第24話 バツゲーム
俺がフレンの膝枕で目覚めるという衝撃体験をしてから数日。
しばらく安静にして、体は完全に回復した。
目覚めて数日はフレンが何かと世話を焼こうとしてきて大変だったな。
風呂までついてこようとした時は慌てて止めたものだ。
危なかったぜ。推しの裸なんて見てしまったら今度こそ成仏してしまう。
体調が心配なので念の為に一緒に行く、と言い張ったフレンと一緒に食堂まで出かける。
フレンには俺に構わずギルとデートにでも行って欲しいのだが……。
談笑しながら食事を終えると、フレンは突然切り出した。
「――ところでブルームさん。あなたは少し、私に謝ることがあるとは思いませんか?」
「…………」
フレンの瞳が俺の眼をじっと見つめていたので、そっと視線を逸らす。
フレンは造り物の笑顔のまま俺を見つめ続けていた。
やがて視線に耐えられなくなった俺は、おずおずと口を開く。
「その……勝手に出て行ってごめん」
「その言葉が聞けて良かったです。であれば、ちょっとしたバツゲームがあってもいいと思いませんか?」
「え? バツ、ゲーム……?」
フレンが笑みを深める。
その笑顔に本能的な恐怖を感じた俺は恐る恐る問い返す。
「はい。これから――ブルームさんには私のお人形さんになってもらいます」
お人形さん……?
言っていることは理解できなかったが、俺は恐怖に身を震わせた。
食堂を出て迷いなく道を歩くフレンについていく。
どうやら彼女の中で目的地は決まっているらしい。
「ここです、ブルームさん」
到着した店の内に入ると、やたらと装飾の多い服がズラリと並んでいた。
前世の感覚で言えばゴスロリだろうか。
まるでドレスのように華美な服飾の数々。
しかし、それらは少々……少女趣味と言えた。
「フ、フレン。お店を間違っていない?」
「ブルームさん、お人形さんは口答えしませんよ?」
こ、怖い……。フレンの笑顔がかつてなく怖い。
宣言通り、今日の俺は「お人形さん」として扱われるらしい。
内心プルプルと震えながら彼女の後についていく。
彼女はさっそく一着のドレスを取った。
「これならブルームさんのサイズにも合いそうですね」
「……これはなに?」
おおよそ、小さな女の子のお人形にでも着せるような服だった。
俺の知識だと「ゴスロリ」が一番近いだろうか。
黒を基調としたドレスは、袖口や首元を中心に白色のフリルがふんだんにあしらわれたている。
所々に赤い花柄がデザインされて華やかだ。
スカートの部分は膝部分で大きく盛り上がっている。
一緒に渡されたレース手袋も黒色で、ひじのあたりまで覆うものだ。
そしてセットで置いてあるのはヘッドドレスだろうか。大きな造花が取り付けられて随分と目立つ。
「……これはなに?」
ニッコリ笑顔でそれを差し出してくるフレンに再度問いかける。
「お人形さんのお洋服です」
ダメだ。反対意見は一切受け付けないという強い意志を感じる。
やはり俺はこれを着なくてはならないらしい。
これを、か……?
俺はグイグイと押し付けられた衣服を改めて見る。
多分、これを着ている人を街中で見かけたら二度見する。
それくらいの……メルヘンチックな感じの衣装だ。
「フレン、ひどい……」
「うっ……だ、ダメですよ。これはバツゲームなのですから、やると言ったらやるんです!」
ゴスロリを手にして試着室へ。
独特な装飾に注意しながらの着衣は随分と時間がかかってしまった。
「……はい」
のろのろと試着室のカーテンを開ける。
俺の姿を見たフレンは、目をキラキラと輝かせていた。
「す、素晴らしいです! やはり私の見立て通りでした! さあブルームさん、姿見の前へ!」
見ないようにしていた鏡の前へとグイグイ押しやられる。
鏡に映った俺の姿は、やはりメルヘン世界から飛び出してきたような見た目をしていた。
あざとく自己主張するフリル。やけに目立つヘッドセット。
俺の感覚的には「流石に恥ずかしいだろ」だったが、どうやらフレンのお眼鏡には叶ったらしい。
「ではこのままお化粧もしに行きましょう! こういったメイクに詳しい店を知っています」
「えっ……このまま?」
もはや返事すらなかった。
俺の手を握ったフレンはずんずんと大通りを歩き出す。
……ああ、やはり人の目が集まっている。みんな俺の服装をジロジロ見ているみたいだ。
恥ずかしい。こんなの公開処刑である。
俺はフレンに抗議の声を上げる。
「フレン。みんな見てる。やっぱり変じゃ……」
「ブルームさんの可愛らしさに皆さん驚いているのですよ。ほら、皆さん目をキラキラと輝かせていらっしゃるではないですか」
「いやあれは」
「自信を持ってください! ブルームさんはとっても可愛らしいのですから!」
ダメだ、聞く耳をもたない……。
もはや暴走したフレンを止める手立てはない。
俺は囚人の如く大通りを連れ回されるばかりだ。
この体になってからは感情が顔に出なくなった俺だが、この時ばかりは顔が赤くなっていたような気がする。
迷いなく歩くフレンに手を引かれて、別の店へと入る。
今度のは化粧品を売っている店らしい。
フレンが挨拶をすると、顔馴染みらしい女性店員が近づいてきた。
「あらあらフレンさん、そちらの可愛らしいお嬢さんは?」
「こちらブルームさんです。『おしゃれに興味があるけど一歩踏み出せない』とのことでしたので今日はお買い物です」
「フレン、流れるように嘘をつかないで」
フレンのとんでもない言葉を訂正する。
なんで真顔でそんな嘘つけるんだよ。店員さんがうっかり信じちゃうだろ。
「あら、その方がいつも話していたブルームさんでしたか」
化粧店らしくメイクで容姿を整えた女性店員が顔を覗き込んでくる。……ちょっと緊張する。
「それじゃこのコスチュームに合うコスメをすればいいのね。任せておきなさい!」
張り切る店員さんによって椅子に座らせられる。
どうやらもう逃げきれないらしい、と観念した俺は目を閉じてメイクが終わるのを待った。
目や唇、頬などに触れられる感覚。
女性店員さんは手際が良いらしく、次々と別の化粧道具を使っているようだ。
「はい、できました」
その言葉を合図に目を開ける。目の前の鏡には、見覚えのない女の子が座っていた。
「……」
自分の顔をまじまじと見つめる。
いつも以上に肌が白く見えるのは、濃い色の化粧が施されているからだろう。
やや紫がかった赤いリップ。黒いアイライナーは目元を強調している。
ブルームの顔は元々神秘的というか造り物めいた印象を与えるが、こうしていると本当に人形か何かのようだ。
いつもより大きく見える瞳はこちらをじっと見つめている。
本当に他人みたいで現実感が湧かない。
「よくお似合いですよブルームさん!」
いつの間にか後ろに立っていたフレンが声をかけてくる。
「……なんか、自分じゃないみたい」
俺の言葉を聞いたフレンがうんうんと頷く。
「ええ、ええ。――そうやって、楽しいことにもいっぱい興味を持ってください」
「……?」
楽しいこと……?
俺はいつも推しカプの観察で楽しんでいるが……。
「私、いつも楽しい」
「もう、ブルームさんは本当に嘘が下手なのですから……」
困ったように笑うフレンに首を傾げると、鏡の中の美少女もコテンと首を傾げた。
あれ、なんだコイツ可愛いな……。




