第14話 男友達
お互いの得物を手にして、リオグレンとギルが向き合っていた。
リオグレンが持っているのは普段使っている両手剣と同じサイズの木剣。
相対するギルが片手で持つのは、その半分ほどしかない短剣だ。刃が潰されている訓練用。
訓練なのでお互いに殺傷力のない武器。
けれど、その雰囲気は真剣そのものだ。
「来い!」
「ッ!」
ギルの声に応えてリオが突進する。振りかぶった木剣をギルに向かって振り下ろす。
ソウルライトによって強化された一撃は、甲冑だろうと叩き潰せそうな勢いだ。
しかしギルは短剣で器用にそれを受け流すと、素早い蹴りを繰り出した。
「ぐっ……」
「馬鹿力は評価できるが単純過ぎだ! もっと工夫しろ!」
戦闘経験豊富なギルがリオにアドバイスをする。
リオは真剣な表情で頷くと、再びギルへと斬りかかった。
……あー、王道の男女カプもいいけど、同性同士の絡みも結構好きなんだよなあ。
俺は訓練に励む2人の様子を、気配を消して眺めていた。
リオグレンとギルは原作でもそれなりに絡みが多い。
故郷を出たばかりのリオは知らない事も多い。
そのため、経験豊富なギルがアドバイスするのだ。
今みたいに戦闘もそうだが、ローラへ贈るプレゼントについての相談に乗ったりもしている。
捻くれた言動の多いギルだが、真っ直ぐなリオのことは放っておけないらしい。
まるで兄貴分みたいに彼の世話を焼いている。
「フッ!」
「ッ……そうだ、その調子!」
両手で剣を振り回すリオを片手に持った短剣1つでいなすギル。
見事な剣さばきだ。技量においてはギルの方が圧倒的に上だろう。
しばらくの間2人の立ち回りを眺める。
真剣な表情で向き合う2人だが、同時にどこか楽しそうにも見える。
男友達っていいよなあ、なんて感想が浮かんでしまう。
この世界に来てから、俺は他人とほとんど関わってこなかった。
90%くらいはブルームの体が人付き合いに絶望的に向いていないからである。
常に不気味な雰囲気を纏っているし、ぶっきらぼうで言葉足らず。
友達などできるはずもなく、冒険者として金を稼ぐ時はいつも1人だった。
……まあ、ブルームのスペックなら戦闘は1人でも全然困らないのだが。
「――よし、少し休憩するか」
「そうだね」
先程まで立ち合いをしていた2人は、隣り合って座ると休憩を始めた。
息を整えながらも2人はゆったりと会話をしている。
ちょっと羨ましい。
俺もたまには男友達と普通に話したい。
馬鹿みたいな下ネタとかで笑いたい。
普段はカプの間に挟まるべからずと鋼の意思で己を厳しく律している俺だが、今回は別に良いのではないだろうか。
リオとギルはカップリングというかただの友人、仲間だ。
であれば、ちょっと話すくらいセーフなのでは?
「リオの馬鹿力は相変わらず手が痺れるな。お前将来は解体業者でもやったらどうだ? 小屋くらいなら素手でも壊せるだろ」
「ギルは僕のことなんだと思ってるの!?」
「ハハッ! まあでも、戦闘ならいくら力が強くても当たらなきゃ意味がないからな。やっぱ駆け引きとかの経験はあった方がいいな」
「それはたしかにね……」
リオが水を飲みながら考え込むのを見て、ギルは話を続ける。
「お前のソウルライトは強力だ。でも、手札は多い方がいい。相手を近づかせない奴、技量で上回ってくる奴、魔法で攻撃してくる奴。そういう奴らに抵抗できないと、守るべきものを守れない」
守るべきものについて口にした時、ギルは普段見せない表情をしていた。
遠い昔を懐かしむような、痛みを耐えるような、複雑な感情の入り混じった表情だ。
「守るべきもの……そうだね、ありがとうギル」
リオが思い浮かべているのはローラのことだろう。
彼女の為ならどこまでも真っ直ぐに努力できるのは彼の美点だ。
少しの間2人の間に沈黙が下りた。
ひょっとしたら、ギルは昔のことを少し思い出しているのかもしれない。
そんな彼の様子を窺いつつも、リオが口を開く。
「前にブルームに『強くなるにはどうすればいい?』って聞いた時は、『自分の魂に向き合え』って言われたんだ。あれから色々考えたけど、やっぱりどうやればいいのか分からないんだ」
あれ、もしかして俺の話してる?
ひょっとして、話に入るチャンスなのか……?
「あー、天才肌というか、他人と感覚の違う奴の言葉を参考にしない方がいいんじゃないか? ソウルライトの扱いの感覚は人によって違う。ましてブルームの異様なソウルライトは、他人と感覚が違くてもおかしくないぞ」
「異様なソウルライト、か……」
気配を消すのをやめて2人のもとへと近づく。ドキドキ。
「ああ。俺の勘だと……あれは多大なデメリットがあって初めて発動できるタイプだ。そういう力を使う奴は大抵早死にする。とりわけブルームのソウルライトは――」
「――私の話?」
「「う、うわあああああ!?」」
ウキウキで話しかけたら2人に凄い悲鳴を上げられた……。
「け、気配がなかったからビックリしたよ……」
「そう?」
リオの言葉に首をかしげる。
途中からは気配消してなかったけどな。
「俺は殺されるかと思ったぞ」
「なぜ?」
ギルは元々座ってた場所から3歩くらい後ずさって臨戦態勢だった。
そんな反応されると寂しいじゃん……。
うーん、話に入ろうとしたのに驚かせて話を中断させてしまった。
やはりブルームの体で普通に男友達と会話をするのは無理なのだろうか。
結局、俺は訓練の邪魔にならないようにすごすごと退散していくのだった。
クッ、やはり俺に友達を作るなんて無理だったのか……。




