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第21話 覚醒するソウルライト

「来た来た来た! リオグレンの覚醒シーン!」


 眼下の橋に、眩い光が輝いた。

 俺は興奮しながら木の影から身を乗り出した。

 

 ずっとハラハラしながら戦う彼らを見ていただけにその感動はひとしおだ。

 この瞬間こそソウライで最も熱いシーンまであるからな。

 1ファンとして興奮してしまうのも仕方あるまい。

 

 あー、できれば写真にでも収めておきたかった。写真機がこの世界にないことが悔やまれる。

 

 地面に倒れるリオの体は、強い光に包まれていた。

 

 魂の輝きが体の外まで溢れるなど、通常は考えられないイレギュラーだ。

 しかし主人公たるリオグレンのソウルライトは特別製だ。

 

 奇跡のような条件でのみ真価を発揮するリオのソウルライトは常人の何倍もの力を秘めている。

 

 覚醒した彼の能力は『平行世界の己との同期』である。

 

 そんな力を扱えるのは、リオの隣に『時戻し』――ローラがいたからだ。

 

 『時戻し』とはつまり、存在自体が平行世界の分岐点となり得る存在だ。

 時を巻き戻す、という行為は未来の分岐点に他ならない。


 そしてどんな世界でも彼女が未来を変えたいと一番に願うのは、いつもリオグレンのことだった。

 彼の未来をより幸せなものにしたい。より良く生きて欲しい。

 

 そんな願いが折り重なり、やがてリオは平行世界の分岐点として枝分かれする木の幹のような存在となった。

 ある種世界の歪みのようなものはリオの魂にも影響を与え、平行世界への干渉をも可能とした。


 これはリオの才能というよりも、ローラのソウルライトの特異性がもたらした結果と言えよう。

 だからこそラスボスたるミレディもこの力を予見できなかった。

 

「つまり、ローラとリオは運命の相手、切っても切れない相手、比翼連理、お似合いカップルってわけですねえ! うひょおお、幼馴染がファムファタルとか最高じゃねえかリオグレン爆発しろ!」


 テンションの上がった俺はその場で立ち上がって叫んだ。

 今ならみんな戦闘に集中してるから誰にもバレない。

 

 気分はさながらヒーローショーを応援する子どもである。


「いけリオ! いけえええ!」


 そんな風に大声を出していたからだろう。

 俺は背後から近づいてくる影にまったく気づくことができなかった。


 背後の影が腕を振り上げる。

 無防備な俺はそれにまったく気づくことができず、激しい衝撃と共に吹き飛ばされた。


 ……いい所だったんだから最後まで見せろよ。


 川の中へと落下していく中、俺の最後の思考はそんな感じだった。



 

 

 ◇

 


 デイトロン大橋が眩い光に包まれた瞬間、リオには大きな変化が訪れていた。

 

 まず、頭に覚えのない知識が急激に入ってくる。

 それは己の魂が平行世界に接続した証。

 

 リオが真にソウルライトを使いこなすことができた証拠だった。

 

 流れ込んできた記憶は「平行世界のリオグレン」のものだった。

 

 剣に人生全てをなげうった記憶。

 魔法の研鑽に命を捧げた記憶。

 異国の剣術を修めた記憶。

 戦場での傭兵働きを生涯続けた記憶。

 

 それらは全て、あり得たかもしれないリオグレンの姿だった。

 

 この場でウォールに敗北し生き残った場合の、リオの人生のイフ。平行世界の記憶。

 ローラを連れ去られた後、彼女を奪ったヴァンガード教会を倒す為の研鑽に生涯を捧げた記憶。

 

 本来常人では見ることのかなわない景色が、記憶が、リオの頭の中に流れ込んでくる。

 

 そのトリガーの1つは『時戻し』を持つローラの目を見たこと。

 そしてもう1つは、死に瀕して尚「諦めない」という心を持っていたことである。

 

 平行世界とこの場所を繋ぐトリガーは「不屈の心」だ。

 全てのリオが持っていた心。何よりも強く魂が輝く瞬間。

 それが世界を超えて共鳴する。

 


 まるで100年以上の旅に出たような感触を飲み込み、そうして彼はようやく己の魂の輝きの本質に気づいた。

 


 

 ブルームは彼のソウルライトの本質を『不屈』だと言った。

 ただし、それは事実の半分に過ぎない。

 それは言うなれば前提条件だ。

 

 平行世界のリオグレンは1人たりとも諦めなかった。

 

 連れ去られたローラは未だ生きているかもしれない。

 ヴァンガード教会を打ち倒せば彼女を取り戻せるかもしれない。


 そんなか細い可能性にかけて100年近くを生きていた。

 

 何度繰り返したとして決して諦めない心。

 誰一人諦めなかった平行世界のリオグレンたちの力を、彼はその身に宿し戦い続けていた。

 


 ◇

 

 

「スゥ……」


 眩い光が少年の胸へと収まっていく。

 神の奇跡の如き光景に、誰もが動きを止めていた。

 敵であるはずのウォールですら、トドメを刺すこともせずに呆然としている。

 

 しかし、その現象を引き起こしたリオに戸惑った様子はない。

 息を大きく吸う。リオの雰囲気が大きく変わった。

 

 既に、先程までの未熟な少年の姿はどこにもなかった。

 そこにいたのは、澄み渡った目で敵を見据える武芸者だった。


 「ッ……『聖なる壁よ!』」

 

 その瞳にようやく正気に戻ったウォールは、全力の攻撃障壁を放つ。

 自らの命の危機を感じたゆえの、出し惜しみのない攻撃だった。

 

 槍のように尖った空間の断絶がリオを襲う。その切っ先は不可視であり防御不可能――のはずだった。


 「フッ……」


 リオの振り下ろした剣先が、透明の槍を受け流した。

 空気の流れを感じ取れば不可視の槍とて予測は可能。

 今のリオにとって、もはや敵の得物が見えているかどうかは些細な問題だ。

 

「ッ……否、どれだけ剣技に秀でていようと我が無敵の障壁の突破は不可能!」

 

 剣を構えたリオがウォールへと迫る。

 しかし、斬撃が物理現象である以上『空間の断絶』を突破できるはずもない。

 ウォールは長年の経験からそう確信していた。

 

 「シバハラ流――」


 リオの構えが先程までと変わる。

 正眼のオーソドックスな構えから、突きに特化した構えへと。


 「雷電」


 それは平行世界のリオが会得した極東の剣術だった。

 重装甲の敵に相対した際、鎧の隙間を縫って致命傷を与える為に編み出された突き。

 

 ウォールの障壁は、空間全てを覆う壁のようなものではない。

 壁というよりもむしろ網戸のようなものだ。

 剣や魔法が絶対に通り抜けない程度まで穴を少なくし、実質的な無敵を実現したもの。

 その証拠に、フレンの放った水魔法はわずかにウォールの服を濡らしていた。


 ――であれば、針の穴を通すような正確無比な刺突であれば突破できない道理はない。

 

「オオオオオオオ!」


 リオの超人的な五感が空気の流れを感じ取り、障壁の穴を見抜く。

 100年以上の研鑽の果て、障壁を突破した剣先は――ウォールの心臓を貫いた。


「ゴッ、ハ……」

 

 信じられない。

 そんな表情を浮かべたウォールが血を吐いて倒れ込む。

 

 「ギル、ローラをお願い」

 「あ、ああ……」


 別人のように雰囲気の変わったリオに戸惑いながらもギルが返答する。

 リオはゆっくりとウォールへと歩み寄った。

 

「負けたのに、満足そうですね」

 「フフッ、そうですか」


 ウォールの目に既に敵意はない。彼は自らの傷が致命傷であることを既に悟っていた。


 「――きっと私は、こうして罰せられたかったのです」


 50年以上の時を生きた信徒は語る。


 「己の後ろ暗い仕事に疑問を覚えながらも、それが使命であるならばと思考を停止して任務をこなし続けた。間違っていることを薄々分かっていながら、他人を害し続けた。きっと、主はこんな愚かな私に罰を与えてくださったのです」

「……」

 

 間違っていると分かっているのなら、ローラを傷つけるような行為は止めてくれればよかったのに。

 そんな想いを内心持ちながらも、達観したリオは淡々とした様子で問いかける。


 「間違っていると分かりながら貴方が従っていたのは誰ですか?」

 「大司教様です」


 迷いなく答えたウォールに、リオが眉をひそめる。


 「それが、ローラを害そうとする人ですか?」

 「……そうです。大司教様がローラ嬢を連れてこいと命じられました」


 リオの質問に素直に答えるウォールは、まるで長年の後悔が晴れたように清々した顔をしているように見えた。

 

「最高位たる大司教様の命令とは主の意思にも等しいものです。大司教様がローラ嬢を諦めない限り、教会は何度でもあなた方を襲うでしょう」

 

 ウォールがゆっくりと瞼を閉じる。

 最期に、未来に残る若い種に向けて言葉を残す。


 「ですから、あなたが大切な人を守る為にもっと強くならなければなりません。きっと、今のあなたですら大司教様には敵わないでしょうから」

 

 穏やかに、まるで家族に看取られてベッドの上で亡くなるように、黒牧師第六位階ウォールは息を引き取った。

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