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第19話 忍び寄る影

「ああ、何もしないで見てるだけってもどかしいな」


 黒牧師ウォールとの戦い、その第一戦を物陰から見届けた俺は呟いた。

 大きなダメージを受けたリオたちは、今頃宿で体を休めている頃だろう。

 

 連れ去られたローラは、今は帝国領内の教会にいるだろうか。

 

 この敗北は、俺も知っていたことだ。

 これは原作通り。

 ウォールには今の彼らのままでは絶対に勝てない。

 彼らが今持っている手札では、ウォールの障壁を突破できないからだ。

 

 もしも彼らに勝機があるとすれば、次の戦い。

 デイトロン大橋での決戦だろう。

 

 俺の知る原作ではここでウォールを打ち破る。

 しかし、俺の観測しているこの世界でも同じ結末になるとは限らない。

 ソウライ世界では平行世界が存在することが明言されている。

 この世界がバッドエンドに向かい、ラスボスが世界を支配する未来だってあり得るのだ。

 

 「……ダメだ。やっぱり何もしないってのは無理だ」

 

 介入しないと自分で決めたにも関わらず、すぐに自分の決断を破るなんてな。

 俺は己の優柔不断を笑いながらリオたちのいる宿へと向かった。

 

 夜中であれば目撃されることもないだろう。

 目的地はリオの宿の部屋である。

 

 俺は姿勢を低くしてコソコソと移動する。

 こんなところ見られたら勘違いされてしまうからな。

 

 「……」

 

 闇夜に紛れて目的地へと近づく。

 音を立てないように窓を開け、素早く内部へと入り込む。

 ……まるで夜這いでもしてる気分だな。

 今の俺はガワだけ女だし。

 

 リオグレンをベッドで苦しそうに眠っていた。まだ傷が治っていないのだろう。


 「リオグレン」


 眠る彼の名前を呼ぶ。

 疲労困憊の彼は薄っすらと開けた目でこちらを見た。


 「ブルーム……?」

 「うん」

 「ああ、夢か……ブルームが夜這いなんてするわけないもんね」

 「……」

 

 夜這いじゃないわ!

 

 まあ、夢だと思ってもらえるくらいがちょうどいいか。

 俺は気を取り直して薄っすらと目を開けるリオグレンに語りかける。

 

 「黒牧師が来たと聞いた」

 「そう、だね……」


 彼が複雑な感情の籠った声で相槌を打つ。


 「ローラが連れていかれた……明日の朝に、戦って取り戻さなきゃ。……でも、あんな無敵の奴を相手に勝てる気がしない」

 「諦めた?」

 「――そんなわけがない」


 意識はおぼろなまま、リオは呟く。


 「ローラを失わない為ならなんだってやる。絶対に諦めない」

 

 何の誇張なしに彼は言っているのだろう。

 リオグレンという少年はローラの為なら何でもできる。

 ずっと暮らしていた故郷を捨て、両親の元を去り、強敵に立ち向かえる。

 

 その言葉を聞いて、安心した。

 彼はやっぱり俺の知る物語の主人公だった。

 

 「そう、それがあなたの魂の本質。『不屈』。それがあれば、あなたは誰にも負けない」

 「……誰にも?」

 「そう。たとえ相手が無敵の障壁を持っていても、不死身の吸血鬼でも、あなたの『不屈』は必ず届く。――たとえ何度繰り返しても、あなたは諦めないだろうから」

 

 まあ、助言はこれくらいで十分だろう。

 こんなものはダメ押しみたいなものだ。

 彼ならばいずれ自分で気づくだろう結論なのだから。

 

 そう考え、俺は音を立てずに部屋を出た。

 

 

 ◇


 

 「なるほど。『白霧の死』は最後まで姿を現さず、か。……フム」


 ヴァンガード教会の心臓部である大聖堂、その地下室。

 大司教ミレディは黒牧師ウォールの戦果報告に目を通していた。

 

 ウォールはソウルライト持ちの冒険者、リオグレン、フレン、ギルと接敵、撃破。

 

 勝利したウォールは、『時戻し』を確保。

 帝国内の教会で一夜を過ごし、明日には大聖堂に到着するとのことだ。

 

 

 ミレディは今回の任務における最大の障害は『白霧の死』――ブルームだと予想していた。

 ハンターを殺したと見られる、凄腕の暗殺者。彼女が『時戻し』の傍にいることは調査で分かっていた。

 

 伏せ札が存在し続けている、という状況は好ましくない。

 300年前の大戦でも、吸血鬼は人間たちの小賢しい策に散々苦しめられたものだ。

 

 『白霧の死』はヴァンガード教会と通じていた犯罪者を何人も殺している。

 教会に敵対する者だと見て間違いないだろう。

 

 その能力についても、ミレディは推測できていた。

 300年以上のソウルライトの研究とヴァンガード教会の情報網があってこそ為せる技だ。

 

 ブルームの力は、おそらく殺人に特化したソウルライト。

 刃で斬った相手を確実に殺す類の力だろう。

 

 「ウォールのいつもの遊び――そこで一手打つかの」


 獲物にセカンドチャンスを与えるウォールの遊び。

『白霧の死』が『時戻し』の奪取を阻止しようとするなら、動くのはそこだろう。

 

「ウォールの前に姿を現さなかった……ということは、やはり『空間の断絶』と相性の悪い力だと見てよいな。無機物に対して力を発揮できないのは『殺人』に執着したソウルライトの弱点だからのう」


 経験則からその能力の弱点を見破る。

 そして、不確定要素である彼女を確実に抹殺する方策を立てる。


 「であれば『白霧の死』を殺すのはアレしかあるまい」


 ミレディは地下室の奥に仕舞われたモノのことを思い浮かべ不気味な笑みを浮かべた。

 

 それは300年前の大戦時に使用された人類の最終兵器だった。

 たった1人の異常なソウルライトから生み出された異形の兵器は、戦闘力に長けた吸血鬼を何体も殺して回った。

 

 ミレディにとっては見るだけでも不快な兵器だ。

 それに、暴走の危険性もある。

 奪取したもののこのまま封印しておく予定だった。

 

 しかし、『白霧の死』は300年間存在しなかった不確定要素だ。

 排除するために手段は選ばない。


 「クク……殺人鬼が心無き殺人兵器に磨り潰される様……楽しみじゃのう」

 

 口の奥にある犬歯を覗かせて、彼女は悪辣に笑った。

 


 


 ――それはブルームの知る『原作』にはない展開だった。

 彼女の知る原作では、今回の襲撃における刺客は黒牧師第六位階ウォールただ1人だった。

 

『白霧の死』が存在したことによる、ミレディの方策の転換。

 存在しなかったはずの第二の刺客。


 ブルームの知らない脅威が今、彼女を殺す為に解き放たれようとしていた。

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