第25話 ご馳走様
ウォールとの戦闘後、リオの雰囲気はちょっと変わった。
これについては原作通りだ。
リオはソウルライトを覚醒させた際に、成長した己との同期を果たした。
その結果、老齢の己に少しばかり自我が引っ張られているのだ。
ここに生きるリオが別の誰かに変わってしまったわけではない。
少しばかり新しい価値観ができ、新しい知識が増えたというだけだ。
ただ、それによってもたらされた変化は決して小さくない。
今までのリオはまさに純朴な少年といった様子だったが、最近はふとした仕草が大人っぽいことがある。
そんな変化に最も敏感に反応したのは、恋する乙女たるローラだ。
◇
ローラが何か困った時に真っ先に相談をするのはいつもリオだ。
幼馴染の2人はそうやってお互い支えながら今まで生きてきた。
だから今回、ローラが俺とフレンに相談を持ち掛けてくるのは本当に珍しいことだった。
ローラの表情は暗かった。以前の思い詰めた感じではないが、漠然と迷っているような印象を受ける。
そんな彼女の様子を見たフレンが「せっかくですしお茶でもしながらお話を聞きましょうか?」と提案したので、俺たちは3人でカフェへと向かうことになった。
しかし、俺がいる意味はあっただろうか。
まともにコミュニケーションもできないのに悩み相談とかできるわけがないだろ。
なんてったって、友人すらいないからな……。
「うーん、このケーキ美味しい!」
思い悩んでいたことを少しの間忘れて、ローラは開放的な笑顔を浮かべた。
ショートケーキはお気に召したようだ。
帝都の一等地に店を構えるこのカフェでは、最近流通し始めたコーヒーと一緒にスイーツが食べられる。
物珍しいコーヒーの匂いはもちろん、スイーツも一級品ばかりで帝都では大人気らしい。
「ブルームさんも、見てばかりいないで食べてください。ほら、あーん」
「……いや、自分で食べるから」
なぜか自分のケーキを俺に差し出してくるフレン。
さすがに推しと間接キッスするわけにはいかない。
俺は自分のケーキを口に運んだ。
フレンはちょっと不満そうな目で見てくる。
「このコーヒーってやつ、匂いはいいけどちょっと苦すぎない?」
「そうですね。私はいつもミルクと砂糖を入れています」
「あ、そっか。もっとお砂糖入れればいいのか」
コーヒーカップに口を付けた2人が会話をしている。
ローラは苦みに顔をしかめている一方、フレンはなんでもないようにコーヒーを飲んでいる。
俺もカップに口をつけて……とんでもない苦みに驚いた。
前世の感覚でコーヒーを飲んだが、どうやらブルームの舌がコーヒーを受け付けなかったらしい。
コーヒーカップにガバガバと砂糖を入れる。
何やら微笑ましい視線を感じた気がするが、多分気のせいだ。
「……それで、相談なんだけどさ」
ケーキを食べきったらしいローラが切り出した。
俺とフレンはフォークとカップを置いて向き直る。
「えっとその、リオって最近雰囲気が変わったじゃん?」
「たしかに、そうですね」
「それで、リオが大人っぽくなったら、新しくこ、恋人とかできちゃうのかなぁ、みたいな……?」
後半になるにつれて声がどんどんと小さくなっていくローラ。
全部言い切った後で、ローラは恥ずかしがるみたいにその場で縮こまってしまった。
か、可愛い……!
あー、やっぱりローラが恋する乙女している所見てるの好きだなあ!
普段は人懐っこくて物怖じしないのに、いざリオのことになると奥手になっちゃうの良きだなあ!
「フフ。ローラさんの心配は分かりましたが、きっと大丈夫ですよ」
フレンは微笑みながらローラに語りかける。
「私が見ている限り、リオさんが女性と恋仲になるような様子はありません。そもそも、リオさんはいつも鍛錬か冒険者業をしてますから。酒場などに寄る様子もありません」
「そ、そうかな……?」
ローラはそれを聞くとちょっと安心したような顔をした。
しかし、彼女の懸念はどうやらそれだけではないようだ。
「で、でもさ。ブルームちゃんとか、たまにリオのこと見てないかな?」
……えっ? もしかして俺が恋敵だと思われてる?
違う違う! 推しカプを観察してただけだって!
ローラが俺を疑うような目を向けると、なぜかフレンまで俺をジッと見つめてきた。
なんだこの雰囲気は。
「ローラの考えてるような感情はない」
言葉少なに言って、砂糖タップリのコーヒーに口をつける。
しかし2人は尚も疑いの目を向けてきている。なぜ?
「ブルームさんは表情からは何も読み取れないですからね……まあ、一旦真実としておきましょうか」
フレンは含みのある言い方をした。
なぜそんなに信用がない?
「ムム……まあ今はいいか。それなら、リオは女の子と付き合うような気配はないってことだよね?」
「ええ、その通りかと」
「間違いない。リオはローラに一途」
「い、一途……」
テレテレと緩んだ表情をしながらケーキを食べるローラ。
実際、リオほどに一途な人間もそういない。
生まれ故郷でローラに惚れてから、いつまで経っても同じように想い続けているからな。
でも告白はできない奥手。
おい、さっさとくっつけ!
「フレンは、ギルと仲良くなった?」
ちょうどいい機会なので、俺は推しカプの進捗を聞くことにした。
「ギルさんと、ですか? なぜそのようなことを……」
「いいから」
キョトンとした顔をするフレンに返答を急かす。
「いつもと変わらずですよ。ギルさんとは良い冒険者仲間としてやっています」
「フレンちゃん、最近ギルと喧嘩する回数が減ったよね?」
「彼にも彼なりの考え方があることが分かりましたから」
推しカプ情報助かる……。
身近な人が2人の関係性の変化を感じ取るの、とてもいいな。間接的に情報を摂取することによって得られる栄養素もある。
フレンもなんでもないように言っていたが、ギルの理解が深まってきたのが分かる。
最初は不真面目な様子のギルを嫌っていたが、その根には彼なりの真面目さがあることが分かったのだろう。
ああー、久しぶりに推しカプの栄養素を大量に摂取できて大変満足だ。
「ふう、ご馳走様」
「ブルームさん、まだ食べ終わってないですけれど……」
俺が感謝の言葉を述べると、フレンが困惑したような声を上げた。




