだよな。
男女カプを至高とする俺だが、女性同士のカプ、及び百合カプというものにもそれなりに興味がある。
ローラは上品な振る舞いをするフレンに憧れているフシがあると思う。
元々、フレンは貴族令嬢としての礼儀作法の教育を受けている。そのため食事などの日常動作1つをとっても所作が綺麗だ。
対するローラは田舎の街出身。そして彼女は、都会的な、大人な雰囲気というものへの憧れがあるようだ。
帝都にいる間、『田舎っぽいかも』と自分のことを卑下することがある。
──つまりこれは王道的な百合カプに当てはめることができるのである。
田舎育ちで純粋な心を持った後輩と、高貴な身分で高嶺の花な先輩。
出自の違う2人は互いのことをよく知るうちに惹かれ合って……!
ああー、キマシタワー!
「──さん。ブルームさん。聞いておりますか?」
「うん、ばっちり」
ハッ!
まずい。新たなカプの可能性を探究していて話を聞いていなかった。
「……で、その時の依頼で助けた人から是非来て欲しいって言われて。でも、その人の言うパーティーっていうのが結構おっきいらしくて……」
「なるほど。たしかにお二人はドレスコードなどには馴染みがないですからね。承りました」
なるほど、パーティーに行くのか。
ということは……もしかして、不慣れでも一生懸命にローラをエスコートしようとするリオの姿とか見れるのか!?
おお、推しカプの日常イベ感謝……!
「それで、ブルームちゃんも来てくれるかな?」
「……え、私も?」
こっそりとスト……観察する気満々だったんだけど。
いやだ……百合に挟まるオタクにはなるのは嫌だ……!
「そういうの役に立たない」
服とかあんまり買わないから全然分からない。
ましてドレスなんてほとんど見たことすらないぞ。
「でも、いてくれるだけで心強いよ!」
「そうです。多くの意見があった方がいいですから」
なぜか息ピッタリな2人の圧が凄い。
渋々と、俺は首を縦に振ることになった。
◇
「帝都でドレスを選ぶとなればここが一番ですね。仕立て屋の腕が抜群ですから」
そう言ってフレンが案内したのは、上品な外装の店だった。
それを見たローラは、気後れしたような様子を見せる。
「え、ここって平民が入って大丈夫な奴なの?」
「問題ありませんよ。貴族も平民も利用する場所ですから。もともと、帝国は身分間の垣根がかなり薄いお国柄ですからね」
帝国はフレンの出身である王国ほど貴族の力が強くない。
そのため、出身についてはあまりうるさく言われない風土が形成されている。
「いい、のかな……」
「はい。それに、ローラさんは他の人に負けないくらい可愛らしい見た目をしているのですから、遠慮することは全くありません」
「か、可愛らしいって……」
褒められたローラが赤面する。
……ハッ、これは百合の気配!
ローラにとって憧れの対象であるフレンに容姿を認められるのはかなり嬉しいことだろう。日頃から田舎出身であることに少し劣等感を覚えていたローラにとって、こういった上品な店に入るのはハードルが高い。しかし、他ならぬフレンが優しく入店を促した。
そう、これはつまりプロローグなのだ。年上のお姉様にエスコートされて知らない世界へと入っていく少女の物語……!
「ブルームちゃん? なんでボーっとしてるの、早く行こ?」
◇
フレンの案内に従って店の中を進む。
どこを見ても色鮮やかなドレスばかりだ。
「サンプルを選んだら、職人が体格に合わせてオーダーメイドで仕立ててくださりますからね」
「えっ、それって結構高いんじゃ……」
「ローラさんの冒険者としての稼ぎなら十分足りると思いますよ」
ソウルライト持ちの冒険者の需要は高い。
ローラの治癒のように需要の多い能力であれば特に報酬は高くなる。
「でも、1度限りのパーティーのドレスに大金を使うのは気が引けるね……」
「ひょっとしたら、またパーティーに招待される機会があるかもしれませんよ。ローラさんは沢山の人を救っていますから」
やっぱり、ローラは治癒の力を多くの人を救うために使っているみたいだ。
その優しさは彼女の美点であり推しポイントだ。
「さて、それでは早速ドレス選びを始めましょうか。そうですね……例えば、こういったものはどうでしょうか」
最初にフレンが差し出したのは落ち着いた青色のドレスだった。
ワンピースタイプで、肩や首のあたりはやや露出が多いだろうか。
「私にはちょっと色っぽすぎない? その、肩とか結構出てるし……」
「もちろん強制はしませんが、パーティーの場ではこれくらいが普通ですよ。それに、リオさんにはローラさんの一番可愛らしい姿を見てもらいたくないですか?」
「一番可愛い……うぅ、分かった! ちょっと試着してみる!」
フレンの口車にうまいこと乗せられたローラはドレスを持って試着室へと向かって行った。
「フレンは悪女」
「フフッ、そうですか? ただ私はパーティーの場をローラさんにとって最高の思い出にしてもらいたいだけですよ」
「そうだね。楽しんでもらいたい」
心優しい彼女には幸せな思い出を沢山作って欲しい。
そんな風にフレンと話をしていると、試着室のカーテンが空いた。
先程のドレスを着たローラが恐る恐る聞いてくる。
「どう、かな……?」
「とてもお似合いですよ!」
フレンが率直に褒めると、ローラは照れた様子を見せる。
一方、俺の視線はローラの鎖骨に吸い寄せられていた。
「えっど……」
「ブルームちゃんなんて?」
「なんでもない」
しまった。思わず本音が出てしまった。
「せっかくですから他のものも試してみましょうか」
その後も様々なドレスを試していく。
俺としては推しのファッションショーを鑑賞できたので大変幸せな時間だった。
そしてローラを着飾る最高のドレスが決まり、パーティーの当日を迎えることになった。




