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第17話 第二の刺客

「ブルームがいなくなった……?」

「ええ。今朝方、私の枕元に置き手紙がありました」


 フレンは、まるで大したことでもないように淡々と語っていた。

 しかし、ブルームに対して大きな感情を持っていた彼女が何も思っていないはずがない。

 

 そのことをよく知っているギルが彼女に声をかける。


 「無理して平気そうにしなくたっていい。悪いのは身勝手な死神様だろ」

 「け、けれど……」


 ギルにそう言われて、フレンのポーカーフェイスが崩れた。

 泣き出してしまいそうな顔を見られたことを、フレンは恥ずかしく思った。

 

 「仲間を泣かせるような奴はちゃんと怒られるべきだ。友人関係やら家族関係やらってのはそういうもんだろ?」


 ギルの言葉に、フレンは大きく目を見開いた。

 彼の言葉を咀嚼するように何度か頷いて、顔を上げる。

 

 「……ありがとう、ございます」

 

 ギルは珍しく怒っているようだった。

 彼が自分の感情を直接表すのは珍しい。

 嬉しい時もあまり笑わないし、苦言を呈する時には嫌な笑顔で皮肉を言うだけだ。


 彼の中でブルームの行動に思うところがあったようだ。


 「けれど、ブルームさんがいなくても私たちのやるべきことは変わりません。ヴァンガード教会について情報収集を行い、刺客の襲来に備えましょう」


 すぐに元気を取り戻した逞しいフレンの言葉に、他の3人が頷いた。


 

 ◇

 

 

 彼らの日課は冒険者としての魔物討伐だ。

 日銭を稼ぐのに最も手早い方法である、というのもあるが、彼らが求めているのは情報だ。

 帝国内で起きた不審な事件。帝国内に存在するヴァンガード教会の動向について。


 そういった情報は冒険者ギルドにも集まる。

 様々な場所を行き交い時に裏社会と関わる冒険者は、有益な情報を得るとギルドに売るのだ。

 

 依頼をこなしギルドに貢献していると、ギルド職員から優先してそういった情報を教えてもらえる。


 リオグレンたちは冒険者ギルドの手に余る高難易度の依頼をこなし、ギルドは集めた情報を提供する。そういったウィンウィンの関係性を築けていた。


 

 「ふう……これで今日の依頼も終わりかな?」


 彼らの前には、巨大なワイバーンが横たわっていた。

 

 町を2つ壊滅させ、近隣住民を恐怖させていたワイバーン。

 しかし、ソウルライト持ちが4人も集まればこの程度の魔物を狩るのはそこまで苦労はしない。


 最初にフレンの氷の矢が翼に直撃し、ワイバーンが地面へと墜落した。

 すかさず接近したギルが翼部分の筋肉を短剣で切り裂き、逃げられないようにする。

 最後にリオが大きな首筋を断ち切れば討伐完了だ。

 

 と言っても、既にそろそろ夜になろうかという時間帯だ。

 オレンジ色の太陽が彼らを照らしている。

 

 無秩序に飛び回るワイバーンの討伐は、発見に最も時間がかかることがほとんどだ。

 例に漏れず、リオたちもワイバーンを見つけるためにしばらく走り回っていた。

 

 「ワイバーンの肉は結構美味いんだ。これを持って帰ればギルドで美味い肉料理を出してくれるかもな」

 「えっ、肉料理!?」

 「ギルドで出してもらえる料理は全部美味しいよね! 楽しみ!」

 

 ギルから伝えられた嬉しい知らせに無邪気に喜ぶリオとローラ。

 美味しい料理が食べられるのは故郷を出て良かった事の1つだ。

 

 依頼を終えた後の清々しい気分に、4人の気が緩む。

 

 

 

 ――しかし、彼らの背後からゆっくりと近づく人影があった。


 「失礼、少しよろしいでしょうか」


 後ろから声をかけられて、リオが振り返った。

 その先には、人当たりの良い笑みを浮かべる初老の男がいた。

 

 穏やかな物腰には品があり、こちらを見る目は優しい。

 体をすっぽりと覆う外套を着ているが、かなり大きな体格をしているように見えた。

 その様子に、リオが礼儀正しく答える。

 

 「はい、なんでしょうか?」

 「実は、ブルームさんという方を探しているのですが、ご存知ないでしょうか?」

 

 ブルームの名が出たのを聞いて、フレンがこちらに来た。


 「ブルームさんはここにはいらっしゃいません。何のご用でしょうか?」

 

 リオとは対照的に、フレンの目には警戒の色があった。

 冒険者ギルドの依頼を積極的に引き受け、裏社会の人間を何人も抹殺していたブルームは恨みを買っていることも珍しくない。

 『白霧の死』と言えば裏社会では最重要警戒対象だ。

 

 ただし、その正体がブルームであることはあまり知られていない。

 彼女が戦闘する際には霧が発生し、その場にいる者は彼女の素顔を目にすることはないからだ。

 

 男がブルームを殺す為に接触してきた可能性もある。

 フレンは愛想笑いに警戒を滲ませる。

 

 しかし初老の男は、フレンの警戒の色を見ても柔和な表情を崩さなかった。

 

「彼女の友人から言伝を預かっておりましたので、探していたのですが」

「ブルームさんに友人はおりませんが」


 迷いのない断言だった。

 フレンはブルームに友人がいないことを確信していたので、初老の男が嘘を言っているのがすぐに分かった。


 遠くからストーキングしていた誰かは、その場でしばらく落ち込んだ。



 「お前、何が目的だ? その立ち姿は明らかに戦闘慣れした人間のものだ」


 既に短剣を抜いたギルが問いかける。

 彼は初老の男を見た瞬間から戦闘態勢を崩していなかった。


 「おや、私としては平和的に解決できれば最善かと思ったのですが……」


 初老の男の笑み、その質がわずかに変わる。


 「では、用件を率直に。ローラ・アベリーを大司教の名により連れ戻しに参りました。彼女を引き渡してくれませんか?」

 「――断る」


 真っ先に前に出たリオが言い放ち、剣を構えた。

 この男は敵だ。

 そう確信したリオは、既に戦闘態勢だ。

 

 「やはり、ダメですか。……では、少々手荒になりますが」


 初老の男が外套を脱ぎ捨てた。

 その下には、真っ黒の神官服。ハンターの着ていたものと同じだ。

 懐から取り出したのは古びた教典。

 

 「黒牧師第六位階、ウォール。任務を遂行させて頂きます」

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