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第15話 IF 死神との取引、その代償

※今回はブルームが原作通りだった場合の「もしも」の話です。


――――――――――――――――――――――



 死神は、ある日突然私の前に姿を現した。

 それは実態のない霧の姿をしていた。

 私の前にぼんやりと広がる白霧。それこそが、死神の本体だった。

 

 「――貴様が望むなら、力を授けてやろう」

 「……対価は?」

 「寿命20年」

 「安いね。いいよ、支払う」

 

 家族の仇を取るためならば、どんなものでも手放してもいい。どのみち、私にはもう何も残っていないのだから。

 私の返答を聞くと、霧がせせら笑った気がした。


 「貴様に授ける力は『狩魂術』。死神が魂を狩る術。殺したい人間を殺したい時に殺せる力だ」

 「最高だね」

 「ただし、これは『死』を扱う力。本来人の領分ではない。貴様は力を使う程に『死』に近づくだろう。そのような力を授かり、後悔しないか?」

 「後悔しない。私には復讐以外何もない。それを遂げられるなら死んでもいい」

 「――契約成立だな」

 

 死神の本体である霧が、突如としてブルームの体に迫ってくる。

 霧はまるで幽霊のようにブルームの体をすり抜け、その内部へとすんなりと入り込む。


 ブルームの体内に入り込んだ霧は、ブルームの魂に新しい力を刻み込んだ。

 元々殺人に特化していたブルームのソウルライト。それを変質させ、強化していく。

 

 ブルームは自分が高揚しているのを感じていた。

 この力があれば、誰であれ殺せる。ブルームの仇がどんな力を持っていても、力でねじ伏せられる。

 野蛮な想像に胸が膨らむ。昏い悦びに脳内が支配される。



 あたり一帯に広がっていた霧は、いつの間にかほとんどなくなっていた。

 どうやら力の伝授は終わったようだ。

 

 最後の霧がなくなる直前、死神は警句を残した。


 

 「覚えておくがいい。――死を扱う者はやがて死に魅入られ、最後には自ら死を選ぶ」

 

 

◇ 



「――死を告げる霧」


 その声は、唐突にリオの耳に届いた。

 

「なに――」

「『死神』だ! 全員固まれ!」


 うろたえるリオに対して、ギルの判断は早かった。

 的確な判断を下したギル。

 しかし、彼は激しい焦りを感じていた。


 黒牧師第七位階、死神。

 霧を出現させる敵と言えば、それしか考えられない。

 

 黒牧師の最高位階を手にする彼女は、ヴァンガード教会の切り札だ。

 その素性を知る者は大司教しかおらず、ソウルライトの詳細すら不明。


 ただ、あの白霧の中に入れば神速の刃に首を刈り取られるという情報のみ。

 断片的な情報から、機動力を武器にする近接型のソウルライトだと分かる。

 

 しかし身体能力強化系のソウルライト持ちをも上回る俊敏さのカラクリは未だに不明だ。

 知られていない縛りがあるか、あるいはとんでもないデメリットを支払っているか。


 

 思考を巡らしている間にも、死神の刃は迫っていた。

 

「グッ……!」


 白霧の中にキラリと光る何かが見えた瞬間、ギルは短剣を突き出していた。

 刃と刃がぶつかり合い火花を散らす。

 

 『死神』はギルの首が取れないと判断するとすぐに霧の中に紛れ込んでいった。

 一瞬の攻防だったにも関わらず、ギルの右手はジンジンと痺れていた。


 とんでもない馬鹿力。

 身体能力強化に特化したリオグレンにも匹敵するかもしれない。

 

「リオ! ローラとフレンを死んでも護りきれ!」

「言われなくても!」


 あの動きについていけるのはリオだけだ。

 

 霧の中から何度も刃が飛び出す。

 次の狙いは後衛のローラとフレンだ。

 

 「くっ……」

 「――『治癒の光よ』!」

 

 リオはその動きになんとか反応し、剣で防いでいた。

 しかし、反撃する余裕はない。

 

 リオの体に掠り傷が増えていく。

 ローラの回復魔法も追いつかない。


 回復魔法にも限界がある。

 このままじゃジリ貧だ。

 

 ギルが焦燥を深める。反撃しようにも敵が霧のどこに潜んでいるのか分からない。

 防戦一方のリオもまた、額から大汗をかいていた。


 無限にも思える防戦一方。

 死の予感に4人の足が重くなっていく。

 

 ――しかし、恐怖の霧は突如として晴れた。


 

 「……時間切れ。次は狩りきる」

 

 姿を現した死神は、現実離れした美貌の持ち主だった。その手には身長をも超える大鎌を持っている。

 かんばせは恐ろしいほどに整っており、銀髪はその魅力を引き立てているようだ。

 まるで幼子のように華奢な体も、その幻想的な美貌を加速させている。


 しかし不自然なことに、その左手はひたすらに自らの首筋をガリガリと掻いていた。

 まるで首の中に寄生虫でもいるような様子だ。

 既に首筋から出血しているにも関わらず、彼女は自らの急所を搔きむしり続ける。


 ――もしかして、あれがソウルライトのデメリットか……?

 ギルがそう推測していると、『死神』はどこかに姿を消してしまった。


 

 ◇



 「はっはっ……アアアアアア!」


 1人になったブルームは、両手を首に添えて必死に搔きむしった。

 荒れ果てた皮膚が瞬く間に破れ、首筋が赤色に染まる。


 それは『死の魅了』に犯された者の症状だった。

 能力を使った直後に襲われる凄まじい自殺願望。

 それを痛みを感じることで中和している。


 しかし、そんな子供騙しはすぐに効果が切れる。


 「ハァ……ハァ……」


 大鎌を出現させると、ブルブルと震える右手で左手首に刃を突き立てる。

 

 「ア、アアアアアア! 痛い痛い痛い!」


 ブルームは死神に操られているわけではなく、己の意思を以って自傷行為を繰り返している。

 

 どくどくと鮮血が手首を垂れていき、ブルームの体が冷えていく感触を覚える。


 「いっそ、死んでしまえば……!」


 思い浮かべるのはいつもそんなことだ。

 家族の復讐も、教会の命令も、死んでしまえば関係ない。

 

 あるいは死んでしまえば、全部忘れて幸せに生きれるかもしれない。

 あるいは生まれ変わって、家族とまた一緒に暮らせるかもしれない。

 あるいは。あるいは。あるいは。あるいは。


 「グッ!」


 頭を壁面へとぶつける。

 加減なしのそれは、ブルームの脳みそを揺らし思考を停止させた。


 「違う……私は絶対にみんなの仇を取る……生きて……生きて、復讐を遂げると私の魂に誓っただろ! クソッ、苦しい、死にたい……絶対に仇を取らなきゃ……死にたい」

 

 頭を打った反動で思考がぼんやりとしたブルームは、そんな独り言を続けながら1人帰路につく。

 

 あの日死神と契約したことを、ブルームはいつまでも後悔し続けていた。

 いっそ戦いの中で死んでしまえば、と何度も思った。

 しかし死神の授けた力は強力で、ブルームはいつまで経っても死ねなかった。

 

 どこか遠いところで、死神の嘲笑が聞こえた気がした。

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